33日目:アスレチックタワーを踏破せよ!
二度目のターザンロープ、イオくんは無事にお約束を果たせたことを報告します。
そして。
「っしゃ、勝利!」
ま、まけたのー!?
勝負の行方もこの通り、高速の戦いを勝利したのは、イオくんであった。……なぜだ!
「さすがイオくん、翼を持つ者にすら勝てるというのか……!」
そんなばかな……なの……! かそくはかんぺきだったの……!
「ふ。うまく体を揺らせば走行中の加速も不可能ではないということだ」
「まさか一度目でそこまでみきっていたというのか……! さてはイオくんやはり天才だな!?」
イオすごいのー。はねがないのにはやいのー。
「負けられない戦いだったからな……」
なんて茶番する僕達を、如月くんはなんかもう慣れたなって顔で見守ってくれました。小芝居は割と楽しんでノリノリでやってるので、途中で制止が入らないだけでもありがたいものです。そしてグランさんはけらけら笑ってくれたのでなおよし。
「あーあ、面白い。イオって無口なのかと思ったらわりとノリ良いんだねー」
「イオくんは無口じゃないよー。ちょっと人見知りなだけで」
「おいバラすな」
笑いながらツッコミを入れるイオくん、どのくらい人見知りかって言うと、初対面の人とは会話しないくらいは人見知りである。如月くんも出会ったばっかりの頃はスルーされてたので知っているはず。
「へーえ。人見知りって言ったら昔住んでたエルフがものすごいコミュ障引きこもりだったけど、あいつそう言えば最後まで僕に挨拶しなかったなー」
あ、これはもしやポプリさんのことかな。そんなんでどうやってここで暮らしてたんだろう、と思ったけどリーニュさんがいるから大丈夫だったという話か。……天才ってそういうとこあるのかもなー。イオくんもよく会話こっちに丸投げするし。まあ、自分が喋ったほうがいいと思ったら出てきてくれるから、完全に人任せってわけでもないけど。
だがしかし、グランさんにはちゃんと訂正しておこう。
「グランさん、挨拶は大事だから。イオくんは挨拶できる子です!」
ふふんと胸張って言った僕に、グランさんは「そーね」と肯定を示し、如月くんは苦笑し、イオくんは裏手でツッコミをいれた。
「お前は俺の親か!」
「同い年ですが!」
「はいはい、収拾つかないんでそのへんで終了してください。グランさん、次に行きましょう」
「「「はーい」」」
如月くん、場を仕切れる男である。えらい。
茶番が終わるのを待ってたテトさんは、グランさんに次の場所に案内されながら隣を歩く僕に一生懸命色々訴えて来た。
ほんとはねー、さいごのちょくせんでかれいにイオをぬきさるはずだったのー! ナツのときもできたからいけるとおもったのに、イオはおもってたよりはやかったの……。なんではやかったのー? かてるとおもったのにー。
にゃにゃっにゃー! と弾丸トークしてくるときは、テトのテンションも上がってるとき。ということでなんでだろうねーって一緒に考えたんだけど……うん、ごめんテトさん。たぶんそれ技術の差だね……。僕との戦いを基準にしてイオくんに挑んでしまったのが敗因ではなかろうか。
「テト、イオくんは賢いからなんでもコツ掴むのが上手だし、色々考えてうまくいく方法を見つけるのもとっても上手だからね、僕を倒したときと同じ感覚だとだめだよ」
む、むむ……!
「イオくんだからねー」
たしかにイオかしこい……。わかったのー。
ちょっと不満そうにしながらも、なにか納得したらしい。テトは「つぎはかつのー!」と宣言していた。向上心が高くて良い子です。
さて、そんなこんなで次のアトラクションはサウザン川の支流を使ったカヌー……あ、これはイオくんにお任せのやつ……!
「僕オール持てない!」
「知ってた」
というわけで、2人乗りのカヌーはイオくんの後ろに僕、如月くんの後ろにテトが乗せてもらって、完全にお客様として楽しませてもらった。試しにオール一個持ち上げてみたけど、こんな重いの片手で持つのは無理だね、うん。
途中に崖下りという絶叫ポイントを稼ぎつつ、これは一番楽しんでいたのは如月くんかも。
「リアルでやったこと無いんで楽しかったです!」
とのことだ。確かに僕もカヌーはやったこと無いな。
「普通に船にあんまり縁が無いな僕」
「観光地で遊覧船に乗るくらいか。手漕ぎボートは乗る機会がない」
「イオくん、公園の池とかでアヒルボート乗ったことある?」
「ない」
「僕も無いんだよね、あれ」
友達は子供の頃に親といっしょに乗ったって人が結構いたんだけど、僕は今まで乗ったことがない。普通に揺れそうでちょっと怖い。まあ、池だったらすぐに救助されるだろうし、危なく無いんだろうけど。
「カヌーは結構水被りそうですよね、ちゃんと準備してからじゃないと無理そう」
「あー、ゲームだから気楽にできるところはあるよね。テト楽しかった?」
かぜをかんじたのー。
「その風、泣いてなかった? まあいいか。楽しかったなら良かったね!」
満足そうな顔をしているのでテトも楽しかったに違いない。
カヌーで川を下ったら、グランさんが誘導してくれたところに船着き場が出来ていて、そこでカヌーを降りる。
その場所からすぐのところにあるのが、アスレチックタワーだ。大木を利用して作られたアスレチックコースで、木の上の方に登っていくやつ。周辺にはネットが張り巡らされており、安全にも配慮されている作りである。
「じゃーん! 僕の自慢のアスレチックだよー。初心者コースは左、上級者コースが右だから、自分の実力に応じた方を選んでねー」
とグランさんが胸を張ったので、僕は当然初心者コースを選ぶ。断言してもいいけど、初心者コース選んだとしても疲れて途中でへばる自信が、ある!
「そこは威張るな?」
「自信があるので!」
テトはナツといっしょー。
「あれ、いいのテト? イオくんにリベンジチャンスだよ?」
しょうぶよりだいじなものがたくさんあるのがじんせいなのー。
「何か悟っていらっしゃる……!」
まあでも一緒に行ってくれるのは嬉しいのでよしとします。イオくんと如月くんが上級者コースへ、僕達はのんびりと初心者コースでアスレチックタワーを上っていくことに。グランさんは如月くんと一緒に行くらしい。
「まーね、コツコツ作ってたものがようやく日の目をみるんだから、僕もわっくわくだよー」
「あ、そっか。もしや今までのも僕たちが最初の体験者?」
「そーよ。リーニュは引きこもってるし、よそから気軽に呼べる友人もいないしねー。でもトラベラーさんたちをこの世界に呼び込むって決まったときから、僕は密かに構想を練ってたんだよねー」
それでずっと楽しそうなんだな、グランさんも嬉しいなら良かった。
「じゃ、行こうかテト! 目指せてっぺん!」
わーい!
……なんて勢い込んでコースに進んだのは良いけれど。
「初心者向け……とは……!」
ナツー! がんばるのー! そことびこえたらおわるのー!
「待ってここ僕の跳躍力だと無理だよ!? 距離ありすぎだから!」
そこにみえないあしばがあるのー。それをふむといいのー。
「どこ!?」
難しい……! 難しいよグランさん、これは初心者向けではないと思うよ!!
という心の叫びを抱えつつ、僕はテトが教えてくれた空中に目を向ける。透明な足場とか作られてもわからんて……! えーと、こういうときはあれだ。魔力の流れを見てみよう。
「<魔力視>……あった、あれかあ」
グランさんの魔法で作られた見えない足場なら、なんとかこれで見えるようになる。問題はあれをちゃんと踏んで向こう側に飛べるかってことなんだけど、踏み外したら卑怯だけど【フロート】で浮かぼう。魔法使っちゃダメとは言われてないからねー。
アスレチックタワーは、下の方は普通のアスレチックになっていて、板から板に飛び移ったり、ネットをよじ登ったりという感じだった。1フロアをクリアしたら階段を上って次のフロアへ向かう感じで上っていく。もちろん、上の方ほど難しくなっていって、しかもルート分岐とか謎解きみたいなのまであった。
これって何を参考にして作ったんだろう、ちょっと疑問が残る。……で、今5階なんだけど、結構疲れたところでこの見えない足場の出現である。
グランさん、やるな……!
とか思いつつなんとか足場に飛び乗って、無事にテトのいるところまでたどり着く事ができた。
ナツー! がんばったのー、えらいのー!
「ありがとうテト……! テトがいなかったらクリアできなかったよー」
お礼を言いつつテトを撫でまくって、周囲を確認。どうやら初心者コースはここで終了のようで、あとは植物のツルで編んだようなメルヘンなゴンドラが用意されていた。これに乗れば上まで引っ張り上げてくれるって感じだろう。
「テト、あそこにいるのってイオくんたちかな?」
のぼってるのー。
「この崖みたいなところをツタはしご登らせるって、上級者向けアスレチックすごそうだな……」
そう、ちょうど横の方に、僕達がゴンドラですすーっと引っ張り上げてもらっている絶壁を、その身一つで上っていくシルエットがありまして……ちょっと上級者向け過ぎない? グランさんこれ難易度引き下げたほうがいいよ。
アスレチックタワーの上で合流した僕達だけど、イオくんはまあ通常運転の涼しい顔だとして、如月くんが疲労困憊気味である。話を聞いてみると、マグマのような床に落ちないようにすぐ沈む足場を駆け足するとか、氷でツルツル滑る床を使ったギミックを解かないとすすめないところとかあって、なかなかスリリングな体験だったらしい。
「アスレチックとは……?」
「それに最後あの絶壁ですからねー。もう手に力が入んないっす」
「初心者コース選んでよかった、本当によかった!」
ちょっと見栄張って上級者コースとか行かなくて良かったよ、ほんとに。僕、自分の能力に正直に生きていきます。
「どーよ、ナツ。初心者コースどうだったー?」
「難しいよ最後のところ! 難易度高いと思う!」
「そーお? もうちょい難易度下げたほうがいいのかなー、でも簡単過ぎてもさー」
「中級コース作ろうよ! すごく簡単なのと、今の初心者コースをちょっとだけ難しくしたコースを作って、3コースにするのが良いんじゃないかなー」
運動苦手って人も世の中にはたくさんいるんだから、そのくらいでいいと思うんだよね。なんなら散歩コースみたいにしといてもらっても良いと思う。僕の意見を聞いて、グランさんはそれもいいかもねーって感じに納得してくれたので、次にここにたどり着くトラベラーさんたちは3択から選べるようになることでしょう。
さてそれじゃあ改めて、たどり着いたアスレチックタワーの上。
最後の絶壁上ってるあたりでちょっと魔法使われたような気がしたけど、やっぱり多少距離ジャンプしていたようで、かなり高所に思える。うっそうとした密林の全体図がここから見えるように作られているらしい。
「あ、向こうに泉が見えるね」
「そーね、あそこ僕の家なんだけど、わかりやすくていいでしょー」
グランさんが自慢するだけあって、泉はどこから見てもキラッキラですごく目立つ。それなのに近くにいるときは別に眩しさとか感じないのが不思議なんだよね。
「んーじゃ、そろそろ良い時間だし、泉への帰路はこの吊橋だよー」
グランさんがそう言って泉方向にあった柱のボタンを押すと、ぱーっと魔力が走って吊橋がかかった。泉の近くにある背の高い木のと頃までつながっているようだ。
「へー、最後まですごくアスレチックアトラクション……」
「どーよ、密林グランランドの感想はー? ちょっとあとで体験した感想聞かせてよねー」
「あ、やっぱりテーマパークなんだ。グランさん多才だねえ」
イオくんたちも突然現れた吊橋に興味津々だ。……っていうか床板が適度に空白作ってあるので、一応これもアスレチックの一環ぽいな。テトがぴょいっと飛び乗って、予想外に揺れたので驚いたのだろう。ばばっと空中に駆け上がった。
ナツー! これぐらぐらするのー!
「吊橋は揺れるんだよテトさん。大丈夫ー?」
テトとんでいくのー。なんかこわいのー!
走るのも飛ぶのもお得意のテトさんだけど、足元がぐらつくのはちょっと嫌みたいだ。それはそうかな、と思っていると青い顔した如月くんが、テトに乗せてほしいとお願いをしだした。どうやら三半規管が弱い如月くんにとっては、足元がぐらつくのはかなり鬼門のようで。
「カヌーは大丈夫だったのに!?」
「なんかあのときはテンションで乗り切れたんですけど……!」
「テトー! 如月くん乗せてあげてー!」
まかせろー!
こんなときでもお仕事第一のテトさん、如月くんに胸を張ってドヤ顔をしてからその場に伏せた。乗るが良い、という表情である。
きさらぎなでるのじょうずだからとくべつねー。ほんとはナツとイオだけだからねー。
「なんか如月くんが撫で上手だから特別に許可するって言ってる」
「なんか表情から伝わりました」
如月くん、苦笑しながらテトを撫でて、乗せてもらっておりましたとさ。