25日目:手土産は重要です。
スキルを育てれば増やすことは簡単なSPと違って、PPは入手手段がほぼレベルアップ以外にない。
掲示板でもPPを入手する手段が他にないのか、というのは度々話題に上がることらしく、それだけPPをゲットしたいプレイヤーは多いのである。単純に、ステータスさえ盛れれば格上の敵にも勝てるからだ。
「どのゲームでもステータスに振れるポイントは貴重だからね……!」
僕は当然4つとも全部PPでもらう。だってSPは入手方法が楽だから。こういうのはレアな方をもらっておかないと後々苦労するのだ。一応、ステータスを上げる効果のあるスキルみたいなのはいくつか確認されているし。イオくんの特殊スキル<護衛の心得>も、条件は厳しいけどしっかりステータスを上げてくれる。
でも、そういうスキルはとてもレアなのである。取得条件が厳しいのだ。
「俺もPPだな。というか……4種類で4PPか。ナツがダンジョンで野菜を祈るときは、今食べた物以外の野菜にしないとだめかもしれん」
「その前に野菜の出現頻度がどうなるかだね……」
これだけの効果があるものなら、そう簡単にポンポン出るものではなさそう。絶対これ貴重だよ。
ナツー、テトねー、あたらしいことおぼえるのー。
にゃにゃっと楽しそうな声でテトが言う。え、もしやこれ、テトにも効果ある……? ってことはビワさんたちにも?
「テトはSPもらったの?」
確認のために問いかけてみると、テトはにゃっと肯定した。続けて、ビワさんも「驚いたが俺ももらった」と口を開く。
「スペルシア様から直接力をいただくことがあるとは……これはすごい体験だな。ツバキと母さんも、もらったか?」
「すきるをそだてなさいって」
「私ももらったわ。この年になって、また新しいことを覚えられるなんて素敵ねえ」
おお……! 住人さんたちにもしっかり効果アリ、これはすごいぞ。でも全員SPもらったのかな? とちょっと不思議に思ったので聞いてみたら、住人さんたちには選択肢はでなくて、問答無用で4SPが与えられたらしい。選べるのはトラベラーだけみたいだ。
「当然僕もPP」
と雷鳴さんもさくっと取得。
「俺は……SPあと1あれば上級魔法が1つ取れるので……!」
如月くんはすごく迷いながら1SPと3PPにしたらしい。
「魔法何を上級にするの?」
「ナツさん相談に乗ってください、どれが使い勝手いいですか?」
「うーん……!」
使い勝手という意味なら、光闇以外の4属性かな。どれをとっても損にならない気がする。如月くんは遊撃で自分一人で何でもできる感じの戦闘スタイルだから、<上級水魔法>なら【ミスト】で敵の足止め、<上級火魔法>なら【マジックパワーレイズ】で魔力の底上げ、<上級風魔法>なら【ヘイスト】で自分の俊敏を底上げ、<上級土魔法>なら【バインド】で敵の足止めをしつつ【レジスト】で状態異常を無効化……と、色々できる。
というようなことを説明すると、如月くんは割とサクッと<上級土魔法>に決めた。
「状態異常を20秒間完全に防げるってかなりでかいですよ」
とのこと。僕達はお守りがあるからあんまり恩恵を実感できてないけど、一般的にはやっぱり【レジスト】は優秀なアーツだよね。
「問題はこれをどこまで掲示板に載せるかだな」
難しい顔をしたイオくんがそんなことを言うので、あ、書き込むんだ、と僕は人ごとのように思った。自分が書き込まない人だから、新情報を公表するっていう発想があんまりないんだよね。でもこれそもそも書き込めるのかなー? と思った僕である。伝承スキルの時みたいに、書き込めない情報かも?
と口にしたところ、雷鳴さんが「それもありえるね」と肯定する。
「よし、アサギに丸投げしよう。そういうのはやはりリーダー判断で」
「……それがいいような気がしてきた!」
ダンジョン情報の公表もアサギくん任せだし、一緒に任せちゃうのが良さそう。雷鳴さんそういうところサクサク決断できてえらいと思います。
*
早速アサギくんに報告に向かう雷鳴さんと別れて、僕たちはビワさんの家を出た。ツバキちゃんが「またあそんでね」とテトに抱きついていた。テト、「いいよー!」と呑気なお返事。仲良しになったねえ。
「テト、スキル取るの?」
と歩きながら聞いてみると、テトは尻尾をゆっくりゆらゆらさせながら、んーとねー、と。
ねんわほしかったのー。
「念話? エクラさんが使ってたね」
でもテトつかえないのー。ざんねんー。
「使えなかったんだ。それは仕方ないねえ」
神獣さんや聖獣さん専用スキルだったのかな? 契約獣のスキルは専用のものから選ばれるらしいから、神獣さんたちにもきっと専用スキルがあるのだろう。
「他に良い感じのスキルある?」
んー。ナツ、うみすきー?
「海? 好きだよー。魚介類とか美味しいよね」
じゃあねー、うみのうえはしれるようにするー?
「テトは空飛べるから、海の上も飛んだらいいんじゃないかな?」
そっかー。
テトはむむむーっと難しい顔をしている。海の上を疾走する白い巨大猫というのもファンタジーで良い感じだけど、さすがになあ。やっぱりテトには移動したり収納したりする系のスキルが備わってるのかな。
存分に悩んでもらうことにして、僕達は如月くんと一緒にまたしてもダンジョンへ行こうと言う話になったので、移動する。野菜が欲しい、できればあの甘い黄金のじゃいもが!
「ヴェダルさんにあの野菜で料理作ってもらいたいなあ……」
「流石に、こんな入手経路が限られる野菜はだめだろ。それに、純粋な料理の腕を競う料理大会でSPもらえるとか、審査員に対する賄賂みたいにとられたらまずい」
「あー、そういうのもあるのか。いや、単純に僕が食べたいだけだから、クエストの納品ではなくて」
「ただの土産ならいいんじゃないか」
そうだった、料理大会用の食材納品クエストもあったんだ。僕はすっかり忘れてたけど。
「ホットポテトとかレッドチリチェリーが湯の里で育てられるなら、それを納品するのもありだよね?」
あれなら珍しい食材として目を引きそうだし、湯の里で生産の目処が立っているなら今後流通していく食材として売り込めばいけそう。何より、その食材を使ったヴェダルさんが料理大会で優勝したら、湯の里のPRにもなる。良いことばっかりな気がする。
「たしかに理想だが、実現するかどうかだな。雷鳴がビワに協力しそうだし、どうにか形になるなら……品質を上げてもらいたいところだ」
「あー」
そのへんで収穫できるレッドチリチェリーは、品質★3だもんね。ヴェダルさんに渡すなら、せめて★5になってもらわないといけない。クエストでの納品の条件が、★5以上の食材だったはず。
「火山に行くとき、根っこから採取してビワさんのところに持ち込みましょうか? 俺手伝いますよ、食べてみたいですし」
と如月くんもやたら乗り気。
「如月くん、レッドチリチェリー食べたことなかったっけ?」
「ないです。俺<収穫>持ってないので、薬草以外わかんないですし」
「なんと。イオくんここは食べさせてあげねば!」
「夕飯な」
「やったー!」
「あざっす!」
盛り上がる僕達だけど、テトさんは辛いの好きじゃないので「ふーん」って感じ。そして僕達がダンジョンに向かって歩いていることに気づいて、むむっと頬をふくらませる。
だんじょん……?
「そうそう、野菜美味しかったらから野菜が宝箱から出たら嬉しいなって」
おやさいおいしい……おやさいのため……しかたないのー。
テトはむうっとしている。僕達がダンジョン行くと、どうしてもテトはホーム待機になるからなあ。テトは基本僕と一緒にいるのが好きだから、ダンジョンは嫌いみたいだ。
「野菜が出るといいんだけどねー」
僕達は野菜を求めてるけど、雷鳴さんほど野菜ラブじゃないから、正直宝箱から出てきてくれるかどうかはわからない。僕だったら、野菜って固定するんじゃなくてなんか美味しいもの! って祈ったほうが勝率あるかも? テトの好きな甘いものが出るかもしれないし。
「火山、如月くんも一緒に行くよね? いつにする?」
「あー、イオさんとナツさん、リアル午後は予定あるんでしたっけ」
「そうそう。今日終わったらログアウト。次のログインは……リアル夜9時くらいからかな?」
「そのくらいになるな。如月は?」
如月くんとは連結したままログアウトするつもりだから、時間軸がズレてて会えないとかはないと思うけど。如月くんの夜の予定がある場合には火山行きは明日に持ち越しになる。僕達は暇だからどっちでも良いけど。
多分、その頃にはギルドもできてると思うんだよね。理想をいうなら、転移門に登録してから火山へ出発かな。
「俺は午後も少しログインして、夕飯食って寝る準備してから同じくらいにログインしますよ。火山って、あそこに見えてるあれですよね? 多分、たどり着くまでに1日使うと思いますし」
「ちょっと夜ふかしするけど大丈夫?」
「正直アナトラの先行体験会始まってから0時より前に寝たことないっすね」
「元気だねえ」
睡眠時間足りてる? と聞いてみたけど、十分ですよ! と元気なお返事だった。まあこのゲーム楽しいからね、ずっとやっちゃうよねなんか。やることが次から次へと湧いてくるし。
火山へ行く日程は決定で、川沿いの道を下っていくと遠くの足湯のあたりにレッカさんたちの姿が小さく見えた。今日は足湯の場所を東屋っぽくしているらしい。屋根があると天気が悪くても安全だから、ありがたいね。
「イオくん、足湯がグレードアップしてるよ」
と教えて見ると、イオくんは目を輝かせて「住める!」とか言ってたけど、住めないので諦めて欲しい。却下却下。
そうそう、道も一部石畳に置き換わってたから、アサギくんの立てた計画に沿って作業が色々進んでるのがわかってちょっと楽しい。足湯の前の小川にも、表面を平らにした丸石が橋の代わりに置かれていて風情溢れる感じになってた。
僕達が夜にログインする頃には、どんなふうに変わってるのか楽しみだね!
「よし、じゃあダンジョン行くぞ。テトはホーム戻ってろ」
わかったー。おいしいのよろしくー。
「イオくん美味しいの頼まれてるよ」
「任せろ、ナツに」
「僕か」
「宝箱開けるのお前だろ」
「それはそう」
ナツー、おいしいのおねがーい。
「がんばる!」
テトに頼まれては仕方ない。スペルシアさん、どうか美味しいものを宝箱に詰めといてください、よろしくお願いします!
と、ダンジョンに入る前にお祈りをしてから、僕達は今日のダンジョンに足を踏み入れるのだった……。
結果、マギベリーとか言う、魔力たっぷりの果物を手に入れたわけなんだけど。如月くんの宝箱にも同じものが入ってて、5個ずつ合計10個。
「ナツ、それテトは食えるのか?」
「どうだろう。でもリィフィさんの飴も魔力入ってて美味しいって言ってたし、はちみつも魔力たっぷりで素敵って言ってたから多分……? テトー、魔力たっぷりの果物もらったよー」
わーい!
見た目はメロン位の大きさのオレンジ色の食べ物だった。5つもらったので1個だけインベントリから取り出して、イオくんに切り分けてもらう。テトはそれを上機嫌で口にして、はわーっと奇声を上げて、大満足そうに「おいしー!」と言ってくれた。
残念ながらこのマギベリー、トラベラーや普通の住人たちにはあんまり美味しくないらしい。<鑑定>さんが言うには聖獣や神獣等、魔力を好む存在にとっては大変美味、なのだそうで。……あ、なるほど。
「火竜さんへの手土産ゲット!」
「それか!」