34日目:バナナ派とパイナップル派
ところでルミナスってどういう意味? いやなんとなくはわかるんだけど。
他のゲームでは光属性のことをルミナスオーラとか言ってたし、多分光って意味なのかなーとは思うんだけど、そもそも英語なんだろうか。とイオくんに聞いてみたところ「普通に英語だが?」と返された。
英語だったか。
「僕が唯一高校まで赤点ギリギリでしのぎ続けた英語か……」
「いやゲームとかにも頻出単語だろ。まあ光っていうより、光り輝く、とか? 発光のほうが意味としては近いが」
「へー、そうなんだ」
ということはこのペンダント、暗いところで光ったりするんだろうか。ルミナスシェルってことは、貝だよね多分。貝ってことは、海方面……ゴーラで探せば見つかるかな? テトの目の色と似てるから、ちょっと欲しい。宝石より貝のほうがまだお手頃価格ではないかという期待があるし。オパールは多分買うの無理だよねー。
テトはねー、かいはかざるよりたべるほうがよいのー。
「それは本当にそう」
ゴーラおいしいのいっぱいー?
「もちろん、テトの好きなお魚もたくさんあるよ」
わーい!
なーんて僕とテトが和んでいる間にも、イオくんと如月くんは敵の選別に余念がない。もうすぐお昼だからセーフゾーンにたどり着きたいけど、なかなか見つけられないみたいだ。
「あっちはレベル帯的には勝てそうだけど、どうする如月?」
「あいつタフだから時間かかりますよ。先にお昼のほうが」
「セーフゾーンまじでねえなこの辺。ナツ、お得意の幸運で探せないか?」
「えー、どうかな<グッドラック>さん。どのへん?」
正直<グッドラック>は探し物を見つけるスキルではないんだけど、まあ幸運なことが起こるスキルなので、何かしら反応があってもおかしくないかな。というわけで己のスキルに問いかけつつ、周辺をぐるりと見渡してみる。……うーん?
「3箇所くらい、ちょっとだけ気になる場所があるんだけど、どれがどうなんだかわかんない」
「かたっぱしから言え」
イオくんにそう言われては仕方ない。というわけで近いところから僕が気になった場所を探してみると、最初の場所はアクセサリ素材の木の実が取れる採取場所だった。そう言えばせっかく<細工>とってるんだからなにか作りたいよね、ってことで大量に確保。アクセサリ用の素材は、加工前は方向性だけ決まってて、加工によってランダムに効果が決まるので、厳選するためにも同じ素材はたくさん持っておきたい。
「ちなみにこのどんぐりにそっくりな木の実は、幸運方向の効果がつくらしいよ」
「ナツ向きだな」
イオくんがささっと拾い集めてくれたので、ビニール袋もどきにたっぷりと集めることが出来た。
次に向かった場所は、なんとスライムさんがいる場所だった。ちょっとした湧き水が出てるところがあって、そこにミズスライムという透明に近い感じのぽよぽよのスライムがたくさん湧いてたね。
「レベル1ばっかり……」
「スライム弱いらしいからな……」
「攻撃してくる気配すらないですし、これはそっとしておきましょうか……」
なんか、スライムは人工的に飼育して素材を取ってるって、誰か言ってたっけ? こんなにか弱いと絶滅が危惧されるので、僕達も手を出さずにそっとしておくことにした。
でもこれ面白いなー、どう見てもいつだったかテレビで見た、水のようなわらび餅……。つついたらぽよぽよしてるんだろうか。でもそのつつきで死んじゃいそうなので、ここは自重しよう。
そして最後に向かった場所が、ようやくたどり着いたセーフゾーンである。
<グッドラック>さんに場所を聞いた場所からは更に20分ほど歩いたところだったので、あの辺りには本当にセーフゾーンがなかったらしい。直径は5mくらいかな? お昼を食べるには十分なスペースだけど、テントを張るならもう少し広いと嬉しいって感じ。途中適度に敵を倒して来たのでそこそこMP減ってるし、しっかり休んで回復しておきたい。
そう思って駆け込んだセーフゾーンだけど、入った途端に地面に転がっている存在を目にしてしまってだな。
「あ」
あー!
僕とテトは一直線にその存在に駆け寄った。
「ヴォレックさん!」
ヴォレックせんぱーい!
「お? おうおう、なんでえ、お前らよく会うな!」
ぴょこっと顔を上げて僕達を見つけた神獣・ヴォレックさん。正直口を開かなければ普通のかわいいモモンガである。いや口を開いてもかわいいんだけど、口調が江戸っ子感に溢れているので、かわいいだけではなくなってしまうのだ。
後から僕達を追いかけてきたイオくんも、予想外の再会に驚いた顔。そして如月くん……如月くんは初対面だっけ?
まあいいか。ヴォレックさんに出会ったからというわけではないけれど、ちょうどこの時間帯に出会えたのならもちろん、お誘いしましょうお昼ごはんに!
「ヴォレックさん、イオくんの美味しいご飯一緒に食べましょ!」
「いいねえ! オイラも腹ぺこってやつよ!」
さてさて。
神獣のヴォレックさんは神速を誇るさすらいの旅人。世界中のどこにいたって不思議ではないが、湯の里で出会ってから、結構近場で再会したのは意外だった。
如月くんもちゃんと紹介して、イオくんが料理をしている間に僕達は雑談に花を咲かせる。
「世界で一番速いってきいてたから、今頃もっと遠くに居るかと」
と素朴な疑問を口にしてみると、ヴォレックさんはイオくんからもらったバナナをかじりながら「おうともよ!」と元気に肯定する。
「お前らと別れた後に、ひとっ飛びハチヤまで行ってきたところだぜ! これからゴーラを通って海の先までさすらうのさあ!」
「おお、さすが神速……!」
「あたぼうよぉ! 今、海がちと荒れてるからなあ!」
「え、なにかあったんですか?」
グランさんにはタメ口でいけるけど、なんかヴォレックさんには敬語を使ってしまう僕である。多分強さで言うとグランさんのほうが強いと思うんだけど、なんかヴォレックさんってすごく人生の先輩感があるんだよね。
強さとかそういうのじゃないんだ、存在感なんだ。なんかこう、快く見守ってくれる年上の存在、そんな感じの雰囲気があるんだ、ヴォレックさんには。
「それが、沖の海にでかいタコ野郎が出たんだってよ!」
「え、タコ……!?」
それって王道RPGで言うところのクラーケンでは? って思ったけど、このゲームあんまりそういう固有名詞使ってないから名前は違うかも。ところでクラーケンってイカ? タコ? なんかどっちのパターンもあるからよくわかんないよね。でもタコならクトゥルフのほうが有名かもしれない。そうするとやっぱりイカだろうか……。
「ナツ、海産物食いてえなって顔すんなよ、この話で」
「はっ、ついうっかり!」
「ははは! いや気持ちはわかるぜえ! オイラもイカ焼きにゃあ一家言あるってなもんよ!」
「ですよね! イカ焼き美味しい!」
「噛み応えがあるのが……ってそうじゃねえか! タコ野郎な!」
ヴォレックさんの話だと、何でもゴーラのずっと沖の方の海に巨大なタコの魔物が群れをなして、とても先にすすめない状態なのだとか。海の向こうは一応大陸があって、別の国があるらしい。
とはいえ、そこはアナトラワールド。もちろんそこにもバッチリ道迷いの呪いが効いている。ただ、魔王と直接激突したこの大陸とは違って、別の大陸は魔王軍からの直接侵攻はなく、魔物との戦いくらいなものだった。だからこそこの大陸の国々を支援したり、戦後復興を手伝ったりと、良好な関係を保っているらしい。
「食料不足なんかは、輸入のお陰でほとんどなかったからなあ! そんな友好国との往来ができねえってんだから一大事よぉ!」
「それは本当に一大事ですね」
ヴォレックさんの仕事は、そういった情報を集めて各所に伝えることだそうで。別に戦って倒しに行くという訳では無いようだ。まあ海の生き物にモモンガが立ち向かうのはちょっと無理があるよね普通に。潜られたら追いかけられないもんなあ。
ヴォレックせんぱいおしごとしててえらいのー。
テトも憧れの眼差しを向けるってなものである。
「よせやい、照れるじゃねえか! それでお前たちはこれからゴーラかい?」
「あ、はい。今朝までグランさんの密林に伺ってたんですよー」
「おお、そいつぁいいな! あそこはうまいもんがいっぱいあって楽園よぉ!」
ニカッと笑うヴォレックさんである。確かに美味しい果物たくさんあったね。
テトねー、ばななだいすきー!
「おうテトはバナナ派かい? 俺ぁパイナップルが一番だねえ、あの硬い皮を食いちぎった先にある甘ーい汁がたまんねえのよ!」
あまい……すてきなひびきなの……!
「そうなのか。パイナップルもあるが、必要なら出すぞ?」
と、料理を終えたイオくんのお出ましである。ちなみにヴォレックさんに果物をねだられてバナナを出したのもイオくんだ。一番食べやすいものを出してくれたのである。
「いやいや、果物は別腹ってやつよ! さっきからいい匂いしてんじゃねえかい、俺にも飯を食わせてくれよ!」
「ああ、それはもちろんだが」
ささっとイオくんが僕達の前においてくれたのは、ご飯の上にレタス、チーズ、ひき肉とトマトを味付けして炒めたもの……さらに目玉焼きまで載せた豪華版、タコライスである。正しくはタコライス丼? まあどっちでもよいか。
調味料の関係で洋風の味付けのほうが充実してるイオくんの料理レパートリーだけど、タコライスはリアルでも作ってもらったことがあるさっぱりとした一品だ。夏場に特に合う料理だと個人的に思う。
あ、ちなみに僕もバナナ派です。果物の王様はバナナだからね!
「俺は桃派」
「あ、南国フルーツ以外を出してくるのはずるいよイオくん! でもそうなると選べないな、好きな果物多すぎ問題……!」
「俺、柿派ですね」
「柿も美味しい……! くっ、世の中美味しいもので溢れているので人生楽しい!」
「良かったな。まあ食え」
「いただきます!」
うむ、タコライス美味しい! シャキシャキレタスととろけたチーズにひき肉の旨味という隙のない布陣、更には半熟目玉焼きまで乗っかったらもはや敵なしである。まあ肉派の僕としてはひき肉より塊の肉のほうが好きではあるけど、たまにはこういう小洒落た食べ物も良いよね!
って言ったらイオくんに「タコライスは小洒落てんのか?」と本気で不思議そうにされたのであった。小洒落てるよね? カフェとかにメニューでありそうじゃん!