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31日目:きのこの魅力というやつ

 その後、グランさんはしばらく雷鳴さんたちと農業の話をするというので、ビワさんの家に置いて僕達は先にお暇した。

 今回の滞在では最後のダンジョンアタック! テトもしょんぼりしながらしゅばっとホームに戻ってくれた。テトは嘘つかないのでやるといったらちゃんとやってくれる、とても正直でえらいのである。

「んじゃいくぞー。ナツは野菜を祈ってくれ」

「葉物野菜かきのこ類で! スペルシアさんお願いします!!」

 前回と同じように、とりあえず入る前に祈ってから挑むことにした。ここで宝箱の中身がもう決まってしまっているかもしれないので! ほうれん草とか白菜とか、舞茸とか松茸とか、しいたけでもよし! とにかくまだ見ぬ野菜をこの手に! 

 イオくんに「長え」と文句言われるまで十分祈ってから、僕達はダンジョンに足を踏み入れるのであった。

 信仰心は大事だよイオくん。

 野菜を信じなさい、さすれば授けられん……! 多分……!


 さて、今回のダンジョン内部は、洞窟を進んでいくタイプらしい。すごく冒険感があるやつだ。

「<識別感知>っと……。その先右側の道に敵がいるね」

「いかにもって感じのダンジョンだな」

 言いながらイオくんは剣を構えて先行する。確かに、意外と今までなかったなあ、こういうの。今まで僕達が攻略したダンジョンって、モンスターハウスとか、一直線通路とか、トウモロコシ迷路とか……思い返すとあんまりダンジョン感ないなあ。

「敵は……ケイブバット。コウモリか」

「うわ、でっか」

 コウモリって小さいイメージだったけど、子犬くらいの大きさがある……! え、なんかキモいかも。思わず一歩下がると同時に敵がこっちに反応して、敵対状態になった。

「ナツ、【ライト】頼む!」

「了解! 【ライト】! ついでに【スパーク】!」

 【ライト】はイオくんの視界確保用だけど、【スパーク】は攻撃用。コウモリの眼の前にバチッと出してやる。薄暗い空間だから、これが効くはず! 案の定、眼前に火花が散った途端、ふらついた敵にイオくんが遠慮なく切りかかった。

「闇属性!」

「OK、【サンダーアロー】! 【ライトアロー】!」

「【ロックオン】!」

 敵が1匹だから強さを確認するためにアロー系で攻撃してみたけど、弱点属性だからか結構削れて、もうHPが1/3だ。強さ的には楽かな、と僕も<鑑定>してみるとレベル13だった。レベル差があるなあ。


「ナツこいつ多分経験値渋いぞ」

「柔らかいしすぐ倒せるね、半分切ったら魔法ラッシュするよ」

「OK」

 というわけで、ある程度イオくんがHPを削ってから僕が魔法で畳み掛けてサクッと終了。レベル差もあるからこんなもんだね。

「敵弱いのか、ここ」

「あー、どうだろう、結構入り組んでるし。ボスがいるタイプかも」

「とにかく進んでみるか」

 なんて言いながら探索を続けて……途中イオくんが気付いた。


 きのこである。


 洞窟のじめっとした空気と薄暗い空間の中に、時々、紛れ込んでいるきのこの存在。オブジェクトかと思ったら、実際<収穫>可能な普通の食材だった。色も黄金じゃないし、<鑑定>にも普通の食用きのこという表示が出る。でも品質が★5となかなか良い食材だ。

「……宝箱じゃなかったか」

 つぶやきつつ、片っ端から<収穫>していくイオくん。戦ってる時間よりも<収穫>している時間の方が長い。一応鑑定結果から全部食用だし、多分しいたけとか、マッシュルーム系? このきのこ類は形も大きさも揃っているので、インベントリの同じ枠を使ってくれて優秀である。

「敵弱いからめっちゃ<収穫>捗るけど、なんか今日のダンジョン広いね」

「<収穫>ポイントめちゃくちゃある。これご褒美ダンジョンか」

「でも金色じゃないんだよねえ」

「量がある方が俺はありがたい」

 まあPPはレベルアップすればもらえるけど、美味しいきのこは店で売ってなきゃ買えないからね。イオくんが楽しそうで何よりです。

 それにしてもきのこ。……きのこご飯だよねやっぱり。

 マリネにしても美味しいけど、鍋に入れても最高だけど、バター醤油とかで炒めても食欲そそるけど、やっぱりきのこと言えば僕はきのこご飯。あの、炊飯器を開けたときにふわっと香るきのこの匂いがたまらないのである。醤油の焦げ付きなんかあったらもう最高。イオくんは土鍋でお米を炊いてくれるので、おこげが結構できるわけで。それを噛み締めたときの旨味、たまらないのである。


「やはり……きのこご飯こそ至高……!」

「おい食いしん坊。この辺取り尽くしたし次行くぞ」

「はーい!」

 ところで僕あんまり戦ってないんだけど、このダンジョンってボスどこにいるのかな。いい加減ボスを倒して宝箱を開けないと、遅くなったらテトが拗ねちゃいそうだ。

「今までの傾向的に、ダンジョン内のすべての敵を倒すか、強敵のボスを倒すかしないと出られないと思うんだけど……」

「確かに。ちょっと真面目に探すか」

 というわけできのこ収穫に区切りをつけたイオくんが、ボス部屋を探し始めて5分ほどで、それらしき大部屋にたどり着くのであった。大部屋といっても洞窟だから、別にドアとかついてるわけではなくて、ただ道の先の空間が開けているってだけなんだけれども。

 それよりも特筆すべきはボスの姿である。

「何なんだこのきのこ推しは」

 とイオくんがぼやいた通り、このダンジョンのボスは巨大なきのこ。2メートル以上ありそうなきのこ。見るからになんか怪しげな粉を醸し出している、明らかに状態異常攻撃してきそうな、毒きのこだ。


「僕、食べられないきのこはちょっと……」

「だから倒すんだろうが。お守り今予備あるか? 身体保護のやつ」

「あ、今【コピー】するから待って。10個くらいいる?」

「一応頼む。あまりに状態異常頻発するようなら攻略法考えないと」

「焼けばよかろうなのだって思うの僕だけ?」

「初っ端いっとくか、<上級火魔法>で一番威力高いやつ」

「えーと……【マジックパワーレイズ】かけて【魔力強化】宣言したあとの【ファイアランス】……かな?」

「よし、ぶちかましてやろうぜ」

 イオくんノリノリだなあ。一応こっそり<鑑定>かけたところ、あんな土属性っぽい見た目なのにちゃんと風属性で火属性弱点だった。これは真面目に炎で薙ぎ払えよってことなんだろうか。

「よし、そんじゃ俺が一撃入れてからな」

「了解!」


 ところで、きのこを火で炙ったときのあのかぐわしい匂い、魅力的だと思わない?

 僕がそんなふうに一瞬意識を飛ばしかけたときにお守りが反応して、「状態異常:魅了」を弾いたわけなんだけれども。


 魅了て。


「確かにきのこは魅力的ですけれども!【アイスアロー】! 【サンダーアロー】! 【ダウンヴェール】!」

「うお、マジか魅了。ナツお守り多めに持っとけよ!」

「同じ手は食わない……!」

 いやー、多分火魔法を使ったら魅了発動なんだろうなー! 食材が調理される過程の匂いが美味しそうじゃないはずないもんねー! くっ、世の中のすべての美味しいもの魅力的すぎるのは知ってる……!

「デバフ効いてる! イオくんに【ディフェンシブ】、【パワーレイズ】、【ホーリーヴェール】!」

「サンキュ!」

 敵範囲のデバフである【ダウンヴェール】は、成功率9割あるけどダウン率はそれほどでもない。強い敵だと絶対あったほうが良いけど、効果時間も30秒だからリキャストタイムが長くて使いづらさがある。

 味方全体デバフ耐性UPの【ホーリーヴェール】は、効果時間中敵が放つデバフ攻撃を70%の確率で防いでくれるというやつで、これは結構使える。デバフ連発してくる敵相手だと必須級の魔法になるんだけど、これも効果時間30秒でリキャストが長い。使い所は考えないとだめな感じだ。


「【ウィンドランス】!」

 試しに風属性を撃ってみると、細かな粉を撒き散らして「状態異常:麻痺」を弾いた。<火魔法>だと魅了で、<風魔法>だと麻痺か……さっき氷魔法と雷魔法には反応してないから、そっちを中心に使ったほうが良さそうかな。

「うげ、打属性だと眠り粉出してきやがる!」

「デバフオンパレードじゃん!」

「突属性以外きついな、ちょい時間かかるかも」

 この分だと<土魔法>と<水魔法>でもなにかデバフ攻撃されそうだな。光と闇はどうだろう。

「【ダークランス】!」

 試しに<闇魔法>を使ってみると、黒い煙みたいなのをぶわーっと吹きかけて来たので、慌てて逃げる。あ、「状態異常:盲目」を弾いたらしい。これ光もなんかデバフ撃ってきそうだな、大人しく樹・氷・雷で応戦するか……。

 ……いや、でもきのこって足ないよね。多分【トラップ】は効かない。ということは……。


「【ウッドケージ】!」

 消去法で足止め魔法を使ってみると、動きが遅かったおかげでバッチリ木製の檻に閉じ込められる巨大きのこ。なんか体当たりとかしてもぼわんと弾かれているのがシュールな感じだ。でもきのこが暴れると変な粉が舞い散るので……あれに触るとまたデバフに掛かりそう。

「えーっと、こういうときは<原初の魔法>で……【清浄】」

 空気清浄機のイメージで、空気中の不純物を取り除く! と念じたら、白い細かい粉がささーっと奥の方に流れていった。OK、やはり<原初の魔法>は便利だなあ。

「ナツ、お守りの消耗が激しい、一気に叩いたほうがいいかもしれん」

「ランスまだリキャスト溜まってないけど、他の<火魔法>連発する?」

「もーちょいで【ロックオン】貯まるから、ありったけ叩き込んでいいぞ。火魔法だけな」

「了解!」

 他の属性魔法使ったら別の状態異常使われちゃうもんね。僕もそろそろ【マジックパワーレイズ】が……よし、いける!


「【マジックパワーレイズ】、【ファイアアロー】! 【ファイアレイン】! 【ファイアウェーブ】!」

 ありったけの<火魔法>を使うと、めちゃくちゃに美味しそうな匂いが広がる。この匂い卑怯すぎる……! お腹をすかせて集中力を削ろうという作戦か! ア、ハイ魅了防ぎましたー。

「【換気】!」

 こんな美味しそうな中で戦えない! というわけで空気をざざーっと押し流す。とにかくこの広場の外へと匂いを持っていけばよいのである。

「くっそ、バター醤油で焼きたくなってきた……!」

 とイオくんが苦々しくつぶやきながら、軽やかな剣さばきでアーツを連発していく。僕も食べたい。バター醤油最高。……今気づいたけど敵のHPバーは残り1割り程度だ。<火魔法>連発が効いたっぽい。

「【サンダーアロー】! 【アイスアロー】!」

「こ、の……食材のくせに暴れんじゃねえ! 【プラスインパクト】!」

 最後はイオくん怒りの一撃を食らったきのこ。どおーん、と地面にぶっ倒れるのであった。


 食材だからね、仕方ないよね。


「あー、今までで一番の難敵だった……!」

 などと言いつつ汗を拭うイオくんである。あの美味しそうな匂いを前衛でもろに食らっては、そう思うのも致し方なしか。普通にデバフ連発してくる敵って厄介だしなあ、僕達もお守りがなかったら死んでたかもね、これ。

 はーっと息を吐いた僕の視界では、倒れたきのこがすーっと消えて、そこに金色の宝箱が残されていた。きのこを倒して出てきた宝箱なので、当然中身は金色のきのこであってほしい。イオくんが無言で親指をくいっとしたので、これは「開けてくれよ」という意味である。

 よろしい、僕の幸運が火を吹くぜ!

「金色きのこであれ!」

 勢いのままに宝箱を開けた僕の視界に入ってきたのは……。


「金色のキャベツとレタスとほうれん草、白菜!」

「ある意味当たり」

「ここまできてきのこじゃないことに、僕は戦慄している……!」

 この流れなら当然金色のきのこじゃん! と思ったけど、この世界きのこの種類とか結構あいまいだしなあ。もしかしてスペルシアさん、きのこの違いとかわからない説ある?

 あ、それによく考えたら、僕ダンジョンに入る前に葉物野菜かきのこ類くださいって祈ってるし。欲張りセット叶えてもらってる気がする……! キャベツだけ被ったけど、金色は絶対に美味しいという確信があるから、正直何が当たっても普通に嬉しい。

「うん、スペルシアさんありがとう! きのこも金色野菜も美味しくいただきます!」

「よし、出るか」

「あ、ねえイオくん、今思ったんだけどさ」

 そう言えばこのダンジョンの隣、すでにスペルシア教会が引っ越してきてるんだよね。中に人は少なかったけど、一応門は開かれていたわけだし。


「スペルシア教会にお供えしたら、もしかしてスペルシアさんに料理届いたりするのかな?」

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― 新着の感想 ―
ナツ、天才! さすが、美味し物布教の申し子! 絶対に喜んでくれるよ!
イオが神御用達料理人みたいな特殊職業になっちゃう...
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