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4日目:いざ、トスカ杖工房



 キガラさんのところを後にした僕たちは、そのままギルドをスルーしてトスカさんの工房へ向かった。

 それと言うのも、ロックタートルからドロップした頑丈な岩が、なんとキガラさんに売れたからだ。

「これ、家建てる時の基礎に使うんだよ」

 と、1個1,000Gで買い取ってくれた。

 ギルド買取価格の倍だ、悩む必要はない。

 こういう、必要なところに直接持って行った方が高い現象は、多分他にも色々あるんだと思う。バイトラビットの毛皮だって、被服店に持っていったらもっと高く売れたかも。

 まあ、それを探すのが面倒だからギルドに売るんだけど。


「ナツ、ここだ」

 東門近くまで来て、イオくんが通りの南方向を指さす。

 キャンプ用品店が広い庭にサンプルを色々広げてるんだけど、その隣にあんまり目立たない土の道が伸びていた。そこに足を踏み入れると、どうやら住宅地のようだ。さらに奥には果樹園が見える。この通りに名前は……無いみたいだね。

「お、ここに魔道具の工房もあるぞ」

「工房って、住宅に溶け込んでるものなのかな?」

「自宅兼工房って人が多いんじゃないか?推測だけど」

「あ、なるほどー」

 さすがイオくん頭がいい。


 ところでトスカ杖工房のショップカードは、メタリックブラックな箔押し付きだったのでもしや、と思ってたらレアカードだった。複製できないのは残念だね。

「えーと、この辺の……あった、これだな」

 イオくんが、どこからどう見ても民家にしか見えない家に掲げられた看板を指さす。表札くらいのサイズ感で、黒っぽい看板に『トスカ杖工房』とグレイの文字で書いてある。なんかとても地味で、うっかりすると見逃がしそうな看板だ。

 住人一覧からエルモさんを探してみると、現在地がトスカ杖工房になっていたのでちょっと安心。えーと、呼び鈴っぽい物は……。


「これかな?」

 門扉に設置されている魔石があったので触ってみると、問答無用でMPが吸われてチリリーンと綺麗な音が響いた。おお、これがこの世界のチャイムか。

 今は問答無用でMP吸われたけど、多分設定的には魔力を流して音を鳴らす、みたいな装置になるんだろう。

 しばらくそのまま待ってみると、「はいはーい!」と聞き覚えのある声がして、家からエルモさんが顔を出した。僕たちの姿を見つけて「こんにちは!」と元気な挨拶が飛んでくる。

「こんにちは、エルモさん。約束通り来たよ!」

「ラタ様からもご連絡がありましたよー。いらっしゃいませ! どうぞ中へ!」

 エルモさんは門扉を操作して開けてくれた。なんか透明な幕が割れたような演出があったので、多分魔法でセキュリティを張ってたっぽい。あれ僕もできるかな、何魔法だろう?


「こっちですよ!」

 と先を行くエルモさんを追いかけて、家の中へ。

「お邪魔します」

 と玄関へ足を踏み入れて、靴を脱ぐ場所が無かったので「あ、ここ土足なんだ」と理解した。この世界は土足かー。靴脱ぎたい派の人間としてはちょっと微妙な気持ちになる。

 土足でごめん……みたいな罪悪感みたいなのを覚えるので、一応自分とイオくんに【クリーン】をかけておいた。


 エルモさんは、玄関ホールの奥に少し行って、右手の部屋のドアをばたーんと開ける。

「師匠! お客さんです!」

 元気だなあ、と思っていたら奥から何かが飛んできてエルモさんの額にスコーン!と当たった。

「いたっ!」

「やかましいわ! いちいち大声出すんじゃないよこの馬鹿弟子が!」

「酷いっ! この工房にお客さんなんて3年ぶりなのにっ! 私が呼んだんですよ!?」

「頼んでないんだよ!」

 お、おう……。

 元気な師弟だね……?



「騒がしくして悪かったね。エルモがいちいちうるさいから」

「師匠が素直じゃなくてすみません。これでも久々のお客さんに喜んでいるはずなので」

「エルモ!」

「暴力反対っ!」

 コントみたいなことを繰り広げている師弟に、僕とイオくんは「はあ」としか言えない。

 あの後客間に通されてソファに座り、紅茶を出されたところまでは穏便に済んだんだけど。向かいに座った師弟はいつもこの調子なんだろうか。

 トスカさんはいかにも魔女っぽい感じの女性で、全身黒いローブに身を包み、鮮やかな赤毛の40代くらいの人だった。知的な顔立ちに片眼鏡が良く似合う。そう、知的な顔立ちなのに……言動はなんかこう、雑というか。

 あ、でもこのギャップには覚えがあるぞ。リリンさんがどう見ても可憐な少女なのに江戸っ子っぽい口調だったっけ。もしかしてトスカさんの杖作成は、師匠にドワーフ女性がいるのかも。

「えっと、僕はナツです。こちらが友人のイオくん。今日は杖を作ってもらえないかと思って来たんですが……」

 気を取り直して本来の目的を告げると、トスカさんは「ああ」と軽く頷いた。

 それから、ローテーブルに2本の長杖を置く。


「その杖のうち、どちらが良い杖だと思う?」


 おっと、いきなりの謎かけか。

「<鑑定>してもいいですか?」

「構わないよ」

 イオくんはさっきから見守り体制なので、僕がやるしかない。まずは<上級鑑定>で見てみると、どちらの杖も★6の水晶の杖、と出てきた。表記に差異はなさそうなので、続いて<装飾品鑑定>をかける。

 ……なるほど、片方は中央部に白い濁りがあるから魔力伝導率が少し下がる、と。

 見た感じ、どっちの方が使い込まれている、とかも無さそうだし、単純に<宝石鑑定>か、その上位を持っているかの確認かな。

「こっちは水晶の中央部分に白い濁りがあって、魔力伝導率が下がる、と出ました」

「ふむ。<宝石鑑定>持ちだね。よろしい」

 トスカさんはあっさりと杖をしまい込んだ。それから、「どの宝石を使いたいんだい?」と問いかける。これに答えたのは僕ではなくてイオくんだった。

「これなんだが」

 とインベントリから取り出された紫水晶、★6。

 トスカさんはそれを受け取り、昨日のエルモさんのように角度を変えてじっくりと見る。


「惜しい大きさだ。もう少し大きけりゃ★7まで行っただろうに。だがまあ、ナツはまだ<上級魔法士>か。それならこれで十分だね」

 昨日のエルモさんと同じこと言ってるな。

「師匠、それ私が昨日すでに言ってるんですが」

「……馬鹿弟子、ミルクティーを淹れてきな。弱火でじっくりとね」

「それ厄介払いってやつですね師匠!?」

「厄介者の自覚があったとは驚きだよ。ほらとっとと行きな」

 げしっとエルモさんを蹴り飛ばすトスカさん。なんて遠慮のない師弟関係なんだろう。

 親子かな? と一瞬思ったけど、似てないし……付き合いが長いのかな。


「これは形を整えれば十分良い杖になる。ナツの杖は長短どっちだい?」

「短い方です。2人旅なので手数重視で」

「ふむ。他に売りたい水晶はあるかい?」

「それでしたらこの袋に」

 僕の杖1本さえ作れればそれでいいし、イオくんも特に必要ないから売れるなら売るってことで話はついている。採掘してきた所有者の意見に従うってことで。

 トスカさんは、袋から出した水晶を一つ一つきちんと見てから、紙にさらさらと何かメモを取った。それから「うーむ」と唸る。

「ナツは杖に何を求める? 爆発力か、成長性か、安定性か、それとも他の何かかい?」

 いやそんなこと聞かれても困る、ちゃんと魔法が発動できることと、イオくんに向いているヘイトを取り過ぎないことが最重要だ。その他の要素って、イオくんの剣で言うところのデバフとか追撃とかのこと?

 デバフはちょっといいなと思うけど、攻撃系のスキルは要らないしな……。

 

「あ、そっか。一番は耐久性です!」

 思いついた。

 そうそう、耐久度だよ。回復させるために修理に出すの面倒だよね!

「耐久か」

「攻撃面ではそれほど爆発力とかは無くていいんです。とにかく丈夫なのがいいですね。攻撃に何か付け加えるとしたら弱体とか……? あんまりこだわりはないですね、耐久程重視しません」

「ふむ。……ナツは幸運が高いかい?」

「エルフですからそれなりに」

「それならば、そうだねえ。ラタ様から言われているし、さっきの問題にもすぐに答えたからには……。無難なのはホワイトセージかブラックオーク……。んん、いや成長性……可能性が……」

 ぶつぶつと独り言をつぶやきつつ、紙にさらに書き足されたのは……何だろう、杖の設計図? みたいな感じかな?

「ヒバ……アガチス……いやここは……」

 なんの呪文だろうこれ。後でイオくんに聞こう。

 と、思った瞬間、トスカさんはがばりと顔を上げた。


「カリンで行こう!」

「カリン? 果物ですか?」

「違う! 木だよ、カリンの木。杖は木だろうが!」


 あっ、木材。

 そういえばヒバというのも木の名前だったね確か。

「良い色が出ているのがあってね、珍しいマギホワイトカリンの枝なんだが、ほんのり紫色の、あんたの髪みたいな色をしているんだ」

 薄紫色の木ってこと? なんか不思議な色合いだなーと思っていると、イオくんが横からずいっと顔を出す。

「それで行こう!」

 めっちゃきっぱり言い切るよこの人。お値段聞いてからにしてほしい。

「トスカさん、それ、お値段いくら?あんまり高いのは買えないよ」

「予算は!」

「1,000,000G、それ以上は無理だからね」

「むむ……いやしかし短杖なら……!」

 また何かガシガシ紙にメモを付け足すトスカさん。隣のイケメンはとても買う気満々でギルドカード(お財布)を用意している……。僕は無言でイオくんのギルドカードを抑えた。

 予算オーバー、ダメ、絶対。


「よし来たァ! これならどうだ! つけたい性能を2つばかり諦めたけどそこの水晶全部と1,000,000Gぴったり!」

 ばあん! とローテーブルにたたきつけられた紙。仕様書かこれ。

「拝見します!」

 とそれを受け取って目を通す。えーと魔力+10と……。

 んん? 成長性?? 持ち主の戦闘スタイルによって姿を変える可能性を秘めた杖……? 耐久値∞マークついてるんだけどこれ壊れないって意味??

「買いだぞナツ! 耐久値∞なだけでも価値がある!」

「おっ、分かってるじゃないか! 私ほどの技量ならこの杖にさらに能力を付けることもできたんだが、予算内でってんなら仕方ない! だが、これだけの性能でも十分だろう!?」

 なんかイオくんとトスカさんが盛り上がってるんだけど、確かにすごくいい杖だ。

 とにかく耐久が欲しいという僕の要望を最大限叶えてくれている。成長性って言うのはちょっとよくわかんないけど、何かしら今後、機能が追加されるかもってこと? ひょっとして幸運値聞いてたのってこれの為かー!


「ちなみに、削った能力って何ですか?」

「戦いが長引くほど相手の魔力値が低くなっていく『抑圧』と、自分に敵からのターゲットが向いたことを察知する『危険感知』だね」

「トスカさんってすごい杖作成師さんですね!?」

「そうだよ!」

 胸を張るトスカさん。

 削った能力も、もしついてたらすごく便利だったと思うし、本気ですごいな。でも今の時点で僕に使いこなせるかって言われると疑問だから、別に削ってよかったとも思う。

 僕に色々考えて攻撃するなんて芸当ができると思うな!


「じゃあこの杖でお願いします!」

「よし任せなァ!」


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― 新着の感想 ―
明らかに序盤に手に入れていい代物じゃないやつだこれ... お守りクエストから宝石鑑定まで本来かなり難しい分岐通って中盤以降手に入れられるやつだよこれ
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