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31日目:神様も気さくなんだね

「こちらへ置いてください」

 ところでルーアさんの視線が、案内している間もきのこご飯のおにぎりから外れません……。もしやこの人食いしん坊仲間だろうか。醤油にも興味津々って感じだったしなあ。


 このおにぎりは、スペルシアさんが目を向けてなかったら、ルーアさんのご飯になるのかもしれない。などと思いつつ、イオくんが祭壇におにぎりの乗った皿を置き、僕達はとりあえず拝む。

 イオのごはーん! おいしいのー。たべてねー!

 なんて言うテトのにゃーんという高らかな鳴き声にのせ、僕も祈った。家のイオくんの作るご飯は何でも外れなしの美味しいやつです、遠慮なくどうぞ! 野菜もきのこもありがとうございます、めっちゃ美味しくて最高です! できれば次は黄金のダンジョン産きのこも用意していただけると嬉しいです!

「ナツ、祈りが長い」

「真剣なので!」

 こちとら真剣に黄金のきのこを望んでいるんだ、祈らせてくれ! とか思いつつ目を開けたその時、眼の前にあったきのこご飯おにぎりがぱあっと光った。

「お」

「あ」


 そして、そのまましゅっと消えたのであった。


「ああ……!」

 と何故か絶望の声を上げるルーアさん……最初からスペルシアさんへの捧げ物なので、そこは諦めてほしい。ともあれ、消えたってことは、多分スペルシアさんの目に止まって食べてもらえたってことだ。

 流石スペルシアさん見る目がある。イオくんの料理は食べないと損だからね! 

「ナツ、何ドヤ顔してんだ」

「スペルシアさん見る目あるなって」

「何様だよ」

 ケラケラ笑ってツッコミをいれるイオくん、若干機嫌が良さそう。やはり料理人として自分の作った料理を神様が食べてくれる、というのは誇りとなることでしょう。僕がうむうむと頷いていると、隣りにいたテトが「ナツー」と呼びかけてきた。

 なんかおくるってー。

「え? 何か?」

 おいしいってー。

「そりゃ美味しいに決まってますが! 待って誰が?」

 ぎんいろのりゅうさんー。


 テトさんそれこの世界の統治神様だよ。


 と声にする前に、さっきおにぎりが消えたところがぱあっと光った。マジか。と思いつつその光った場所を確認すると、おにぎりを乗せていたお皿の上に乗っているのは……きのこである。

「黄金のきのこ……!」

 そう、金色に光り輝くしいたけっぽいきのこが、そこに10個くらい盛られていたのである……!

「やったー! ほら見てよイオくん! 真剣に祈れば届くんだよ!」

「……ナツの祈り強えな」

「スペルシアさん! ありがとうありがとう!!」

 ばんざーいっとその場で両手を上げた僕に合わせて、「わーい!」と隣で飛び跳ねるテトさん。ともに喜びを感じてくれるうちの猫、最高だと思います! すごい、スペルシアさん優しい! 嬉しい! と喜んでいる間に、ささっときのこをインベントリにしまい込むイオくんである。さすがしっかりもの、やるべきことを後回しにしない姿勢、見習わねば。


 ところで、そんな僕達の横で、

「ええ……?」

 と跪いて祈る姿勢で、顔を引きつらせ戸惑いを隠せてないルーアさんがいるわけですが。っていうかいつの間にその姿勢をとったのルーアさん、さっき光ったときかな? 反射で祈りの姿勢をとれるとは、さすがシスター、神に仕える者。これはもう立派なスキルの一つであると思いますね。

「ナツほんと何も感じねえんだな、一瞬凄まじい圧だったぞ」

「あっ、またそういう話……!」

 なんのはなしー?

「ケロッと大喜びしやがる。お陰で空気は緩んだな」

「褒めて良いよ!」

 テトもー! テトもほめてー!

「あー、よしよし。えらいえらい」

 イオくんは雑に褒めてテトをわしゃわしゃと撫でた。……あの光なんか圧かけてたらしいけど、そんなこと言ってもその光から出現したのって金色のきのこだよ……? たとえ一瞬畏怖を感じたとしても、きのこ出てきたら気が抜けない? って思ったら、まあこのくらいの雑な褒め言葉が適切かな。


 僕達のやり取りを見て、ようやく平常心を取り戻したらしいルーアさんが立ち上がった。「きのこ……なぜきのこ……?」と小さくつぶやきつつ、何度か深呼吸する。

「あの……、あの、まさか……スペルシア様から、なにかご神託が……?」

 恐る恐るって感じに聞いてくるルーアさんに、さて、なんと返答すべきか。イオくんに視線を向けてみると、「任せる」って感じに頷かれてしまった。ぐぬぬ。

 任されたからにはなんとかうまいことやらねば。

「えーと、さっき捧げたご飯を、美味しかったよって言ってたらしいです」

「す、スペルシア様が!?」

「それで僕が金色のきのこくださいって祈ったら、くれるって」

「ね、ねだったんですか!? っていうか何できのこを!?」

「美味しいからです! すごく気さくに叶えてくれますねー」

「そんなわけありませんけど!?」


 ルーアさん、完全に「何いってんだこいつ?」って顔をしている。

 でも僕は、何も嘘ついてないし間違ってないはず。……ないよね? 

「スペルシアさんって神託とかよくする方ですか?」

「いえいえいえいえ……!」

 試しに質問してみたら思いっきり首を振られた。オープニングムービーとか見た感じだと、すごく住人さんたちに寄り添っているようにみえたから、気軽に教会の人たちとお話してるのかなって勝手に思ってたんだよね。違うらしい。

「統治神様ですよ!? そんな気軽にコンタクトが取れるわけがありません……! ありません、よね?」

「僕に言われても……!」

 そもそも僕には聞こえなかったしなあ。テトには聞こえたんだよね、スペルシアさんの声。……ああ、契約獣さんはこの世界にやってくるときに一度スペルシア神のいる神界? みたいなところに呼ばれて、そこから地上に転生……というか降ろされるから、みんなスペルシアさんとは顔見知りだと。テトも話したことある? ……そっかー、優しいのかー。契約獣さんたちを見守ってる感じなんだね。

「……というわけで多分テトのおかげかと……」

「で、でも契約獣さんと一緒に教会にいらっしゃる方も、結構いらっしゃいますよ。スペルシア様から直接お声をかけてもらったなんてお話は、今まで聞いたことがありません……!」

「え、そうなんですか」

 おはなししてくれるこ、あんまりいないっていってたよー。

「テトが言うには、話しかけてくれる子があまりいないのだそうです」

「えええ……?」


 そんな馬鹿な……! って感じで考え込んでしまったルーアさんである。

 これどうしたもんかなって思ってたら、イオくんが無言で僕の背中を押すので、そのまま教会を立ち去ることにした。面倒くさいって顔に書いてあるよイオくん、相変わらず女性相手だと塩対応だなあ。

 まあ、それはいいか。

「良いものもらったねイオくん! 今日の夜にでも是非食べよう」

「バター醤油だな」

「いいねえ!」

 会話しつつ、イオくんが僕を押していくのはやはり足湯の方向。そう言えばあそこベンチができてたっけ、お昼ごはん食べるのにちょうど良いかも。まあ普通にイオくんが足湯入りたいだけなんだろうけれども。

 イオー、ごはんはー?

「足湯のところでな。おにぎりにしてやるから」

 ねこのかたちにしてー!

「イオくん、猫の形のおにぎり作れる?」

「……きのこ入ってるから形作りづらいんだよ、白米のとき作ってやるから」

 だめかー。

「テト、白米だと白猫さんになるよ」

 しろいのがいいー!

 にゃん! とテンションを上げたテトさんである。


 尻尾をぴーんと立てたご機嫌なテトは、そのままぴょいぴょいっと橋をわたって足湯の東屋に一番乗りした。そして足湯はスルーしてベンチにひらっと乗っかり、ごはん待ちの態勢。気持ちはすごくわかる、だって美味しそうな匂いだったもんねえ。

 イオくんは少し考えてから、インベントリからテーブルだけ出して、その上に唐揚げや野菜スープを並べた。これはフォレストスネークの唐揚げ! ピリ辛で美味しいので大好き。そして最後に土鍋を取り出すと、お皿を並べてちゃちゃっと手早くおにぎりを握る。握る。握る!

「熱くないのそれ?」

「熱いに決まってんだろが」

 手早く握るのがコツなんだそうです。さすが料理人、覚悟が違うぜ……。

 僕だったら自分でおにぎり握るときはラップ使っちゃうなあ。力加減が難しくてグチャッとなるし、手がねちょっとするのもあんまり好きじゃない。まあ僕がお米炊くの下手なせいでもあるんだけれども。


「よし、ナツは2個、テトは1個な」

「はーい!」

 わーい!

 本当に手早くおにぎりを握り終わったイオくんは、必要分だけ残して他をすべてインベントリにしまい込んだ。満足げな顔をしているので、全部ちゃんと同じインベントリの枠に収まったのだろう。

 このゲーム、同じ物でも形や大きさが大きく違うと、別物とカウントされてインベントリの枠を複数埋めてしまう事がよくある。つまり、1つの枠にスタックするというのは、同じくらいの形の同じ物と判断されたという意味。

 イオくんの料理技術が高いということなのだ! さすが!

「あ、イオくん! 唐揚げは何個許されますか……!」

「ナツは金色きのこの功績があるからな……5つまで許そう」

「許された!」

 やったー! 唐揚げ5つは大きいぞ。普段唐揚げ弁当とかに入ってる量を考えても、5つは多い方だ。ひゃっほいしているとテトが興味を持ったのか、唐揚げの匂いを嗅いでいるけど……。

「テト、それ辛いやつだよ」

 からいのかー。テトあまいのがいいなー。

「食後に出してやる」

 わーい!

 どこまでもテトに甘いイオくんなのだった。



 さて、昼ご飯を食べ終わってから、まったり足湯に浸かっていると、賑やかな声が聞こえてきた。橋の方からこちらへやってくる親子連れが……あ。

「ハクトくん、キキョウちゃん! あとモモカさんも!」

「あ、ナツとイオだ!」

「テトちゃんいる!」

 僕が手を振ると、こちらに気づいてわーっと駆けてくるハクトくんとキキョウちゃん。今日も元気一杯って感じだね。

「足湯入りに来たのー?」

「かーちゃん入ったことないっていうから、ひっぱってきた!」

「あしゆたのしいよね!」

 とか言いながら、キキョウちゃんの視線はテト一直線。よかったら撫でてあげてねーと促すと、「テトちゃーん!」と飛びついていく。

「きょうもふわふわー!」

 ナツがブラッシングしてくれるのー。いいでしょー。

 にゃーんと嬉しそうなテトの声も聞こえてくる、和み空間である。


 子どもたちから少し遅れてやってきたモモカさんは、そんなキキョウちゃんの姿に苦笑しつつ、「こんにちは」と挨拶してくれた。

「こんにちは! 足湯は疲れが取れますよ」

「そうねえ、昨日子どもたちが入って遊んでたみたいで、今日は一緒に行こうって朝から大騒ぎだったのよ」

 なんて言いつつ僕のとなりに座ったモモカさんだけど……少し元気ない感じ?

「何かありましたか?」

 思わず問いかけてしまったけど、ちょっと不躾だったかなあ。こういうときもう少し語彙力と話術があれば、世間話からさらっと話をもっていけるんだろうけど……。

「あらあら、顔に出てしまったかしら」

 小さく笑って、モモカさんは小さく息を吐く。

「大したことじゃないのよ。感傷とでもいうのかしら」

「感傷?」

「ええ。里、賑やかになったでしょう?」


 言われて耳を澄ませてみれば、遠くで笑い声が響いている。里に来たばかりの頃はしんと静かで時が止まったかのようだった里には、今やそれなりの数のトラベラーがやってきていて、アサギくんの指示で日々新しい何かが作られていて。

 この足湯の東屋も、その一つだ。

「変わっていくのが嫌ではないの。賑やかになってほしくないわけでもないの。ただ、この里は長く静かだった。そこに新しい風が吹き込んできて、あんまり楽しそうに響くから、ふとね」

 モモカさんの横顔は、遠くの、もう届かない何かを見ているかのようだった。

「あの静寂も愛おしいものだったのね、って。そんなふうに思ったのよ」

 なんだか辛気臭いかしら、と微笑むモモカさんに、僕は首を振る。

「当たり前のものを素敵だなって思える、その感性は大事なことだと思います!」

「あらあら。そうかしら?」

「そうですよ!」

 だってそれが愛おしいと思えるならば、閉ざされた里で過ごした10年は、モモカさんにとって大切なものだったっていう意味だ。それはとっても良いことだと思う。


「きっとあと何年かたったら、今のこの賑やかさなんて序の口だったんだなって思う日が来ますよ」

「まあ」

「だってこの里、多分、神獣さんとか沢山来ますし」

「え」

「何しろ準神域ができちゃいましたからねえ」

「あ、あら……?」

 なんか思ってたのと違う話になった、みたいな顔をしたモモカさんの横に、そのときぴょっと小動物が顔を出した。


「どうも、呼ばれたので出てきました、神獣のキャスです。噂の足湯なるもので泳いでみようかと」


 クールな金目の黒いネズミ、神獣キャスさん。超気さく。

 おっとりが売りのモモカさんが、その場でふらっと気を失ったのも、致し方あるまい……。

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