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1日目:過去を振り返る

 アナトラの前にやっていた「イリュージョンアース」も、その前にやってた「ブレイブファンタジア」も、どちらも人気のある覇権ゲームだった。


 プレイヤー人口が多いゲームには、自然と、トラブルも集まる。2つともゲーム自体は本当に楽しかったし、良いゲームだと思うけど、どうしても僕たちに合わない部分があった。

 それが、大人数でプレイすることを強要するところだ。


 プレイヤーズギルドが乱立すれば、自然とその中に序列が生まれ、ランク付けがなされる。実力のあるプレイヤーは上位のギルドに引き抜かれ、イベントでも開催された日には、上位に入らなければ面子が潰れると言って躍起になる。「ブレイブファンタジア」では、僕たちはランキング争いしてるギルドに関わってひどい目にあった。

 圧倒的ヒーラー不足だったギルドに、使えるヒーラーを新人から育成しようという意味でスカウトされたんだよね、僕が。ギルドの評判とかも調べないまま軽い気持ちでそのギルドに入ったら、レベル上げに連れまわされて全然イオくんと遊べない上、うまく立ち回れないことを散々罵倒されて本当に嫌になったというわけ。


 イオくんはイオくんで、立ち回りの上手い新人が入ったと期待をかけられ、僕とは別にレベル上げ地獄。一緒に遊ぶために始めたはずが全然そんな暇がなく、おまけにもっと上に行くためにリアルを犠牲にしろ、友人関係を切って私生活のすべてをゲームに捧げろとか言われたんだそうだ。そりゃあ怒るよ。

 最悪なのが、ギルドをやめるのにギルドリーダーの許可が必要だったところ。僕たちが退団申請しても却下されて、何度やっても同じだった。辞めるのは逃げで甘えなんだそうで。こんなのやってられるか! と2人揃って「ブレイブファンタジア」に愛想をつかし、ゲーム自体は楽しかったけど、あんな人達とこれ以上関わりたくないとすっぱり辞めた。

 多分、3か月くらいしかプレイしてなかった気がする。友人が初期化したソフトを高値で買い取ってくれて助かった。


 その後、半年後くらいかな?

 改めて一緒に遊ぼうと思って始めたのが「イリュージョンアース」。

 今度は変なのにかかわらないぞ、と滑り出しは順調だったんだけど、このゲームは根本的に大人数プレイ推奨で、ソロや少人数では敵が強くて先に進めず、次のマップに行くためにレイドボスがいる仕様だった。

 レイドボス戦の為に、無理してでも他のパーティーや掲示板で募集をかけて集った人たちと組まないといけない。そういう作りだから、キャラメイクするときもある程度多人数戦を考慮してスキルや構成を選ばないといけない。最初の内はみんな実力に差がないからトラブルもなかったけど、敵が強くなってくると寄せ集めパーティーの嫌なところが出てきてしまった。

 実力が足りなくて足を引っ張る人とか、自分勝手に行動して早々に死に戻りする人とかは別にいいんだけど……あんまりよくはなくてもあきらめがつくんだけど、それよりもそういう場面でこっちをロックオンしてしつこくスカウトしてくるプレイヤーが本当に鬱陶しかった。


 こっちは気の合う友人と遊ぶためにゲームをやってるって言うのに、イオくんに付きまとって「君の実力はもっと上のクランで生かすべきだ!」とか言ってくる人たち。前回プレイヤーズギルドで嫌な思いをしたから、今回は2人でさくっとクラン作って鍵かけてたんだけど、そんなことで諦めてくれなかった。

 僕も呼び出されてイオくんを解放しろとか言われたよ。なーんで友達をそんなわけわからん集団に売らなきゃいけないのさ! ってスルーしたけど。僕はスルー力が上がりまくってどんな悪口言われてもノーダメージになったけど、イオくんの方は「俺の友達を悪く言うやつマジ嫌い」ってなって片っ端からブラックリストに入れて情報遮断してたっけなあ。身内に優しく敵に容赦ないイケメンである。


 まあ、イリュージョンアースは何かにつけてランキングがあるゲームだったのも良くなかった。ゲーム内有名人も多くて、ゲーム配信も盛んで、イオくんはプレイヤースキルがあるから「期待の新人!」みたいな注目のされ方をしちゃったんだよね。公式もそういう注目プレイヤーにフォーカスしてスターみたいに扱ったからなおさらだ。

 ゲームそのものは楽しかったから1年くらいは粘って遊んだけど……。


 辞めるきっかけになったのは、クランランク上位の超巨大クランが直々にイオくんをスカウトに来たことだった。しかもその時の様子を動画配信とかしてたんだよね。淡々と断って断ってそれでもあきらめない配信者が、動画配信してるから受けないと今後の活動が云々、と言い出したのにイオくんがキレた。「じゃあこのゲームを辞める」と宣言してそのまま辞めたのだ。

 あ、もちろん僕もそのとき一緒に辞めたよ、残ったって絡まれるだけだし。この一件がすべての原因ではなくて、ちょっとした不満が日々積み重なっていて、許容範囲を超えたのがこの瞬間だった、って感じかな。ゲームは楽しむためにやるものなんだから、ここまで我慢して続ける必要ないよね、って思ったわけだ。


 当然、その動画は炎上して配信者は「悪質な勧誘だ」とかなり叩かれたみたいだけど知らない。圧力かけてくる方が悪い。まあ幸い、この手のゲームは配信するとき設定で配信許可している人以外は適当なデフォルトモデルの外見に置き換えられるから、イオくんの顔が必要以上に広まったりはしてない。そこだけが唯一の救いだね。


 「イリュージョンアース」を辞めてからは、さすがに僕たちもVRゲームから遠のいた。

 なんかもう対人関係に疲れたし、大学受験もあってちょうどよいタイミングだったのかもしれない。RPGとかじゃなくて、VRアバターを使ってゲーム内に入り込むタイプのシミュレーションゲームとか、中の人が僕とイオくんだけのゲームだけ選んでやってた。受験の息抜きにちょうど良かったんだよね、カラーパレットを回してアバターを作るのも楽しいし。

 お互いに志望校に受かって、割と近い所で一人暮らしが始まって、春休みとかはリアル中心に遊んでたんだけど、その裏でイオくんはアナトラに目をつけて先行体験会に応募していたというわけだ。



 さて、アナトラには「トラベラーズギルド」という、トラベラーを支援するギルドがある。

 そこでは各種質問に答えたり、生産用設備を貸し出したり、魔物のドロップ素材を買い取ってくれたり、格安で宿泊ができたり、打ち合わせ用のスペースを使えたりする。けど、他のゲームでよくあるように、クエストを受けたりはできない。

 トラベラーたちは旅をしなきゃいけないのに、ギルドで安定した職を斡旋してしまったら旅をせず定住しちゃうかもしれないからね。

 そんなわけで、クエストは街中で拾う形式になる。


「イリュージョンアースでは、冒険者ランクを上げないといけない街とかあったけど、アナトラはそういうのないんだね。っていうかランクが無い」

「まあ、白地図を埋めてくれってトラベラーを呼んでるわけだし、強かろうが弱かろうが地図さえ埋めてくれればそれでいいんじゃないか?実際、大きな街だけなら正道をたどれば行けるから、レベル1でも10大都市は全部回れるし」

 正道は魔物も出ないから、安全な旅ができる。プレイスタイルはそれぞれだけど、ナルバン王国の10の街をタイムアタックでめぐる人とかもいるだろうな。

 イオくんがギルドで見つけたざっくりした各街の特色をまとめたパンフレットによると、最初に降り立つここはイチヤ、果樹園中心の農業都市だそうだ。魔王との戦いの最中も、各地へ食料供給を担う重要な街だったらしい。ナルバン王国のほぼ中央に位置している。

 正道でつながる大きな街は10個あって、それぞれイチヤ、ニム、サンガ、ヨンド、ゴーラ、ロクト、ナナミ、ハチヤ、クルム、ジュード。すぐわかるだろうけど数字がモチーフになっている。公式サイトによれば、順番に回る必要はなくて、好きな街へ好きなように足を運んでください、だそうだ。イチヤから正道がつながっているのは、西にニム、東にサンガ、南にロクト。イチヤの北はハウンド山脈という高い山々が連なっていて、道がない。


 イチヤは……というかナルバン王国の街はすべて、円形の高い石壁に囲まれた城塞都市だ。壁で囲っているおかげで街という認識になって、街中では道迷いの呪いが発動しなくなるのだという。今もイチヤは農業が盛んで王国の食糧事情を支えており、魔王との戦争中は特に手厚く守られて被害も少なかったことも、トラベラーを呼び込む玄関として選ばれた理由の一つらしい。

 その円形のほぼ中央北寄りにあるのがトラベラーズギルドで、そのギルド前広場を中心にT字にレンガ作りの大通りが続く。東西に延びる横の通りをギルド前通り、ギルド前から南に延びる縦の通りをレンガ道通りと呼ぶらしい。それぞれの通りを端っこまで歩いていくと、正道に続く門につながり、門のすぐ横には門番をする兵士たちの詰め所がある。


 僕はギルド前通りに出ていた屋台から、焼き鳥を5本ほど早速買った。あんなおいしそうな匂いをとても無視できない。

 まいど~、と愛想よく売ってくれたおじさんに感謝しつつ、早速一本。

 ……うむ。

「美味しい! イオくんこれすごいよ、イリュージョンアース以上に美味しい。食べてみて」

「マジか、1本もらう」

 顔を輝かせたイオくんも焼き鳥にかじりついて、うむ、と大満足の頷き。

「これは今まででトップレベル」

 と太鼓判が押された。

 イリュージョンアースでも食べ物は美味しいと思ってたけど、これはそれ以上に美味しい。開発陣が日本人だからそこらへんは期待してたけど、さすがだ。


「ナツ、これ1本いくら?」

「1本100Gゴールド。多分日本円100円換算かな?」

「チュートリアルクリアでもらえる資金が30,000Gだから、約3万円相当って感じか。金銭関係は分かりやすいな」

 確かに、現在の日本の物価とだいたいイコールだね。

 とりあえず1本食べ終わって、残りの3本をインベントリへ。残された串はインベントリからゴミ箱のアイコンにタッチすれば捨てられるから楽だ。インベントリ画面では、自分のインベントリとは別に共有インベントリがタブ分されていて、共有の方はパーティーメンバー全員で使える。イオくんが入れたアイテムを僕が取り出したり、その逆もできる便利機能だ。

「焼き鳥、共有の方に入れる?」

「いや、ナツの金で買ってるからナツの方でいい。次から食い物買うときは共有の財布作ってそっちから払おう」

「それがいいね」

 アナトラの金銭のやり取りはギルドカードで行われるから、金貨や紙幣は無い。ICカード決済みたいな感じで、装置にカードをタッチするとピッと光って支払が完了する。夢のないことを言うと多分詐欺防止用の措置だね、これは。プレイヤー間で金銭のやり取りをするときに、支払わずに逃げたりできないように色々防止策が考えられているみたいだ。

 パーティーを組むと、リーダーのギルドカードに共有財布の設定が紐づけられる。これは必要なければ使わなくてもいい機能だけど、僕たちは使った方が良さそうだ。イオくんがなにか支払うときは、自分の財布から払うか共有財布から出すか選べるらしい。

 僕たちは10,000Gずつを共有財布に移して、共有の買い物はそっちから買うことにした。今後クエストやギルドの買取などで金銭を得た場合、自動でその半分を共有財布へ、残りの半分をさらに半分にしてお互いの個人財布へ入金されるように設定しておく。

 これで、装備を整える時とかも共有財布から出せるね。


「何も考えずにギルド前通りを西に来ちゃったけど、この辺、食品の店が多いね」

 主に僕が真っ先に西側にあった焼き鳥の屋台に突撃したせいなんだけど、この辺は食材を売っている店もあれば定食屋やテイクアウトの屋台も多い。ある程度お金がたまったら、ぜひ買いだめさせてもらいたいものばかりだ。

「あ、米もあるじゃん。アナトラは普通に米も食べられる世界なんだな」

「ありがたいねー!こういう剣と魔法のゲーム、ある程度話を進めて日本や中国っぽい国が出てくるまでお米が食べられないこと多いから」

「あれほんとしんどい」

「ねー」

 イオくんの言葉にうんうんと頷き、僕はお米を売っているお店に近づいて値段を確認した。5kgで2,000Gか……リアルでお米を買うことがあんまりないから安いんだか高いんだかよくわからない。

「相場だな」

 とイオくんが言うので、多分無難な値段なんだろう。

「買う?」

「いや、もう少し稼いでからでないと。あと米を炊く道具がいる」

「炊飯器ってあるのかな」

「土鍋で行けるだろ、土鍋で」

「イオくんはイケメンで気遣いできる上に料理までできるからすごいと思います。もはや僕が誇らしくなるレベル」

「……ナツ、春から一人暮らししてるんだよな?食生活大丈夫なのか?」

「インスタント食品って便利だよねー」

「お前後で料理教室な」

 ちょっと冷たい声で宣言されてしまった。僕だって炊飯器くらい使えるよ、と抵抗したものの、カレーとパスタと冷凍食品のレパートリーしかないことは確かなので、ありがたく受講しようと思う。大学の帰りにスーパーで半額弁当買い続けるのも、多分そんなに体に良くないよね、うん。

「飯美味いゲームやっててリアルでカップ麺食べるとかしんどいぞー」

「それ言われちゃうと確かに」

 落差がちょっとつらそう。はい、がんばります。


 VRゲーム業界でよく言われる話なんだけど、日本人のプレイヤーが多いゲームってたいてい食事が美味しいゲームらしい。逆に、食事が美味しくないゲームは日本ではあんまり人気が出ない傾向にある。

 5年くらい前に世界で一世を風靡した、「ノスタルジア」というアメリカ発のVRゲームがあったんだけど、唯一日本でだけそんなに人気が出なかった。

 世界観はすごく良い感じだった。荒廃した世界を遺跡と言うダンジョンに潜りながら探索し、世界が荒廃した原因を突き止め、立て直していく冒険RPG。魔王の復活を阻止したり魔族と戦ったりする大型レイド戦が多めのゲームだったかな。

 ただ、日本ではレビューの一番「参考になったボタン」が押されているやつが、『飯がまずいというただそれだけで、他の加点要素をもってしても長く続けられない』というやつだったんだ。システム的にも空腹度が0になると気絶するという制約がついてたし、空腹度を減らすことで行動する要素とかもあったから、絶対に食べ物を食べないといけない。それなのにまずいという……うん、僕も嫌だな!


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