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30日目:ミラクルピッツァ!!

「……お、美味しい……! あまりに美味しくて……感動すらする……!」

 一口食べて、やけに芝居がかった口調でそんなことを言った雪乃さん。真面目に目に涙が溜まっているのでその感動は本物と言えます。ふふ、イオくんの料理スキルを持ってすればその感動を生み出せるのだ、さすが天才料理人、仕事ができる。

 僕がふふんとドヤ顔していると、雪乃さんの隣でピザにかぶりついたアサギくんも、「うめえ!」と噛みしめるように叫んだ。

「ダンジョン野菜めっちゃ甘いな! トマトの甘さが特にすげえ、コーンもめっちゃ甘!」

 あまーい♪

「ふふ、そうでしょうそうでしょう、美味いは甘い、そういうことなのだ……!」

「ナツもドヤ顔してないで食え」

「いただきます!」

 では僕も1切れ失礼して……うん! 口にいれるとぶわーっと旨味が広がるこの感じ、シチューのときも思ったけど、ものすごく美味しいもの食ってる! って気持ちになれる。幸せ……!


「んんー! さすがイオくん、甘みの強い野菜に合わせてちょっと塩コショウ多めのピリッとした味付け、このバランス、圧倒的料理センスだよ……! 美味しい!」

 イオてんさいなのー! コーンたっぷりでぷちぷちするのー!

「テトもコーンたっぷりで美味しいって!」

「おう、テトの食うところだけ追加でコーン乗せといたぞ」

「気配りのできるイケメン……! さすがイオくん優しさの塊かな!?」

 ありがとー! だいすきー!

 ぱああっと表情を明るくしたテトは、食べてる途中だけどイオくんにどーんと体当りしにいった。そのまま全力ですりすりしてから、ささっとお皿の前に戻る。ピザって猫には結構食べづらそうなんだけど、テトは食事に関してはプロなので、めっちゃ器用に食べるのである。今もお皿にこぼれ落ちたコーンを楽しそうにちょいちょいしながら食べている。

 テトが大満足の顔をするので、僕も大満足。っていうか本当に美味しいよこのピザ。難を言うならベーコンがちょっと野菜の味に負けてるけど、それはダンジョン産のベーコンが無いので仕方がないことなのである。


 全員がピザを食べ終わって、シチューのときと同じように野菜1種類につき1PPか1SPがもらえるよっていうシステムアナウンスがあったので、僕は今回も迷わずPPを選択。今回は全員迷いなくPP選択だった。

「テトもSPもらった?」

 んー、スキルいまはまだとれないのー。

「じゃあ大事に貯めておこうねー」

 前回テトは赤文字のスキルを取ってたからなあ。それまである程度SPを貯めて置いたとしても、特殊スキルは最低SP15以上だし、流石に今はすっからかんだろう。まあ、テトはテトで自由にスキル選んでくれたら良いと思うよ。

「ふえー、すっごい。本当にこんなに簡単にPPもらえちゃうんだ」

 感心したように呟く雪乃さんに、アサギくんが、

「でも今のところ発見されたダンジョン産野菜、これを含めて9種類のみなんだよなー」

 と情報を補足する。

 あくまで1種類につき1PPなので、同じ野菜を2回食べても意味がないことは、確認済みなのだそう。ということは、現時点では増やせても9PP。上級職に転職していれば、2レベルアップで8PPもらえる計算なので、すごくありがたいけど、レベル上げが苦にならない人にとっては「何が何でも欲しい!」ってほどのものでもない。

 今後、発見される野菜の種類が増えたら全員行くべき必須ダンジョンになる可能性もあるよね。まあ、それ以外でも里のダンジョン宝箱からは結構面白いものが出るらしいし、野菜にこだわらずともあのダンジョンは多分人気になると予測される。アサギくんがダンジョン情報を公開したら、かなり賑わいそうだ。


 イオくんは続けてデザートピザも取り出して、全員に分けてくれた。シンプルなジャムメインのピザだけど、これはこれで結構美味しいね。でも宅配ピザでは見たこと無いかも……? イタリアンのお店では普通に食べられたりするのかなあ、今まで意識したことなかったからわからない。

 あっまーい♪

 とご機嫌なテトさんは口の周りをはちみつでベタベタにしている。ほほえましい気持ちでそれをみていたら、イオくんが余分に作っておいたピザを取り出してそれを再び切り分け始めた。

「イオくん、それ雷鳴さんと如月くんにあげるやつじゃないっけ?」

「そうだけど、お前リュビとサフィにもピザ食べさせるって言ってなかったか?」

「そうだった! イオくんピザ分けてください!」

「ほら、持ってけ」

 イオくん何でも覚えててえらいな……。

 4分の1に切り分けたピザを、イオくんが更に半分にしてくれたので、それをもらって僕は立ち上がった。この美味しい野菜を、かわいいひよこさんたちに届けるのだ!

「アサギくん、じゃあ僕達リュビとサフィのところに行くから!」

 張り切ってそう宣言して、アサギくんの部屋を出る僕。そしてそれに続くテトとイオくんとアサギくん。……アサギくん?

「気になるから見に行くー」

 だそうです。部屋の中で雪乃さん苦笑してるけど、いいのかな?


 縁側から庭に降りると、今日は珍しく誰もいなかった。炎鳥さんのおうちは扉を閉めていたけど、中からぴぃぴぃと賑やかな声が聞こえるので、まだ2匹とも寝ていないようだ。テトが張り切ってぴょいっと前に出て、小さな社の扉を前足でトントンする。

 こーんばーんはー!

 にゃーん! と高らかに鳴くテトの声は、弾むように明るい。その声に釣られるようにして扉が開き、中から赤と青のひよこさんたちがぴょぴょっと顔を出す。

「ぴ!(こんばんは!)」

「ぴ!(再会)」

「お、リュビとサフィちょっと大きくなった? 日々成長してるねえ」

「ぴっ(えっへん)」

「ぴぴ(当然)」

 僕の言葉に同じように胸を張った2匹である。かわいい。さて、この子達はピザ食べられるかなー? と思いつつお皿を差し出してみる。なにこれー? って顔をしたひよこさんたちは、きょとんと僕を見上げた。

「これねー、スペルシアさんが作ったダンジョンから出てきた野菜なんだけど、テトがきっとリュビとサフィも好きだよって言うから持ってきてみたんだ。食べられるかな?」

「ぴ! ぴぴっ!(それだ! なんか懐かしい気配がすると思ったら!)」

「ぴ(魔力)」

「ぴぃ(スペルシア神の魔力だ、懐かしい)」

 途端に興味津々って感じにピザににじり寄る2匹である。懐かしいってことは、炎鳥さんたちもスペルシアさんとお話することがあるのかな。正直、炎鳥さんってどういう立場の鳥さんなのか、いまいちよくわかんない。竜は、この世界の当地神様と同じ種族だから聖獣で、力の強い生き物は神獣で、でも炎鳥さんは神獣ではないんだよね? 伝説上の生き物みたいな扱いって聞いたような気もするけど……。


 なんて考えていたら、リュビが最初にパクっとピザにかじりついた。小さいくちばしで、器用に端っこの方からピザをもぐもぐしていく。もぐもぐしていく。いやほんとに君は鳥かな? リスみたいに頬を膨らませながら、一生懸命もぐもぐしている。

「ゆっくりおたべ……?」

 と一応言ってみたけど、聞いてないなこれ。そんな一心不乱なリュビを見ていたサフィも、覚悟を決めたようにもぐっといった。もぐもぐもぐもぐ。

 おやさいおいしいでしょー。

 何故か自慢げにえっへんと胸を張るテトさんである。ドヤっとしているテトを、アサギくんがでれっでれな感じで撫でている。あ、そういえば忘れずにループタイをあげなければ。ひよこさんたちが食べ終わったら……!

「なんかやべえ薬キメてるみたいな雰囲気なんだが……」

「イオくんそういうこと言わないんだよ。いや、うん、なんか、一心不乱だねえ……」

 ひよこさんたちはまだ小さいのだ。お皿に乗り上げてもぐもぐしているけれども、この小さい体にピザがずっしり入るの、ちょっと怖くもあるね。感想すら口にせずひたすらにもぐもぐするひよこさんたち……割とシュールである。はらはらしながら見守っていると、先に食べ始めたリュビが先に食べ終わって、けぷっと息を吐いた。


「ぴー!(美味)」

「あ、気に入った? よかったー」

 うーん。リュビさん、なんかキラキラしてない? 赤い光の粉みたいなのが、体から出てる気がするよ? 気になってじっと見ているうちに、サフィの方も食べ終わって「ぴぃ(美味しかったー)」と告げた。

「この美味しい料理を作ったのはイオくんです」

「ぴっ!(ありがとう)」

「ぴっ!(多謝)」

「おう。なあ、それ大丈夫なのか? 2匹ともなんか光の粉みたいなのが出てるが」

 イオくん、若干心配そう。それ僕も気になったので「食べ過ぎ?」と聞いてみると、リュビとサフィは顔を見合わせて互いにこてっと首をかしげた。

「ぴゅいー(あんまり大丈夫じゃないかも)」

「ぴゅ(満腹)」

「ぴっ(なんか魔力がぐるぐるする)」

「ぴゅ(爆発寸前)」

「爆発……!?」

 思ってたより大分物騒な単語が飛び出したぞ。

「待って魔力がぐるぐるってどういうこと?」

「ぴぃ(スペルシア神の魔力がたっぷりで、僕達はちきれそう)」 

「ぴ(不覚)」

「はち切れちゃだめだと思う……! イオくん、リュビとサフィが、なんか魔力で一杯で爆発しそうって言ってるんだけど、どうしよう!?」

「落ち着け」


 いや冷静に言われても普通にパニックになるよこれは。っていうか2匹のひよこさんから醸し出される光の粉っぽいのがどんどん増えてて、これもしかして魔力がぱんぱんになって外に漏れてるとかそういうやつ……?

「ひよこさんが破裂してしまう……!」

「いや、大丈夫だから。ほら2匹とも、これ使え」

 イオくんは無造作にインベントリから何かを取り出し、リュビとサフィに向かってぽいっと投げた。ふわっと広がったそれは……布? あ、違う。これは……。

「神蛇さんの抜け殻!」

 そう言えば魔力の流れを正常にするって効果があったような……! イオくんマジで何でも覚えてるな? なんて賢いんだ、自慢の親友です。


 神蛇さんの抜け殻に包まれた2匹は、その下でもごもごと動き回っていたけれど、しばらくすると光の粉っぽいのは一応収まったっぽい。僕がほっと息を吐き出すと、ぴっ! と抜け殻の下から顔を出した2匹、同じような表情でなにかむむむーっと力んでいる。

「ど、どうしたの……?」

「ぴ(なんとかどうにかしたい)」

「ぴぴ(同意)」

「な、何をどうするのかな……?」

 がんばれー♪

 呑気に明るいテトの応援の声が響き、リュビとサフィは互いに顔を寄せ合って、むむむーっと縮こまった。まるで力をためているかのように、ぎゅぎゅーと寄り添いつつも小さくなる。力って、貯めたら普通開放するよね? な、何をしようというのだ君たちは……!

 はらはらと見守る僕の前で、2匹はやがて「ここだ!」とでも言うように同時に目を見開き、ばさーっと勢いよく羽を広げる。


「「ぴーーー!!(てやーーー!!)」」


 と、なんかこう、ヤケクソみたいな大声で、2匹は鳴いた。


 それは夜の静寂をぶった切るような大音量で、近くにいた僕達は思わず耳を塞いでしまうくらいに甲高く響き渡る。この小さなひよこさんたちのどこからこんな大きな音が出るのかと不思議に思うまもなく、リュビからは赤い光が、そしてサフィからは青い光がばばーっと広がった。

 まさに、一瞬。

 赤と青の光が合わさって、淡い紫色……薄紅色? なんかそういう感じの色になって、ぐわっと村長さんの屋敷を包んだのだ。ざーっと強い風が、その光の広がりに合わせて吹き付けた。ソウさんの居たあの空間みたいな、澄みきって冷えた清浄な空気のうねり。

「お、おお……?」

 風に巻き上げられた神蛇さんの抜け殻が、ひらひらとイオくんの手元に戻っていく。そして村長さんの家は、シャボン玉みたいな透明な膜でうっすらと覆われているのであった。……いや、そんな冷静に解説してる場合じゃないこれ。

「何したのこれ!?」

 慌てて問いかけた先で、ひと仕事したぜ、って感じにふいーっと息を吐いていたひよこたちは、満足げにこう告げるのだった。


「ぴ!(神域)」

「ぴー(頑張って作ってみた!)」

「いや待ってそれ気軽に作っていいものではないような!?」

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― 新着の感想 ―
そうかぁ 頑張って作ってみちゃったかぁ
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