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29日目:フォロー会議をするのだ

 僕は知っている。

 美味しいお肉は噛むと溶ける。


「……友情加点入れてイオくんのギリ勝ち……!」

「俺の負けだろ完全に。ナツの採点は身内に甘すぎんだよなあ」

 直近でイオくんの焼いてくれた美味しいステーキを食べたばかりだからね、流石にちょっと比較してしまうよ。とはいえイオくんのステーキはソース豊富で味に飽きがこないように工夫してくれたし、こっちのステーキは家庭には出せない複雑な味のソースをふんだんに使っていてプロの味って感じ。ジャンルが違うので両方優勝は成立します!

 とりあえずそれぞれに良さがあるのである。というかこれ本当に噛みしめるほど美味いな。もっと咀嚼したいのに溶けて消えてしまう。ちょっと贅沢じゃないですか。


「美味い……これは流石に早食いできないです……!」

「全てにおいて美味しい……最高……! 知ってたけど……!」

「すげえちょうどいい焼き加減。これリアルで再現できねえかな」

 りんごしゃきしゃきなのー。おいしいのー!

 各々が感想を言い合ってみたりしたけど、美味しい以外の表現は出てこなかった。事実として美味しいんだから仕方がないんだけど、わりと美味しさの表現も人それぞれだなあ。

 イオくんはもう完全に料理人目線。料理を研究してるし、多分リアルに活かされる。料理に特化した<鑑定>を持ってるから、材料とかのほうに意識がいっちゃうらしい。時々僕とテトの方を見てなんか納得してるのは、好みの味でも探ってるのかもしれない。学習に余念がない、なんて勤勉なんだ。

 如月くんは、なんか目を閉じてじっくり味わっている。普段の如月くんは結構食べるの早いんだけど、今回のステーキはゆっくり食べることを心がけているらしい。

 テトは……なんかこう一口食べては「うにゃあん」と満足げに声を上げ、力いっぱい「おいしい!」を表現している。あ、ヒゲがぴくぴくしてるぞ、正直でかわいいね。 


 ふはーっと満足のため息が出るころには、かなりお腹いっぱいになっていた。

 食後のデザートと珈琲が人数分運ばれてくると、ようやく雑談でも、って空気になる。あ、ちょっと待ってイオくん、なんで勝手に僕の珈琲にミルク入れるんですかねこの人は。砂糖? い、入れるけどさ。甘いほうが美味しいじゃん……。

「俺も如月もブラックだし、使うやついないからナツはたっぷり使っとけ」

「僕だってブラック飲めます!」

「ナツさんこの珈琲、苦み強めなんで無理しない方が」

「くっ……甘んじて受けよう……!」

 苦いと聞いてはブラック飲みたくありません。美味しく飲める方法で飲むのがよろしいのである。でもイオくんそれ入れ過ぎでは? コーヒーと言うよりミルク飲料になってませんかね。

「もしかして3人分のミルク入れた?」

「ナツなら許してくれるはず」

「許しましょう!」

「おう、知ってる」


 僕達の茶番を横目に、テトさんはタルトタタンをちまちま食べては満足のため息を吐いている。この巨大白猫さん、一口が小さいのである。

「テト美味しい? 僕の一口あげるね」

 ありがとー! おいしいのー!

「随分ゆっくりたべるんだね。よく噛んで味わっててえらい」

 あのねー、ちょっとずつたべるほうがながーくおいしいのー。ナツにあげるぶんものこしてあるのー。

 褒めてーというようにテトがドヤ顔したので、思いっきり撫でてから僕のティラミスを一口あげてみた。リアクション的にはそんなに刺さってないみたいだ。チーズそこまで好きじゃないのかな? でも牛乳は好きだったよね? と考えていると、

 テトくだものすきー。

 だそうです。だよねー! 僕も果物好き! テトのタルトタタン1口もらうねー。うーん、さすがイチヤのリンゴ、ただただ美味いな……。


「味覚まで似てるんですねナツさんとテト……」

「ナツが喜ぶもんは大体テトも喜ぶから楽でいいぞ。わかりやすいしな」

「イオさん、料理する時ナツさんの好みに仕上げてるんですか?」

「俺も美味い飯食いたいし」

「イオさんの好みは……?」

「いやまあ多少はあるけどな。残念ながらあの顔見ながら食う飯のほうが美味い」

「あー」

「この世で一番美味いもの食ってるって顔するんだ、揃って」

「すごくわかります」


 なんかイオくんと如月くんがごしょごしょ小声で話してるけど、何の話? って顔を向けたらすごく曖昧に微笑まれて流されました。何の話だったんだ……? まあいっか、なんか大事な話なら後で教えてくれるはず。

「ナツ、ハンサと何話してたんだ?」

「あ、そうだった。それ話そうと思ってた!」

 美味しいもの食べてすっかり忘れてたけど、そういえばなんか重要そうな話を聞いたんだったっけ。僕は慌ててハンサさんとの会話を思い出しつつ、みんなにクエストの予想などを共有する。とりあえずどこかで勇者さんには確定で会えると思う。僕がエルフだから、できればエルフさんの方に会いたいけど、魔法士としてはフェアリーさんも気になるねえ。

「……って感じなので、このクエストを進めていくとどっかで仲間を探し続ける勇者さんに会えるはずだよ!」

「おお……思ってたより重いクエストだったな」

「ナツさんそういうのどこで見っけて来るんですかマジで」

「わかんない、なんかいつの間に」

 肖像画クエストについてはマジでわからない。そもそも受け取ったの僕じゃなくてイオくんだし。僕はその間ひたすらリクエスト聞いてお守り作ってただけだもんなあ。


「勇者かあ、ちょっと会ってみたいですよね。相当強いんでしょうし」

「戦ってみたい」

「出たよイオくんのバトルジャンキー」

「強いやつには挑むのが礼儀だろうが」

「さすが格上キラー、飽くなきチャレンジ精神でえらい!」

 僕は遠慮しますけれども。イオくんためらいなくチャレンジするからすごいと思います。ガッツがある。

 出会った最初のゲーム、フロ戦でもイオくんは強いやつにとりあえず挑んでいくチャレンジャーだったんだよね。一緒にいた僕も時々絡まれたけど、何故か僕に売られた喧嘩も全部イオくんが嬉々として買ってたっけ。


「そういうプレイスタイルの割に、イオさん別に戦闘メインってわけでもないですよね」

 と如月くんが疑問に思うのも最もだ。ぶっちゃけ僕もそう思う、イオくん本気出したら僕にトリプルスコアで差をつけるほどレベル上げられると思うもん。なんというか凝り性なんだよねえ、何事にも。

「戦闘メインにしてたらナツと遊べないからな」

「え、イケメンな上に優しいとかイオくん欠点とか無……そう言えば人見知りだったからセーフ」

「普通に褒めろそこは」

 ふ、使い古されたネタだけどイオくんマジで人見知り以外の欠点ない疑惑があるからな……! 

 テトもナツとあそぶー♪

 こっちの話を中途半端に聞いてるテトさんが、なんか楽しい話だと思ったのか僕にすり寄ってきた。テトはいつもかわいいなー。タルトタタン食べ終わった?

 おいしかったのー。

「そっか、よかったねー!」

 よしよしとしっかり撫でておきました。


「とりあえずルーチェさんのほうはなんか上手いこと行ったっぽくて良かったけど、街に聖獣さんが出没するのって、やっぱり普通の住人さんには困惑することなのかな?」

「そりゃそうでしょうね。ローランさん呆然としちゃってましたし」

「そのうち慣れるだろ。心配するべきはもっと他のことじゃないか?」

「他のことって?」

「ナナミのお偉いさん」

「……あー」

 考えてみればそれもそう。国王様とか星級の貴族さんたちとかをまるっとスルーしてイチヤにのみ出没っていうのは……なんかいらない諍いを呼びそうでもある。これでイライザさんとかが、首都の貴族さんたちから睨まれたりしたらやだなあ。

「なんかフォローできないかなと思ったけど、ナナミにはまだ行ったこともないしねえ」

「イチヤの星級の人たちが、不利益を被る可能性があるってことですか?」

「わかんないけど、海外の要人とかが政府スルーして特定の都道府県にだけ顔を出すって感じ? 気まずくなりそう」

 僕なりに一生懸命考えて例えてみたけど、如月くんはいまいちピンとこないって顔をしていた。語彙力、語彙力が欲しい。


「ナルバン王国の首都はあくまでナナミで、星級の上には国王がいる。聖獣が街に来たとなれば、上層部はぜひ会いたいと言い出すだろうが、ルーチェはそういう面倒事は嫌うだろう。結果としてイチヤの星級が睨まれる可能性はある」

「あるよね」

「それはありそうです」

「で、フォローな。実はできそうな心当たりがある」

 なん……だと? さすがイオくん、そんなあっさりと解決策を思いつくとは。感心する僕を見て、イオくんはなんかちょっと微妙な表情をした。

「なんとかすんのはお前だぞナツ」

「え!? 僕にできることとかある?」

「いやむしろお前とテト」

 おしごとー?

 ごろごろと僕の膝に甘えていたテトさんは、名前を呼ばれてぴょいっと顔を上げた。お仕事大好き勢はお仕事チャンスを逃さないのである。えらい。


 でも僕とテトでできるフォローって……あ!

 いた!

 そう言えば妖精類でナナミ在住で、多分それなりの地位にいる人!

「リゲルさんかぁ!」

「正解」

 リゲルー? あそびにいくのー?

 あー納得した。たしかにリゲルさんに託せばなんかいい感じになりそう。あの人絶対有能じゃん、雰囲気で分かるよ。イオくんと似たような空気感だもん。

「リゲルさんって?」

「あ、如月くんの知らない僕達の知り合いの住人さん。多分2等星ではないかという予測……?」

「はっきり聞いたわけじゃねえけど。城で働いてるって言ってたしな」

 リゲルおしごとしててえらいのー。

「もう2等星にツテがあるってことですか。さすがナツさんたち」

 感心したように言う如月くんだけど、出会ったっていうか向こうが来たっていうか……。ツテっちゃツテだけど、なんかあった時お願いごとをするくらいの距離感でいたい相手かなあ。だって絶対有能だもんリゲルさん。イオくんと同じで頼り切ってはだめなのです。


「確かに今回はお話くらいしといたほうがいいかも。イチヤに無駄なヘイトを向けてほしくないし」

「リゲルもお前たちの言葉なら聞くだろ」

 リゲルのところいくなら、おみやげいるよー。

「そうだね、お土産何にしようか」

 前回はイオくんの美味しいミートボール……あれより良いお土産なんかなくない? リゲルさんなんだかんだ言いつつめっちゃ食べてたし、絶対美味しかったんだよあれ。貴族さんだからもっと良いものたくさん食べてるかなって思ってたけど、貴族の舌すら満足させる家のイオくんの料理人としての腕よ。

「……言っとくけど今から料理はしねえぞ?」

「……知ってた! まあお土産は今日いっぱいフルーツ買ったし、そのへんから見繕うよ」

 リゲルさんはナナミ在住だし、イチヤの新鮮なフルーツはなかなか良いお土産になるはず。遊びに行くなら早いほうがいいかなあ? 幸い今日はまだ夜7時、これから里に戻ってちょっとだけ会いに行くくらいなら大丈夫そう。

 それに、リゲルさんって日中仕事してるんだから、夜じゃないと会えない説もある。


「よし、じゃあ里に戻ったら遊びに行こうか」

 善は急げ! である。

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