26日目:巨大な力に頼ってはいけない
いつも誤字報告ありがとうございます、助かってます。
ナツー!
うにゃーっと駆け寄ってきたテトが僕の周りをぐるぐる回っている。ぺちゃんこになってないかどうか確認されてるなこれ……テトさん僕は大丈夫だよー。と安心させるように撫でていると、その間に横でイオくんと如月くんが素早く掲示板を検索している。
僕がコレクターバードの名前を教えたので、どこか別の場所で攻略されてないか確認してくれているのだ。
「デカくて黒い鳥……あ、これか。別名門番」
「コレクターバード、いくつか目撃情報がありますね。どれもクエストに必要なものを取りに行ったら門番のように立ちふさがっていた、っていうやつです」
「なるほど門番……!」
名前からして、色々溜め込んでそうな鳥だもんねえ。やっぱり巣穴に何か良いものがあるんだろうな。あの巨体で宝物ちまちま運んでいると思うと妙に可愛く思えるから不思議。
「攻略法とか載ってる?」
「姿を見られるか、音を立てると見つかって即座に倒されるらしいぞ」
「魔力は感知してこないらしいです。ただ、魔法にもあんまり反応しないみたいで、おびき出すのは大変みたいですね」
「仲の良い住人に姿消しの魔道具を借りた、ってやつだけ成功報告してるな」
だけ……だけなんだ? じゃあ他の報告は全部失敗か、うーん、やっぱり難敵……!
正直<グッドラック>さんの反応的には、「行っといたほうがいいよ」くらいの弱反応なので、ものすごく僕達が助かる感じのものじゃない。それでもなんかいいものがあるならば、せめてその正体を確認するだけでもやっときたいわけで。そして正体を確認するなら、ついでに拾っときたいに決まっているのである。
「んー、【ウッドケージ】で閉じ込められたりしないかな」
「レベル差あるし、流石に無理だろ」
「魔法には弱そうなんですけどね……」
うーん、魔法に弱いなら僕がなんとかできないかなあ。レベル差がえぐいからそう簡単にはいかないだろうけど、とにかく姿を隠せればいいわけで……でも<原初の魔法>で全員に【屈折】使っても40秒だし、40秒だと音立てないようにあの巣まではたどり着けないんだよね。音に反応しないならチャンスあるんだけどなー。
僕達が3人で顔を突き合わせてむむむっと唸っていると、僕の右側に陣取ったテトが「ねーねー」と僕の足をぽすぽすした。ものすごくソフトタッチだ、気遣いのできる猫えらい。
ナツー、エクラはー?
「うん? エクラさん?」
つよいのー。とりさんもぺちってしてくれるのー。
「テトさん、巨大な力に依存してしまうと、自分で何にもできない子になってしまうんだよ……」
むむー。テトいろいろできるもん、ナツほめてくれるでしょー?
「くっ、そこに気づくとはさすが家の猫賢い……!」
えへへー。
にゃっふーと得意げな顔をするテトである。まあテトさんは良い子なので、なんにもできない子になったりしないけれども。でも神獣さんの強さに頼り切るのはいかがなものか……と思う僕に、イオくんが「いや、それいいかもしれん」と呟く。
「エクラにどうにかしてもらうというより、エクラならあの鳥の対策を知ってるかもしれないぞ」
「あ、なるほど」
僕達があくまで対処するとして、そのヒントを貰えるかもってことか。それなら確かに頼りすぎではない……かな? その前に、呼んだらすぐ来てくれるんだろうか。えーと、エクラさんの像をインベントリから取り出して、と。
「行きます!」
魔力を込める! いらっしゃいエクラさん!
ふわーっと光が像を覆って、エクラさんの像はそのまますぐにぱたぱたと羽を動かし、宙に浮かび上がる。おお、本当に魔力を込めてすぐに動き出したな、すごい。これってもうエクラさんの意識こっちにあるんだろうか。
「エクラさん、こんにちは!」
試しに声を掛けてみると、ぱちっと瞬きをしたエクラさんがすいっと僕の方に顔を向けた。
『はい、こんにちは。あら、どこかへ遊びに行くのかしら』
「おお……! すごい、魔力を流すとエクラさんにはすぐわかるんですか?」
『ふふふ。あらかじめ、この像に意識の一部を紐づけているの。いつ呼ばれても大丈夫よ』
「高度な技術だった……!」
エクラさんの魔法なのかリゲルさんの魔法なのかわかんないけど、僕ではまだたどり着けない領域のやつだ。魔力を流せばいつでもエクラさんを呼べることは実証されたね。
エクラー! いらっしゃーい!
と大歓迎モードのテトがじゃれ付き、そんなテトを軽く諌めつつ、イオくんが素早く現状を説明。相変わらず有能な親友、えらいと思います。
「……というわけでこれから火山に住むという火竜に会いに行く予定なんだ」
『まあまあ、火竜というとプロクスね。あの御仁は穏やかで私も好きよ、たしか、少し前に番を見つけたと聞いたのだけれど』
「つがい?」
お嫁さんがいるのかな。やっぱり、お嫁さんも竜?
『竜種に性別はないわ。ただ、顔を合わせたときにお互いに一緒に生きていきたいと感じるような、運命の相手がいるのですって。そういった相手を番と呼んで、出会ったらずっと一緒にいるのだそうよ』
「あ、そういえば本で読んだかも……!」
番がいるよってところはさらっと書かれてただけだったけど、竜種に性別がないってのは書いてあった。じゃあどうやって子どもを作るのかなと思ったら、魔力の濃度が濃いところに卵が自然発生するんだって。それで、契約獣の卵みたいに自然から少しずつ魔力を取り込んでいって、長い時間をかけて孵る。だから、竜には親がいないって書いてあった。
「確か、卵が取り込んだ魔力の種類や周辺環境によって、どんな竜になるか決まるんですよね。水源近くは特に竜の卵が発生しやすいから、水竜さんが群れになることが多いって本に書いてありました」
「あ、俺も本読みました! 確か、火山も卵が発生しやすいところですよね」
そうそう、如月くんに渡した聖獣さんの本に載ってたんだよね。サームくんにもらったあの本、こんなところで情報が活用されるとは。
『確かに火山も卵が発生しやすい場所だけれど、活発な火山であれば、なのよ。長く噴火していない火山だと、なかなか卵が発生するほどの魔力溜まりはつくられないわ』
「そうなんですね」
それは残念。小さい竜って絶対かわいいだろうし、ちょっと見てみたかったな。……あわよくばイオくんの相棒にとか思ったけど流石に無理か。契約獣にも竜タイプがいるらしいんだけど、そもそもレアだし、戦える方の契約獣だから召喚士さんしか触れ合えない。
掲示板に「レア契約獣ゲットー!」と書き込んでいた召喚士さんがいうには、プライドが高いのでなかなか信頼関係を築くのが大変らしい。で、住人さんには大きさで聖獣さんとは区別されているんだって。
「おい、話が脱線してるぞ。……火山に向かっている最中に、コレクターバードという鳥を見つけてな。ナツがその巣穴に気になるものがあるって言うから、確認したいんだ」
『あらまあ』
「ナツが気になると言ったからには何かしら良いものだろう」
『そういうことなのね。……ああ、ここに目隠しの魔法があるわ』
エクラさんはさくっとコレクターバードの巣の位置を指摘した。さすがエクラさん、と思っていたら、「ナツにも見つけられるわよ」と指摘されてしまった。あ、魔力視か、なるほど。試しに使ってみると……おお、なんかオーロラっぽいきれいな膜が見える。夜空みたいなきらきらが混じった黒い膜だ。
「おお、すごい。これ目隠しの魔法なんですか?」
『そうね。闇魔法を使っていくと、ナツもそのうち使えるようになると思うわ』
「がんばります! でも流石に、まだ僕達のレベルだとコレクターバードと戦えないので、なんとかして巣穴に忍び込めないかなと思ってるんです」
レベル差がありすぎるとさすがのイオくんでもノーチャンスだよ。いやまあ本人は瞬殺されてもいいから一回殴り込みたい気持ちはあるだろうけど。でも今ここで死ぬと、イオくんだけ湯の里に戻っちゃうし、流石にそんな効率の悪いことはやらないだろう。
エクラつよいのー。とりさんぺちってしてー。
にゃっ、と前足で地面をペチペチするテトさんを微笑ましく見つめて、エクラさんはゆるく首を振った。
『私が攻撃したら森が吹き飛んでしまうわ』
にゃっ!?
「テト、森が吹っ飛んだら美味しいものも収穫できなくなっちゃうよ」
それはだめなのー!!
にゃにゃーっと焦ったように叫んだテトさんである。そうそう、食材の保護のためにもエクラさんの攻撃に頼ってはだめだということだ。これが巨大な力に頼るということ……両刃なのである。
イオー! がんばってもりのおいしいのほごしてー!
と必死になってイオくんに訴えているけど、流石に全部を保護するのはイオくんでも無理だよ。ということでエクラさんに攻撃してもらうのはやめようねー。
『あの鳥、たしか視覚と聴覚がとても鋭いの。でも魔法には強くないから、上級以上の魔法ならよく効くわ。<時魔法>があれば停止させられるわよ』
「ときまほう……?」
『まだ持ってないのね。じゃあ、ちょっとナツの使えるスキルを見せて頂戴』
エクラさんのつぶらな瞳がキラリと光る。今多分<鑑定>っぽいものを使ったのかな。エクラさんになら僕のスキルを知られても困らないのでどうぞどうぞ! とウェルカムな気持ちでいたら、すぐに分析が終わったようだ。
『<原初の魔法>が良いわね、これなら効果があると思うわ。本当ならもう一つ上の、<原初の魔術>だったらもっと良かったのだけれど』
さらっと重要情報を出された。魔法の上が魔術なんだ? なんで? って思ってたらエクラさんが普通に説明してくれる。魔法士が魔法を熟し、一人前と認められると魔術士と呼ばれるようになるんだって。魔法士のうちはまだ修行中、って感じに区別しているらしい。
こういう単語の使い分けはゲームによって違うから、他のとごちゃごちゃにしないようにしておかないと。過去やってたゲーム、例えば思い出深いフロ戦では「魔法」と「魔術」が完全に別のものだったっけ。確か魔術はアナトラで言うところの魔法陣魔法みたいな……文字を使うのが魔術だったんだよね。
アナトラでは、修行中が「魔法」で一人前が「魔術」。覚えました。
「でもエクラさん、<原初の魔法>は40秒くらいしか効果が持たないですよ。どうやって視力と聴力を誤魔化せばいいのか……」
『ナツだけでは無理ね。でも、私がちょっとだけ助けてあげられるわ』
おお、頼もしい言葉! エクラさんほどの神獣さんが協力してくれるとあれば、成功させないわけにはいかないね。
『じゃあ、ナツも考えて頂戴。私がしてあげることは、ナツが使った<原初の魔法>の効果時間を5分に伸ばしてあげることだけよ。ナツは巣穴を5分間で捜索して戻って来るの、それができる呪文を考えてみてちょうだい』
「5分……」
「5分あれば十分か。ここから巣穴まで往復1分と考えて4分で捜索」
「3人いればなんとかなりそうですね」
うんうんと頷いている如月くんとイオくん。まあ何か隠されているならば<罠感知>が反応しそうだし、僕の<グッドラック>やイオくんの<直感>も仕事できると思う。如月くんは<直感>派生スキルの<看破>があるんだ? じゃあ3人で探すとして……。
「5分……僕達を消すんじゃなくて、コレクターバードの時間を止めるのが良いよね」
テトがサンガの北にある砦で見つけた子どもたちみたいに、時間停止は魔法で実現可能な現象だ。ということはあれをイメージして……。
「じゃあエクラさん、今からあの鳥に向かって【停止】を唱えるので、効果時間延長お願いします!」