26日目:光はきれいで便利なのである。
これねー、ナツがつくってくれたのー。むらさきいろでとってもすてきー。
「少し存在感が薄くなる? 斥候職には人気出そうですね」
こっちはねー、きらきらー。きらきらほしいっていったらナツがえいってつくってくれたのー。いちばんおきにいりなんだよー。
「おお、暗闇で光る……。うまくアクセサリーにできたら住人の子どもとかにも良さそうですね」
ナツはきらきらしょくにんなのー!
にゃー! っと高らかに鳴いたテトさん、とっても誇らしげである。こんなふうに得意に思ってくれるなら契約主としても嬉しいなあ。まあ、如月くんにはテトの言葉伝わってないので、なんか会話できてるように聞こえても、そう聞こえるだけなんだけどね。
10時のおやつがてら、セーフティーエリアでテトが如月くんに宝箱を自慢しているのである。ここに来るまでに魔法石の作り方とかの話はしておいたんだけど、テトがずっと「テトもってるー! もってるのー!」と見せたがっていたのだ。
テトに甘いイオくんが「10時になったら休憩するか」と言い出すの、めっちゃ早かった。まあそんなわけで福利厚生の休憩タイムだ。
テトが得意げに見せてくれた魔法石をじっくり見つめたあと、如月くんは感心したように息を吐いた。
「ぱっと見ただけでは宝石と見分けつかないっすね。魔石は見た目は宝石に似てますけどキラキラしてないし、中身空にして魔法を詰めることで初めてこんなふうに輝くって思うと、面白いです」
「ねー! これ作った後、まだ余ってる空の魔石があったら回してもらおうと思ってたんだけど、色々あってすっかり忘れてたよ」
「ナツさん<細工>とりたいって言ってませんでしたっけ?」
「もう少しで取れるはず……!」
僕と如月くんがそんな話をしている間に、テトはイオくんにクッキーもらってご機嫌だ。多分テトの好きな言葉を聞いたら1位が「ごはん」2位が「おやつ」に違いないね。3位が「きらきら」かな?
「如月くんは<上級調薬>派生のスキルとか取ってる?」
「俺は<常備薬作成>を取りました。住人さん向けの薬を作れるスキルなんですけど、これが売れるんですよ。頭痛薬とか解熱剤とか、湿布とかも作れるんです」
「へえ!」
面白いなーと思って詳しく聞いてみると、<上級調薬>のレベル10で派生するスキルは2つあるらしい。<毒調合>と<常備薬作成>だ。
<毒調合>の方は、しびれ薬や弱毒などの毒薬を作るスキル。何に使うの? って思いがちだけど、主な用途は弓の矢じりに塗ることなんだって。剣に塗ることもできるけど、耐久値を結構減らしてしまうから、あんまり良くない。ある程度使ったら壊れてしまう投擲武器や、矢じりに使うのがベストなんだそう。
毒を塗った武器は、敵に対してスリップダメージや怯み・痺れなどのデバフをつけることがある。決まるとなかなか強そうだ。
で、如月くんが取得した<常備薬作成>は、住人用の薬を作るスキル。トラベラーは戦闘で怪我をすることがあっても、病気にかかることは基本的にない。だからトラベラーには全く必要ないスキルなんだけど、住人さんにはとても喜ばれるとのこと。
「ナツさんのお守りみたいなもんですね。品質が多少低くても喜んでくれるんで、手土産用にめっちゃいいですよ」
「そうなんだ。今はどんなのが作れるの?」
「頭痛薬、解熱剤、湿布に目薬ですね。基本スキルなんで、発展スキルに届いたらまた色々作れるものが増えそうです」
「クエスト沢山ありそう」
「結構ありました!」
サンガではなかなか稼げたらしいし、里でも湿布がすごく喜ばれたという話だ。<調薬>も面白そうだねえ。
「ただ、<調薬>系のスキルは消耗品しか作れないのがネックというか。生産してる感があんまりないんですよね。装備品やアクセサリが作れたら、自分で作ったものを装備できていいなーと思います」
「あー、確かに装備できるもの作れるといいよね」
お守りも一応装備できるし、作った感あるよね。でも如月くんはSPカツカツだから、新たに生産スキルを取る余裕はなさそうだ。
それから少し甘いものを食べつつ珈琲を飲んだりして休憩を取り、テトが宝箱を影に戻して移動を再開した。
テトは自分のお気に入りを自慢できて嬉しそうで、足取りがぴょんぴょんと弾んでいる。<隠伏>はいつの間にかレベルが上がっていて、テトと僕は前衛二人の後ろで高みの見物をしているだけで良いという……そ、存在意義……!
いやいや、僕の今日の仕事は【サンドウォーク】と<グッドラック>……! どうですか<グッドラック>さん、どこかになんか良いものありませんか……! 周辺を注意深く見渡しながら進んでいくと、先頭を歩いていたイオくんがぴたりと足を止めた。
「お、これか」
「何か見つけたー?」
「ホットポテト。たぶんこの蔓がそうだと思う」
「収穫お願いします!」
「任せろ」
ビワさんの話にあった、ちょっと辛い芋だ。ポテトグラタンにしてほしい……薄くスライスしてピザに載せるのも美味しそうだな! まあどんな料理になろうが、イオくんなら美味しく作ってくれることでしょう……偉大な料理人だからね!
ぽてとー?
「これはちょっと辛いのだからテトは食べないかもだねえ」
からいのはいらなーい。
「甘いのもあるといいねえ」
イオおいしいのたくさんしってるから、きっとおいしいのみつけてくれるのー。
「イオくんはできる男だからね……!」
テトさんのイオくんへの評価高いなー。まあイオくんなので当然だね! できることの多い優秀なイケメンなので、テトもいっぱい褒めると良いよ!
如月くんが周辺を警戒してくれている間に、イオくんはテキパキとホットポテトを収穫した。芋類は切って地面に埋めるとそこから新しく芽がでるんだって。野菜の育て方とかよく知ってるなあと感心していると、「ベランダで育てたいんだよなー」とか言い出すこの友人。もしやあの部屋のベランダで家庭菜園やる気なのか……ミニトマトをリクエストしましょう!
「よし、10個くらい収穫できたぞー」
「やったー!」
「ぜひ昼に食べましょう!」
おひるごはーん♪
「食い物の話になると急に元気になるな、全員」
イオくんはちょっと呆れた顔をしたけど気にしたら負けなのだ。どんな味がするか楽しみだねー。
歩きながら、レッドチリチェリーを根っこから引っこ抜いて収穫したり、追加のホットポテトを収穫したりしつつ、順調に火山に向けて進む。
はこぶー! テトはこぶのー!
とテトがイオくんにまとわりついておねだりしたので、レッドチリチェリーはテトの空間収納に収容されました。テトはとっても満足そうだけど、イオくんはやっぱり苦笑してたよ。
おしごともらったのー♪
「よかったねー。さすがテト、仕事のできる猫! えらい!」
僕が思いっきり褒めて撫でてあげると、テトはにゃふっとますます満足そうに喉を鳴らした。ご満悦って感じだね。お仕事の歌を歌いながら歩く巨大白猫……目立ちそうなものなんだけど、僕の<隠伏>と、おそらく空間魔法の何かの呪文を使っているのか、本当に敵に見つからない。忍べる猫なのである。
ここらへんは巨大な蜂っぽい魔物が出てくるんだけど……一撃は重そうだけど、動きが遅いので、俊敏がある程度高いイオくんと如月くんにとっては楽な相手っぽい。僕の出番はやっぱり全くなかった。
そんなわけですごすごと2人の後ろをついていく僕とテトなんだけど……。
「ん? テト、ストップ」
はーい。
……今、なんか反応したな。テトに止まってもらって周辺をよく見渡してみる。僕達が止まったことに気づいた如月くんとイオくんも少し前で立ち止まって、「どうした?」と問いかけてくるんだけど、それに答える前に違和感の正体は発見できた。
「イオくん、こっち<罠感知>反応する」
「マジか。……うわ、すげえ反応小さい。よく見つけたな」
「先に<グッドラック>が引っかかったと思うんだよね、これ」
ほんの僅かな<罠感知>の反応が拾えたのは、森の中の茂みの部分だ。無数にある木々の隙間を隠すような配置で、よほどうまく隠しているのか、目を凝らしても肉眼ではなにも違和感を拾えない。先に反応したのは<グッドラック>さんなんだけど、いつもはイケイケGOGOな感じのこのスキルがひしひしと僕に慎重な行動を促してくるんだよね。
「なんかありそうなんだけど、ばーんと行ったらヤバそう」
「そこの茂みの奥か」
「さすがナツさん、なんか見つけることに定評がある」
如月くんそれは買いかぶりというものだよ……! まあでも褒められたのは嬉しいのでちょっとドヤ顔しときますね。
「うーん、ここは<隠伏>持ちの僕がちょっと探ってくるね」
「待て、俊敏10」
「……装備を入れれば15です!」
「あんまり変わんねえんだよなあ。他になんか身を隠せる魔法なかったか? <闇魔法>とかに」
「あったっけそんなの……?」
あ、もしかして【シャドウ】のことかな。これは確かにMP消費で対象を隠す魔法ではあるんだけど、人を一人隠そうと思ったらMP1000くらい必要だから今は使えないと思う。まあ確かにレベル2の<隠伏>だけでは僕もちょっと不安だけど……。
「……こういう時こそ<原初の魔法>! <原初の呪文>のときから10秒くらい効果時間伸びてるし、えーと、見つかりにくい感じの単語……」
認識阻害……4文字だから駄目です。えーと、なんだろうな敵から隠れる……隠密とか? ……だめだ忍者のイメージしか湧いてこない。<原初の魔法>はイメージこそすべてのところがあるから、いい感じにイメージできるような単語じゃないと……。
えーと、あ、あれだ! 中学校のとき理科の実験でやったじゃん、光の屈折の実験。
机の上に10円玉を置いて、ガラスのコップをその上に置いて、水を入れると……10円玉が見えなくなる! ってやつ。原理はよくわかんなかったけど、あの実験不思議でめっちゃ印象に残ってる。ということは、あれをイメージして……。
「僕は10円玉!」
「おい急に何を言い出す」
「そして僕の上には水を入れたコップがある、というイメージで……【屈折】!」
本来はもっと色々複雑な理屈があるんだけど、僕は現象しか覚えてないのでもう視覚イメージでやるしかない。でも割とうまく行ったようで、如月くんが「消えた!」と叫んだ。
「消えた? 今見えてない?」
「俺からは見えないです。イオさんは?」
「姿は見えないな」
ナツのまりょくあるよー。ここー!
テトはなんか遊びだと思ったようで、僕の足にタッチした。あたったー♪ と楽しそうにしている。こういう時でも、魔力見えると位置バレちゃうのかあ。まあ、今回は多分、視覚的に消えてれば大丈夫な気がする。
しばらくすると僕の姿はもとに戻ったらしく、如月くんが「あ、戻ってきた」と教えてくれたので、だいたい40秒くらいかなー? ちょっと茂みの向こうを覗くだけなら行けそうだね。
「テト、僕あっち見てくるからイオくんのところにいてね」
とテトに言い聞かせて……じゃないと僕のこと守るーとかいってついてきちゃうので……イオくんテトおさえといて! よろしく!
やだー! ナツといっしょー!
じたばたしているテトさんは可愛いけど、なんかヤバそうなので連れては行けないのだ。そして暴れるテトの首根っこをぎゅっと掴んで微動だにしないイオくん、さすが筋力46の男。頼れるね!
さて、改めて【屈折】を唱えて……。
そーっと茂みの奥を覗き込むと、そこにいたのは巨大な黒い鳥だ。でっか、と思わず口にしそうになったけど、ぐっと堪える。えーと<鑑定>行ける? ヒエッ、こっち見た! うおおおおレベル32の1進化……瞬殺されるレベルの敵じゃん……。
リアルで言うとゾウくらいの大きさはありそうなでっかい鳥。黒いからカラスかなと思ったけど、よく見るとこのシルエットはペリカンっぽい? ペリカンって喉のところ膨らんで色々入れられるって言うじゃん。あの特徴がこの鳥にもある。名前はコレクターバード……収集家とはなんだか絶妙な名前だなあ。でも強い、確実に強いよ、この鳥。
ただ、僕の<グッドラック>が反応したのはこの鳥そのものではない。
この鳥がねぐらにしているのであろう、後ろの木のウロだ。葉っぱみたいなのを敷き詰めているその洞穴に、絶対になにか、見逃しては行けないものがありそう。
僕はそーっと茂みから離れて、慎重に下がる。そうするとあの巨大な姿が見えなくなる、ってことは……姿隠しの魔法でも使っているのかな。
そのままイオくんたちの近くへ戻る直前に、<原初の魔法>も効果切れだ。
勝てそうもない敵相手に、戦闘するという選択肢はない。ということは、隠れて近づく? それとも、どこかにおびき出すとかかな……。とりあえずイオくんと如月くんに伝えるべきことは一つだ。
「奥にお宝があるけど屈強な門番がいる!」
「RPGのお約束か」




