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24日目:まったりも必要なのだ。

「えっと、この石を、こう、ここの窪みに入れて、ですねぇ……。これで、窪みの底の魔石と触れるのでぇ……あ、出てきましたぁ」

 知らない人がたくさんいる中で、アヤメさんが頑張って魔道具の説明をしている。僕はアヤメさんの希望で、その正面に立っていた。人見知りのアヤメさんがこんな大勢の前で話をするには、誰か知っている人に話しかける風を装ってみんなに聞かせるのが一番スムーズだという話である。

「すごい、お湯が湧いてきた!」

「え、えへへ。地下と、つながってるんですぅ。前使ってた、汲み上げの魔道具が、温泉をあそこまで汲み上げてぇ……。戦前、は、地下水も、同じように……で、でも、片方魔道具、壊れちゃったのでぇ。物置を探してぇ……」

「新しい魔道具を探し出した? この短期間にすごいね!」

「ふ、ふふふ。ユズキと、頑張りましたぁ……」

 本当に嬉しそうにそう言ったアヤメさんは、ニコニコしながら新しい魔道具を説明してくれる。2つのボール状の魔道具をリンクさせて、片方をお湯の方に、片方をそのお湯を送る方に入れて双方に魔石を使うらしい。これはあまり沢山の量は送れないので、昔湯屋をやっていたときに使おうとして使えなかったものなのだそう。

 アヤメさんがぼんやりと覚えていたそれを探していたら、ユズキくんも一緒に張って物置から探し出してくれたのだとか。


「そうなんだ! たしかに足湯にはそんなに沢山のお湯はいらないもんね」

「そ、そうなんですぅ。地下水の、方も、一時的に、別のポンプをおいてましてぇ。ただ、古いものなので、いつまで持つかなって……」

「その間に修理するんだ?」

「枝道が、つながったのでぇ……。サンガで、魔道具士の方に、依頼できたらなって……」

「なるほど! ナイスアイデア!」

 鬼人さんたちは魔法使えない人が多いから、魔道具を作ったり修理したりする人もこの里にはいないみたいだ。今ならサンガと道がつながっているから、他の街に依頼ができる。よいタイミングだったね。

 僕とアヤメさんが真剣にそんな話をしているというのに、隣のイオくんは足湯が溜まっていく様子をそわそわしながら見ていやがる。楽しみなんだねイオくん……。なんか無邪気な子どものように、ワクワクしているのが伝わってくるので微笑ましいな。

 一通りの説明を終えると、アヤメさんは暗くなる前に帰っていった。やはり知らない人たちの中にいるのはしんどかったらしい。送って行こうか? って話をしたら、テトが「テトがまもってあげるよー!」と張り切って請け負ってくれたので、お任せすることにした。


「テトさん、アヤメさんのこと無事に送っていってね」

 まかせるのー。イオみたいにきょだいなてきをうちたおすのー。

「テトさん戦えないでしょ……!」

 ……きょだいなてきからかれいににげるのー。

「よろしい!」

 ダンジョンでイオくんと熊のタイマンを見たせいかなー? 今日のテトさん好戦的だね……。でもふんすっとやる気に満ちている白猫はかわいいので全て許されます。

「じゃあ白猫の騎士さん、アヤメさんのこと乗せてあげてー」

 はーい! アヤメのっていいよー、テトきしさんなのー。

「おおおおお願い、しますぅ……!」

 アヤメさんなんで緊張してんの? って思ったら、前にテト見たときに一回乗ってみたいなって思ってたらしい。乗れるのが嬉しくてどもっちゃったんだって。なんて微笑ましいんだ。

 白猫の騎士はイオくん用の称号にしようと思ってたんだけど、テトのほうがしっくりきそうなので使ってみたらテト大喜びでした。テトの中では騎士=イオくんだから、とっても強いよ! って言われてるみたいでご満悦らしい。やはりイオくんは今後も料理人騎士続投だね。


 またねーと手を振ってお見送りから戻ると、足湯ゾーンはすでに僕以外全員が足を突っ込んでだらーっとしていた。お、おお……至福の顔をしている……!

「座布団ちゃんと敷いてる?」

「なっちゃんこれは最高だ……。座布団ならちゃんと敷いてるから、早く入るべき……!」

「アサギくんが溶けてる……!」

 まあ温泉気持ちいいからね、わかるよ。僕はイオくんの隣に滑り込んで、足装備を解除して、チノパンを折る。そそくさと足湯に足をつければ、ちょうどいい温度のお湯がじんわりと足元を包んだ。リアルでも最近はシャワーで全部終わらせてたから、お湯に浸る感覚ちょっと久しぶりかも。

「ふはー」

 と力が抜ける。全員リラックスムードなことを確認して、僕はインベントリからすっとおせんべいを取り出した。さっき集会所でもらったやつ。


「これ、お餅を揚げたおせんべい。リアルだとおかきの分類だと思うんだけど、里ではこれがおせんべいらしいから」

「おお、丁度小腹がすいていたところだ、もらおうかの」

 向かいにいたガイさんが真っ先に手を伸ばして、薄くて白いおせんべいを持っていく。そのままカリッと口に入れて、おお、と目を見開いた。

「甘いな!」

 驚いたような声だったけど、このおせんべいの原材料はもち米だからね。お米はしっかり噛むと甘くなるものだ。里では正月にお祝いとしてお餅を食べるので、戦時中からもち米だけは厳重に保管していたんだって。最近枝道ができて、使節団からの連絡でサンガでもち米を買えることがわかったから、残っていた古米が解禁されたらしい。それで、貴重なおやつとして作られたおせんべいなのだそう。

「おお、さくさくだな」

 と食感に言及したイオくん。

「ちなみに市販の切り餅に薄い板タイプのものがあるから、ご家庭でも近いものが作れるはず。味をつけるなら醤油がおそらくベストチョイスになるのではないだろうか」

 謎の豆知識を付け加えたのは雷鳴さんだ。

「油で揚げればいいのか?」

「そうそう、のり塩もいいかもね」

 お、これはリアルでイオくんが作ってくれるやつ? 今の素材の味を活かしたほんのり甘いのも美味しいけど、しょっぱくしても絶対に美味しいはずだ、楽しみにしてよう。


「おばあちゃんが作ってくれた四角いのに味が似てる……」

 と謎の感動をしているのは如月くんだ。四角いの……って小さいサイコロみたいな形のやつかな、あられだね。家のおばあちゃんも塩ふって作ってくれたけど、雷鳴さんが言ってたお醤油でも美味しそうだなあ。そして如月くんの向かいで一心不乱に貪り食ってるアサギくん……もしや空腹でしたか……。

「うめー! 空きっ腹に染みるー!」

「アサギくん、昼ご飯食べてない?」

「忘れてたんだよ、色々話し合うことが多くってさー。あっちもこっちもって動いてたら、いつの間にかなー」

「ワーカホリックな人の発言してる……!」

 アナトラはしっかりお腹が空くから、1食抜いたら結構辛いんだよね。……まあそんな空腹状態で歩き回ってた雷鳴さんもいるので、動けなくなるほどじゃないはずなんだけど。

 とはいえ、もうそろそろ夕飯の時間か……。でもまだ足湯から動きたくないな……。とまったりしていると、アヤメさんを送っていったテトがにゃーんと楽しそうに飛んで戻ってきた。

 ナツー! ただいまー!

「テトおかえり。アヤメさん送ってくれてありがとうね」

 どういたしましてー! 


 軽やかなステップで僕の隣にぴとっと座ったテトさん、目の前の足湯を目にして不思議そうに首をかしげる。

 ナツー、おみずあったかい? これなあにー?

「足湯だよー。あったかいお水に足を入れると、癒し効果があるんだ……」

 あしゆ……イオいってたやつ?

「そうそう、イオくんが好きなやつね」

 ふーん、とテトは不思議そうな顔をして、僕、イオくん、如月くん、アサギくん、雷鳴さん、ガイさん、と順番に視線をむける。うむむ? と小さく唸った。それから、そーっと前足をお湯に伸ばして……お湯に触ったらびゃっと総毛立つ。

 ナツー! てきおんってしてー!

「テトさん、ここはこれが適温なんだよ。足湯はこのくらいの温度で入るものなんだ」

 えー。あついのー。

「テトは無理しなくていいよ。もう暗くなるからそろそろ帰ろうか?」

 ごはんー?

「そうそう、夕ご飯食べないとねー」


「そう言えば、ナツたちはどこに泊まっているんじゃ? 俺達が昨夜泊まったキャンプ地にはいなかったな」

 ふと気づいたようにこっちを向いたのはガイさんだ。如月くんとガイさんは昨日たどり着いたんだっけ? キャンプ地ってことは、近くのセーフエリアに泊まったのだろう。

「僕とイオくんは、アサギくんと同じで村長さんの家に泊まってますね」

「ほう、住人の家に泊まっているのか」

 ……ということは、ガイさんは今日どこに泊まるんだろう? また外のセーフエリアに戻ってテントを張るのかな……でもそれだと明日また来ないといけないし、ちょっと面倒だね。

 と思っていると、アサギくんが「あ、ガイさんそれだけど」とせんべいを飲み込んでから口を挟む。

「ギルドの清掃終わったから、あそこの2階使って! ギルドが正式に来るまではただで開放するし」

「おお、それはありがたい。里の外に出るのは面倒でな」

「如月くんも、泊まるところなかったらギルドの2階使っていいから。雑魚寝になるけど」

 2階は作業場と就寝スペースになるように、大きな部屋が2つ分区切ってある。アナトラの睡眠は基本時間スキップだから、あれだけの場所があれば十分だ。

「ありがとうございます、助かります」

「僕は?」

「雷さんは今日は俺の部屋泊まってって。ダンジョンの話聞かないと」

「……そうだった、ダンジョン」


 あ、それがあったな。僕達も今日のダンジョンについてアサギくんと話しないと。如月くんも来るかな? と思って視線を送ってみると、そっと首を振られた。お任せしますってことだろう。

 たしかに、3人でダンジョンに行ったんだから、僕とイオくんで話せばいいか。僕達が気づいてないことがあるかもしれないけど、これからもトラベラーさんたちが張り切って情報を集めるんだろうし。

「おお、そのダンジョンな。儂も行っていいのか?」

「もちろん! 行ったらどんなダンジョンだったか情報プリーズ!」

「明日行ってこようと思ってな。楽しみじゃ」

 この中でダンジョン行ってないのって、アサギくんとガイさんだけかな? いっそ2人で行ってきちゃえば? と提案したけど、アサギくんは今日も明日も打ち合わせが詰まっているらしい。「雪乃が戻って来るまで行けそうにないんだよなー」と残念そうだ。となると。

「ガイさんソロでチャレンジですか?」

「ああ。この斧でどこまで行けるか試したいんじゃ」

 腰に差した斧をぽんぽんと叩くガイさん。斧使いなのかー、斧で戦ってる人には初めて会ったかも。他のゲームのお陰で斧って重量武器のイメージが強いんだけど、ガイさんが使ってるのは片手斧だ。イオくんの剣より間合い短そうな、小ぶりの斧。重そうだから剣ほど素早く振れないと思うんだけど、重い武器はそれだけでダメージ増える。モンスターハウスとかに当たったら苦労しそうだけど、1対1なら良い感じに戦えそう……?


 さて、それじゃあそろそろ足を【ドライ】で乾かしてから、足装備をつけて……イオくん何してるの、戻るよー? テトも待ってるよー?

「俺ここに住みたい……」

「イオくん、足湯に心奪われてるところ申し訳ないんだけど、テトさんがごはんの歌を歌ってるから帰ろう?」

「くっそ、帰る以外の選択肢がなくなる……!」

 若干ごねるイオくんの後ろで、テトさんが尻尾をゆったりと振りながら「ごーはーんー♪ ごはーん♪ なーにっかなー♪」と歌っている。足湯と言えども、流石にこの歌にはかなうまい……ほんとイオくんに聞かせたいこれ。家の猫超かわいい。

 渋々立ち上がったイオくんに【ドライ】をかけると、「サンキュ」とお礼が返ってくる。あっという間に足装備を付けたイオくんは、まだ名残惜しげに足湯に熱視線を送っていた。

 ごはーんー!

 とテトに服をぐいぐいされて、ようやく諦めのため息を吐く。

「わかった、わかったから引っ張るな」

 もー! ごはんだいじなんだよー! しっかりするのー!

「よくわからんが多分怒られてるなこれ」

 むしろよくわかったねイオくん。テトにしっかりしろって言われてるよ。まあだらけるイオくんなんて今まで見たことがなかったテトさんなので、そこは甘んじて叱られるがよいよ!

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