4日目:喜ばれる手土産
ゲーム内4日目。
やっぱり寝て起きるのは一瞬なのにお腹が減ってるのって理不尽では? としつこく思いつつ、朝7時に起床。
リアルではちょうど3時間半くらいの時間経過だった。ゲーム内で今日が終わったら、また1回休憩を取るのが良さそうだ。前日にたっぷり寝だめしてるから、幸いにもまだ全然眠くない。
「ナツ、豚汁っぽいの食べるか?」
「食べるー!」
ということでギルドの休憩所で、今日の朝ご飯はおにぎりと豚汁。
なんかイオくんの中で味がいまいち足りないらしく、豚汁とは認められていない。あくまで、豚汁っぽい何か、らしい。
昨日は夕食後にお互い生産作業して、僕の<彫刻>レベルは無事にMAXになり、<上級彫刻>を取得した。<美術彫刻>も選べたけど、そっちは別に効果つかないっぽいのでいらない。家具とかを自力で作りたい人用の趣味スキルってことだね。
<上級彫刻>は<彫刻>に上書きなので、今まで通り【フリードロー】と【インスピレーション】は使える。ようやくお札を作れるようになったのと、お守りの作成スピードが速くなったよ。
そんなわけで昨日のうちに作った「生産成功率UPのお守り★4」を2つ、「頑健のお守り★4」を1つ、「身体保護のお守り★5」を4つ、イオくんには渡してある。これ、MPの量を多くすれば品質が上がると思ってたんだけど、【フリードロー】で作ったものはどうやら品質固定みたいだ。残念。
僕は自分用の「頑健のお守り」と「身体保護のお守り」を確保して、あとはお札を作ってみた。木材ではお世話になったので、キガラさんに進呈する用に、「商売繁盛のお札」を……★1を1枚、★2を3枚、★3を1枚と作ったところで疲れたので作業終了。
お札は1枚ごとにMPを50も消費するから、大量生産はちょっとしんどそうだ。
ちなみに、お札とお守りの違いなんだけど、大きさと枠線らしい。
お守りは10センチ四方以内の大きさでないとお守りと認識されない。僕が木材を小さく切っていたのもそのせいだ。で、それ以上の大きさになるとお札になって、図案に絶対に枠が必要になる。何かしら囲んでないとお札としての効力が発揮されないっぽい。
単純に大きくなる分、お札の方が作るのは疲れる感じだね。
で、お守りは個人がアクセサリとして持ち歩く用で、お札は家や店舗にセットするためのものなんだって。
試しに腰痛のお守りをお札バージョンで作れないかな? と思ったら、なんか複雑な模様の枠が追加されて、消費MPも100に増えてたので、一旦やめておいた。
豪華な飾り枠の中央に燦然と輝く棒人間……なんかいたたまれないよ。
そんなふうに僕がお札を作っている間に、イオくんは豚汁っぽいのを作り、親子丼もどきを作ってくれていたというわけ。
なぜ親子丼まで「もどき」なのかというと、日本酒が無かったからなんだって。
お米があるんだからあるだろ! とイオくんは思ってたみたいなんだけど、この世界のお酒は果実酒とワインがメインで、他のお酒はほぼ造られてないんだとか。可能性があるならナナミかサンガあたりかな? と調味料のお店の店員さんが言ってたらしい。
だから白ワインを使ったほんのり洋風な親子丼になった、とイオくんが昨日寝る前に悔しそうに話してくれた。僕は美味しければそれでいいけど、イオくんのこだわりについては今後何とかなるといいなと思うよ。
さて、それじゃあ南へレッツゴー!
「【パラライズ】!」
「ナイス、イオくん! 【ウィンドアロー】!」
誰ですかね、ロックタートルは物理に強いから魔法無双だとか言ったの……。いやまあ確かに物理に強いよこの敵。でもさっきからむしろイオくんが大活躍という罠。
ロックタートルは動きが遅いせいで、いつも使っていたイオくんが敵を釣って僕がウォール系魔法を使って突っ込ませる、って戦法が取れない。しかも攻撃を受けると甲羅に手足や頭を引っ込めて防御を固める習性持ち。ちまちま1匹ずつ釣って倒すしかないんだけど、そこで大活躍なのがイオくんが<上級盾術>で覚えた【パラライズ】ってアーツだ。
なんとこれ、宣言後10秒以内に盾で敵の攻撃を受け止めると、攻撃してきた敵に3秒間の麻痺を付与するという強アーツなのだ。耐性があるとかからないときもあるけど、ロックタートルは100%麻痺る。麻痺中は動けないので、甲羅の中に逃げられない。そこを攻撃することで楽に倒せる、と言うわけ。
「ドロップはまた頑丈な岩かあ」
固そうな亀が光になって消えると、経験値とドロップ品が入ってくる。さっきから5匹くらい倒したけど、ドロップは頑丈な岩オンリーだ。しかも1匹1個で固定っぽい。
「ギルド売値500Gだし、金額的には美味しくないな」
「うーん、バイトラビットはお守り落としたし、イビルドッグは魔石を落としたわけだから、何かしらレアドロップがあると思うんだけど」
「強いの選べば経験値はいい感じだし、もうちょい狩るか」
「そうだね」
レベル10前後のロックタートルと戦うのが、今の僕たちには適切っぽい。経験値効率は確かに良い敵だ。
「<感知>。……あの辺に一匹いるな」
「残念、プレイヤーです」
「またかー! <感知>早くレベルMAXになってくれ」
愚痴るイオくんの気持ちは分かる。基本スキルって性能が微妙なのも多いよね。イオくんの<感知>スキルレベル上げに付き合いつつ、僕も<識別感知>を使ってプレイヤーを避けていくわけだけど、敵を見つけてもそのレベル次第ではパスになるから、やっぱり人の多い狩場はあんまり効率が良くないね。
それでもロックタートルを倒し続けること1時間半、ゲーム内時刻が9時半を回るころ、ようやくロックタートルのレアドロップらしきものが出た。
「お、なんか違うのが出た。えーと、『土玉』……?」
岩以外が出たと思ったら土だった。インベントリから取り出してみると、どう見てもてっかてかの泥団子。よく磨かれておりますね……。
「<鑑定>、っと。……ロックタートルが稀に落とす栄養の詰まった土。畑に植えると土壌をよくする。品質★5。……よっしゃこれで<鑑定>レベルMAXだ、<敵鑑定>取る」
「お、やった。ありがとうイオくん。あとは<感知>だね」
「<感知>上げ辛いな? ナツどうやって上げたんだこれ」
「街中でも使えるんだよ<感知>」
「理解」
流石イオくん、理解が早い。
さて、それにしても栄養の詰まった土か。そんなの農家さんに回すしかないなあ。一応ギルドで売値聞いてみて、農家にって話になったらハンサさんのところかな?
「キリもいいし、一旦戻るか。レベル上がんなかったな」
イオくんがそんなことを言ったけど、僕は職業レベルが1上がっている。と言っても、イオくんに追いついたってだけの話なんだけど。ロックタートル狩りはなんとなく合わないなってことが分かったから、撤退については賛成だ。
僕たちだったら、やっぱりイオくんに釣ってもらってウォールに突っ込ませるのが一番楽だし。
何ならもう一回ツノチキン行ってもいいな、もうレベル上がったからそんなに怖くない。
「あ、ギルドの前にキガラさんとこに寄ろう! お札、せっかく作ったから渡しておきたい」
「OK」
と言うわけで、大した成果は得られないまま南門からイチヤに戻る。これから外に出ていくプレイヤーたちと何人かすれ違ったけど、すでに装備が変わってる人もちらほらいるね。
アナトラの初期装備は、職業によって統一だから、なんか制服っぽい。
一応、魔法士と召喚士だけが軽装+ローブで色違い。魔法士が若草色で、召喚士は紺色だ。
他の職業はみんな冒険服で色違い。軽装に比べるとベルトがしっかりしてたり、動きやすさ重視っぽく見える。剣士が黒、槍士が赤茶色、弓士が深緑色、拳士が青色。
イオくんは黒が似合うからいいけど、僕は髪色が薄紫だから若草色のローブはすごく、植物っぽいというか……。早く変えたいんだけど、はたして何色にすればいいのやら。
そんなことを考えている間に、キガラ住宅設備店に到着。9時から店は開いていた。
「おはようございまーす、キガラさんいますかー?」
と声をかけながら入店すると、店内で袋詰め作業をしていたキガラさんと、従業員さんらしきドワーフさんが2人。
「おう、ナツ。木材、思った以上に売れてるぞ」
と片手をあげたキガラさん、袋詰めを一旦中断して立ち上がると、腕をぐるぐる回して伸びをした。キガラさんは大柄だから、ちまちまと端材を袋詰めする作業はしんどそうだ。
「勧めた手前、売れてよかったです!」
これで売れなかったら申し訳ないからね!
ハンサさんのところにも行った話なんかをしつつ、インベントリから商売繁盛のお札★3を取り出す。ソルーダさん曰くこの世界で喜ばれる手土産だ。
「これ、作れたので持ってきました」
「お!」
差し出したお札を見て、キガラさんはぱっと顔を輝かせた。
「商売繁盛の札! 久しぶりに見たなあ!」
「良かったら差し上げますよー。これからも木材お願いします」
「わはは! 馬鹿野郎ちゃんと売りつけろ」
キガラさんが大きな手で僕の頭をわしゃわしゃ撫でて、店舗の中にひっそりとあった神棚みたいなところから、古いお札を取り出した。
それを「ほら」と手渡されたので見てみると、商売繁盛のお札の、僕が作ったのよりだいぶ線が綺麗に彫られているものだった。<鑑定>すると、すでに効力を失っている、品質★7と出てきた。
「すごい、★7だ!」
「だろ? 俺が店を構えるって時に、俺の爺さんがどっからか手に入れてきた最高級品だ。効果も3年は持ったからな、今となっちゃ手に入らない逸品ってやつだ」
「おおー」
★7になると3年も持つんだ! それはすごいなあ。今は★3で15%UPを1年だけど、僕もいつかこれを作れるようになるかな。
「札は★5から上を作るのは難しいぜ。お守りなら★7くらいまでは行けるかもしれんが。一定の技量がなきゃあな」
「技量かあ……」
なんかスキルレベルの話でもなさそうだなあ。
器用をあげて、スキルレベルも上がってて、その上でなにかプラスアルファが無いとってことなんだろうか。思えばまだゲーム開始して間もないんだし、そんなあっさり高品質を作れるようなバランスにはしてないかも。 お守りは基本スキルだし、高品質も作りやすい、とかかな。
ということは、発展スキルで品質が高いものを作るのは難しいはず。でも、他の要素ってなんだろう。
まさか、必要なのはリアルでの技術……だったりする……?
「どうしよう僕、★5より上作れる気がしない……!」
だって彫刻とかリアルでやったことないし!
割と深刻な顔で言ったつもりなんだけど、キガラさんはまたげらげら笑った。
「酸っぱいもん食った犬みてえな顔してんじゃねえよ! つーか、★5で十分だろうが。品質が良けりゃいいってもんでもないしな!」
だ、誰が犬かっ!
……いやでも確かに、お店で売ってる物の大半は品質★3~★4だし、★5って普通に良い物に当たるな。店売りよりちょっといい物ができたら、もうそれで充分な気がする。
「なるほど、無理して★6とか★7とか頑張らなくてもいい、のかな?」
「そんなのその道の職人が作るもんだぞ、トラベラーさんたちは旅人だろうがよ」
「それは確かに」
その道で生きている職人さんより、旅人が良い物作れるわけないか。そう言われちゃうと最もだなあ。
せっかく生産できるんだから、より良いものを作ろうってなるのは当然だと思ってたけど、よく考えるとこのゲーム、生産職に就けるわけじゃないもんね。職業は絶対に戦闘職で、生産はあくまでスキルが取れるだけだ。うん、納得。
「で、これ売ってくれるんだよな? 飾っていいか?」
僕が納得している間に、キガラさんは僕の作ったお札を飾っていいか? とかいいつつ返事も待たずに神棚のようなものに飾った。もともと差し入れのつもりで持ってきたやつだから、いいんだけど。
多分、家にもアクセサリ枠みたいなのがあって、そこに設置すると効力を発揮するようになってるのかな? 札をそこに置いた瞬間、ぱっと光るようなエフェクトがあって、効果が発動したのが分かった。
そしていつの間にか25,000Gが僕個人の財布に振り込まれている。そっとそれを共有財布に入れておいた。
「相場より高くない?」
確かギルドのお姉さんは★1つにつき5,000Gって言ってた気がするんだけど。首を傾げた僕の肩を、イオくんがポンと叩く。
「ナツ。売値と買値を一緒にするんじゃないぞ」
「くっ、なんかよく考えればそれもそうなこと言われた……っ!」
そうだね、ギルドは買取価格だもんね、実際店で売るってなったら上乗せはあるよね。




