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24日目:赤枠のクエスト

 シチューは明日作る事になった。

 僕達は如月くんと連結して潜ったダンジョンの情報をアサギくんに提供したけど、ほとんどイオくんがてきぱき説明しちゃったから、僕が付け足すことはなかった。まあ結構シンプルなダンジョンだったよね、今回。

「連結OKなら夢が広がるな!」

 とアサギくんも嬉しそう。パーティー連結状態で入るのと、パーティーごとで入るのとでは違いがあるのかとか、出やすいダンジョンのタイプとか気になるんだって。たしかに僕もそれは気になるかも。

 例えば今回みたいなモンスターハウスタイプは、僕とイオくんの2人パーティーだとちょっときつい。あのモンスターハウスが連結限定とかだったら、僕達にとっては結構朗報になるよね。


 そんなわけで、ある程度の時間になったら僕たちは自分たちの部屋に撤収して、時間を飛ばす準備……まあ布団を敷くだけなんだけど。

「あと1日でログアウトかな?」

「おう。……あ、兄貴からステーキ肉もらった。ナツ今日食いに来るか?」

「なん……だと……? え、あの写真の?」

「その店で買ったと思うんだけど。ナツが食いに来るなら、夜7時くらい目安に用意しとくけど、どうする?」

「ありがとうイオくんがシェフだ! 食べに行きます!」

「いやシェフではねえわ」

 やったー! こういうとき家が近いのありがたいなー! ひゃっほうと喜びを表現する僕に、イオくんは苦笑する。多分また晴臣さんに友達は大事にしなさいとか言われたんだろうなあ。イオくん家、兄弟仲いいけど長男の晴臣さんが結構心配性で過保護だから、僕も顔合わせるたびにすごい低姿勢で弟をよろしく的なこと言われるんだよねえ。

 イオくんは友達を作れない人じゃないから、そんな心配しなくていいと思うんだけどね。まあ身内が心配って気持ちもわからんでもない。


『さて、楽しかったわナツ、イオ。テトもありがとうね』

 布団の準備が終わると、ひらひらとテトから離れたエクラさんは座卓の上へ。そのまま最初見たときと同じようにすっとエクラさん像に変わった。台座がついているので、安定感のある置物だ。

『里の場所は覚えたから、また時々炎鳥の様子を見に来るわね。ナツも何かあったら遠慮なく私を呼んでちょうだい』

「わー、助かります! 炎鳥さんも頼れる相手がいるとだいぶ違うと思うので」

 エクラかえっちゃうのー?

『私を呼ぶなら、この像に魔力を通してくれればすぐよ。でも、花園にも遊びにきてね』

「はい、また遊びに行きますね」

 リィフィさんの飴の瓶、渡しにいかなきゃだしね。でもそんなに頻繁に通ってもお邪魔だろうし、次行くならもう少し時間を空けたほうがいいかなあ。じゃあまたね、とエクラさんは魔法を解いて、像は物言わぬ神像になる。テトが「かえっちゃったのー」としょんぼりしながらエクラさん像にすりすりしてたけど、また会いに行こうねーと言って慰めておく。

「テトはエクラさんと仲良しだから、淋しいね」

 よしよしと撫でると、テトは「ナツー」と僕の方にすり寄って来てごろごろ喉を鳴らす。やはり慰め撫でられ待ちであったか。


「さて、寝る前にナツがすっかり忘れてそうなことを終わらせるか。明日シチュー作るのは確定として、できれば午前中のうちにナズナの家に行って火山の話を聞きたい。ただし、火山へ行くのはギルドができてからだ。具体的には、転移装置を登録してから」

「ああ、多分午後僕達がログアウトしている間にギルドの誘致終わってそうだよね。明日もダンジョン行く?」

「午前中の成果次第だな。突発的に何かイベントが起こるかもしれないし」

 たしかに。クエストは突然くるもの、イベントは突然起こるものだからなあ。ナズナさんのご家族、ほぼ全員と知り合いになるからにはなんかクエストありそうな気がするよね。

「……あ、イオくん足湯のクエストはクリアになってる?」

「おう。ちゃんとクリアしてたぞ」

「よかった!」

 足湯、あのあと東屋みたいに屋根をつけようって話をアサギくんがしてたから、まだクリアしてないかもって思ってたんだ。中途半端に関わってクリアできなかったら悲しいからね。

「じゃあもう憂いなく明日に時間を飛ばして……」

「だめだ。ナツにはまだ仕事がある」

「え」

「すーっかり忘れてるだろうが、お前のお守りと物々交換された品物を確認する作業が終わってねえ。正直インベントリ圧迫しすぎて本気で困ってるからこれは今日終わらせたい」

「あー!」


 忘れてた。そういえばそんな事もあった! イオくんが僕の代わりに物々交換の品物受け取ってくれてたんだっけ。

「すっかり忘れてた……。イナバさんがなんか割合回復の薬くれたことくらいしか覚えてない……!」

「あー、魔力薬か。あれはあの後30個くらいもらったな」

「多いよ!?」

 イオくんも、この薬は成長後に使ったら良さそうだと思って受け取ってたらしいんだけど、最初にこの薬を出したイナバさんが5個くれたからか、その後もこの薬を出す人は5個前後くれたんだそうで。ついでに魔力回復じゃなくてHP回復の体力薬っていうのもあるらしい。そっちも同数くらいだって。

「品質が★4か★5だったから、あまり場所も取らないし、共有インベントリに入れてるからナツは魔力の方持ってってくれ」

「了解」

 ステータス画面を開いて共有インベントリから魔力薬を引き取る。っていうか共有インベントリぎっちぎちじゃん……! いよいよ手持ちアイテム整理しないとまずいなあ。

「食品類は俺がひきとったから、そっちは問題ない。白菜も無事にいくつか手に入った」

「素晴らしい!」

「で、問題はこの辺だ」

 

 イオくんが次々座卓の上に出してきたものは、竹で編んだカゴとか、一輪挿しとか、インテリアになる和風小物だ。木製の、背もたれのない椅子とかもあって、一つ一つ手作りなんだろうなというのがわかる。丁寧な仕事……! これ作ってるところ見たい!

「これは……かさばるね……」

 竹製のコースターとかもあるけど、僕達コースター別の使ってるしなあ……。拠点ができたらぜひ使いたいけど、流石に今いくつもはいらない。こっちのカゴは……あ、これってもしかして。

「<鑑定>……イオくんこれマジックバッグだよ。枠3つだけの小収納」

「お、マジか。じゃあこれにでかい椅子とかは入れとくか」

 マジックバッグって結構お高いんだけど、僕のMPとまとめ売りの木材の対価としてもらっちゃってよかったのかな。初期に覚えたお札は品質★3~4で安定した物を作れているはずだから、一応、店売りのクオリティにはなると思うんだけど。たしか、サンガでみたときは1枠100,000Gくらいの値段換算だったはずだから……3枠あったらそれでも300,000Gの価値があるわけで。

 うん、どう考えてももらいすぎだけど、まあ、くれるって言うならいっか!


 イオくんは木製の椅子と、丸めた敷物……ござ? っていうんだっけ。それをぱぱっとカゴに入れた。最後に入れようとしたのは、なんか薄い紙に包まれた板みたいなやつだ。大きさはコピー用紙のA3よりちょっと大きいくらい。……なんか、僕の<グッドラック>さんがこれはよいものです! って言ってる気がする。

「イオくん、それ何?」

「わからん。でかいから入れようかと」

「ちょっと中見せて欲しい」

 僕が言うと、イオくんは「ああ」って感じでぱぱっと梱包を解いた。僕がこういう要求するときは大体<グッドラック>だなって思うらしい。正解だけども。スピーディに、しかし丁寧に紙を剥ぎ取られた中身は、1枚の絵画だった。

「水墨画じゃなかった」

「里が和風だから全部和風で来るかと思ったけど……なんだろうな、油絵と水彩画の中間みたいな」

「えーと、とりあえず<鑑定>を」


 描かれていたのは、一人の女性。

 きりりと意思の強そうな眼差しをした、第一印象「精悍」って感じの、好戦的な表情をたたえた女性だ。

 よく見るとすごく美人さん何だけど、そこに気づくより先に「強そう」って思ってしまう感じの、勝ち気な美女。年齢は20代前半くらいに見える。角は1本だから普通の鬼人さんなんだろうけど、すごく只者ではない雰囲気を醸し出していた。黒髪は高いところで結い上げて、ポニーテールにしている。姉御、って呼びたい感じだなあ。

「勇者ナカゴの肖像画。戦時中に大量に作られたものの一つ。鬼人の里で一定の好感度を得たとき、入手できる……勇者だってイオくん!」

「おお……? ナカゴって拳で戦う『粉砕』のナカゴだったよな、勝手に男だと思ってた」

「ああ!」

 サンガでプリンさんに聞いたやつ! 勇者は6人いて、それぞれ初期に選べる6種族から1人ずつ選ばれていたっけ。それで、鬼人代表がその『粉砕』のナカゴだ。文字だけで聞いてる限り、僕も男性だと思ってたよ。

 あ、でも。

「戻らなかった勇者、だね」

 確か6人のうち、無事に助かった勇者は2人だけ。エルフとフェアリーの後衛だけだった、はずだ。前衛で戦っていた4人は、魔王の自爆みたいなのに巻き込まれて戻らなかったという話だった。


 生き生きとした好戦的な眼差しは、格上に挑むときのイオくんにちょっと似ている。この人は、鬼人さんたちの誇りだったのだろうし、だからこそこうして肖像画が残っているんだろう。もらっちゃっていいんだろうか、と疑問に思いつつ絵画に触れると、ぴろんと視界の隅にシステムアナウンスが流れた。

 新規クエスト?

「……イオくん、勇者の肖像画を集めようっていうクエスト出てるんだけど……」

「俺の方は出てないぞ?」

「え、僕だけ? なんで?」

「クエスト詳細になんか書いてないか?」

 それだ!

 えーと、クエストの画面を開いて……ええー? なんかちょっと色が違う……! 普通のクエストは白枠で囲ってあるんだけど、このクエスト枠の色が赤いんだけど。赤って他にあるっけ……と思ってクエスト一覧をスクロールしていったら、呪いのアイテムをクルムの教会に届けるクエストが、唯一赤枠だった。ということは、これ結構重要クエストなのかも。

「クエスト発生条件、聖獣と神獣からの一定の好感度だって!」

「あー、ナツは聖獣とも会ってるからな。俺、海竜とは会ってない」

「そこかあ!」

 そういえば海竜のラメラさんとは、別行動したときに会ったんだっけ。テトと一緒だったね? と視線を向けると、テトさんは僕が寝る予定の布団の上でうとうとしていた。これはそっとしておこう……。


「これすごいクエストな気がする。報酬が伏せられてるし、なんかこう、<グッドラック>さんが絶対に達成しましょうって訴えてくる気がする……!」

「んー。勇者の肖像を集める、か。鬼人の里で友好度を上げたら勇者ナカゴの肖像画がもらえたってことは、他の種族とも交流を深めていけばもらえるか……」

「その可能性が高いけど、それだけが条件とも思わないんだよね」

 気になって掲示板で「勇者」「絵」とか「絵画」「肖像」とかで検索してみたんだけど、それらしい話をしている人が誰もいない。なんかに引っかかって書き込めない場合でも、ほのめかす言葉くらいならあっていいはずだけど、それもない。ということはこの絵画を入手できる条件は結構厳しいはずだ。

 そもそも、友好度って見えないデータだから、自分がどこまでそれを上げてるのかもわかんないんだよなあ……!

「うーん、現時点では不明の要素が多い……!」

「一旦、梱包し直すぞ」

「お願いします!」

 イオくんが丁寧に絵画を梱包してくれている様子を見ながら、僕はなんだか胸がざわざわした。このクエストを、絶対に達成しなければならないような、そんな気がする。<グッドラック>さんがそう言ってる。めちゃくちゃ気になっちゃうじゃんこんなの。


 達成したら、一体何が起こるんだろう?

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