31日目:神獣さんは偉大なのだ
お守りかあ。
実は公式サイトでスキル獲得者数ランキング、というものが昨日公開された。先行体験会が半分過ぎたから、という理由で、獲得数の多いスキルをランキングで順番に並べたものだ。
第一位は、みんな大好き<鑑定>。これは職業や種族に関係なく、全員必須ってくらいのスキルだから当然。まあ、パーティーで動くなら1人持ってればいいって感じではあるけど、このゲームはソロが多いからね。でも、ダントツ多いのはこれだけで、2位以下は結構僅差だった。
で、そんな中、生産スキルで一番人気があるのは<調薬>。やっぱりポーション系を自分で作れるのは結構大きい。特に序盤の節約方法として便利だし。そこから<調理>、<鍛冶>、<裁縫>と続いて、<彫刻>は初期選べる生産スキルの中では一番取得人数が少ない。
運営さんのコメントによると、<裁縫>は金策になることが分かってだんだん取得人数が伸びているとのこと。<彫刻>と<鍛冶>は初日からほぼ横ばい……なんだけど、<鍛冶>の方がわかりやすい分取得人数が多い。やっぱり自分の武器作れるかも、っていうのロマンだしね。
でもイチヤでは<鍛冶>するの難しいらしくて、それが掲示板で知れ渡ってからは取得人数ががくんと減ったんだそうで。どうしても<鍛冶>やりたい! って人はイチヤを即座に離脱してニムへ向かうらしい。ニムは職人さんの街だから、<鍛冶>の環境が整ってるんだって。
つまり<彫刻>って結構な不人気スキルなのだ。ついでに言うなら<魔術式>は、魔法をそのままお守りに込める<魔法付与>にダブルスコアで取得人数負けている。取得する時の説明がいまいち分かりづらいんだよね。
「金策としては<裁縫>系とあんまり変わらないと思うんだけどなあ」
「如月が取った<常備薬作成>とかもそうだけど、住人用のスキルって基本金策になるんだろうな。<裁縫>はその先にある<刺繍>や<レース編み>なんかが全部金策になる上、あれは自分でも使えるって利点がある」
「お守りだって自分たちも使えますが……!」
「アクセサリ枠潰すからなー。刺繍は服とかに使えるだろ」
「あー」
なるほどそれなら納得。どうせなら良いアクセサリつけたいもんねえ。お守りの場合、消費アイテムかつアクセサリ枠ってところがネックなのか。
「……待って、<刺繍>とかの<魔法図案>って効果永続なの……?」
「お前のケープにもあるだろ刺繍」
「永続か……! 負けました!」
使い切りと永続では違うなー! その差は大きい!
事前にそれ知ってたら、僕も<裁縫>の方にしたかも。いや実際家庭科の授業でしかやったこと無いからきっと下手くそだけどさ、でも絶対永続の方が良いよ。その分、多分効果値とかに差が出るんだろうなあ。
ま、とにかく<彫刻>の、しかも<魔術式>系統は人気がない。だからそのスキルを育てている人がとても少ないことになる。お守り作れる人が少ないってことだし、お札になると更に少ない。護符はまだトラベラーで作れる人いないんじゃないかな? と思われる。
「そう考えると僕のお守り、お土産としてかなり良いものなのでは……!」
「普通に良いと思うぞ。で、炎鳥のお守りと何にする?」
「木造建築なんだから、防火のお札は絶対いるでしょ? 他に良いのある?」
「病気にかからないやつあっただろ、あれは?」
「イオくんなんで僕より御札に詳しいのか。あれ良いね、小さい子いるお家だし」
なんて雑談をしながら、お守りを【コピー】して、お札を……お札★3しか無いけど、多分まだ★4作れないからこれもコピーする。★3でも1年は持つはずだから……! また今度会いに来たときに、もっと良いものをお土産に渡せたらいいんだけどな。ゴーラで探してみよう。
「良し! じゃあイオくん、午前中はビワさんの家に行こう」
「雷鳴に言っとけよ」
「OK」
というわけで、僕とイオくんはテトのいる庭へと向かう。縁側から中庭に出て、直接外に出るついでにテトを回収しなければ。戻ってみたらテトはまだ一生懸命キャスさんとお話している様子だ。
それでねー、エクラのはちみつとってもおいしいのー! イオがパンにぬってくれるんだよー。
「神獣の育てる蜜花ですか。それはなんて貴重なものを」
あまーいのー。テトとってもしあわせなきもちになれるのー。
「ええもちろん、神輝蝶のエクラといえば、神獣の中でも位の高い方ですよ。そのような方が育てた蜜花……きっと素晴らしいお味でしょうね」
キャスせんぱいもたべるー?
「貴重なものではないですか?」
だいじょぶー。イオやさしいからちょーだいっていったらくれるよー。
……テトさん、すごく安請け合いしてる……!
まあイオくんは優しいからね、テトがおねだりしたらほいほい出してくれると思うよ、確かに。ちょこちょこはちみつ作ってるけど、蜜花は結構たくさんもらってきてるから、数に余裕もあるし。
「イオくん、テトがエクラさんのはちみつ自慢してて、キャスさんに食べるー? って聞いてる」
「蜜花か。まあ在庫に余裕はあるし、構わんぞ」
ほらねー。イオくん、テトに頼られるの結構好きだもんな。
イオくんが若干うきうきと小動物たちに駆け寄っていったので、あちらはお任せしよう。リュビとサフィも、はちみつに興味津々みたいだし。僕は縁側で座布団の上に寝そべっているグランさんの方に近づいてみる。
「グランさんははちみつ、食べなくて良いの?」
と声をかけると、「んー」とちょっと眠そうな声が返る。
「あーね? あれ美味しいよねー。僕は何度か食べたことあるから譲るよー」
「そうなんだ。エクラさんと仲良しなのかな?」
「そーね、まあなんだかんだ、僕もエクラもわりと強い方で先の戦争では同じような歯がゆい立場だったからねー」
「歯がゆい?」
それはなんかちょっと意外な表現だったので、首をかしげてみる。グランさんは「そーよ」とのんびり肯定した。
「うーん、僕達って、強すぎるんだよねー」
「ああ、聖獣さんみたいな……?」
「そーね、うっかり攻撃しちゃうとさー、敵だけじゃなく世界ごとぶち壊しちゃうっていうねー」
グランさんが言うには、グランさんやエクラさんを初め、戦闘特化の神獣さんたちはみんなそんな感じなんだそうで。普通に攻撃すると地形破壊になってしまうし、周辺の自然魔力を枯渇させてしまうので、聖獣さんたちも含めてみんなで「攻撃しない」という制限をつけていたらしい。
これからも住人さんたちが生きていく世界を維持するためには、絶対に必要な制限ではあったのだ。
「でーも。僕達って攻撃以外で何で役に立てば良いのかってのがねー。自分たちの世界がピンチのときに、なーんもできないなんて情けないじゃーん」
「それはわかるかも」
「でーしょ? そんで僕もエクラも、自分にできることを必死で探したんだよー」
エクラさんも、戦時中はリゲルさんと一緒に世界中飛び回ったって言ってたよね。自分で戦うのではなくて、リゲルさんを初めとした住人さんたちをサポートする方向で協力していたわけだ。じゃあ、グランさんはどうしたのかな?
と思って視線を向けると、グランさんはよっこいせ、と座布団の上に体を起こす。
「そーね。僕は森を作ったよー」
「サラッと規模の大きい話をしてくる……!」
グランさんは<樹魔法>の特化型、<神聖樹魔法>の使い手なのだそうだ。ちなみに「神」が名前につく魔法は神獣さんの専用魔法なのだそうです。初めて知った!
戦争が始まったばかりのナルバン王国は、とにかく平地が多くて敵にとっては攻めやすい国だったので、わさわさと森を作って魔物の侵攻を遅らせたり、住人さんたちが隠れやすいようにカモフラージュしたりと、色々やってたらしい。
「ほーら、街に石壁あるでしょ。城壁っていうのー?」
「あ、うん。ナルバン王国の大きな街は、全部城壁で囲われているんだよね」
「そーよ。あれもねー、作ったのは僕の友達の神獣なんだー」
「へー、すごい!」
「でーしょ! 僕達がメインで戦うわけにはいかなかったからさー、そういうところで、がんばったんだよねー」
えへん、と胸を張るグランさんである。かわいい。
それにしても、なるほどなー。いくら救国の乙女が時間を稼いだとはいえ、魔王の全面戦争までには1年しかなかったはずだ。そのたった1年で、準備を整えるのは住人さんたちだけでは難しいと思ってたんだけど……神獣さんたちがたくさん協力してくれてたんだね。
この世界に生きる人達が、全員で力を合わせてもぎ取った勝利ってことだ。
ちょっとしみじみしていた僕に、くあっと大きなあくびをしたグランさんは、「ねーえ」と呼びかける。
「ところで、どこか遊びにいくのー?」
「あ、そうだった! 実は知り合いのお家にお子さんが生まれまして!」
忘れてたけどそろそろいかねば。イオくんは……うん、はちみつは配り終わっているようなので、声かけても大丈夫かな?
「イオくーん! そろそろ行くよー!」
「おう」
おでかけー♪
楽しそうにぴょんっと跳ねてテトが僕に駆け寄る。テトさんとってもやりきった表情だね、キャスさんにちゃんと里の説明できたかなー?
ばっちりなのー。
「お仕事ちゃんとしててえらい! 良い子は撫でます」
わーい!
家のえらい猫をわしゃわしゃ撫でまくっていると、グランさんがぴょいっとテトの背中に飛び乗った。もふもふの毛並みに埋もれてしまいそうなリスさんである。
「ねーえ、僕も一緒にいっていいー?」
そのままテトの背中をよじ登って、頭の上までやってきたグランさん、眠そうな眼差しで僕を見上げた。ビワさんの家に行くだけなんだけど……神獣さんにとっては里って珍しい場所なんだろうし、まあいっか。
「いいよー」
「いいんかい」
いっしょー!
わあいっとご機嫌にひと鳴きしたテトさん、その場で喜びのぴょんぴょん。一人だけツッコミを入れてきたイオくんは、ちょっとだけ渋い顔をした。
「普通の民家に神獣を連れて行って大丈夫なのか?」
「あ」
そう言えば住人さんたちが土下座で拝むほどの存在だった。あー、いやでも、ビワさんなら多分……! ほらビワさん聖獣さんにも会ってるし、他の人より多分耐性あるよ!
「今、雷鳴さんとビワさんしかいないらしいから行ける行ける」
「いやビワは奥さんと子どもについててやれよ」
「それが生まれたのが昨晩で、それからずっと引っ付いてて邪魔だって追い出されたらしいよ、ナズナさんに」
「ナズナ強いな……」
まあとにかく、希望的観測だけど多分大丈夫でしょう。ここに住む予定のキャスさんと違って、グランさんは僕達と一緒に里を出るから、このへんを歩き回る時間もそんなにないだろうから、見せてあげたいじゃん。
そのキャスさんは、ひよこたちと一緒に村長にご挨拶に行くらしい。あの、お手柔らかにね……? 家主だから挨拶は大事だと思うけど、村長さんは勝手に神獣さんが庭に住み着いたとしても、絶対に嫌がらないし、むしろ絶対に喜ぶからなあ。
「ねーえ、それで、その普通の民家ってなにしてるところー?」
「あ、今は野菜研究家として活動してもらってます!」
「へーえ、野菜かー。なーんだ、それなら僕が一緒で大正解じゃーん」
3件となりの家に歩きつつ、グランさんはテトの頭の上でえへん、と胸を張った。とっても得意げなお顔だけど、テトと比較するとあんまりドヤってないように見えるので、テトのドヤ度数が高いんだろうなと思う僕である。
「どーよ。僕、<樹魔法>のエキスパートだよー? 植物のことならなーんでも、僕にお任せだからねー!」
「あ、なるほど森ですら作れる職人……頼れるアドバイザーでしたか!」
「適任じゃねえか、さすがナツ、引きが良い」
ナツえらーい♪
「いや僕を褒める流れじゃなくない!?」
よくわかんないけど褒められたのは良いことなので喜んでおくけれども!