25日目:女性は偉大なのである。
今日のダンジョンは結構シンプルなステージクリア型だった。
1部屋クリアしたら次の部屋へ行けるやつで、部屋ごとに異なる敵が待っている、って感じ。特にダンジョンギミックみたいなものも見つからなかったし、敵のレベルは上だったけど、1対3で戦えたからすごくさくさくクリアできたんだよね。
アサギくんには後で報告しておくとして、今回簡単だったねーなんて話をしながら足湯へ向かう。イオくんが「運動のあとは足湯だろ!」と言うのでね!
3人とテトでぞろぞろと足湯へ向かうと、ダンジョンへ向かう前にいた大工さんたちはすでにいなくなっていた。そして、結構立派な東屋が立っている。
「おお、すごいな」
とイオくんが目を輝かせた。前回木枠をくんだ足湯部分と、そこから座れるように1段上がった椅子部分の周辺に白い砂利が敷かれていて、その上をギルド前広場と同じようにスライム素材で固めている。これなら水も弾きそうだ。
そして、それらをすっぽり包むように柱と屋根が追加され、結構しっかりした施設になっていた。
「おおー、レッカさんたち仕事早いなあ」
と僕が感心している間に、イオくんはぱぱっと足装備を外して足湯に飛び込んでいくわけで。どれだけ足湯好きなんだこの人。テトは足湯が熱いことを覚えていて、近くには寄ったけど入るのは嫌って感じだ。もっとぬるければ入るかなあ?
「テト、今度大きめの桶とか作ってもらおうか。ぬるま湯ならきっとテトも入れるよ」
てきおんー?
「そうそう、このお湯だとテトにはちょっと熱いんだよね?」
あついのー。でもナツとイオこれすきだったら、ちょっとはいってみたいのー。
「じゃあ、今度やってみようね。ぽかぽかだよー」
ぽかぽかー。
テトはこういうオノマトペ好きなんだよなあ。もちもちも気に入ってたし、ぽかぽかもなんか気に入ったらしくて「ぽっかぽかー♪」って歌っている。
取り合えずテトはそれで納得したらしいので、僕も足装備を外して足湯に入った。テトさんはすかさず僕の右側にぴょいっと場所取り。如月くんも同じようにして、しばらく足湯でまったりしていると、川の向こう側から誰かが足湯に向かって歩いてくるのが見えた。
体が大きいから鬼人さんだな、と思ってみていると、近づくにつれて知り合いだということがわかって、僕は思わず声を上げる。
「ハモンさん!」
「ん? ナツたちか。ここに来ていたんだな」
軽く手を上げてこちらに挨拶してくれる鬼人さん、サンガで出会ったジェラート職人のハモンさんである。あの、僕をおにいちゃんと呼んで慕ってくれる貴重な少年、キヌタくんのお父さんだ。とても気さくなピタさんという奥さんもいてラブラブなのだ。
「ハモンさんどうしてこちらに……あ、キヌタくんたちは!?」
「残念だが連れてきていない。すぐ帰る予定だし、道がまだ細いから子どもを連れて歩くのは怖い」
「あー、まだ枝道細いですもんね。確かにキヌタくんくらいの年齢だと怖いかも」
「お守りがあっても心臓に悪いからな」
足湯にたどり着いたハモンさんは、草履を無造作に脱いでそのままスッと座った。足湯に入り慣れていらっしゃる。如月くんも「お久しぶりですねー」とか言ってるし、全員顔見知りみたいだ、よかった。
「如月くんもジェラート買いに行ったの?」
「もちろんですよ! ピタさんからも言われてましたし」
「テトはレモン舐めて飛び上がってたらしいよ」
「酸っぱいの苦手なんですか? 俺レモン好きでした、5つくらい買いだめしてます」
レモンー?
「テトがイオくんにもらった黄色いのだよ」
すっぱくてつめたいのー。
味を思い出したのか、テトは耳をぺしょんとしている。甘いのは好きだから、バニラは冷たいけど癖になる的なこと言ってたんだよね。
「ハモンさんはあの冷たくて甘いの作った人だよ、覚えてる?」
りょうりにんー?
「そうそう。ジェラートの料理人さんだよー」
りょうりにんはいだいなのー。
テトはハモンさんに尊敬の眼差しを向けた。テトにとって料理人とは最高に素晴らしい人たちなのだ。多分筆頭はヴェダルさん、その次がイオくんかな。まあ、サンガでジェラートの屋台に行ったときは、テトまだ生まれたばっかりでイオくんに抱っこされてたから、覚えてないのかも。
「ハモンはここの出身だったのか?」
そのイオくんがハモンさんに問いかけると、ハモンさんは「ああ」と軽く頷いた。
「俺は戦時中にサンガの防衛に加わったから、里にいたのは15年くらいか。今回はナガレ師匠の護衛で来た」
「ナガレ? 右手の甲に刀傷のある、サンガで衣類の店をやっていたご老人か?」
「知り合いなのか。ナガレ師匠は月影流剣術の師範でな、里で刀を使う連中は皆若い頃に稽古を付けてもらっていたというくらい有名な方だ」
……ああ! どこかで聞いたことある名前だと思ったら、僕達に布とか支援物資を託してくれたおじいさんだね。あの、いかにもご隠居って感じの目つきの鋭い……。僕は直接会話ってしてないから、イオくんのほうがナガレさんに関しては詳しい。ここの会話は任せよう。
「刀の使い手か。ハモンの武器は何なんだ?」
「俺は弓を使うから、遠距離攻撃要員だ。里に用もあったが、さっき済んだのでな。一泊したらサンガに戻る」
「用?」
「ああ、両親がいたら、妻と息子を見せたかったんだが」
ハモンさんは少し遠くを見るような眼差しで、軽く肩をすくめてみせた。
「ここにはいないようだ」
軽く言ってるけど、ご両親を探しているってことは、戦争で生き別れになったのかな。結構シリアスな話だと思うんだけど、ハモンさんは淡々としている。
「家の両親は殺しても死なないような奴らだから、どこかで生きてはいるだろう。ここにいないなら、他にいそうな場所も限られる。気長に探すさ」
「ハモンさん……」
「それで、皆は今どんなことをしているんだ?」
流れるように話を逸らされたので、僕たちはそれぞれ里でどんなことをしたかという話をすることにした。と言っても、如月くんはまだ話せることがあまりないし、ダンジョンの話はまだ公表してないから、必然的に話題は里の復興についての話になる。
ギルドの移築、ギルド前広場の整備、そしてこの足湯の話。アサギくんが炊事場や食堂にもテコ入れをしたいというような話をしていたこととか、色々話をしていると、ハモンさんは興味深そうに聞いてくれた。
「なるほど。ナツたちは今イズモ様のところにいるのだな」
「お世話になってます!」
「良い方だろう。イズモ様とナガレ師匠は戦時中に里の英雄と呼ばれた方々なんだ」
ハモンさんが言うには、戦争中に大活躍だったそうだ。戦闘面ではナガレさんが前線でばったばったと敵を切り倒し、その活躍ぶりから英傑と呼ばれたとかなんとか。それで、腕を買われて最後の総攻撃が来るというときにサンガへ助太刀に行ったきり、戻れなくなっていたらしい。
イズモさんは、生産の面で偉大な功績を残したようで、壊れにくくよく切れる刀を量産し、天才鍛冶師と呼ばれたとかなんとか。里の戦士たちにとってはイズモさんの作った武器を持つことが一種のステータスになっていたんだそうだ。
そんな2人は良きライバル関係のような感じで、互いに互いを認め合っていて、何かと里の中心人物であったらしい。
「武闘派のナガレ師匠に職人気質のイズモ様で、うまくこの里をまとめ上げていたのだ」
と、ハモンさんは言う。
「まあ、会えば喧嘩するような仲でもあったらしいが。にらみ合いつつ仲も良い、不思議な関係でな。噂では一人の女性を巡って争った経歴もあるとか」
「おお、ロマンスが……!」
思わず目を輝かせてしまった僕に、ハモンさんは即座に、
「その女性はどちらも選ばずあっさり学者先生と結婚したらしいが」
と続けた。えー、どっちも選ばれなかったのか。まあ、それだけ人気のあった人たちなら、どっちを選んでも角が立ったかもしれないけれども。
「……ん? 学者先生……まさかその女性ってナズナさん?」
「よく知っているな。ナズナ様とも知り合いなのか」
「かまどの使い方を教わりました、イオくんが!」
おお、まさかヒロインまで知ってる人だったとは。
いや、でもわかる。ナズナさん、今でもなんか上品で穏やかな感じだもんね。若い頃は絶対にモテモテだったと思うよ。ツバキちゃんも将来有望っぽい感じだもんなー。ってことは、ビワさんがああいう感じなのはお父さんの影響だったんだね。
「ふえー、村長さんすごい人だったんだなあ」
おちゃめなおじいちゃんって感じだったけど、イズモ様とか様付けで呼ばれるくらいだもん、尊敬を集めていたんだなってのがよく分かるね。
「俺のような生産職には憧れのお方だな。妻に出会わなければ、俺もイズモ様に憧れて鍛冶職人を目指していただろう」
「ピタさんは偉大です」
「うむ、妻のお陰で道がひらけたことを感謝している」
ピタさんは美味しいジェラート職人を育てた偉大な女性である。感謝を捧げよう。
ひとしきり雑談したあと、ハモンさんは知人の家に泊まる予定があると行って僕達より先に足湯を抜けていった。もう夕暮れ時だから、僕達もそろそろ村長の家に戻りませんかイオくん、と話を振ってみたけど、「もう少し」とごねられている。まったくもう。
僕はもう足湯はいいかな、これ以上入ってるとふやけそう。ということで、イオくんを放置して先に足湯から上がることにする。
「如月くんは?」
「俺ももう少し……」
「君もだったか」
足湯ラバーズだったかー。まあいいや、テトと一緒に飽きるのを待ちましょう。足湯のある東屋の川寄りに、普通に座って待っていられるような竹製のベンチが作られていたから、僕とテトはそっちに移動して少し涼んで置く。
テトは湯気がちょっと微妙だったらしくて、僕が【ドライ】をかけると「わーい」と喜んでくれた。
「そう言えばテト、スキルどうするの?」
ダンジョン行く前に新しいの覚えられるって言ってたけど、結局どうしたのかなと思って聞いてみると、テトはのびーっとしてから僕の膝の上にべしょっと寝そべりつつ、「とったのー」とお返事をした。何かスキルを取得したって意味だよね?
「何にしたのー?」
んとねー、よくわかんなかったけど、いろがちがうのがあったから、それー。
「色……?」
スキルで、違う、色……?
「……普通のスキルは何色?」
ふつうのはねー、しろいのときいろいのとー、あおー。
「ああ、僕達と同じかな? 基本スキル、発展スキル、固定スキル」
そこは多分トラベラーと同じかな。わかりやすくて助かる。
「何色のスキル取ったの?」
あのねー、あかいろー。
「赤……」
テトよくわかんないけど、たぶんすてきなやつー。
「テトが言うなら素敵に決まってるでしょう。ちょっと僕も見てみるね」
いいよー。
テトのステータスは、僕のステータス画面の装備のところから、契約獣をタップして、テトの情報から見れたはず。えーと、なんか色々スキルのレベルも上がってるけど……新しいスキルはこれか。あんまり考えないようにしてたけど、赤ってことはトラベラーでいうところの特殊スキルなのかなって気もしないでもないんだけど……!
「おお……」
と思わず僕は声を上げた。なんか僕のためにあるようなスキルだったからだ。っていうかこれ確実に、僕のためのスキルですねテトさん、契約獣の鑑では……!?
その、テトの新スキルがこちらです。
<ハッピーラッキーブースト> このスキルを所持する契約獣が幸せな気分の時、契約主の幸運のパラメーターに補正が付く。




