26日目:火山へ向かおう!
契約獣のスキル選択や進化は、契約主への好感度でかなり違ってくるらしい。
契約主への!
好感度!!
「わかりますかイオくん! テトのこのすばらしいスキル、これ僕のために選んでくれたってことですよ! 僕の!! ために!!」
「落ち着け?」
リアルで長い休憩を挟んだ午後9時からの再ログイン。イオくんに美味しいステーキをごちそうになったので元気MAXな僕である。ケーキは基本のイチゴタルト、大変美味でございました!
ごちそうになった後に急いで家に帰って寝る準備をして、アナトラ世界で目覚めたわけなんだけど、テトが僕にぴとーっと寄り添って寝てたのでついゲーム内前日の感動がぐわっときたのである。
「そもそも契約獣のスキル選択について、掲示板で調べたのは俺だし」
「イオくん検索が上手い! さすが!」
「微妙なことまで褒めやがる」
そうそう、前日はテトの新しいスキルでみんな大盛り上がりしたんだよね。何しろ幸運をブーストするようなスキルって少ない……というか現状ほぼないらしくて。俊敏とか魔力とかは、ナントカ強化ってスキルで一時的に上げる方法はあるんだけど、<幸運強化>だけは存在しないから。
そもそも幸運は、一時的にステータス上げたところでどうにもならないし。他のは一時的な能力強化でも結構使いどころがある。絶対生産で失敗したくないときに<器用強化>とか、強い魔法攻撃が来る直前に<魔法防御強化>とかね。
幸運強化するタイミングなんて、ぱっと思いつくのはダンジョンで宝箱開ける時だけかなあ。それにしたってどのくらい効果があるのかは未知数という……。
僕の<グッドラック>さんも、効果はレアドロップ率UP、レア遭遇率UP、レアイベント発生率UPなので、幸運のステータスを上げるものではないのだ。
そんなわけでかなり珍しい事例として、如月くんが掲示板にまとめて報告してくれた。僕はお任せです、掲示板って書き込むの苦手なんだよね。割とハイテンションで夕飯食べながら掲示板に投下してもらって、その後は村長さんの家に戻って生産して、テトを褒めながら就寝したというわけだ。
あ、そう言えば<金属加工>がレベル8まで上がって【トライアングル】という、金属を三角形に加工するスキルが出たよ。後2レベル上がれば<細工>が取得可能になるので、ちょっと頑張りたい。
まあそれは置いておくとして、テトがとてもえらいってことを昨日再確認したのである。
「イオくんえらいテトに美味しいものあげて!」
「よし、えらいテトにはマロングラッセをやろう」
やったー! マローングーラッセー♪
テトさんは朝から大好物を出してもらえてにっこにこである。このご機嫌ならば、今日の僕は幸運値がだいぶあがっていることでしょう!
まあ、テトのスキルの説明を読むと、どのくらい上がるのかはよくわからないんだけど。具体的な数値とか書いてないし、そもそも今効果中かどうかもわからない。一応ステータスを確認してみたけど、バフの効果とかはついていなかった。
契約獣スキルはそんなふうに、プレイヤーに具体的な数字とかを知らせないものが多いらしい。
「今日は火山へ出発でいいのかな? 如月くんにはログインしたってメッセージ送っておいたよ」
「おう、そのつもりでいたしな。俺達がログアウトしてる間にギルドができたかどうかだけ確認したい」
「アサギくんがギルド出来てるぞーってメッセージ入れてくれてるよ」
「お、やった。じゃあ如月ともギルドで待ち合わせで」
「OK」
転移装置への登録は大事だからね! 万が一死に戻りする時にも選べるし、そのうちセーフゾーンから転移装置へ飛べるようになるとかいう話が掲示板で出ているのだ。なお条件は書けない仕様……でも、おおよその予測はあるんだよね。
地図の踏破率が一定数超えたらじゃないかなー? って、検証班が書き込んでて、多分これだろうって意見が多い。僕とイオくんの地図踏破率はまだ13%しかないので、ちょっと先は長そう。
ナツきょうのってくー?
「お世話になります」
おせわするのー♪
フィールドに出るイコール僕がテトに乗る! と思っているテトさんは、ご機嫌に喉を鳴らした。ナツとおさんぽー♪ と歌ってるけど、おさんぽ……かな? まあ<隠伏>のスキル上げのためにもなるべくタゲをとらずにお散歩状態を維持したいところだよ。
イオくんと如月くんが一緒なら問題なさそうだな。
村長宅で朝食を終えて、村長さんに火山に出かけてきますので数日戻りませんと伝えてから、庭のリュビとサフィにも挨拶。
「火山に行ってくるね、火竜さんがいるかもしれないっていうから」
「ぴ!(火竜!)」
「ぴぴっ!(かっこいい!)」
「ねー、絶対かっこいいよね。ご挨拶だけしたいなと思って」
「ぴっ(推奨)」
「ぴー。ぴぴぴ(テト連れてけば大丈夫。テトは赤炎鳥の加護と青炎鳥の羽を持ってるから)」
「ぴ(安全)」
2匹のひよこさんたちは、そんな感じで快く送り出してくれた。テトがいれば安全ってことかー、やっぱり家のテトって素晴らしいな!契約主としては鼻が高いです。
ふふんとドヤ顔する僕を呆れたように押して、イオくんがとっとと行くぞー、と言うので、ギルド前広場まで向かう。途中、炊事場に差し掛かると、トラベラーたちの姿が何人か確認できた。
僕たちがログアウトしている間に数日経過しているはずだから、その間にサンガから来た人たちが多いってことだね。……あ、モモカさんだ! トラベラーの女性にかまどの使い方を教えてるのかな? 仲良くやってるみたいで良かった。
「人増えたねー」
「だな。雪乃が大勢引き連れて戻ってきたんだろ」
「雪乃さん今ログアウトしてるなあ。お疲れーってメッセージ入れておこう」
そんな話をしながらギルド前広間にやってきた僕達だけど、ギルド予定で移築した建物のドアが開け放たれていて、中はそこそこ賑わっていた。ちょっと美味しそうな匂いがするなーと思って周囲を見回してみると、どうやらトラベラーさんが屋台をやっているらしい。
何売ってるのかな? と思って近づいてみると、鉄板で焼かれた……これは……!
「焼きそば!」
「ヘイらっしゃい!」
「わー! イオくん焼きそばだよ焼きそば! 屋台の定番!」
唯一の屋台、じゅわっと音を立ててテキパキと焼きそばを焼いているのは、ハッピを羽織ったヒューマン男性。肩にかけてなびかせている……落ちないのかな?
「ソースの匂い! イオくん5個くらいお願いします!」
「おー、結構近い匂いだな。紅生姜作ったのかこれ」
「自家製です! リアルにかなり近いっすよ!」
筋肉質なお祭り男みたいな感じのトラベラーさんから、焼きそばを5パック購入。テトは多分食べないけど、今日のお昼で如月くんと一緒に食べよう。幸せな気持ちでギルドへ向かうと、建物の前で待っていた如月くんが手を振ってくれた。
「イオさん、ナツさん、テト、おはようございます! やっぱり買ってますねー」
「焼きそば良いよねー!」
「絶対ナツさんたちは買うと思ってました。ゴールド使えるようになったの昨日からですよ」
「おおー」
ギルドが機能し始めたってことだよねこれは。素材の買い取りなんかも開始しているって話を聞きながら、如月くんの案内でギルドの中へ入る。家具とかいつの間にか設置されていて、受付にもちゃんと人が居た。
「転移装置はこっちですよ。登録してから出発しましょう」
「職員さんはヒューマンだったけど、サンガから来てる人?」
「らしいです。俺も昨日ちょっと話しましたけど、サンガのギルドから3人くらい来てて、現地で職員を雇って教育するって言ってました」
「へえ!」
現地の人を雇うほうがその後のことを考えると良いよね。住人さんたちへの通貨の流通も、そのうち行き渡るかな?
ギルドカードに転移装置を登録して、今日はそのままギルドの外に出る。錆びついていて開かなかった門が、今はちょっと立派な感じに作り変えられていた。
壁や門を作り変えるのは、呪いがあるからちょっとコツが必要で、専門家しかできないんだって。今は低い塀で里と外を区切ってあるけど、トラベラーが集まったらもっと立派な石壁に作り変える予定もあるらしいよ。
門のところに立っているのは、いつぞやも会ったイナバさんだ。こんにちは! と元気に挨拶すると、「こんにちは」と挨拶を返してくれる。
「外へ行くのか? 気を付けて行ってきてくれ」
「はーい! イナバさんは門番さんになったんですか?」
「自警団がとりあえず順番で立つ事になったんだ。そのうちきちんと決まるはずだ」
「なるほど」
自警団さんがやると、給料がどこから出るかわからないし、ちゃんと里で門番さんを決めたほうがいいよね。でもなんかイナバさんは、真面目そうだし門番さん向きかもなあ。
「さて、如月も地図にマークが出てると思うが、火竜のところまでとりあえずまっすぐ向かう。俺達はイチヤでこれに関連する依頼を受けているから、道中なにか怪しそうなものがあったら教えてくれ。ナツは<グッドラック>反応したらすぐ報告で」
「了解であります!」
「わかりました」
テトはー?
「テトは僕のこと乗せてね! <隠伏>スキルのレベルを上げたいから、なるべく見つからないように頑張ろう」
わかったのー。ナツのことはテトがまもるのー!
ふんすっとやる気に満ちたきりっとした顔をするテトさんである。いやあの……守らなくても大丈夫だよ……? と思ったけど、それを言ったところで無駄なのでもう何も言うまい。そそくさとその場に伏せるテトさんに遠慮なく乗せていただく。
「よし、そんじゃ行くぞ。途中<収穫>するから如月は警戒頼む」
「はい、任せてください!」
おいしいのー?
「テトは敵に見つからないようにな」
わかったー! まかせろー!
「ナツは……大人しくしとけ」
「くっ、何も期待されていない……! 【サンドウォーク】要員になりましょう!」
「ああ、それは頼む」
まあこれから思いっきり森……火山の麓の樹林帯に突っ込む予定なので、【サンドウォーク】は必須なのだ。木の根とか落ち葉って結構滑るからね! テトはさすがフォレストウォーカーという種族から進化するだけあって、足場悪いところを歩くの上手だし。すごく歩きづらいところとかは、ぴょいっと飛んじゃうしね。
で、目的地の火山なんだけど……。
視界には入るから近いのかなと思ったけど、地図の距離感としては今日1日歩いても麓にたどり着くくらいだろうとのこと。火竜さんの住処は、ビワさんに聞いたところ中腹の大きな洞穴の中だというので、到着は明日になりそうな感じだ。
「まあ、のんびり歩きましょうか。ナツさんなにか面白い話ありませんか?」
「まさか僕がいつでも面白い話できると思ってるのかな如月くん、それは期待しすぎというやつだよ」
期待を込めた眼差しで見られてるけど、僕だってそんないつでも話のストック抱えているわけではないよ。ないない、と顔の前で手を振っていたら、くるっと振り返った切り込み隊長のイオくんが言った。
「ナツ、魔法石の話しとけよ」
……ん?
「……ほら! やっぱりあるんじゃないですか、面白い話!」
「えー? 魔法石ってなんか面白い話なの……?」
「少なくとも俺が掲示板検索した限りは、作り方まで出てなかったが?」
「作り方かあ……!」
魔法石は、空の魔石のリサイクル品で、宝石のイミテーションとして使われるってところまでは、掲示板も載っていたらしい。ただ、トラベラーにもそれが作れるって話はなかったんだそうで。多分、<宝石鑑定>がそんなに取得してる人がいないせい、かな……?
あ、いやまって。もしかして<素材鑑定>もいるのかも。なんとなくそんな気がしてきた。
「それでナツさん、その魔法石って? 詳しく教えて下さい!」
「いやうん、教えるのはいいんだけど……」
前提条件がはっきりしないけど、まあ僕の仮説は添えておこうかなあ。
「<鑑定>ってつくスキルはとにかくいっぱい持っておいたほうがいいってことからかなー」
「え、そんな話なんです?」