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30日目:ピザはオーブンで焼きたい派閥

 真っ白でふわふわの毛並み。

 触るとしっとり吸い付くような滑らかな肌触り。

 これぞ、テト史上最高の手触りである……!

「ふあー最高……! いつまでも触っていたくなる素晴らしい猫がここに……!」

 いっぱいなでていいよー!

「なんて良い子なんだ、もう少し撫でましょう」

 にゃふー。


 ザブザブ洗ってから何でも乾かす【ドライ】でテトを乾かした後、ブラッシングをしっかり行った結果がこれである。よく絹のような肌触り、って形容詞あるけどさ、僕絹って触ったこと無いからよくわかんないんだよね。ただなんかすっごい高級な布の手触りしてんな、ってのはわかる……!

 いつまでも触っていたくなる、そんなとてつもないしっとり感である。家の猫高級な手触りする。

「……いけない、無心でいつまでも撫で続けてしまう……!」

「夢中になってんなあ」

 僕がひたすらにテトを撫でまくっていたところ、イオくんが足湯から上がってきた。ふと時計を確認すると、もう1時間くらい時間が経過している……ば、ばかな。

「僕ほとんど足湯に入ってない……!」

「ずっとテト撫でてたしな……?」

「時を忘れる手触りですイオくん!」

 どうぞ! とテトを差し出してみると、イオくんは真剣な眼差しですっと手を掲げた。テトは「なでる? なでる? いっぱいなでる?」と期待に満ちた眼差しでイオくんを見ている。

 ぽすっとイオくんの手がテトの頭に置かれる。テトは「わーい!」というように尻尾をぴーんと立てている。そのままイオくんの手が何回か頭を力強く撫でて……撫でて……撫で、あ、これ止まんないやつだ。

「ふふ……さすがのイオくんでもこのテトの手触りには敵うまい……!」

「くっ、これ罠だ。誘惑がすげえ……!」

 にゃふふー。

 テトはとっても満足そうなので……オールオッケーでしょう!


 そんなわけで全員満足となった夕方。僕とイオくんはトラベラーズギルドへと逆戻りする。

 アナトラ世界の調理器具「かまど」は、どう見ても鍋型。土台のところで火を起こして、上に乗っている鍋を温める調理方法だ。まあゲームの話だから、鍋の形をしているだけで、炒めたり蒸したり焼いたりもできるんだけど……なんかこう、ピザがあの鍋の中から出てくるのってちょっとコレジャナイ感がすごい。

 というわけで、味や品質を考えるとどちらかと言ったらかまどの方が良いものができるんだけど、雰囲気を大事にギルドの作業場を使うことにしたのである。簡易オーブンがあるからね!

 午後4時過ぎの微妙な時間帯なので、ギルドは空いていた。イオくんは作業場を2時間借りて、黄金野菜だけじゃなく何種類かのピザを作ってくれるというのでお任せすることに。

「デザートピザできそう?」

「先人の知恵は偉大」

 どうやら掲示板になにか情報があったようです。よかったねー、テト。

 あまーいのおねがいするのー!

 にゃあん、と甘えてイオくんにすり寄っているあたり、うちのテトはなかなかしたたかである。まああんなキラッキラの目で見上げられたら嫌とは言えないよね。

「任せろ」

 と答えるイオくん、頼もしい……。僕にも! 僕にもデザートピザお願いします! 


 さて、そうと決まればイオくんが料理している間僕は何しようかな。お守りはちょっと気分が乗らないし、<細工>するには材料が心もとない。となると、まずはスキルチェックしようか。

「えーっと、結構いろいろスキルレベル上がってるなあ」

 さっきの戦闘でプレイヤーレベルが17になったので、PPも増えている。自動で上がったステータスは、幸運と魔法防御……ついに幸運さんが魔力を抜いて、一番高いステータスとして君臨した。こんなステータスビルドしてるの僕だけだろうなあ、と割と遠い目したくなる。


 ま、それは良いとして。

 スキルとしては、<総合鑑定>がレベル15になった。<総合鑑定>レベル20になると新しく<心眼>という派生スキルを取得できるようになる。この<心眼>、掲示板でイオくんが調べてくれたんだけど、かなり良さそうなスキルなんだよね。

 <総合鑑定>は便利だけど、いちいち新しい鑑定スキルを覚えたときに統合していくと、中間のレベルになってしまうという欠点がある。……まあSPをまたもらえるから、そういう意味では欠点でもないのかもしれないけど。

 だがしかし! SP10を使って<心眼>を取ると、<総合鑑定>を<心眼>に置き換えることができるようになる。レベルは1からになるんだけど、この<心眼>の利点は、新たに鑑定スキルを取得したときに自動的にそれを統合してくれて、なおかつ<心眼>のレベルは下がらなくなるのである。

 新しく取得した鑑定スキルも、<心眼>のレベルに自動的に引き上がるので、スキルの多いこのゲームではかなり便利。……その分、新しい鑑定スキルを育てる分のSPはもらえないというのが欠点なんだけど、ぶっちゃけこのゲームSPは入手手段が多いからなんとでもなると思う。

 <心眼>を育て直す必要はあるんだけど、長い目で見れば絶対こっちのほうが楽だと思うんだ。


 つまり、多少面倒でも良いからSPちゃんと欲しいって人は<総合鑑定>を育てて、SP犠牲にしても構わないからとにかく楽に進めたいって人は<心眼>を取れば良いというわけ。こういう選択肢の多さがアナトラの良さでもあるね。


 次に<原初の魔法>がレベル3になって、セットできる呪文が1セット3つまでに増えた。2セット目の設定はまだできないけど、これは今後もしっかり育てて行きたいスキルだ。一応、このスキルもレベル20まで上がると次の発展スキルが出るはずなんだけど……<原初の呪文>の頃と比べると、<原初の魔法>は必要な経験値が多いのか、めちゃくちゃレベル上がりづらくなっている。まあ強いスキルだから仕方ないっちゃ仕方ない。

 魔法系はそれなりに使ってはいるけど、上級魔法は流石にあんまりレベル上がらなくなってきているし、こうなったら集中的に氷、雷、樹の魔法を育て上げて上級にしたほうが良いかもなあ。うーん、僕って今後どの魔法を中心に使っていけば良いんだろうか、なにか1つか2つくらい特化させておきたい気もするけど……。

 テトどの魔法が良い?

 きらきらのやつー。くろいもやもやえいってするのすきー。

「<光魔法>かな? じゃあ、<光魔法>はレベル上げますか」

 とりあえず1つはリクエストにお答えして<光魔法>にしよう。聖水も作るし、テトビタDも作り続けるだろうからちょうどいいね。もう1つ特化させるなら何かなあ……。正直どれもこれもそこそこ便利で選べない。

「イオくんが氷雪の剣使ってるから、氷は特化させなくてもいいかなあ。そうすると僕の賢い杖ユーグくんの適正的には<闇魔法>なんだけど……」

 確か、紫水晶の杖にはデバフが通りやすくなるって効果があるんだよね。とは言え光属性とか闇属性の敵って実はそんなにいないってところがネックだ。光はまだアンデット特攻とかもあるからいいとして、闇って上級魔法のレベルだとあんまりパッとしないというか……。

 ぶっちゃけ、デバフは<原初の魔法>でもできそうなのがね!

 イマイチ利点にならないんだよ。


 そんなことを考えつつ取得可能スキルの一覧を色々見ていると、今まで知らなかったスキルが結構増えている。このゲーム、ただでさえ取得可能なスキルめっちゃ多いのに、生産スキルとか戦闘スキル以外にも隠しスキル系もあったり、とにかく選べる量が多いんだよね。

 とりあえず赤文字チェック……流石に特殊スキルは無いか。

 なにか面白そうなスキル無いかなーと思って、テトと一緒にスキル一覧を色々見てみた。テトは時々「ナツもおそらとべないのー?」とか「よみきかせすきるをとるとよいのー」とか言ってくるけど、<飛翔>スキルはフェアリーの種族スキルなのでエルフは使えないのである。そして読み聞かせというスキルは無いよ。

 色々考えたけど、本当にスキル多すぎて全部見るには全然時間が足りない。そんな中で引っかかったのが、<杖技>ってやつ。これ、SP10の固定スキルなんだけど、杖を使ったあらゆる魔法と直接攻撃が上手くなる、っていう曖昧なテキストのスキルだ。

 前にイオくんが取ってた<剣技>と同じタイプのスキルだと思うんだよね。あれイオくんからの評価結構高かったから、僕も取っておこう。今ならまだSPに余裕があるから、取るなら今しか無いって気がする……!


「よし、これからもユーグくんの大活躍に期待しています」

 取得して僕の杖に語りかけて、とりあえずスキル確認終了。あまりにも取得可能スキル多すぎて、丁寧に確認してたらあっという間に時間が過ぎていた。イオくんも後片付けに入っている。

「イオくん、どうだった? 良い感じのピザできた?」

「おう。村長のところに戻ってから見せる。ピザはやっぱ焼きたてが美味いからな」

「デザートピザは?」

「ジャムとはちみつとクリームチーズの簡単なやつ」

「素晴らしいではないでしょうか!」

 わーい!

 甘いのある! と確信したテトさん、喜びの舞である。まだちょっと夕飯には早いかなーってくらいの時間帯ではあるんだけど、ピザを前にしてお預けなんてそんなの無理だと思います! というわけで、速く速くとイオくんを急かしてトラベラーズギルドを出る僕達なのであった。



 村長さんの家はいつも通り、のどかな雰囲気だった。庭にいる村長さんにただいまの挨拶と、アサギくんたちの行方を聞いてみると、部屋にいるとの返事。

 アサギくんの部屋と雪乃さんの部屋は隣で、居間からすぐ近くになる。メッセージとか送るよりも突撃してノックするほうが早いので、早速向かうと、アサギくんの部屋に雪乃さんも揃っていた。

「あれ、なっちゃんたちだ。どうしたのー? なにか急用?」

 と問いかける雪乃さんたちの手元にあるのは……計画書かな? アナトラ世界、紙は普通に売ってるけどちょっとざらついてて品質は良くないんだよね。ちなみに筆記用具はつけペンみたいなのが主流。

「今忙しい? イオくんが素晴らしい料理を作ってくれたのでおすそわけにきました!」

 と元気にご挨拶してみると、「お!」と目を輝かせたアサギくんがさささっと計画書をインベントリにしまい込む。どうぞ! という雰囲気は十分に伝わってきたので、とりあえず座卓を【クリーン】かけて……さあイオくんどうぞ!

「ナツ……。先に説明しろ?」

「アサギくんもう知ってるはずだし大丈夫かと。黄金の野菜を使ったピザだよ!」

「金色?」

「あ! ダンジョン野菜か!」


 不思議そうに首をかしげたのは雪乃さんだけで、アサギくんはすぐに思い当たったらしい。最初にダンジョン産野菜が獲得できた時、雷鳴さんの話を一緒に聞いてたからね。ちなみにあの時作った黄金のシチューも、雷鳴さんからアサギくんに渡っているはずである。

「まさか、追加の野菜が!?」

 と興奮するアサギくんの横腹をつついて、雪乃さんが「ねえ何の話?」と不思議そう。アサギくん、ダンジョン野菜のこと雪乃さんに伝えてないのかな。掲示板にダンジョン情報公開するにも、絶対に入れといたほうがいい情報だと思うんだけど……。

 アサギくんが雪乃さんにダンジョン野菜の説明をして、PPかSPがもらえるってところで「あんたそんな大事な話忘れてちゃだめでしょー!」と怒られていた。アサギくんも説明したと思い込んでいたらしく、平謝りである。

「で、今日ナツが夏野菜を引き寄せたんだ」

「ダジャレみたいになってる」

 まあいつまでも引っ張ってもしょうがないので、イオくんがギルドで作ってきた黄金のピザを取り出すと、雪乃さんとアサギくんは揃って拍手で出迎えた。ノリ良いなあ。


「わー、これを食べるとPPがもらえるって……とんでもないね!」

 と目を輝かせる雪乃さん。この中では唯一、前回のシチューを食べてないから、すごく嬉しそう。

「俺、前回のシチューももらったけど、これももらっていいのか? すげえ嬉しいけど、あとで不公平だって揉めない?」

 とちょっと気を使ってるのはアサギくん。とはいえ、前回のシチューメンバーである雷鳴さんと如月くんにも分ける予定なので、心配は無用だと伝えておく。

「そもそも雷鳴さんが2回、僕達が1回引き当ててるわけだから、そこまで極端に出現率低いわけでもなさそうなんだよね。なにか条件がある可能性もあるけど、それを検証する過程で多分そこそこダンジョン産野菜は流通するような気がする」

「あー、なるほど。条件あるとしたら、<調理>系スキルかなって俺は思ってんだけど、そのへんどう思う?」

「あー、なるほど。雷鳴さんもイオくんも<調理>系スキル持ってるもんね」

 それは結構有り得そうだな、と思った僕である。……ん? ということは夏野菜を引き寄せたのは僕ではなくイオくんではあるまいか……? どう思うイオくん。

「夏野菜って叫んだのはお前だろうが」

「確かに……!」

 まあ僕の功績ってことでいっか!

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― 新着の感想 ―
ついつい面白くて読み続け最新話に追いついてしまった。 主人公の二人はもちろんの事他のトラベラーさんや住人さん達の個性がとても際立っているので読むのがとても楽しいです!
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