26日目:ベストチョイス!
きらきらー!
にゃにゃーっと嬉しそうに声を上げたテトさん、てててーっと風のようにコレクターバードの巣穴の奥へと駆け抜けていく。……僕を背中に乗っけたままで。
コレクターバードに【停止】を唱え、エクラさんが何か呪文を唱えてぱーっと光を放ったかと思うと、僕達の視界には残り時間のタイマーがぱっと表示された。
「05:00」と最初に視界の真ん中に表示された時計が、しゅっと視界の右上に小さくなって移動する。そしてそのタイマーの数字が減り始めると同時に、イオくんが「走れ!」と叫んだ。5分以内に往復しないといけないので、もたもたしていると時間切れになってしまう。
「テト、乗せてー!」
いいよー!
僕も慌ててテトに飛び乗って、先を駆け抜けていくイオくんたちを追いかける。それにしてもタイマー表示は便利、こういうクエストをわかりやすくしてくれる機能はほんとに助かるね! 心のなかで運営さんに感謝しつつ、巣穴に駆け込んで……テトはそのまま奥に山のように積んであるきらきらの宝石に駆け寄ったのであった。
すごーい! きらきらー!
光り輝く貴金属の周辺を楽しそうにぴょいんぴょいんするテトさん。この子は本当にキラキラしているものが大好きだなあ。
「テト下ろしてー。さっき決めた通り、1人1個だけだからね」
むむむー。
「しっかり選んでね」
ぎんみするのー。
耳をぴんっと立てたテトは、ふんすっと意気込んできらきらの山と向き合った。そう、この巣穴に突入する前にエクラさんに言われたのだ、巣穴から持ち出せるのは1人1個まで、と。クエストの画面でも確認したけど、あまり沢山の宝物を巣穴から持ち出してしまうと、コレクターバードが近くの里を襲って宝物を補充しようとするらしい。つまりサンガか里が狙われるので、迷惑になるから1個までしか持ち出しちゃ駄目とのこと。
……これさー、思ったんだけど、今までコレクターバードに遭遇した人たちもそういうルールだったんじゃないかな。それなのに複数個持ち出そうとしたから、クエスト失敗になってコレクターバードに倒されたのでは? なんかそんな気がするなあ。
アナトラのクエストは日常会話とかにしれっと紛れて発生するし、数も多いからクエストを受けたときにいちいちお知らせが出ないように通知を切っている人が多い。僕達もそうしてるしね。
だから、コレクターバードのクエストが発生した時、きちんとクエスト画面を確認せずにチャレンジして、1人1個までっていう制限に引っかかって失敗したのでは。僕達もエクラさんを呼ばなかったら危なかった気がする。
まあ人のことはいいか。とにかく、僕は急いで1つだけ持ち出すものを選ばなきゃ。
コレクターバードの巣穴は僕の住んでいるワンルームマンションの倍くらいの広さがあって、あちこちに宝物の山が点在している。すべてをしっかり見ていくことは、制限時間的にできない。
外から見たときはここまで広いように見えなかったけど、空間魔法か何かで広げてるんだろうな。とりあえずざっと周辺を見渡して、<グッドラック>さんどこか気になるところありますかー? ……ふむふむ。このへんかな?
あー、どうしよう。気になるものが2つあったんだけど、どっちを持ち出すべきだろうか。両方は許されない……!
名刺大のきれいな青いガラス板みたいなのと、薄い色のついたレンズの木製フレーム眼鏡。どっちもめちゃくちゃ気になる……! <鑑定>は……巣穴ではできない……だと……!? くっ、こんな罠が! これ直感系スキルとか持ってない人たちは価値のあるものを選ぶのも難しいやつだ!
どうしよう、と2つを前にして悩んでいると、
「ナツ、そろそろタイムアップだぞ、残り50秒!」
とイオくんからの声が飛んだ。早いよ! 悩んでいる時間もない……! テトがてててっと走ってきて僕の横でぱっと伏せた。乗るよね? って感じのキラキラした眼差しで見上げてくるので早く乗らねば。
えーっと、えーっと、青いガラス板みたいなやつは、なんか大きな流れに通じてそうなやつで、メガネは単純にすごく便利って感じのもののような気がする……それなら青いガラス板のほうかなー? 何かしらのクエストに絡んでそうだし。
よし、これに決めた!
「テトおまたせ! 逃げよう!」
わかったー!
僕が多少もたつきながらテトの背に乗ると、テトは軽やかにトップスピードでびゅんっと風を切った。あ、これがスキルにあった<一気加速>か! クールタイムあるけど短時間加速できるっていうスキル、こういうときにまさにうってつけだね。ちょっとうちの猫多才が過ぎますね……なんてえらい。やはり家の子が最強なのだ。
安全圏で待っているエクラさんのところまで、途中でイオくんたちを抜き去ったテトが1位でゴール。イオくんと如月くんも制限時間内に滑り込んで、見つからずにセーフ! と安堵の僕である。
『おかえりなさい。1個だけは守れたかしら?』
エクラさんがふよふよと飛んできて僕の肩にとまる。するとテトが見上げながら「がんばってえらんだのー」とお返事していた。あの宝石の山の中から何を選んだのかなテトさんは。
「2つで迷って断腸の思いで1つに絞りました!」
と僕が正直に言うと、イオくんが
「俺は1つしか<直感>が反応しなかったな」
と続ける。最後に如月くんが、
「俺は何か偽造されているものがあったのでそれにしました。っていうか<鑑定>使えないとは思ってなかったです」
と締めくくる。
「ほんとそれだよねー」
「あれは驚いた。まあ、全員選べたなら良かったな。そこのセーフエリアに行って中身を確認しよう」
「賛成です」
テトきれいなのみつけたのー。みてー!
イオくんが仕切ってくれたので、僕達はぞろぞろと近くのセーフエリアへ。フィールド上に点在するセーフエリアは、一応<感知>系スキルを表示するミニマップ上に表示されるので毎回助かっている。間違ってコレクターバードが追いかけてきたら怖いので、ささっと駆け足でセーフエリアに駆け込んだ。
まあ僕はテトから降りなかったので、駆け足したのはテトだけれども。いつもありがとう。
みてみてー! テトこれにしたのー。しろいのー!
イオくんがテーブルセットをぱぱっと出してくれたので、真っ先に戦利品を見せてくれたのは、僕を背中から降ろしたテトさんだ。いつものように空間収納からちょいっと取り出して、自慢げにテーブルの上に乗せられたのは、直径1センチくらいありそうな大粒の真珠……真珠だよね?
一応<鑑定>っと。
「へー、深海に住んでる特殊な貝から取れる真珠なんだ? ディープパールっていうんだって」
ぱーるー?
「宝石の名前だよ。他の色の入ってない真っ白のディープパールは価値が高いんだって。リィフィさんが言ってたのとは違う種類なのかなあ」
かちー? まっしろですてきでしょー。
「うんとっても高価……素晴らしいね! テトは目利きだなあ! 大事にしまっとこうね!」
わかったのー!
ちょっとひえってなったのでイオくんに耳打ちしておこう。これやばいくらい高額だった。リィフィさんがお土産にほしいって言ってたボーンパールは杖用の素材で、真珠に似た魔物素材だからそこまで高価じゃないけど、このディープパールは正真正銘の宝石でお値段が段違い……。
「売るんですか?」
って如月くんも小声で聞いてきたけど、僕とイオくんは無言で首を振る。テトのものをどうするかを決めるのはテトなのです。
「テト白いの好きだからねえ……。イオくんはどれにしたの?」
「おう、俺のはこれだ。今<鑑定>したらなかなか良さそうなアイテムだったぞ」
さて、続いての戦利品はイオくんの差し出した……金属製の筒? あ、これ蓋か。ペットボトルよりちょっと小さいサイズの水筒だな、これ。
「あ、ほんとだ面白いですね」
と如月くんが言うので、僕も<鑑定>っと。
「液体を入れておくと、使っても無限に補充される魔道具? あ、水の魔石が使えるね」
へー、無限に補充ってことは、何か貴重な液体があったら増やすのに使えるかも? 相克魔力水とか、簡単に取りに行けないものを増やすのが良さそうだけど……。
「便利! 何を増やすの?」
「シチュー増えねえかなあ……」
「流石にそれは無理では……?」
無限シチューになったらテトは喜びそうだけど、具材は多分増えないし。シチューは確かに美味しいけど、それだけ食べてるわけにもいかないよ。
「あ、牛乳は? 増えたら料理に使えるよ」
「それだ」
「いやいやいやいや」
僕の提案にイオくんがぽんと手を叩いたけど、如月くんが顔の前で手を振っている。そんなまさかって顔である。
「普通もっと貴重なものを増やしませんか! 聖水とか!」
「あー、まあ無難だけど、聖水なら僕作れるからなあ……」
「でもほら、聖水ってグレードあるじゃないですか。一番いいやつとか増やせたらかなりお得ですよ」
「それはそう」
一番いい聖水っていったら、「破邪の聖水」か。たしかに、あれが沢山あるならどんな呪いも浄化できるから便利だ。
「聖水が増やせるかどうかやってみないとわからんしな。ナツ、今聖水のストックあるか?」
「ただの聖水なら4本あるよ。はい」
テトビタDも一応聖水だから、あれでもいいんだけど。一応普通の聖水も作ってるので、そっちをイオくんに渡してみる。イオくんはそれを水筒に入れようとして、「駄目だな」と残念そうに呟いた。
「魔力を含む液体は増やせないそうだ」
「それは残念だねえ」
「やっぱ牛乳だな」
うむ、料理用の牛乳を思う存分増やしていただきましょう!
イオくんが水筒に牛乳を入れている間に、次は僕かなーと思っていたところ、
「あ、ナツさんは最後でお願いします」
と如月くんに止められた。なんでー? って顔をしてみたけどいい笑顔を返される。あんまりすごいもの期待されたくないんだけど、如月くんは僕に対する信頼が厚いなあ。
「先に俺が選んだのはこれです」
如月くんがインベントリから取り出したのは、厚紙のケースに入った立派な本……あれ、<罠感知>が反応してる。何か隠されてる?
「気づいたと思いますけど、これ偽造されてるんです。本に見えるけど、中身を取り出すとこう、箱になってまして」
「おおー!」
一見本だけど、実はケースから出すと箱で、中身があるってことか。如月くんがその箱をぱこっと開くと、小瓶が3本入っている。中身はどれも見たことない粉だけど……<鑑定>すると。
「薬の材料なんだ? 如月くん用って感じ!」
「そうなんですよ。今の俺の<調薬>系スキルのレベルじゃ扱えないんですけどね」
どうやらかなり上位素材で品質も良いらしく、コツコツ生産スキルを上げないと扱えない素材らしい。そういうの聞くと僕も早く<細工>スキル出すために<金属加工>レベル上げないとなあって気持になるよ。
「それでどんな薬が作れるんだ?」
水筒をインベントリに入れたイオくんも興味深そうに会話に混ざってきた。僕と同じように<鑑定>をかけたけど、僕達は薬関係の派生鑑定持ってないから、曖昧な情報しか出てこないんだよね。
「こっちの淡い黄色の粉と、真ん中のキラキラした砂みたいなのが、身体再生薬の材料ですね」
「しんたいさいせいやく……?」
「簡単に言うと体の欠損や大きな傷跡なんかを治す薬です。最後のこの灰色のような微妙に青いような粉が、回病薬っていう病気を治す薬ですね。一応、どっちも<常備薬作成>の更に上のスキルで作れる住人用の薬なんですけど……まだ作れるようになるまではかなりかかります」
「おお!」
回病薬って、凄そうな薬だ! これが出来上がったら、もしかしてサームくんの心臓病もなんとかなるかも。生存フラグ来たんじゃないかなこれ!
「それで、ナツさんはどれにしたんですか?」
僕がサームくんのことを思い出してそわそわしていると、如月くんはテキパキと瓶をインベントリに戻した。僕の戦利品は、青いガラス板みたいなやつ。これ一体何なんだろうね、<グッドラック>さんがプッシュしてたやつだからいいものだと思うんだけど。
「僕のはこれ」
とインベントリから取り出して、最初に僕が<鑑定>をば。
……うん。
……うん?
「えっと……なんか絶対クエストのアイテム」
ブルーアクセスカード、という名前のついたそのアイテムの、<鑑定>結果はこちらです。
『ブルーアクセスカード 大いなる海原の王に捧ぐ道標』
……いや、わっかんない。なにこれ?