25日目:素敵な炎鳥さんの産毛
起床!
と言っても今回はログアウトしないまま朝まで時間を飛ばすだけなので、起き上がるのはイオくんと同時だ。ゲーム内で一瞬とはいえ、ちゃんと「寝た」感があるのがすごいところ。んーっと伸びをする僕の膝の上に、テトさんがぽすんと乗っかってご機嫌にしっぽをゆらゆらする。
ナツー、イオー、おはよー!
「おはようテト、今日もご機嫌だね!」
ごはーん♪
「イオくんなんか美味しいものお願いします!」
「わかったからお前たちは同じ顔をするんじゃない」
おんなじかおー?
どんな顔かな? ってテトを見ると、テトは目をきらきらさせて期待にわくわくと心を弾ませている顔をしていた。……僕もこんな顔だったかー、これはイオくんに食いしん坊呼ばわりされてもやむなし……。
呆れながらイオくんが用意してくれた朝ご飯は、ベーコンエッグの乗った食パンである。美味しそう! と僕がバンザイしている間に、イオくんはテト用の甘いのを……あ、今日はクッキーですか。クルミ入りのクッキーを猫のお皿に盛ってあげたイオくんに、テトは「ありがとー!」とすりすりしている。
「テトには基本、ナツが好きなものを出しておけば間違いないんだよな」
としみじみ言うイオくんである。その通りですとも。
「今日はナズナさんのところに行くんだよね?」
「ああ。まあもう少し経ってからだな。流石に朝早くから押しかけるのは常識的に……」
「たしかに」
常識的な時間帯というと……9時くらいからかな? 今は7時半だから、ちょっと時間を潰さないとね。昨日エクラさんになんか教育を受けてた炎鳥さんの様子でも見に行こうかな。まったり朝食を食べていると、イオくんはステータス画面を操作して何かしている。掲示板でも見てるのかなーと思っていると、「昨日の」と切り出された。
「絵画についてなんだが、どこにも情報がない」
「あ、やっぱりそれ調べてくれてたんだ」
「まあ一応な。多分、前提条件にある『聖獣と神獣からの一定の好感度』ってのが、結構高い値で設定されてるんじゃないかと思う」
「んー? でもラメラさんとは別に長い時間過ごしたわけじゃないし、エクラさんとは仲良しだと思うけど、それはイオくんも同じ条件じゃない? なんで僕にだけクエストが出たのかわかんない」
「……仮説なんだが、ソウのところで、妖精郷の神蛇に捧げ物をしただろう。あれもじゃないか?」
「あー、たしかにテトビタDを差し出したのは僕だったね」
「あれがカウントされるなら、ラメラを助けた話とセットでナツだけ好感度上がりまくってて不思議じゃない」
「貢物って好感度ポイント高いのかな……?」
あ、そういえばあの妖精郷で会えるのは通常ソウさんだけで、神蛇さんには会えないんだよね。そういう存在がいるって聞くだけで遭遇しないから、普通なら好感度なんて上がるはずない。あそこでお供え物をするって行動を選んだ僕のファインプレイ説はたしかにあるかも?
僕えらい! 自分で褒めておきます!
「他に理由を求めるなら、炎鳥の好感度も入ってる説……は、薄いと思うが」
「炎鳥さんは伝説の生き物っぽいけど、名前に神はつかないから聖獣でも神獣でも無いはず……。多分関係ないと思う」
「もし関係あったら、お前が貢ぎまくってる飴のせいで好感度は上がりまくってるだろうな」
「だってひよこが喜ぶんだもん……!」
名付けを許される程度に炎鳥さんからの好感度は高いからね。あの小さいリュビとサフィが羽をばさばさして踊ってくれるほど喜ぶんだから、貢ぐしかないんだよ。
まあ結局あの肖像画クエストについてはよくわかんないけど、これ以上考えたところで多分無意味だし、一旦置いておこう。
さて、それじゃあそろそろご飯も食べ終わって、動き出しますか!
「テト、まずはリュビとサフィと村長さんに挨拶に行こう」
わかったー! おはよーってするのー。
ぴしっと背筋を伸ばすテトさん、今日もやる気に満ちている。テトはいつも元気で良い子だなー。
*
村長さんの庭には、昨日ほどではないにしろ、すでに里の人たちが数人集まって遠巻きに炎鳥さんを拝んでいた。そして庭石の上には小さな社がすでに鎮座していて、真新しいその社の中に折り重なっている2匹のひよこさん。里の人たち仕事が早いなあ。
「サフィ、リュビ、おはよう!」
おはよー!
「よう」
炎鳥さんだし、敬称付けたほうがいいかなと思ったけど、僕としては友達になりたいなーと思うので。敢えて呼び捨てにしてみたけど、ひよこさんたちに文句はないようだ。
「「ぴ!(おはよう!)」」
と元気に挨拶を返してくれた。今日も大変愛くるしい。
「昨日エクラさんとどんな話したの?」
「ぴぃ……(過酷)」
「ぴぴー!(心構えとか、人との距離のとり方とか?)」
「ぴ!(伝説)」
「ぴゅい!(僕達何となく自分の存在意義とか知ってるけど、具体的なお役目とか)」
「そうなんだ。なんか大変そうな話だね……」
ちなみに単語で話しているのがリュビで、長文で話してくれるのはサフィ。2匹とも一人称は「僕」だったけど、いずれはソウさんみたいな威厳のある喋り方になるのかな。
「お家良かったね。居心地はどう?」
「ぴ!(快適)」
「ぴ!(落ち着く)」
「それは良かった。村長さんがソワソワしてるから教えておくね!」
むむむー。テトもおうちほしいのー。
「ぴぃ(推奨)」
テトもお家ほしいのか。僕も欲しいよお家。正しくは収納が欲しい、切実に。テトが昨日の足湯のことをひよこさんたちに話している間に、僕は村長さんを振り返った。イオくんの背後にそわそわと隠れていた村長さん、僕が振り返ると「なっちゃん!」と期待を込めた声が上がる。
「どうじゃ? 里の者が朝一番で作った社祠じゃ、お気に召したかの?」
「快適で落ち着くそうですよ」
「それはよかった!」
僕の言葉に、村長さんだけでなく里の人たちもぱあっと表情を明るくした。朝一番でこのお社作ったのかな? だとしたらだいぶ急いで頑張ってくれたんだろうし、気に入ってもらえて良かったね。
ねーナツー、テトもおうちほしいのー。
「テトさん、お家は社長の許可がいるんだよ。イオくんにおねだりしてください」
わかったのー。イオー!
ぴょーんとひとっ飛びでイオくんの横に移動したテトさんは、小さくてぎゅうぎゅうになるお家が欲しいというようなことをイオくんに一生懸命訴えている。猫って狭いところが好きだから、狭い小部屋がほしいってことか。うーん、そのくらいならどうにかできるかも? まあイオくんに任せよう。にゃにゃにゃにゃーっとおしゃべりするテトをじっと見つめるイオくん、なんとなーく、訴えている内容を理解してそうな雰囲気あるし。
と、その時僕の服の袖を何かがちょいちょいと引っ張った。
「うん?」
なんだろうと思って視線を移すと、そこには僕の服の袖をくちばしでひっぱる、リュビの姿が。小さいくちばしで一生懸命引っ張っているリュビに「どうしたの?」と聞いてみると、リュビはつぶらな眼差しで僕を見上げた。
「ぴ!(交渉)」
「交渉……?」
「ぴぃ!(交換)」
「交換? 何と?」
リュビはそっと僕に小さな赤い産毛を差し出した。ふわっふわの赤い産毛……非常に小さくてかわいい。
「これと、何を交換……って聞くまでもないか。飴?」
「ぴゅい!(正解)」
リュビは踊るように羽をばさばさしつつ、キラキラの眼差し。社の中には、すでに空っぽになった飴の瓶が2つと、飴が2つだけ残っている最後の瓶が1つ。ちょっと食べ過ぎではあるまいか……! えー、どうしようかな。赤と青の飴は、後残り6つ……これは一度、リィフィさんとも商業的な契約をして、依頼を出せるようにしておくべきか……!
「ぴ……?(駄目?)」
若干しょんぼりした様子のひよこさん。駄目といいたいところだけど……流石に良心が痛む。生まれたばっかりのひよこさんの願いなわけだし……今回ばかりは……っ!
「こ、これで最後ね! また作ってもらったら持ってくるから!」
すっと差し出した飴の瓶に、リュビは「ぴぴー!」と大歓喜の鳴き声を上げたのだった。
敗北。
でもまあ喜んでるしいっか! と思った瞬間、手に触れるふぁさっとした感触。
「ぴ!(僕も!)」
そして向けられるサフィのキラキラした眼差し……あれ、デジャブかな? ついさっき全く同じことがあった気がするんだけど……あ、この青い産毛もくれるの? ありがとう、そうだよねリュビにだけあげたら不公平だもんね……。
「わかったよ、これが本当に最後ね……!」
「ぴゅい!(やったー!)」
敗北(二度目)。
2羽のひよこさんたちは大事そうに飴の瓶を抱えて社の中に運び込むと、その一番奥のところに瓶を並べて満足そう。僕は自分をNOと言える日本人だと思ってたけど、NOと言えない方だったようです。でもひよこさんにねだられたら仕方ないと思います……!
うーん、それにしても産毛か。
普通の羽よりも柔らかくて小さくて、ぽわぽわした産毛。これって何に使えるのかな? と<鑑定>してみると、どうやらアクセサリ用の素材らしい。品質は★6、早く<細工>を覚えろってことか。
アクセサリ用の素材は、実際にアクセサリに作るまでどんな効果が付くかわからないし、なんなら同じ素材を使っても組み合わせやタイミングによって性能が変わったりするので、狙った効果をつけるのは結構難しいらしい。素材によって魔力に関する効果とか、ステータスに関する効果とか、一応の方向性はあるらしいんだけど。
現状、アクセサリ作成でどんな効果が付くかは結構ランダム性の強い運ゲーと掲示板には載ってた。能力ガチャか、腕がなるね……! と思う僕なのである。
赤と青の産毛を見て、どんなアクセサリにすればいいのかなー? と考えていると、とととっと僕の前に寄ってきたリュビが、「ぴ!」と一声鳴いてぱっと光を飛ばした。その光はまっすぐに産毛に当たって、次の瞬間、すっとその姿を変える。
「おお?」
なんと、赤と青の産毛が混ざり合って、紫色の産毛1つに合成された。
「えっ、すごい! リュビすごい! 素材を融合した!?」
「ぴぃ!(ふふん)」
リュビは得意げに胸を張ったけど、これはドヤ顔を許されます。むしろドヤ顔をするべき!
むらさきー。すてきー!
いつの間にかイオくんの説得を終えたらしいテトが僕の隣に戻ってきて、紫色の産毛を見て褒め称える。テトは僕とおそろいカラーリングの白と紫色が好きだもんねー。今、リュビが一瞬で、2つのものを融合させたんだよ、すごいよねー。あ、物が変わったということは、もしかして説明文も変わってるかな。一応、もう一回<鑑定>を……。
リュビさん、一体何したのこれ。
非常に貴重とか、めったにお目にかかれないとか書いてあるんですが。あの、これどういうことですかねリュビさーん!?




