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4日目:脱!初心者装備!


 昼食を陽だまりの猫亭で食べた僕たちは、杖を取りに行くまでまだ時間があったので、如月くんたちに教えてもらった「冒険靴ラン・ハイ」へ向かうことにした。

 ちなみに、本日のランチは僕がテリヤキツノチキンセット、イオくんが夏野菜のドリアセット。文句なしに美味しかった!


 「冒険靴ラン・ハイ」は、レンガ道通りを西へ入る通り。キガラさんのお店よりギルド寄りで、ちょっと前まで植木でふさがれていたところが道になっていた。武具通りと同じように、入ると何か薄い膜をすり抜けたような感覚がある。

「えーと、ツツジ通りっていうのか」

 道の両側に低木が植えてあるんだけど、多分これがツツジかな。道は結構古くて石畳がはがれていたり、応急処置的に直した跡があったり。お店も昔ながらのところが多いね。

 アートギャラリー、ガラス製品、あ、向こうにコロッケ売ってる!

 思わず目を輝かせてイオくんを振り返ってしまった。イオくんは分かってるとでも言うように鷹揚に頷く。

「コロッケは買う」

「やったー!」

 揚げたてのコロッケは最高に美味しいので!

 いずれイオくんも作ってくれそうではあるけど、ほら、お店の味ってのも乙なものだから!


 揚げ物屋さんでコロッケとメンチカツを10個ずつ購入。揚げたてを維持できるインベントリは素晴らしいものだと思う。

 イオくんはトンカツをだいぶ迷っていたけど、「日本酒が手に入るまでは……!」とあきらめた。カツ丼を作りたいけど、ほんのり洋風のカツ丼では納得できないんだって。別に僕はカツ定食も良いと思うんだけど、ソースがなんかちょっと違う味だったりするんだよね。

 買ったものをインベントリに入れて、ツツジ通りをぶらぶらと歩く。

 金物屋さん、服屋さん……こっちは陶器の工房かな? 古き良き商店街の空気がある。一応端っこまで歩いて行って、どこかの果樹園にぶち当たったので折り返して、ようやく目的地の店、冒険靴ラン・ハイだ。

 冒険靴ラン・ハイのショップカードは、靴のシルエットに羽が生えているようなデザイン。同じデザインの看板がかかっているお店は、レンガと木でできたレトロな感じだ。ドアを開けるとカランと呼び鈴が鳴り、中で靴の手入れをしていた店員さんが「いらっしゃい」とこっちを見た。

 ドワーフの女性だ。

 年齢わかんない!


「こんにちは。友達から紹介されてきました。僕たちこれから旅に出る予定なんですけど、おすすめの靴ってありますか? あ、僕はナツ、こっちのきりっとしたイケメンは友人のイオくんです」

「おう、トラベラーさんかい! 私はササラ、しがないドワーフの靴職人さ!」

 お、おう。パワフル。

 ドワーフの女性ってみんなこういう感じなのかなあ。こう、江戸っ子みたいな。リリンさんもそんな感じだったし。

「旅に最適な靴を探してるってことでいいかい? それなら、ナツはこの辺、イオはこっちの棚から選ぶのがいいよ!」

 と指さされた棚に移動し、商品をひとつ確認してみる。

 ……あ、はい。この辺は俊敏を上げる靴か。そういえば僕、俊敏には最初以外一切振ってないな。普通に歩く分には10以上あれば問題ないんだけど、旅ともなるとイオくんに置いていかれることもあったりする?

 足が遅くて迷子とかちょっとカッコ悪すぎる……。かといってPP振るのももったいないし、ここはお勧め通りに俊敏上げる靴を買っておこう。

 えーと、こっちは……スキル<ダッシュ>付きの靴。うわ値段たっか! スキル付きだと高いんだね。そっと棚に戻す。

 うーん、とにかく耐久度が高くてデザインが気に入ったのにしよう。イオくんがいるあたりの靴は魔法防御上げる靴っぽいから、ササラさんは足りてなさそうなステータスを補う靴を勧めてくれてるんだろうな。


 僕はしばらく考えてから、程よいこげ茶色のブーツを選んだ。いかにも冒険者って感じで良い。

 <鑑定>結果はこちら。


ワイルドホースのブーツ 耐久力に優れた革のブーツ。スリップ防止加工付き。

品質★4 俊敏+5 耐久度700


 強化についての表記が無いから、これは強化できない装備品なんだろう。いずれもっと良い靴を買うまでのつなぎって感じかな。お値段も100,000Gとお手頃だ。

「ナツ、それにするのか?」

「うん。イオくん決まった?」

「俺はこれ」

 イオくんが差し出したブーツは黒の艶消し、ちょっとスタイリッシュですごくシンプルなやつ。似合う人にしか似合わないんだよこういうのは。<鑑定>してみよっと。


ブラックビッグカウのブーツ 希少な部位の革を使った防御力重視のブーツ。

品質★4 魔法防御+5、防御+5 耐久度500


 なるほど、耐久度は僕のより低いけど、魔法防御も防御も増える優れものって感じか。お値段は120,000G。

「スリップ防止加工の表記が無いね」

「ないけど、ナツの【サンドウォーク】があれば別に困らない」

「……あったねそんな魔法も」

「忘れんなよ上級魔法士」

 すっかり忘れてたね! あれイビルドッグ狩りの時しか使ってないし!

足場の悪い所を普通に歩くための魔法だから、滑るところとかも当然対象内だ。旅に出たら忘れないようにしないと。

 とりあえずサクッと購入して装備を変える。

 初心者のブーツが明るい茶色で統一だったから、足元を変えるだけでも結構印象が変わった気がする。冒険者っぽくて良いと思います!

「すごく軽く感じる!」

 とぴょんぴょんしてたら、イオくんに微笑ましいものを見る目で見られました……。落ち着きが、落ち着きが欲しい……! テンション上がっちゃうとだめだね!


「あ、そうだササラさん。冒険服を売っているお店って知ってますか?」

「服かい? そういえばトラベラーさんたちは、みんな同じような服を着ているね」

「これ、僕たちの世界からこっちに来た時に支給される服なんです。みんな同じだから変えたくて」

「なるほど! 能力を上げる効果が必要かい?」

「うーん、あった方がいいけど、別に今の服には何も効果ついてないから、無くてもいいのかも」

「効果がつくと耐久が下がる。効果なしなら耐久が上がる。どっちを選んでも一長一短あるが、服は効果なしにして、防具を付けた方が安上がりだよ!」

 ササラさんが紹介してくれたのは、ツツジ通りとギルド前通り西側を繋ぐ形の縦の道にある、「妖精の服屋」という店だった。短い通りだけど、ここも空白地。紹介なしではいけないところだ。布町通り、となっている。

 ショップカードは色んな柄の布がランダムに重なってる感じの柄だった。とてもカラフル。

「布製品のお店が多い所かな?」

「そんなものだね。耐久の高い服を買って、武具通りあたりで胸当てを買いな!」

 ふむ。現地の人のアドバイスは無下にしない方が良さそうだね。

 ギルド前通り東側に、確か効果付きの服も売ってたけど……ベストだけでも300,000Gくらいしてた気がする。それで、武具通りで見た革製の胸当てが150,000G。効果はどっちも防御+10くらいだったはず。現状の防御力で、まだ困らないなあ。

「そうしようイオくん。まだ序盤だし、そんなに頑張って全部効果付き買うことないよ」

「そうだな、少なくとも武器はいい物が買えたし」

 そうそう、2人分の武器で2,000,000Gもしたもんね!


 ササラさんにお礼を言って、そのまま教えてもらったばかりの布町通りへ。

 すぐ近くの通りだったので、移動に時間もかからない。「妖精の服屋」の店内に入ると、30センチくらいの大きさのフェアリーさんが「いらっしゃーい」と出迎えてくれた。

「あら! トラベラーさんだわ!」

「こんにちはー。えーと、ラン・ハイのササラさんから紹介されてきました。こちらで冒険服が買えると聞いたんですけど」

「ヒューマン用の服はこのあたりよ、どうぞ見て行って!」

 明るいフェアリー女性の店員さんが教えてくれたんだけど、この店の店主はフェアリーで、コンセプトはすべての種族が服を買える店なんだって。店員さんも何人かいて、犬系獣人さんとヒューマン女性がそれぞれ別のところで接客中だった。

 服の値段……やっすいな?

 全部3,000G~10,000Gくらいだ。

「気分で着替えられるように何枚か買ってくか。この値段なら惜しくない」

「そうだね。耐久1,000とかあるしだいぶ着れそう」

 ステータスアップとかスキルとか、色々つくと値段って跳ね上がるんだなあ。


「ナツはローブだけはいいの買うから中の服だけでいいぞ」

「はーい」

 と言うわけで、着やすそうな冒険服を探す。

 僕は普段ジーンズばっかりはいてるから、そういうの無いかなーと思ったんだけど、さすがにジーンズは無かった。シルエットがゆったりしてるのが多くて、スキニー系は皆無。チノパンっぽいのがいくつかあったから、これにするか。

 カーゴパンツっぽいのとか、作業着っぽいごわっとした固そうなのとか、光沢のあるレザー系とか、種類は結構色々あるけど童顔の僕には似合わないものは似合わない! つまり、迷わずサクッと決まるのだ。

 えーと、色は……緑じゃなきゃなんでもいいよもう。無難に淡いベージュとか?あとは黒……いや、今の僕は紫だから黒は似合わない。白にしとこう。

 上の服は……正直よくわかんない、助けてイオくん。

 夏はTシャツとポロシャツ、冬はセーターとトレーナーさえあれば生きていける僕に、ファッションセンスとか求められても本当に困る。この世界の服、微妙にファンタジー入ってるからますますわかんないな。

 今着ている初心者の服は、物理職のイオくんのはシャツ襟でボタンがないものに黒のベストとベルト。魔法職の僕はハイネックっぽい折り返しのシャツにボタンのないカーディガンみたいなのを腰のところで帯で結ぶような感じ。僕はさらにその上にローブがあるから、魔法職の服は全体的にだぼっとしている印象がある。


「よし、こんなもんか。ナツ何見てんだ?」

「よくわかんないのでイオくんのを参考にしようと思ったらもう選び終わってる……だと……? モテ男はファッションセンスが良くないとだめって決まりでもあるの??」

「普通に褒めてくれ」

「イケメンで運動神経も頭も良くて気配り上手なうえにセンスまであるとはさすがイオくんです」

「うむ」

 こうやって羅列してみるとイオくんってまさに完璧超人じゃん。身内以外に塩対応という欠点があってよかったねイオくん、人間味が残っている。

「そのあふれるセンスで僕の服も選んでいただけませんか!」

「なんでたまに敬語になるんだナツは。まあいいけど」

 何でってノリだよ、ノリ。


 イオくんは少し考えてから、チャイナ服っぽい襟の全体的に刺繍の入ったきれいな白いシャツを1つ、それとは別方向の、襟付きの白いシャツをチョイスした。両方僕の膝くらいまでの長さがあり、初期服と同じで帯を使って腰のあたりで区切るタイプの服だ。

 えー、でも白? 全身白になるんだけど。汚れが目立ちそうだし、リアルでは普段着ない色だなあ。

 と思っていたら、イオくんはとても自信満々に、

「今のナツには白だろ」

 と言い切った。マジか。

「えー……」

「その髪色に合う色なんてほとんどないぞ。それこそ白か紫くらいじゃないか?」

「ああ」

 そういえば今の僕は藤色の髪なんだった。同系色の服もすごく紫好きな人みたいで微妙だし、白でいいか。


 僕は納得してイオくんおすすめの服を買うことにした。服2着、チノパン2着、合計4点購入で10,500G……やっすいな! 今までの買い物が高すぎたんだと思うけど、それにしても安いなこれ。特に襟付きの白シャツ、値下げ品で1,500Gしかしない驚きの価格。

 その場で値札を切ってもらって、インベントリに入れてちゃっちゃと衣装替えを終える。この1,500Gのシャツ、袖のところと裾にめっちゃ凝った刺繍入ってるし透けないしコスパがすごいな。

 イオくんは襟付きの青いシャツと艶消しのレザーっぽい黒? それか黒っぽい藍色? のパンツを選んでいて、シャツはボタンじゃなくて首元で紐をクロスさせて閉じるタイプ。なんか並ぶと黒系と白系でオセロみたいだなあ。

 予算的にもまだ余裕があるから、武具通りに行ってイオくんの胸当てと僕のローブを買って、杖を受け取りに行けばちょうどいい感じか。


「胸当ては150,000Gくらいだったけど、ローブって価格帯わかんないな」

「ケープとかポンチョって手もあるし、見てから決めればいいんじゃないか?」

 と言うわけで、武具通りへGO!


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― 新着の感想 ―
そういえば靴屋では名前交換したけど、服屋では名乗らなかったんだ
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