27日目:たぬきはもふもふでかわいくて……タフ!
「【ウッドケージ】!」
「ナイス、ナツさん!」
「っしゃわかった! 如月、突属性のアーツ使わないようにしてくれ! それがきっかけで鳴くらしい!」
「了解です!」
「さすがイオくん頭いい! 天才か!」
「はいはい、それより戦闘! 3匹は辛えわ!」
最初のたぬきから数えて4匹目が出現してからしばし。あの耳障りな音をたぬきが発する条件を、イオくんが発見してくれた。なんか鳴いたり鳴かなかったりするから僕には全然わからなかったけど、どうやら物理属性の方に条件があったらしい。
それだと僕はわかんないもんなー! 何しろ物理系のスキル0だから。今後も取る気はない!
「っとに、HP減らねえ……!」
ガンガン剣アーツを使ってるのに、イオくんが相手取っているたぬきはなかなかしぶとい。1匹倒したあとは増えたたぬきを引き付けてくれてるんだけど、2匹目のHPは残り30%くらい。じわじわとしか減らない……いや、HPが増えたり減ったりしてる気がする……?
「イオくん、そいつリジェネ使ってるかも!」
「マジか!」
「げえ……!」
遊撃中の如月くんも嫌な顔をする。そりゃそうだろう、ほんとに頑丈だからね、このたぬき。攻撃はスローだから回避できることも多いし、そんなに痛くないんだけど、防御に隙がないというか。イオくんの攻撃もたまに防がれてる感じがする。
「敵のバフ剥がすようなアーツはないんだよなあ……!」
「こういう時こそ<原初の魔法>だろ! 頑張れナツ!」
「あ、それがあったか!」
むしろなんでそれに気づかないんだ僕。なんでイオくんのほうが使いこなせてる感あるんだ。ま、まあ良いでしょう! えーと、なんかバフを打ち消せそうな言葉……単語……!
「ひらめいた! 【平常】!」
これでどうだ! と敵に杖を向けると、結構ぐっとMP持っていかれた。でも、たぬきの体がぱっと光ったので多分成功……!
「オラッ!」
多分リジェネを解除できたたぬき相手に、イオくん得意の蹴りが入る。ダメージ量に注意して見てみると、確かにさっきまでよりHPの減りが早くなってた。よかった!
この呪文は使えそうだから覚えておこう。……あ、なんかたぬきの目が光った。これがリジェネの合図かな? 流石にすぐにかけ直しさせるわけにはいかないぞ。
「【妨害】!」
バリアのイメージで! 間に合うかわからないけど、とっさに叫んだ呪文はちゃんと効いたっぽい。敵の目の輝きはがシュッと消えて、えっ? って感じに焦った表情を見せるたぬき。くっ、敵なのにかわいい。倒すけど。
「ナイス!」
と口笛を吹いたイオくんが剣アーツを使うのと同時に、如月くんも背後からアーツを放ってようやく2匹目を沈めた。残り2匹……あれ? もしやさっきの【ウッドケージ】破られてないな!?
「こ、攻撃力を犠牲にして防御に極振りしてるタイプだ!」
「倒すのめんどい」
「手数! 手数で攻めましょう! ナツさんはリジェネ対処中心に!」
「了解!」
たぬきの攻撃力が低いお陰でイオくんも如月くんもHP減ってないし、ここはリジェネ対応に集中しても問題なさそう。バフは適宜かけ直すけど、魔法攻撃する必要はないかなあ。攻撃アーツ使った時と、魔法使った時と、ダメージ量そんなに変わらないんだよね。
うーん、それにしてもなんかこう、相手の防御力下げるデバフとかないかな。ただの【低下】だとイメージがうまくできないから無理そう。頑丈の逆だから……儚い感じの……えーっと、語彙力が来い! なんかぼんやり感じは浮かぶんだけど、あれなんて読むんだったっけ? なんとかじゃく……弱いと書いてじゃく……。
「思い出した! 【脆弱】でどうだ!」
これ読み方わかんなくて調べた記憶がある、思い出せてよかった! って、ちょっと待ってくださいめっちゃMP減るんだが。
「お、デバフか?」
「今の一撃だけめっちゃHP減りましたよナツさん!」
「えー、こんなにMP減ったのに一撃だけとは……! コスパ悪いなあ!」
僕は急いで尽きかけたMPをポーションで補充し、コスパ悪いけどもう1回チャレンジしようと杖を構えた。一撃分の効果しかないなら、なんかでかいアーツ打ってもらわないと。
「イオくん、さっきのもう一回やるから、なんかアーツお願い!」
「任せろ! 如月、ケージに入ってる方出てきたから頼む!」
「了解です!」
その前にリジェネを解除して……くっ、【平常】も結構MP食うんだよな。残りMP的には問題ないか。
「行くよー! 【脆弱】!」
たぬきよ! 君はもろくて弱いのだ! イオくんのパワーの前にひれ伏すがよろしい!
「【筋力強化】、【強撃】!」
思いっきり叩きつけられたイオくんの渾身の一撃! うわ、めっちゃ減った! 素晴らしいダメージ! あ、そっかただでさえ40超えの筋力に【パワーレイズ】が乗ってて、更に【筋力強化】で筋力が乗って、ってなると……どっちも筋力+5のはずだから、50超え。岩をも砕きそうだよイオくん。ムッキムキじゃん。
「……ナツこれ超気持ちいい! じゃんじゃん頼む!」
「MP的に無理!」
めっちゃ楽しそうにはしゃぐイオくんだけど、流石に連発はできないよこんなの。さっき飲んだばっかりだからMPポーション飲めないし、一旦静止して<瞑想>発動しておくか……。いざというときに回復魔法使えない魔法士なんて飛べない豚と同じなんだ……!
*
「終わったー!」
「お疲れ様です。結構時間かかりましたねー」
「お疲れ様ー!」
4匹のたぬきと戦っただけなのに、すでにめっちゃ疲労している僕達である。無理せずもう戻ったほうがいいかもなーってくらいの疲労度だ。
「たぬき、タフ過ぎ」
「あ、でも経験値いい感じですよ」
「ナツ、俺達職業レベル上がったぞ」
「えっ、やった!」
最近あんまりレベル上がらなくなってきたから、レベルアップはかなり嬉しい。プレイヤーレベルの方はまだもうちょっとかなあ。職業レベルは、その職業に対応するスキルのアーツを使うほど経験値が溜まりやすい仕様になっているので、本気でレベルを上げたかったらもっと戦闘しなきゃなんだけれども。
戦ってばっかりのゲームってすぐ飽きちゃうから、まったりやりたいな。
「えーと、職業レベル12か。次の転職20だったよね」
「まだ遠いな。お、器用上がった、ラッキー」
あ、いいなー。ヒューマンのランダム上昇も、欲しいところの数値が上がると嬉しいよね。僕はいつもどおり魔法防御と幸運が上がって、ついに幸運の数値が魔力と並んで47に。……ここまできたら50まで上げたくなるけど、まだPPは貯めよう。
「お2人共、レアドロップありました? 俺は鋼毛皮ってのが2つ落ちましたけど」
「俺もそれだな。3つ」
「個数違うのか。あ、僕の方に鋼毛皮2個とたぬきのお守りっていうのがあるよ」
「さすがナツさん、幸運の人」
「効果は?」
とりあえず興味津々の2人に見せるためにインベントリから引っ張り出してみると……あ、ハイ。これあれだ、うさぎのお守りと同じ系統のやつ。ふさふさのたぬき尻尾のキーホルダーみたいなのだ。
「もふもふ」
「ちょっと可愛すぎますね……」
「効果は?」
イオくんそれ二度目です。まあ効率厨のイオくんならば、効果が良ければ使うでしょう。<鑑定>っと。
「戦闘開始から2分間、防御力+10。微妙かなー」
「よし、それならいらない」
だよねー。イオくんは当たらなければどうということはないスタイル目指してるから、そもそも防御力そこまでいらないって感じだし。+10は大きいけど、戦闘開始から2分間のみってところが微妙。2分たったら自動で効果が切れるってことで、その2分間に攻撃を受けなかったらないのと同じだもんね。
せめて発動タイミングが選べたらまた違うんだろうけど……。
「如月くんいる?」
「え、いやちょっと……」
如月くんは可愛いもふもふのデザインが好きじゃない様子。うーむ、これは売り物にするしかないか。ギルドで売るよりはトラベラーに売った方が高く売れそうだけど……とりあえずインベントリに置いておこう。
ちょっと迷ったけど、夜の様子を見てみたかっただけで、強い敵と戦いたい! とかそういう気持はないので、僕達はそのままセーフエリアに戻ることにした。ゲーム内で徹夜しても問題はないんだけど、たぬき1匹倒すのにMPポーションを2・3本消費するのってちょっとなー。
ドロップ品もそんなに良いものではない……というか、この鋼毛皮って、防具用素材だけどうさぎの毛皮より安いらしいし、金策としてもイマイチ。そもそも1匹倒すのに時間かかるからね。
イオくんは物足りないなら戦ってきても良いよ、って促してみたけど、迷った上に「戻る」とのこと。
「もっと筋力を上げてから出直す」
「出た、力で何でも粉砕するイオくん」
「イオさんほんとに頭脳派なのに脳筋なのなんなんですか」
「力が正義だろうが!」
それ言われてしまうと力のない僕は悪になるので、ちょっと困るな。
「サンガで買った盾の耐久がな。あのたぬき受け止めやすい攻撃してくるけど盾へのダメージ結構あるから、あんま相手したくない」
「ああ、オーレンさんから買ったやつ」
「これ、使い勝手よくて気に入ってるんだ」
イオくんはもう一つ、かなり良さそうな盾をバル家からのお礼でもらってるんだけど、普段遣いは縦長の、腕に沿う形の盾にしている。そう、オーレンさんのお店「アイアンガード」で購入した盾だ。普段遣い用だけど、スマートな形で邪魔にならないのと、普通に殴るときについでに盾も当てられてダメージ上昇するので気に入っているらしい。
「耐久度もしかして数字上がってる? イチヤに回復できる装備屋さんあったっけ?」
「武具通りに行ってみるか。剣は鍛冶屋で盾と鎧は防具屋、杖の耐久は杖屋、ローブ系の布製品は服屋で行ける……んだったか」
「そうです。武器屋のアテがあるなら紹介してもらえませんか? 俺の双剣もサンガで回復してるんですけど、そろそろまずいんで」
「おう」
えーと、村長さんが言ってたっけ。上の職業の人に頼むと耐久の数字を0に戻せるって話だったかな。上級鍛冶師の上の職業を探すんだったよね。多分、他の防具とかの耐久回復にも同じように上の職業の人に頼んだほうがいいんだろう。
「ナツは? 装備とか」
「イオくん、お忘れかもしれませんが僕、ほとんど攻撃を受けてません。というわけでほぼ耐久値満タンのままです」
「靴は?」
「これも全然」
「お前安上がりだな……」
「コスパがいいって言って欲しい」
正直自分でもどうかなってくらいだよこれについては。まあ<隠伏>スキル上げしてるし、多分今後もほとんど攻撃受けないだろうから、当分この装備のまま行けそうだけど。それに僕の杖、ユーグくんはとてもえらいので耐久無限だし、正直僕が耐久値回復する機会この先あるかな? とか思っている。
「多分良い装備を揃えたら耐久って気にしなくていいんだろうけど」
「エクラからもらった手袋とか、耐久値の表示ないからな」
「あ、そういえば」
まああれは神獣さんからもらった特別なやつだし、壊れたらすごく悲しいので耐久無限なのはありがたいことです。
「……聞こうか迷ってたんですけど、その手袋ってまさかまたなんかすごいやつですか……?」
そっと問いかける如月くん。あれ、言ってなかったっけ? エクラさんは紹介したよね。そのときに……手袋については何も言ってなかったか。んー? 如月くんにどこまで話したか全然覚えてないぞ、フレンドメッセージで教えたこととかもあった気がするけど……。
「えっと、簡単に言うと魔法うまく使えるようになる手袋をエクラさんにもらったんだよね」
「おお」
「で、俺のが剣術全般うまく扱えるようになるグローブ」
「え?」
「エクラさんがえーと、料理のお礼に……? つまり料理人のイオくんへの正当報酬」
「ええ……?」
如月くんの視線は、イオくんのグローブに釘付けだ。魔法双剣士な如月くんだけど、どっちかというと剣士に比重を置いたビルドにしたいって言ってたから、そりゃ欲しがるならそっちだろう。鑑定許可もらって<鑑定>したあと、しみじみと息を吐く。
「……もうなんかイオさんも大概ですよね」
「だよねー」
「おい待て」




