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30日目:願いは結構叶うもの

 ループタイ、イオくんに一応いるかどうか聞いてみたけど、断られました。

「俺はテトの好感度だけでいい」

 とのこと。まあイオくん普段猫に怖がられて遠巻きにされるタイプだから、いきなりモテモテになっても戸惑っちゃうだろうし、仕方ないね。

 如月くんとかアサギくんなら喜んでもらってくれるかも? 特にアサギくん。魔石の色も水色で、浅葱色と近いし。住人さんだと、リゲルさんとかシーニャくんとかは喜んでくれそうだけど、流石に次にいつ会うかわかんないからなあ。

 ちなみに効果については、「ねーこ♪ ねこー♪」と喜びの歌を歌っていたテトが言うには「すてきなかんじー」とのことなので、確かに猫を引き付ける要素があるっぽいね。

 次回会ったときにでも……と思いながらインベントリにループタイをしまって、時計を確認するとそろそろ生産を始めてから3時間。お昼ごはんの時間である。僕の視線を追ったイオくんは、瞬時に僕の意図を察して「そろそろ切り上げるか」と提案してくれた。

 さすが気の利く男、イオくんである。


 ギルドのフリースペースを借りて、お昼ごはんを食べてから、午後はダンジョンの予定。

 テトは楽しみにしていたさつまいもの蒸しパンを前に、「しろーい!」と大満足のお顔である。確かに蒸しパンって白く見えるね。

「ナツと俺はテールの焼き鳥使って、焼き鳥丼にでもするか」

「マヨネーズ!」

「ほんとは七味が欲しいよな」

 スパイス系はサンガが充実してたんだけど、残念ながらイオくんが求める「七味」のブレンドはなかったらしい。トウガラシがある世界だから、それっぽいスパイスは色々あったんだけどね。僕もいくつか味見したけど、七味もどきみたいな……なんか独特のスパイス配合されてて変に甘辛かったり、苦みがあったりしたんだよ。

 日本人的にはこれじゃない感がすごかった。

「まあ、いずれどこかのトラベラーが売るだろう」

「できる人にお任せ……!」

 焼き鳥丼は大変美味しくいただきました!


 さて、ご飯を食べたら次はダンジョンだ。近々ゴーラに向けて出発するから、えーと、時間的にダンジョンはあと行けても2回か3回くらいかな? 1日1回しかチャレンジできないしね。

 つまりその限られた回数で野菜を出さねばならないのである。黄金の野菜を。今まで僕達が食べたのが、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、キャベツだから……トマトとか食べたいな。レタスでもよし。

 ……でも待てよ。

 つまりトマト煮込みが金色に……? それはなんかちょっと微妙かも。

「イオくん、トマト煮込み以外のトマト使ったおかずって何があるかな……」

「……金色を前提に考えるなら、一番マシなのはトマトと卵の炒めかアヒージョじゃねえかな……」

「トマト炒めは……リュウさんのが好き……!」

「知ってる」

 僕の家近くにある町中華「来来軒」には、美味しい中華がたくさんご用意されているのである。トマトと卵の炒めも当然メニューにあって、たまに注文するし、実際美味しい。トマトを使ったおかずの代表みたいな料理だなって思う。中華はものすごくガッツリ食べたいってときに最適な食べ物が多くて、とても良いと思います。

 そんな事考えつつ、ダンジョンの前に到着する。


 むむー。

「テトさんご機嫌斜め?」

 ダンジョンきらーい。テトもいっしょがいいのにー。

「ごめんねテト。美味しいお野菜のために、里にいる間はちょっとがまんしていただけると嬉しい……!」

 僕もテトをホームに戻すのは心苦しいんだけど、こればっかりは仕方ないんだ。僕達は戦わなければならない……黄金の野菜のために……!

 テトも野菜が美味しいのは知ってるので、ちょっと拗ねつつも大人しくホームに戻ってくれた。ようやくイオくんに「ナツのことまもって」って言わなくなったので、ちょっと信用されたはずである。……多分。

「よし、そんじゃ行くぞ」

「野菜出ますように! 野菜野菜!」

「なんか力技で押し切ろうとしやがる」

 イオくんの呆れたような声が聞こえましたが、僕は使えるものは何でも使ってやるのだ。というわけでお願い<グッドラック>さん、スペルシアさんに届け僕の想い! ダンジョン入口で強く念じてから、気合を入れて足を踏み入れるのであった。 



「チートか?」

「濡れ衣! 濡れ衣です! スペルシアさんありがとう!」

 ……というわけで、前に誰かが当たったと聞いたことがある迷路型ダンジョンでした! トウモロコシ巨大迷路を歩いて行くと、所々に大部屋があって、そこでそこそこ強い魔物と戦うタイプ。この大部屋、普通に迷路をクリアするだけなら4つしか通らないんだけど、なんか<罠感知>が反応したところ探してみたら隠し通路があって5つ目の部屋が見つかるというギミック付き。

 その隠し部屋にいた魔物がイノシシ型のでっかいので、それを倒したところ「害獣を退治した!」みたいなシステムアナウンスが流れたので、ここだ!と思って僕は叫んだ。

「夏野菜お願いします!」

 と。

 ……いやダメ元ってあるじゃん。そんな、普通に反映されると思わないじゃん。でもワンチャン反映されたらめっちゃラッキーとは思うから叫んだわけで。


 結果、開けた宝箱の中身は見事な夏野菜なのであった。僕えらい。


「トマト、ナス、ピーマン、トウモロコシ……ナツお前、よくやったと言わざるを得ない……!」

「褒めるが良い!」

「おっしゃ、なんかうまいもん作ってやんよ!」

「神か!」

 とかなんとか言い合いながらダンジョンから出ると、すぐさましゅばっとホームから飛び出したテトが、僕が褒められてる気配を察知してめっちゃドヤーって顔をしてくれた。

 ナツはえらいのー!

 と胸を張るテトさんである。君は常に良い子だな、撫でましょう。

「テトの顔見てると大体何言いたいのか伝わってくるよな……」

「素直な良い子です!」

「飼い主に似たよな……」

 ナツににたのー!

「仲良しだから似たのでしょう!」

「ずっとそのままで居てくれ」

 なんかしみじみ頷くイオくんなのであった。疲れたイオくんの心まで癒やすアニマルセラピー力の強いテトなので、僕もずっとこのままで居て欲しいと願ってるよ。


 ガッツリ連戦だったから、色々スキルとか上がったしプレイヤーレベルも上がったりしたんだけど、そんなことよりも野菜である。

 例に漏れず黄金の野菜なのだけれども、新種を4つは大きい。美味しいことは分かってるので、色さえ気にしなければ最高のお食事になること間違いなし。

 ダンジョン入るまでにトマトの話をしていたのが良かったのかもしれないなあ。トマトと卵の炒めも良いけれど、せっかくだから全種類使った全部のせメニューを食べたい。とりあえず蔵を出て、時間は午後3時くらい。今から夕飯が楽しみだなあ!

「イオくん何作る? どうせなら全部使いたいよね!」

「早すぎだろうが。……ナツよく見ろ、この野菜を全部使えるお前の大好きな料理があるぞ」

 お、もうメニュー決まってるっぽいな。そして僕の好きな料理……多すぎて逆に思いつかないまである。トマトにナスにピーマンにコーン……な、夏野菜カレー……? 

「今絶対カレーって思ったな」

「心読まれすぎ問題」

「ピザしかねえだろトマトだぞ?」

「天才か! なるほどそれがあった!」


 そう言えばチーズもたっぷり買ってあったっけ。ピザかあ、サンガではお店で食べたけど、イオくんが作ってくれるのは初めてかも。絶対美味しいやつじゃん、これは僕大勝利の予感。

 ピザなあにー?

「平べったいパンみたいなものの上に、お野菜とチーズを乗せて焼いた料理だよー! そう言えばサンガで食べた時は、テトはホームに戻ってもらったんだったね。熱々だから気をつけて食べるんだよー」

 あついのかー。ナツてきおんってしてねー。

「いいよ! テトははちみつ塗った甘いピザ作ってもらおうねー」

 すてきー!

 わーいっとぴょんぴょんするテトを微笑ましく見つめつつ、イオくんは「デザートピザ作ったことねえな……」と真剣に考え込んだ。空中を叩く動作をしているので、おそらく掲示板で情報収集だろう。黄金の野菜も、チーズの下に隠れてしまえばそれほど気にならなさそう。

 あとは誰かに分けるかってところだけど……如月くんの分はインベントリに入れといてあとで分けてあげるとして、アサギくんと雪乃さんにも分けるべきかなあ。僕達もうすぐゴーラへ向かう予定だし、ダンジョンのことは見つけただけであと丸投げしちゃうので、若干申し訳ない気持ちはあるんだよね。

 というようなことをイオくんに相談したところ、

「いいんじゃねえの。どうせ1種類につき1PPしかもらえないんだし、俺達で独占するのもな」

 とのお返事だった。イオくんがOKなら、猫のループタイをあげるついでに差し入れに行こうかなー、夜に村長さんの家に戻ればいるだろうし。


「ちょっと思ったんだけど、この黄金野菜って魔力たっぷりっぽいので、リュビとサフィが食べられるんじゃないかな?」

「いけるんじゃないか? 炎鳥ってSP使うのかわからんが」

「それも含めて興味あるかも。ちょっと差し入れしてみよう」

 きっとよろこぶのー。きんいろのおやさいおいしいのー!

 テトがそう言ってくれるなら、きっと喜んでもらえそうだね。そうと決まれば……と炊事場を目指そうとした僕の肩を、イオくんががしっと掴んだ。

「足湯」

「ア、ハイ」

 ダンジョンのあとは足湯、イオくんのこだわりである。


 足湯のある方向へ向かうと、小さな小川には立派な木製の橋がかかっていた。いつの間にと思ったけど、僕達が出かけている間にトラベラーさんたちとアサギくんが頑張ったのかな。なかなか風情のある風景だね。

「すごくそれっぽい!」

「いいな。お、湯屋の予定地も整地されてるぞ」

「ほんとだー!」

 僕達が普通に橋を渡っている横では、テトが橋の縁に軽やかに飛び乗って、ご機嫌な様子。高いところ好きなんだよね、テトさん。猫は全体的に高いところ好きだけれども。

 橋を渡って足湯の東屋は、現在無人だった。その奥の土地は木々を切り倒して結構広めのスペースが確保されており、ロープで囲ってある。簡単な看板が立ててあって、大きな文字で「湯屋予定地」と書いてあった。

「設計図もできてたし、木材が集まったらあっという間に建っちゃいそうだねえ」

「トラベラーがやる気だからな」

 言いながらイオくんは足湯に入っていき、僕も後に続く。お湯に足をつけると、はーっと大きな息が漏れる。うーん、足湯だけでもこんなに快適なんだから、温泉も早く入りたいものです。


「あ、こっちに大きめの桶がある! テト、これでお風呂入ってみるー?」

 はこー?

 足湯の隣に洗い場ができていて、そこに割と大きめの桶が置いてあった。大きなものを洗濯するときとかに使うようなやつだけど、テトにはちょうどいいかも? と思って提案してみたところ、テトはぴょいんっと中に飛び込んだ。うーん、こうしてみると若干狭いかも。

 だがしかし、テトはくるくる回りながら上手に桶の中で体を丸めて、テトの体に対してちょっと小さめの桶の中にきゅっときれいに収まる。

 ぴったりー。

 とご満悦のお顔である。うむ、そういえば猫は液体なんだった。

 ホースがあったので、テトに湯加減を聞きつつゆっくりお湯を貯めて行く。テトさん、意外とお風呂を嫌がらない猫であった。猫によってはお風呂って全然だめだからねー。僕もちょっと不安だったけけど、温度がぬるければ大丈夫そう。

「このくらいの温度が良いの?」

 ぽかぽかー。ぬれちゃうのちょっといやだけど、けむりがないならだいじょうぶー。

「そっかー、テトさんは湯気がなければ平気なんだねえ」

 あったかいのはすきー。

 ここぞとばかりにテトをザブザブ洗う僕なのであった。いや【クリーン】使ってるからきれいなんだけど、洗いたての動物の毛並みってめっちゃふわふわで気持ちよさそうじゃん、絶対に最高だよ!

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