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31日目:もらったPPは振ってしまおう

ちょっと用事がありますので、次回更新は来週末になります。

 きのこ。

 意外と好き嫌いが分かれる食べ物である。


 一口にきのこといっても、しめじ舞茸えのきになめこ、松茸のような高級食材まで幅広い。価格帯も安価なものから高価なものまで色々あるが、実は僕も子供の頃あんまり好きじゃなかった気がする。

 なんだったのかなあ? あの独特の歯ごたえが苦手だったのかもしれない。今となっては大好きだけれども。それでも今も、えのきが歯にやたら挟まることだけはちょっとだけ苦手だ。


「克服は鍋だったかなー。冬の寒い日、鍋でぐつぐつ煮込まれたしいたけ。最高の極み」

「俺はえのき派。でもわかる」

 うんうんと頷き合う僕とイオくんの向かいで、雷鳴さんが「鍋食べたくなってきたなあ」と呟いている。二度目のビワさん家の食卓である。かまどを使ってバター醤油炒めにされた黄金きのこは、実に肉厚ジューシーだった。

 噛みしめるほどにじわじわと染み出す旨味!

 醤油とバターを絡めて光り輝くその姿!

 まさに神の食べ物として完璧である。これはスペルシアさんに捧げねばなるまい!

 でも僕達はゲーム内明日にはゴーラへ旅立つので、捧げるのは雷鳴さんにお願いすることにした。野菜のためなら、とキリッとした顔で請け負ってくれたので、多分任せて大丈夫でしょう! この黄金しいたけ料理を捧げることで、スペルシアさんのきのこ解像度が上がってより美味しいきのこがダンジョンで収穫できるようになるかもしれないからね。

 そして流石にしいたけのみでは満腹にならないので、イオくんが昼間作ったきのこご飯おにぎりと作り置きの野菜たっぷり味噌汁をいただきつつ、おかずにお惣菜屋さんで買っておいたコロッケを出した。ら、ビワさんがコロッケにものすごく食いついた。グルメ漫画とかでカッと目を見開いて「うまい!」とかやるじゃん? ああいう感じで衝撃を受けた様子だったよ。

「やはり芋は、可能性の塊……!」

 とかつぶやきつつ、無表情の中にもほんのり恍惚とした様子をにじませるビワさんなのであった。……ソースかかってないコロッケだけど、濃い味に慣れてない里の住人さんには無い方が良いのかなあ。一応ソースをすすめたんだけど、ビワさんにはあんまり受けが良くなかったんだよねえ。塩辛く感じるんだって。


 しいたけ分のPPももらうことができたので大満足しつつ、話題は今日の野菜畑の進捗について。軽く話を振ってみたところ、雷鳴さんとビワさんが語る語る。それはもう水を得た魚のごとく、土の性質がどうのとか肥料の配合がどうのとか。

 グランさんが一足先に村長の家に戻っててくれてよかった。このマシンガントークを3人分聞ける気がしないよ、聖徳太子じゃあるまいし。いや2人分だとしても言ってる内容は全然よくわかんないけれども。

「それで、肥料の黄金比は3:2:5ではないかというのが現在の仮定なんだ。これで今のホットポテトを育てていて、僕も<樹魔法>を覚えたから明日から効率が良くなる予定だよ」

「お、おう……。それは素晴らしいね……?」

「ナツ、わかってねえなら無理すんな?」

 イオくんが哀れみをもってそんなことを言うけれど、イオくんだって理解はしてな……いや、イオくんならしてるかな……? うむ、イオくんは天才だからきっとわかっている気がする、さすがである。


 らいめいおはなしながいのー。

 にゃーん、とちょっと飽きてきた感じのテトさんは、座椅子に座る僕のお膝に上半身をぽてっと預けてうとうとし始めている。お腹いっぱいになったら眠くなるのは、生き物として当然のことなので仕方あるまい。よしよし、寝てていいよーと撫でていると、テトは良い顔ですぴーっと眠りに入るのであった。幸せそう。

「えーっと、依頼したホットポテトとレッドチリチェリーの品質改善は達成できそう、ってことでいいのかな?」

 とりあえず確認すると、雷鳴さんはちょっとにっこりした。

「行けると思う。とりあえず1ヶ月以内に★5まではほぼ確実に」

「おお!」

「それは頼もしいな。ちなみに、それより上がる可能性は?」

「結構あると思うんだよね。畑に埋めた神獣石の存在が大きいし」

 ね? と雷鳴さんがビワさんに問いかけると、ビワさんは大きく頷いて見せた。

「土の質が完全に変わったからな。それに、グラン様が色々助言してくださった」

 これは大分自信ありそうだ。品質がもっと上がったら、ヴェダルさんの料理もより良いものになりそうだし、これは期待。できれば試作品を食べさせてくれたらもう大絶賛しちゃうのだけれども……あ、でも大会に出るための試作品なら、僕に食べさせても利がないか。僕、何食べても「美味しい!」って言っちゃいそうだから、役にたたなさそう。


「じゃあ、良い感じになったら是非フレンドメッセージ入れてほしいな。時限つきのクエストで、残り2ヶ月半くらいなんだよね」

「随時報告するよ」

「助かる! 雷鳴さんありがとう!」

 よし、これでヴェダルさんの食材クエストは安泰だ。あとは安心して雷鳴さんに託そう。

「期待している、頼んだぞ」

 とイオくんも上司みたいなこと言ってるし。

 でもそんなイオくんに、雷鳴さんはぐっと胸を張ってみせた。

「当然、引き受けたからには。報酬はゴーラの珍しい海の幸でよろしく」

「了解」

 ……あ、今システムメッセージが入ったぞ。この口約束、見事にクエストになりましたね……。ということは、ゴーラ行ったら雷鳴さんの報酬用になんか良さげな海産物を見つけないと。これはプリンさんにもリサーチしとかなきゃだな。

 うーん、でも珍しい海の幸って、何があるんだろう?

 僕、魚介類食べるのは好きだけど、食材について別に詳しくないんだよねー。


「イオくん、珍しい海の幸ってどういうのがある?」

「……ナマコとか?」

「あー、沖縄では食べるんだっけ」

 でも雷鳴さんが料理できない食材は流石に報酬にはならないのでは。ナマコって……どうやって調理するんだろう。ちょっと調べてみたい。美味しいのかな? とか考えていたら、

「……ゴメンだけど、流石にナマコはいらないかな」

 と普通に断られました。

 それもそうか……!



 楽しい夕食を終えて、僕たちはビワさんの家を後にする。残念ながらナズナさんとツバキちゃんには会えなかったので、ゴーラに行くことと、お土産を持ってまた来ることをビワさんに伝言で託した。

 で、3軒となりの村長さん家なんだけど……門扉が再び開け放たれていて、まだ土下座状態で神獣さんたちに祈りを捧げる住人さんたちがちらほらいらっしゃるという……。この前を通って村長さんの家にはいるのちょっと気まずいな、って思っていたら、庭の方からぴょんっとキャスさんがやってきた。

「ナツ、おかえりなさい。今グランに足湯の話をしていたんです、あなた達も来てください」

「あ、キャスさんただいま!」

 さすが神獣さん、住人さんたちを完全スルーして僕達に声をかけてくれた。小さい手でちょいちょいと手招きしてくれるので、そそくさと中庭に入る。と、それをきっかけにしてお手伝いさんたちが再び門扉を閉じた。お手伝いさんたちには安堵の表情が見える。

「助かります、要望があって開けていましたが、どうにも人が集まってしまって……」

「朝は門を閉めてたのに、どうしてまた開けたのかなって思ってました」

「炎鳥様にご挨拶をしたいという住人が多く、昼間は開けているのです。本日は神獣様がいらっしゃるので閉めておきたかったのですが、どうしてもという方が多くて」

 数の圧力に負けたらしい。それは仕方ないと思う。


 そのままリュビとサフィにただいまの挨拶をして、グランさんとキャスさんの仲良しトークに少し耳を傾けた。グランさんはお風呂苦手らしく、キレイ好きなキャスさんにおすすめされてタジタジしている。へちょっと耳を伏せてしまうグランさんである。

 キャスさんとグランさんは会話からも仲良しなのが伝わってくるけど、どちらかというとキャスさんのほうが物怖じしないと言うか、メンタルが強い感じのようだなあ。ビワさんのところでちょっと寝てたので未だに眠そうなテトは、くわっと大あくびをしてからそんな神獣さんたちの会話に混ざっていった。

 おふろねー、あったかいのはすきなんだけど、むわむわするのはすきじゃないのー。

「そうなんですか? そう言えばナツが、テトは湯気が苦手だと言っていましたね」

 なんかねー、しんなりするのー。いやなのー。

「あーね、わかるわかる。湯気ってじっとりして嫌だよねー。僕もそっち派だなあ」


 そんな仲良しな会話をBGMに、イオくんがなんか難しい顔をしていたから「どうしたの?」と聞いてみたところ、溜まったPPを一度振ってしまいたいとのこと。

「野菜も色々食ったし、今19溜まってんだよな。器用と俊敏と筋力に振りたいんだが、そろそろ魔法防御も必要かと思うと難しい」

「あー、イオくんは前衛だから攻撃力も防御力も欲しいところだよねえ」

「ナツも忘れずに防御に振れよ」

「……なんか悔しいけどHPは200にするよ……」

 僕もPPは15まで溜まっているから、イオくんと一緒に振っちゃおうかな。えーと。まずイオくんとの約束があるから物理防御に1振って……あとは器用と……幸運と魔力を切りの良い数字まで上げて……残ったPPを全部魔法防御に入れておこう。

 俊敏と筋力は捨てているとは言え、せっかく<細工>を覚えたからには、器用はそこそこ上げたいもんなあ。


 悩みつつもPPを振り終わって、僕のステータスはこんな感じになった。


ナツ プレイヤーレベル17 上級魔法士レベル12 名声:神水精霊の友

HP:200 MP:500

筋力:5 物理防御力:20 魔力:50 魔法防御力:48 俊敏:10 器用:30 幸運:50


 ……ここまで来ると魔法防御の48という数字が中途半端で気になるなあ。どうせなら全部切りの良い数字にできたら、と思わないでもないけど、まあいいや。

 ちなみに、イオくんのステータスはこちら。


イオ プレイヤーレベル17 長剣士レベル12 名声:神水精霊との遭遇

HP:400 MP:180

筋力:50 物理防御力:40 魔力:18 魔法防御力:25 俊敏:35 器用:30 幸運:11


 イオくんは基本的に幸運と魔力を捨てているんだけど、種族ヒューマンのランダムPP振り分けがあるので完全には捨てられない。半端に数字が増えてるのはそのせいなんだよね。前衛のステータスとしては、魔法防御がちょっと低めかな? とは思う。

 これは素のステータスだから、アクセサリで補強してる分を含めれば魔法防御も30に届くけど、まだしばらくは物理防御を優先してHPを増やしていく予定なんだそう。器用の数値が偶然にも同じ30になったけど……なんでだろう、同じステータスでもイオくんと同じくらいの器用さが僕にあるとは思えない……!

 プレイヤースキルってやつだよなあ。

 

 と、しみじみしていたら視界の隅っこにシステムメッセージが流れたので、反射でステータス画面を開く。えーと、履歴から……これか。

「あ」

 思わず声を上げた僕に、イオくんが「また何か見つけたか?」と聞いてきた。またってなにさ、またって。と思いつつも、確かに新発見があったので素直にそれを口にする。

「なんか、幸運値が50を超えたから<上級光魔法>に新しい魔法が追加されたんだよ」

「お、それは前に掲示板に似た話が載ってたな」

 イオくんが見たのは、魔法剣士で<上級火魔法>を取得していたトラベラーが筋力50を超えたら新しい魔法を覚えたって話だね。確か、魔力のステータスを10秒間筋力に変換することができるっていう、ピーキーな魔法だったらしいけど……。

 僕の<上級光魔法>で増えていた魔法はこちらだ。


【ハッピーエフェクト】 戦闘中使用可能。その戦闘で生き残り勝利を収めた場合、レアドロップ率UP


 ……うん。

 間違いない。これ、ピーちゃんが「ハピハピ!」って唱えてたやつ!

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― 新着の感想 ―
きのこは良いよね 旨味を惜しみも無く出してくれて、 自らも周囲から旨味を取り込む姿勢! 私は煮物に入っているきのこが好き! 特に椎茸を噛んだ瞬間の煮物の味は至福の極み!
きのこはいいですよね。エリンギが好きです。 松茸の味お吸い物のやつを使ってちょっと贅沢感を味わってます。 舞茸の天ぷらもよきです。
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