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3日目:救国の乙女の話


 結局鑑定作業が終わったのはそれから1時間くらい経ってからだった。

 ゲーム内時間は午後18時過ぎ。イオくんも30分くらい前に戻ってきて、リリンさんの店じまいを手伝っていた。


「終わったー! 数多いよリリンさん! 残り1/3くらいになってからの指輪ラッシュがきつかった!」

 ゲームの中だけど体がバッキバキな気がして伸びをしていると、ずらーっと並んだ鑑定済みの装飾品を見たリリンさんは「頑張ったじゃないか」と笑顔だ。そうだよー結構頑張ったよ! <装飾品鑑定>、これ終わらせただけでレベル11にまでなったからね! <年代鑑定>もレベル10だよ、SPあっという間に取り返した!

「情報も詳細に残っているし、いい仕事だよナツ。報酬には色を付けてやろう」

「やったー!」

っと、その前に確認事項があったんだっけ。


「リリンさん、これなんだけど、ちょっと見てもらってもいいですか?」

「どれ?」

 あの隠されていた指輪。僕が差し出した紙とぼろぼろの指輪を見比べて、リリンさんが情報を読む。その表情がハッとしたように引き締まり、じっと文字列を追っていく。

「……、ナツ、これはどこに?」

「この指輪の空箱の底に隠されていたんです。その、具体的なお名前が鑑定結果に出たので……」

「ああ。トラベラーさんたちは知らない人だろうが、ナルバン王国にとって彼女は恩人とも言える人なんだ。伝説級のものを発掘してしまったね」

 リリンさんは丁寧に指輪を布で拭いて、傷だらけで欠けの多いその指輪を空いていた指輪ケースに入れた。それから「困ったね」と呟く。


「見つけてしまったからには、ご遺族に渡したいんだが……。星級に伝手もないし、どうしたものか」

「そのファミリーネームだと2等星の方ですよね。僕もさすがに知り合いはいないです」

「ナツたちはナナミに行く予定があるかい?」

「サンガに行ってゴーラ、ヨンド経由かなって今のところ考えています。ただの予定なので変わるかもしれませんけど」

 申し訳ないけどクエストよりも美味しい物優先なんだよね僕たち。

 イチヤの次ニムにいけばそこからナナミがつながってるけど、イオくんがちょっといい剣を買った今、急いでニムに行く用事もないし。

 僕とリリンさんがそんな会話をしている間に、イオくんも指輪の鑑定用紙を読んで事態を把握したらしい。しれっと僕の隣に立って、最初からいましたよって顔をしつつ会話に混ざってきた。


「リリン、できればそのルシーダ=アズリル嬢が何者なのか、聞いてもいいか?」

 さすが頭の回転が高速スピンのイオくん、的確な質問をする……! そうそれ僕も気になってたやつ!

「ルシーダ様は……魔王との戦争の、開戦を遅らせた功労者だよ」

 リリンさんはちょっと言いにくそうに、小さく息を吐いた。

「魔王が宣戦布告を宣言したとき、交渉の座に就いたのがルシーダ様だ。エルフ族の始祖となるエンシェントエルフの血を引いたヒューマンで、制約魔法という珍しい魔法の使い手でいらっしゃった。ナルバン王国は戦争の準備が全く進んでいなかったからね、すぐさま開戦となればそのまま蹂躙されて終わりだっただろう。だが、ルシーダ様が、その交渉の結果開戦を1年遅らせるという言質をとったのさ」

 なるほどネゴシエイターさんか。

 そういうのは外交する人の仕事になるのかな?


「察するに、制約魔法というのは、言質をとった事項を必ず守らせる魔法、ということでいいか?」

「ああ。魔王はその制約魔法を知らなかったらしい。だからルシーダ様に、『お前が死ぬというのなら1年開戦を遅らせてやろう』と言ったのさ。多分、守る気もなく、ただルシーダ様をおちょくって言ったんだろうが。ルシーダ様はその言葉を制約魔法で縛った。そして、その場で自害をなさったという」

「え」

「1年という時間を稼ぐために、ためらいなく自らの命を犠牲にしたのさ。今、ナルバン王国がこうして被害も少なく存続できているのは、ルシーダ様のおかげだ。その1年がなければ街を囲む石壁は無かったし、竜人族の救援も間に合わなかったかもしれない。そうなれば魔王を打ち倒すことだってできなかったかもしれない。だから、ルシーダ様は救国の乙女と言われている」

 それは、確かにすごいことをした人だな……。

 魔王もその約束を守ったということは、守らざるを得ないほどその制約魔法が強かったということなんだろう。ためらいなく自己を犠牲に、なんて、そう簡単にできることではないよね。


「じゃあ、この指輪は、もしかしてその時に……?」

「おそらくそうだろう。魔王軍は制約魔法に腹を立てて、ルシーダ様の遺体を魔国へ持ち去ったと言うよ。同行していた誰かが、命がけで掠め取ったのか、落ちていたものを探し出したのか……」

 これほど指輪が傷つき、傷んでいるとなると、あまり想像したくないことだ。遺体を持ち去られてしまったということは、遺族の方々は供養もできなかったわけで。それはかなり辛いことだと思う。

「できればご遺族に渡してあげたいね……」

 思わずそうつぶやいた僕に、リリンさんは即座に指輪の入った箱を握らせた。

 えっ、ちょ、まっ……早いんだが!?

「ぜひ、ぜひ渡してやりな!」

と 力強く言うリリンさん。僕、できればって言ったんだけど聞いてた?? 呆然とする僕の手には、指輪の箱が……。


「リリン、出来ればもっといい箱をくれ」

「はいよ!」

 イオくんあっさり受け入れてるし。いや、まあ、クエストだし。ご遺族がいるならもちろん渡したいけど。コネがないよイオくん、どうやって作るのさコネ。

「イオくん……」

「大丈夫だ、このクエスト期限なしだから。どうせナナミ行くしな」

「それはそうだけども」


 話聞いた時点でどうせ引き受けるつもりはあったよ、あったけどさー! なんかこう、「ナントカさんを訪ねて紹介してもらいな」とかそういうのがあると思ったんだよ。まさかの自力でコネを見つけなきゃいけない系かー。

「わかったよ。この指輪は確かに預かりました。必ずご遺族のもとへ届けます」

 承諾の言葉を口にすると、指輪ケースに入った指輪は自動的にインベントリ内「大切なもの」のタブへ移動した。

 うん、インベントリを圧迫しないのはとてもえらい。良い仕様です。



 アルバイト料金は、なんと200,000Gにもなった。専門知識が無いとできない仕事だし、数も多かったから多めにつけとくよ、とはリリンさん談。確かに大変だったけど、こんなにもらえるとは思わなかったなあ。

 杖の為に、今は少しでもお金が欲しい所だから、全額共有財布に突っ込んで、っと。

「ナツ、これ取ってきた水晶。品質は俺でもわかるけど、杖向きかはわからんから<宝石鑑定>してくれ」

 イオくんが差し出したのは、大小10個前後の水晶たち。

 透明なのが5つ、紫色が3つ、薄紅色が2つ。あとは白濁しているのが3つだ。


「えーと、白濁してるのは曇水晶で、魔法媒体には向かないんだって。インテリアなんかに使われるもので、価値はそんなにないらしいよ。薄紅色のが、大きい方は色がきれいに出ていて装飾品としての価値がそれなりに高い、小さい方は少し白い濁りが出てるから価値は低め。水晶と紫水晶が杖向きらしいんだけど……」

 大小5つの水晶と、3つの紫水晶。

 パッと見ただけでも★2から★6までの品質がばらけている。


「えーとこれとこれは★2、これが★4、この紫水晶が★6で、他は★3……」

「普通に★6のがいいか?」

 ★6の紫水晶は、500円玉くらいの大きさで割ときれいな円形。上手く削ったら真ん丸になると思う。

「★4の水晶がちょっと曇りがあって魔力伝導が良くないみたいだし、普通にこれが一番だね。基本能力は水晶と同じだけど、紫水晶だとバフデバフの成功率が上がるんだって。だから、水晶で杖を作るより紫水晶で作る方が少しお得」

「よっしゃ、じゃあ、これでナツの杖が作れるか聞いてみようぜ」


 イオくんは自分が取ってきたものの中に使えそうなのがあったからか、上機嫌だ。リリンさんが布の袋をくれたので、その中に★6以外を突っ込んでひとまとめにしてインベントリへ。★6の紫水晶だけ別途インベントリで1枠使う。

 そのまま画面操作したイオくんが、

「ん、エルモがまだ採掘場にいるから、声かけてみるか」

 と言うので、即座に賛成。そういえば住人一覧は名前を知った人が今どこにいるかとか載ってるんだった、超便利機能だ。


 リリンさんに声をかけて採掘場前の広間へ行くと、ちょうど採掘場からエルモさんが出てきたところだった。……泥だらけだ。え、採掘場ってそんなに泥んこ環境なの? イオくんはどこも汚れてませんでしたが?

「エルモさん!」

 声をかけて手を振ると、エルモさんは顔にかかった泥をぬぐいつつ、こっちを見て満面の笑みでVサインをした。これはいい感じのものを掘り当てたに違いない。

「ナツさん、イオさん、お疲れ様です! 採掘どうでしたかー!」

「おう、俺は<採掘>スキルも入手できたし、ナツの杖に良さそうな紫水晶も手に入ったぞ」

「僕はあの、ちょっと筋力がですね……」

 ごにょごにょと言い訳すると、エルモさんは「ああ!」と何か納得したように頷いた。


「ナツさんはエルフですもんね、仕方ないことです」

 そう、そうだよ種族値的に向いてなかったんだよ!

「イオくんが代わりに頑張ってくれたので……っ!」

「ちなみに杖にしようとしているもの見せてもらってもいいですか?」

 エルモさんは水場で手を洗ってから、ポーチから手袋を取り出して装備した。そういえばエルモさんは採掘師とかではなく杖作成師助手だった。何かアドバイスがもらえるのかな? と思いつつインベントリから★6の紫水晶を取り出す。


「頼れるイオくんが僕の為に取ってきてくれた★6の紫水晶だよ!」

 ここぞとばかりに自慢しながら差し出すと、エルモさんはそれをそっと手に取り、じっと見つめつつ角度を変えたり光に翳したりする。

「ふむ、なかなか良い品です。もう少し大きさがあれば★7は堅かったでしょうが、これでも十分良い杖になります。良ければ私が師匠に紹介しましょうか」

「エルモさんのお師匠さん?」

「はい。お二人は店舗で杖を買うおつもりだったのですよね?」

「あ、うん。イライザさんに良いお店を教えてもらったので」

 あ、でもソルーダさんの時とは違って、別に紹介状を書いてもらったわけじゃないんだよね。イライザさんにいい店知りませんかー? って聞いたら紹介されたってだけだ。

「まあ、お二人はラタ様とお知り合いですか! それでしたら余計に、工房へ直接行った方がお得ですよ!」

 エルモさんはがぜん目を輝かせてそう言う。


 話を聞くと、エルモさんのお師匠さんはお店に杖を卸している職人さんなのだそう。イライザさんの杖を作っているのもこの方なんだとか。お店で買うより、職人さんから直接買い付ける方が安く済むし、持ち込む宝石に合った杖をその場で調整してくれる、と。

「へー、すごい。お師匠さんのお名前を聞いても?」

「はい! 師匠はトスカと言います! こちら工房の場所です!」

 テンション高いエルモさんがショップカードを手渡してくれる。工房も一応、ショップ扱いなのか。えーと、武具通りからギルド前通りを挟んで直線上に、南方面か。当然のように空白地だ。

「ありがとうエルモさん。明日お話を伺いに行ってもいいかな?」

「工房は10時から開きますのでいつでもどうぞ。夜は適当に閉めます!」

 適当に……。職人さんだし、納得いくまでやったら終わる、って感じかな?


 エルモさんにお礼を言って別れて、とりあえず僕とイオくんは一度ギルドへ戻った。掘り出した水晶が売れるのか知りたかったんだけど、受付のノーラさん曰く、ギルドでは大した金額にならないので、伝手があるなら欲しい人に売った方がいい、とのこと。明日トスカさんの工房に行って聞いてみよう。

 イライザさんが少し顔を出してくれたのでトスカさんの話をしてみると、「ああ、変わり者だが腕はいい」とのことだった。変わり者なのか。


「2人のことをよろしくと言づけておこう」

「ありがとうございます!」

 と言う会話があったので、紹介状もらったときと同じ待遇になるはず。多分だけど。


 さて、そうするとあとは別の金策と夕食だ。お腹空いてきた!


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