31日目:土作りが基本らしい
いつも誤字報告ありがとうございます、助かってます。
「んーと。悪くないけどもっと良い配合あるかなー。この植物に合う土作りはちょっと大変かもねー」
「だが土作りに手は抜けん。良い畑は良い土からだろう」
「いやあ、なかなか納得がいかなくて、植えるところまでいってないんだよねえ」
「そーね、土こそ生命の源だからねー」
なかよしー。
と、テトも頷く。神獣さんを民家に連れてって大丈夫か? なんて言ってたけど、完全に杞憂だったねこれは。自己紹介した直後から、植物を愛する者同士なにか通じるものがあったらしい。じっと視線を交わしたと思ったら、あっという間に意気投合して熱い議論を交わしている、ビワさんと雷鳴さんとグランさん。
ちまこいグランさんは雷鳴さんの頭の上に移動して、ビワさんと視線を合わせつつ色々力説している。
「火山付近の土は雷鳴が持ち込んでくれて……」
「でもまだホットポテトの苗が……」
「そーか。じゃまずそっち見せてもらって……」
とぞろぞろ庭を移動して、端っこのプランターへ移動する皆さん。ビワさんと雷鳴さんが意気投合しているだけでも話に入り込めなかったのに、更にグランさんも加わるともうなんか世界が違うなあ。
「真面目に農業と向き合っててえらい」
「俺ら暇だなー」
ひまだったらなでていいよー?
苦笑するイオくんにぴとっと寄り添いにいくテトさん。隙あらば撫でられたいうちの猫がきらきらと眼差しで見上げると、意図を察したイオくんはよしよしと撫でてくれました。イオくんのこの素晴らしい察し能力、素晴らしいと思います。これからも大事にしていってほしい。
「どうする? あいつらヒートアップするようならもう俺等先に帰るか?」
「あ、どうしよう。イオくんホットポテトとレッドチリチェリーの進捗確認しなくていいの?」
「さっきの会話で大体わかった」
「察しのプロじゃん」
さすがイオくん、有能である。
まあでも、確かにあの専門的な会話の中に僕達が入り込むのはちょっと無理だなー。先に戻って他のことするほうが有意義かも。旅支度は、正直なところもう大体終わってるので改めて準備するものとかはないし。
サンガを出るときにガッツリ必要なもの買い込んじゃったから、追加するものがほぼないんだよね。料理も都度作っていったほうがイオくんのスキル上げにもなるらしいし。なんか、新しい食材とか、作ったことない料理を作る方がスキル経験値たくさんもらえるんだそうで。
「じゃあ、そうしよっか。えーと、時間が9時だから……午前中ダンジョン行く?」
「チャレンジするか。そのあとは……レッドチリチェリーは結構在庫あるし、ホットポテト収穫しておきたい」
「食料は大事!」
フォレストスネークが出たら蛇肉も確保しておきたいところです。あのピリ辛肉の唐揚げめちゃくちゃ美味しいんだよな……と唐揚げに思いを馳せる僕の横で、テトさんは「ダンジョン」と聞いて渋い顔をした。ぐぬぬーって感じに僕の横からぐりぐりしてくる……テトはホームに戻らなきゃいけないのでダンジョンが本当に嫌いなんだよなあ。でも行くので諦めてください。
わーん! グランせんぱーい!
「わーお。僕も先輩かあ、なんかいいねえ」
ナツとイオがダンジョンいっちゃうのー!
「へーえ、ここダンジョンあるんだ。そう言えばスペルシア神の魔力が近い気がするねー」
テトもいっしょがいいのにー。
「うーん、でも危ないからねー」
ダンジョン行くよって断言したら、すねたテトはグランさんに駆け寄ってごね始めた。これはより強いグランさんに僕達を説得してもらおうということかな、テトそういうのも考えられるので賢いなと思います。にゃんにゃん言いながら僕達と離れるのやだやだって言ってるテトは実にかわいい。でもダンジョンは行くのだ。
「テト諦めて。ダンジョン産野菜ほしいでしょ?」
おやさいおいしい……でもナツといっしょがいいもん……。
「うーん? ダンジョン産野菜ってなーに?」
おや、グランさんはダンジョン産野菜についてはご存知ない感じ? っていうか、ダンジョン産野菜って他にないのかなー、他のダンジョンでも野菜が出るなら掲示板とかでも話題になるだろうし、ここだけか。多分、野菜ほしいっていう雷鳴さんの強い希望にスペルシアさんが応えてくれただけだしな。
で、ダンジョン産野菜という単語が出てしまったら、反応するのはビワさんと雷鳴さんである。
「里のダンジョンで宝箱から出てくる黄金の野菜があってな」
「いやあ、これが美味しいんだよ。すごく美味しいし、SPやPPをもらえるからお得感がある」
「へーえ、実物を見てみたいなー。それ、食べられるー?」
さっきまで土と向き合っていた2人が立ち上がって、即座にダンジョン産野菜の説明をし始めるのだから流石である。でも残念ながら雷鳴さんが持っていたシチューは、昨日出産前の景気づけとしてビワさんの奥さんに食べてもらったので無くなったようだ。
「あ、それで思い出した。ビワさんこれ赤ちゃんの誕生祝として……!」
ここでお守りとお札セットをここでようやく渡した僕である。いや言い訳すると、先にグランさんを紹介したらそのまま意気投合しちゃったので渡す隙間がなかったんだよ! 決して忘れていたわけではないのでそこんところは勘違いしないでほしい。僕だって覚えていられる男なので!
「護符か。わざわざ作ってくれたのか、ありがとう」
受け取ったビワさんがほんのり微笑んでくれたので、満足感がある。ビワさんと雷鳴さん、基本無表情だから表情が動くと貴重なんだよね。
「このお守りはぜひお子さんに!」
「これは……貴重なものではないのか」
「いくらでも作れるので! あ、あと、ダンジョン産野菜。新作あります」
「「詳しく!!」」
やはり即座に飛びついてきたビワさんと雷鳴さんに、イオくんが無言で夏野菜セットをインベントリから取り出して見せる。全部使うのもったいないし、ピザ何枚か焼いたけどそんなに大量に野菜使う料理でもなかったので、半分は残ってるのだ。
「素晴らしい! トマトは汎用性が高いぞ」
嬉々として目を輝かせるビワさん。
「あー、玉ねぎ残しておくんだった。キュウリをピクルスにしてハンバーガー作ってほしい」
悔しげに願望を告げる雷鳴さん。雷鳴さんハンバーガー好きなの? と聞いてみたところ、たまにものすごく食べたくなる、という返事だった。ジャンクフードってそういう所あるよね。
「多分、ホットポテトのフライドポテトを食べたせい」
「あ、めっちゃ理解できる」
だよねポテトにはハンバーガーだよね!
僕がしみじみ同意している横で、グランさんがイオくんの差し出した野菜をじっくり観察しながら、「ふんふん」と何やら納得の様子。
「ちなみに、昨日リュビとサフィにこれを使った料理を差し入れしたら、爆発しそうとか言って準聖域を作ったぞ」
「あーね、だめだよこんなスペルシア神の魔力たっぷりのものを、あんな生まれたての赤ちゃんに与えちゃ。器におさまんないよー」
「ナツ」
「だめだとは思わず……! 何事もなくてよかったー。グランさんなら余裕で器におさまる感じ?」
イオくんに責めるような目で見られたので反省。リュビとサフィが無事で本当に何よりです……ってそれも、神蛇さんの抜け殻をとっさに出してくれたイオくんのおかげだけれども。
「そーね、僕なら余裕だけどー。良いこと思いついたから、僕にもそれ食べさせてよー」
グランさん、イオくんに両手を合わせておねだりのポーズをした。小動物に優しいイオくんは、おねだりされたら断れまい……と思って見ている僕と違って、テトはイオくんにすり寄って追加おねだりをする。
グランせんぱいにもおいしいのあげてー。ダンジョンがまんするからー!
よほどグランさんにも食べさせたい気持ちが強いのか、テトちょっと必死のおねだりだ。
「イオくん、グランさんにもたべさせてくれたらダンジョン行っても良いよってテトが」
「よし、ご馳走しよう」
テトが追加おねだりしなくても、多分イオくんはピザを出したと思うけど。お友だちのために一生懸命になれるうちのテト、優しくてとても良い子だと思います。えらいので撫でます。
「ほれ、これは雷鳴用にと思って取っておいたやつ」
「いやあ、ピザかあ! 確かに夏野菜はピザの具として最適だね」
昨日、4分割して1/4をリュビとサフィに献上したやつ。ビワさんも食べると如月くんの分がなくなるから、後でまた追加で作ってもらわないと……って思っていたら、グランさんは半分でいいというので、ビワさんとグランさんには1切れをはんぶんこしてもらった。
雷鳴さんには1/4の1切れを渡して、残った1切れは如月くん用にまたインベントリにしまい込む。
「ベーコンとチーズがダンジョン産じゃないから、味負けしてるんだよねー」
「それは仕方がないな。……うむ、甘い」
深く頷くビワさん、味を噛み締めている。
「トウモロコシ、リアルだとあんまり好きじゃないんだけど、これだけ甘いと流石に美味しいね」
とか言いながら食べ進める雷鳴さん。
「苦手?」
「味は好きだよ。でも歯に挟まる」
「あー、理解できるやつ」
確かに。コーンサラダとかめっちゃ歯に挟まってくるよねコーン。葉物野菜とかも歯に挟まることがあるけど、あれ地味に気になる。
さて、グランさんはというと、テトに「これとってもおいしいのー! しゃきしゃきあまーいのー!」と説明されながらむしゃむしゃとすごい勢いでピザを食べていた。さすがリス、頬袋ぱんぱん……!
食べ進めていると、やっぱりなんかキラキラした粉みたいな光が漏れてくる。リュビたちと同じ感じだ。これがおさまりきらなかった分のスペルシア神の魔力ってことかなー? と見ていると、グランさんは自分の分のピザを全部口の中に押し込んでから両手をぐっと上げた。
んぐぐー! っと力を込めている感じのポーズである。その間も一生懸命むぐむぐと咀嚼しているので、どこかコミカルに見えてしまうんだけど。
でもグランさんが掲げた両手のところに、緑の光がどんどん集まって行って【ライト】使ったときのように丸い光の玉が出現した。思わず「おお!」と声を上げてしまう僕。そして「すごーい!」とはしゃぎ出すテト。
グランさんはそのまま光の玉に力を集結させていき……やがて、ぽんっと音を立てて光の玉がなにか物質に変化した!
「ほーい。あげるー」
ふいーっと汗を拭いつつ、陽気にそう言うのはグランさんだ。緑色の魔力の塊から生み出されたのは、どうやら緑色の宝石のようなものが2つ。10円玉くらいの大きさの、金色のキラキラしたラメが入ったみたいな……えーと、<鑑定>!
「神獣石……?」
「そーよ。あれ、初めて見るー? 神獣しか作れないけど、神獣の得意分野によって効果や色が違うんだよー。結構貴重なやつなんだー」
「新アイテムさらっと出してきた!」
「どーよ。神獣グランの<神聖樹魔法>の力をたっぷり含んだ、すごーい神獣石だよー。売れば一生遊んで暮らせるかもー?」
「えええ?」
なにそれ怖い。と思ったけど、グランさんは2つあるうちの1つをイオくんに「はーい、ピザのお礼ねー」と押し付けた。イオくんは受け取って一瞬も迷わずに「ナツ」と僕に横流ししてくる。やめてほしい、イオくんが持っててよそんな高価なもの……!
「アクセサリ用素材」
「なるほど理解!」
それならば仕方ない、<細工>持ちの僕が持っておくべき……!
きらきらー。グランせんぱいすごいのー♪
とグランさんに尊敬の眼差しのテトは、僕の持っている緑色の神獣石を覗き込んで「すてきー!」とご満悦だ。エメラルドににてる石だけど、この金色のラメみたいなのがすごく高級感あってめっちゃきれい。すごいな神獣さん。
これテトもつくれるー?
「テトは神獣さんじゃないから無理かなあ」
ざんねーん。
「でもテトが神獣さんだと僕と一緒にいられないかもしれないから、僕は今のままが良いと思うよ」
ナツといっしょがいいのー。テトしんじゅうさんじゃなくてもいいやー。
僕とテトがそんなほのぼの会話をしている横で、グランさんは残った1つの石を「ほーい」と雷鳴さんに差し出した。ものすごく無造作にぽいっと手渡している。
「そーね、畑の真ん中のあたりに埋めるといいよー。植えた作物に対応して勝手に良い感じの土にしてくれるからー」
「いやあ、驚いた。そんな凄い効果があるものなのか。ありがたく使わせてもらおうかな」
「いーよ。雷鳴もそのうち極めれば、<樹魔法>の上の方の魔法で土の状態を整えるくらいはできるようになるはずだしー」
「それは良いことを聞いたなあ」
雑談しながら、雷鳴さんは何のためらいもなく神獣石を畑の真ん中に埋めた。良い畑は良い土からってさっきビワさんも言ってたけど、よい土ができたら次はようやく苗を植えるところに行き着く、ってことでいいのかな? 品質アップにつながるね。
「そーだ、ちなみにめったに作れないものだから売るとめっちゃ高いけどー?」
「お金が沢山あるより、良質な土が沢山ある方が有益」
きっぱりと言い切る雷鳴さんなのであった。




