24日目:雷鳴さんの不思議ダンジョン(野菜)
ギルドに泊まりに行くというガイさんと如月くんに手を振り、村長さんの家に戻ってきた僕達。気になったので庭の方に顔を出すと、やりきった感じのエクラさんと何故かぐったりと眠りこけているひよこさん2匹がいた。僕達が戻ったことに気付いたエクラさんは、すぐにひらひらとこちらに向かってきたので、テトが途中まで迎えに行く。さすが白猫騎士、気が利くね。
エクラー! ただいまー!
『はい、おかえりなさい。炎鳥たちはお疲れで寝ちゃったわ、そっとしておいてあげてね』
わかったー!
和やかに会話するテトとエクラさん、あまりにも微笑ましい。僕も会話に入りたかったけど、エクラさんの念話は僕達と如月くんにしか聞こえないから、ぐっと我慢なのだ。独り言が多い人間になってしまう。
っていうかエクラさん、一体何をしてたんだろう。ひよこさんたちが疲れて寝ちゃうとは、一体どんな話を……? 気になるけど、一旦置いておいて、まずは夕飯からだ。
とりあえずダンジョンの話が先! ということで、みんなでぞろぞろアサギくんの使っている部屋へ向かう。座卓を囲んで適当に夕飯を食べながら……という話だったので、僕はイオくんにスープカレーを出してもらった。具がゴロゴロしてるので食べごたえもあるし、足湯であったまった体をさらにポカポカにしてくれそう。
僕がリクエストするとイオくんは鍋ごと取り出すので、カレーの良い匂いがふわっと広がった。とたん、びしっと正座したアサギくんと雷鳴さんが、同じタイミングでははーっと土下座した。何て息が合うんだ……!
「お恵みを! イオ様!」
「スープカレーのためならば、ダンジョン産野菜を分けることも辞さない……!」
「お前たちが腹減ってることはよくわかった。器は出せよ」
「やった!」
「神!」
このノリの良さだよ。まあカレーはスープだろうがなんだろうがカレーだからね、問答無用だ、仕方ないね。
「サンガの屋台で売ってるスープカレーだぞ」
「俺一回も買えなかったー! カレーライスには一回遭遇できたんだけどな」
「僕は遭遇できなかった。まあ滞在期間も短かったし」
そそくさとインベントリから器を出して、イオくんにスープカレーをよそってもらう2人である。僕とイオくんのぶんは先に確保しておいてくれるあたり、さすがイオくん抜け目ないな。
『あれは美味しいの?』
あれねー、からいのー。テトはあまいのがすきー。
『まあそうなのね』
なんてエクラさんを頭の上に乗っけたテトが和む会話をしている。うちの猫は辛いのも酸っぱいのもあんまり得意じゃないから、夕飯も甘いのが良さそうだ。
「テトのご飯何にしようかな? あ、レーズンパンとかどう? 干しブドウが入ってるんだよー」
ナツえらんだのにするー。
テトは基本、僕が勧めるものは何でも美味しいと思っているところがあるので、こういうときお任せにためらいがない。わくわくと瞳を輝かせるテトの前に、猫の形のお皿を出して、その上にサンガでもらったレーズンパンを乗せた。このレーズンパン、レーズンたっぷりでずっしり重く、パンの上にグラニュー糖がかかっていてとっても良い匂いがするのです……。
ちなみに僕は事前に1個食べた。上にかかってるグラニュー糖のザラッとした食感が大変よろしいのである。テトは木の実とか果物とか好きだから、多分これ気にいると思うよ。
「はい、どうぞ」
ありがとー!
にゃーん! と元気にお礼を言うテトは、輝かしいレーズンパンをまずじっと見つめた。お砂糖が白いから大変お気に召したらしい。
「ナツそれリアルでも好きだよな、レーズンパン」
「僕はめっちゃ好き。でもこれ苦手な人がいるのも理解はできる」
というか僕はパンに他の素材が練り込まれて入ってるのが好きなんだよね。くるみパンも好きだしゴマたっぷり入ったのとかも良い。チーズが練り込んであるのももちろん大好き。レーズンパンは、あくまで干しブドウなのでちょっと噛んだときにぐにゃっとするのが苦手、ってお父さんは言ってたっけ。
全員にスープカレーが行き渡って、まずはいただきます。問答無用でお腹を空かせにくるこのスパイスの匂い、やはりカレーは強いなあ。味の染み込んだじゃがいも、柔らかく煮込まれた肉も大変美味しゅうございます。隠し味的なスパイスの味も、慣れてくるとかなりしっくりくる。
全員でスープカレーを噛み締めていると、僕の隣でテトがにゃあんと甘えた声を出した。
あまーい! ナツ、これおいしいのー!
「テト気に入った? 僕もレーズンパンお気に入りだよー」
しゃくしゃくするー。おもしろーい。エクラにもちょっとわけてあげるのー。
『まあ、嬉しいわ。ありがとうテト』
レーズンの食感がしゃくしゃく? ってことかな。テトの表現面白いなあ。美味しいものをエクラさんにも分けてあげるとは、優しくて素晴らしいと思います。アサギくんと雷鳴さんがいるから、エクラさんにもどうぞって別に出してあげられないからなあ。
そんな感じで和やかに夕飯を食べていた僕達だけど、一息ついたあたりでそろそろ本題に入ろうか、となった。というわけで、トップバッターは待望の雷鳴さんだ。
「さ、そろそろ雷さんの話頼む。ソロダンジョンどうだった?」
とアサギくんが話を振ったところ、雷鳴さんはスプーンをぐっと握りしめる。
「そう、足を踏み入れるとそこには、トウモロコシ畑があったんだ……!」
「なんて?」
「トウモロコシ畑だよ、巨大なトウモロコシ畑! トウモロコシ畑の迷路がそこに!」
雷鳴さんは一気にテンションを上げて、ダンジョンでの出来事を説明し始める。最初っから雷鳴さんにとってはクライマックスだったのかもしれない。
「迷路だったんだ? リアルにもあるよね、トウモロコシ迷路」
僕も話を振ってみると、雷鳴さんは「まさにあれだよ!」と更にテンションを上げる。
「トウモロコシも採取できるかと思ってたんだけど、残念ながら収穫できなかったんだ。その代わり迷路を進んでいくと一定の距離事に少し広いスペースがあって、そこに中ボスがいる仕様だったよ。イノシシとかサルとか野菜畑を荒らしそうな魔物が配置されててちょっと面白かったな」
雷鳴さんの知識や、アナトラでの言動を参照して作られるダンジョンだからねえ。雷鳴さんが害獣と認識している動物の魔物が出るというのは納得できる。っていうかサルって野菜畑荒らすの……? と思っていたら、イオくんに
「ナツの中でサルのイメージって温泉入ってるやつだろ」
と指摘されました。ハイ。そのとおりです……。
「野生動物の大半は畑を荒らすんだよナツ。そのための対策は大事なことなんだ」
「あんまりそういうイメージが無かったので……! そもそも野生動物に遭遇することがあまりないというか、縁がないのでどんな感じなのかよくわからないというか」
何しろモグラにすら遭遇したことないからね僕。サルもイノシシもテレビでしか見たことがない。というようなことを告げると、雷鳴さんは「そうなんだ」と意外そうな顔をした。
「男ならみんな、一度は熊撃ちハンターに憧れて猟友会を目指すものだと思ってた」
「雷鳴さん流石に偏見では!?」
「わかる」
「イオくんわかっちゃったかあー!」
そんな力強く肯定できるんだ……? りょうゆうかい、ってそもそも何。よくわからん単語に僕が首をかしげているうちに、イオくんと雷鳴さんは何故か意気投合している。
「俺の場合は某白い死神の影響も大きい」
「あー、わかるよ。戦争モチーフ系のゲームを通っていれば、誰もが憧れるであろうスナイパーだね」
「だが性に合わなかった。俺なら直接ぶん殴ったほうが早い」
「ああ」
イオくんのスマートヤンキー要素については雷鳴さんもすでに察しているらしく、なんか納得して頷いている。まあイオくんだからね、遠距離攻撃なんかまどろっこしくなって直で殴りにいくよね当然。
「まあとにかく、中ボスは1匹ずつ配置されていたから、各個撃破していく形だったよ。僕は結構適当に進んでいたから迷路をクリアするのに少し時間がかかったんだけれど」
「クリアタイムどのくらいだった?」
「3時間まではいかなかったかな?」
それは結構時間がかかった方かな。
アサギくんが出てきた敵の詳細とかを聞き取って、メモしている。これはもう少し里の準備が整ったら、後でまとめて掲示板の方に投下する予定らしい。雷鳴さんのダンジョンは中ボスを5匹倒したらゴールと宝箱が出てきて、宝箱はその時点で金色だったらしい。1匹倒す事にランクアップしていたのではないか、という推測できる。
なぜなら僕達の方の宝箱は2回ともランクアップ方式だったからね! 早めにリタイアする人にも優しい仕様だ。
「僕は念じたんだ、野菜をくださいと。ダンジョン特有の野菜が欲しいと」
「雷鳴さん、幸運のステータスいくつ?」
「30。正直宝箱開ける直前に余っていたPPを全部幸運に振ったよ」
「本気だ……!」
ということは、雷鳴さんも幸運の数値が宝箱に影響するらしいって話は知ってたのか。幸運30って、多分この世界ではそこそこ高い方の数字だろうな。イオくんの幸運なんて未だ11しかないしね。
「そして出てきたのがこちらです」
雷鳴さんは座卓の上に野菜が詰まったカゴをどんと置いた。
さて、そのカゴの中身がどんなものだったかと言うと。
まず中央に鎮座する金色のニンジンが数本。光り輝いている。メタリックな質感だけど、ちゃんとニンジンの形である。そしてその右側には同じく金色に輝くキャベツ。丸々と大きい。更に左側にあるのが同じく金色のじゃがいも。奥の方にあるのが金色の玉ねぎ。
「……きらっきらだね……」
「食い物って感じしねえなあ……」
「金属じゃなくて野菜なんだよなこれ。雷さん<鑑定>していい?」
「どうぞ」
お、じゃあ僕も便乗して<鑑定>……。統治神スペルシアがトラベラーの強い願いに答えて作り出した作物。<調理>の上級スキルを持っていなければ扱うことができない。この作物を使って作った料理には、もれなく特殊な効果が付く。品質表示がないあたり、かなり特殊なアイテムと見た。
「雷鳴さんこれ料理してみる?」
ワクワクしながら問いかけると、雷鳴さんは口元にかすかな笑みを浮かべて、金色のニンジン・玉ねぎ・じゃがいもを1個ずつカゴから出した。それをイオくんの方にすすっとすべらせて「どうぞ」と。
「……俺に使えと?」
「僕、<調理>レベルまだ7なんだ」
「あー。調理前提条件な」
<調理>の上級スキルを持っていないと扱えないって言ってるからなあ。イオくんの<料理>なら行けると思うけど、失敗するかどうかも気になるね。
アサギくんも金色の野菜を興味深そうに観察しつつ、「特殊効果ってのが気になるな」と呟いた。だよねー、気になるよね。普通にバフがかかる程度なら、特殊効果っていう表現にはならなさそうなんだよなあ。ねえテトさん? と隣のテトに話を振ってみると、テトは真剣な表情で野菜をじっと見ていた。
にんじん、たまねぎ、じゃがいも。……しろいの! イオー! しろくておいしいのつくってー!
「あ、テトからホワイトシチューのリクエストですイオくん」
「この前作っただろ?」
おいしいのー。
「美味しかったって」
「む」
そう言われるとなあ、と身内に甘い社長は難しい顔をする。
「作ってやりたいのは山々だが、もう牛乳が少ないから無理だぞ」
そんなー!
「牛乳ならあるよ僕。サンガで買い込んだから」
らいめいー! えらーい!!
にゃーん! ととびっきり嬉しそうに鳴いたテトは、雷鳴さんに体当り&すりすりで全力喜びの表現だ。かまどでつくったシチュー、テトはものすごく気に入ってたもんな。甘味を除けばおそらくテトの中で美味しいごはんのランキング1位なんじゃないだろうか。甘味を入れちゃうとヴェダルさんのモンブランが圧勝だけれども。
「流石に今日は無理だが、明日作ってみるか」
「「イオ様!!」」
「雷鳴の野菜だし、ちゃんと分けるから土下座はやめろ」
イオくんが呆れたような目でひれ伏した雷鳴さんとアサギくんを見ている。……なんかこの2人、こういうときのノリが同じだなあ。




