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24日目:足湯作りに着手する

 <バードフレンドリー> この世界の鳥への餌付けが成功しやすくなる。鳥の言っていることがなんとなくわかる。


 ……という、固定スキルでした。

 テトと契約したときにもらった<意思疎通>は、僕には副音声のほうが強く聞こえて、その後ろでにゃーにゃー鳴いてる感じに聞こえる。こっちの<バードフレンドリー>は、鳴き声のほうが前に聞こえて、副音声っぽいのは小さくぼんやり聞こえる感じだから、ちゃんと集中しないとしっかり理解はできない。

 個人的には、この世界の鳥、ってところがポイントだと思う。

 多分、鳥の契約獣さんと契約して仲良くしてても、このスキルを取得する為の条件は満たせないってことだ。契約獣さんは他の世界から来てる子たちだもんね。

「つまりこの世界の猫と仲良くすれば、<キャットフレンドリー>スキルが習得できる可能性があると思います!」

「はいはい、足湯作ってから詳しく聞いてやるから」

「荷物のように運ぶのはやめようよイオくん」

「お前の足が動かなかったのが悪い」

 ぐ、ぐぬぬ。それを言われると仕方ないと思っちゃうんだけど、でも僕を首根っこ掴んで持ち上げて運ぶのは! やめようよ! と必死に訴える僕である。


 スキル習得したからにはさー、せっかく目の前にひよこさんがいるんだから、試してみたいじゃん。飴美味しい? みたいな簡単な会話を振ってみたところ、ひよこさんたちもお返事してくれまして。ただちょっと聞こえ方にクセがあるから慣れないなーと思っていたところ、しびれを切らしたイオくんにひょいっと持ち上げられました。

「足湯」

 という一言とともに、そのままドナドナされる僕。

 イオちからもちー!

 と何故か嬉しそうなテトさんがその後に続き、「その持ち方どうなんですか!?」と慌てる如月くんも続く。待って今ひよこさんと話をしてたんだよ!? と訴えたところ、「そんなことより足湯だ」と言い切られたのであった。

 たしかに、アサギくんの指定した再集合時刻はもう間近。移動しないと間に合わない。イオくんが珍しくやる気になっている足湯作りだし、僕としても喜んで手伝うつもりだったんだけれども。

「ナツがああなったら長いからな」

「おっしゃるとおりでございますぅ!」

 たしかにうっかり時間を忘れて会話しちゃいそうだったよ! くっ、時間管理も完璧なイケメン、えらいと思います……! 炎鳥さんとの会話は後からでもできるからね……!


 さすがのイオくんも首根っこ掴んで荷物のように持ち運び続けるのはちょっとな……と思ってくれたようで、途中からテトに乗せられる。許されました。

「だ、大丈夫ですか……?」

「心配ありがとう如月くん……許されたから大丈夫! テトも乗せてくれてありがとねー」

 ナツとおさんぽー!

 嬉しそうにそんなことを言ってくれるテト、良い子だなー。撫でましょう。

「エクラさんは置いてきて良かったんですか?」

「炎鳥さんとお話があるんだって。エクラさんは僕達以外に見えないようにしてるから、騒ぎになることはないと思うよ」

 あのねー、こころえ? をおしえるんだってー。

「心得を教える……? 伝説の生き物としての?」

 なんかそれすごい話になりそうだなあ。ちょっと興味あるけど、盗み聞きは良くないし、あとでひよこさんたちに聞いてみようっと。


 きびきび歩くイオくんの後について、テトは楽しそうに歩いていく。背中に僕が居て、前にイオくんが居て、隣に如月くんがいるのでとってもごきげんだ。

「それにしても、足湯ですか。露天風呂とかも欲しいですねー」

「いずれそれも作れるだろう。まず足湯は早急に作らないと、湯の里と名付けた意味がないからな」

 いつになくやる気のイオくんに、如月くんも「そうですね」と頷く。

「地図にも「湯の里」で載ってますし、やっぱり温泉は期待しちゃいますよ」

 それは本当にそうだと思うので、僕もしみじみ頷いておいた。ギルドはだいたい形ができたけど、あそこの広場に本当は足湯置きたかったよね。お湯を持ってくるのに遠すぎるから、難しかったんだろうなあ。

 アサギくんは里を開発していくプランを結構考えているらしく、最初にイオくんが提案したとおりの場所に湯屋を建設する予定だ。問題はそこまでの導線……ということで、川に沿ってお店などを置いていく想定でいるらしい。竹細工の職人さんが色々作れるというので、トラベラーに需要がどのくらいあるのかとかリサーチもしているだって。


「俺が聞いた限りだと、最初にギルドに里で余っている素材とかを買い取ってもらって、代わりにギルドで食料や生活必需品をお金で買えるようにするらしいです。そこから、迅速に通貨を広めて、トラベラーたちが押し寄せても問題ないようにしていきたいってアサギさんが言ってましたよ」

「おー、さすがアサギくん、色々考えてるなあ」

「動画のネタになるとか言ってましたね」

「うむ、視聴率も稼げそうだね!」

 そう言えばアサギくんは配信者だった。こんな唯一無二の体験してるわけだから、動画にしないという選択肢はないだろう。今日の午後はイオくんが用事あるからログインできないらしいし、僕もその時間を利用してアナトラの動画をさがすつもりなんだよね。とりあえずアサギくんの動画は見に行かないと。

 そんな話をしながらギルド前広場にたどり着くと、アサギくんと他のトラベラーさん2人がすでに集まっていた。……あ、よく見ると一人は雷鳴さんだ。そう言えば僕達より先にダンジョンに潜ってたっけ。


「雷鳴さーん、アサギくーん!」

 と手を振りつつ近づくと、「ナツ!」とだいぶテンション高い雷鳴さんが駆け寄ってきた。

「野菜あった!」

「えっ、おめでとうございます!」

「黄金色に光り輝くニンジンが! ダンジョンに!」

「なにそれ気になる……!」 

 どんな味なんだろう、めちゃくちゃ気になる……!

「雷さーん、ダンジョンの話はあとで詳細に聞くからさ、とりあえず集合集合」

「この感動を伝えたいというのに」

 アサギくんがちょっと呆れたように集合をかけている。今までこのテンションの雷鳴さんに付き合ってたからか、ちょっと疲れてるような雰囲気だ。

「なっちゃんとイオさんにはまだ紹介してなかったよな? こちら、ドワーフのガイさん。里の復興中ってことで、大工スキルを鍛えるために来てくれてるんだ」

「ガイじゃ。よろしくの」


 アサギくんが続けて僕達をガイさんに紹介してくれているのを聞きながら、僕はちょっと感動した。RP勢、RP勢です! あんまり今まで会わなかったなりきり系RP勢! 外見もかなりの頑固親父カスタマイズだ!

 僕は「おおー!」と内心感嘆しつつ、「ナツです、よろしくお願いします!」と握手を求めた。アナトラは少人数でやってる人が多いから、あんまりRPに力いれる人いないんだよね。RPは他人に見せてこそってやつだから、何らかの形で他の人に見てもらえないとやる気が継続しないらしい。

 そうそう、ナナミにいるらしい、貴族RPしてる人! 掲示板情報によるとあの人も動画配信者らしいので、後で探さなきゃ。絶対面白いもん。

「大工ってことは、そういうスキルがあるんですか?」

 と問いかけたのは如月くん。ガイさんはあごひげを撫でつつ、「左様」と頷いた。

「儂の場合は、イチヤで大工に弟子入りしたんじゃ。大体一週間くらい泊まり込みで仕事を手伝って、ようやく<大工>スキルが出た」

「おお、結構時間かかるんですね」

「じゃが、<大工>は他にも<石工>やら<細工>やら<木工>やら、様々なスキルを覚えるごとにできることが増えるそうでな。目下、そっちを探しているところじゃ」

「へえ、色々あるんですね」

 如月くんは興味深そうに頷いた。<細工>スキルの取得方法ならわかるけど、他のはわかんないなあ。


「そんじゃ、足湯作りに行くから、注目!」

 仕切り直すようにアサギくんが手を叩いて、その場にいる全員に地図を見せながら説明を始めた。

「俺の手書きなんだけど、この地図を見てくれ。この、川の向こうの、この辺にいずれ温泉旅館っていうか、保養所っていうか……なんかそういうのを作る予定なんだ。露天風呂とか普通の屋内の風呂とか色々作って、2階に泊まれる部屋とか、食事を出すレストランを使ってさ」

 イオくんがプレゼンしてた場所だね。今は植林場になってるけど、そのへんを切り開いて建物を、って言ってたところ。

「けど、建物を1から作るのはちょっと時間もかかるし、まだどういう旅館にしていくかとかは決まってないから、先に庭先に置く予定の足湯だけでも作っておきたい。ってことで、今現地で大工さんたちに枠組みを作ってもらってる」

「ほう。木枠を作って組み立てるのか?」

 ガイさんの質問に、アサギくんは「そう」と頷く。

「えーと、お湯が地下からの汲み上げ方式で……お湯の管理してる人とは打ち合わせしてて、足湯にお湯を汲み上げる場所とかも決まってるんだ。だから穴をほってレッカたちが作ってくれた足湯用の木枠を埋め込んで、座って入れるようにベンチとかの場を整える……ってところまでが今日の仕事」

 アサギくんの説明に、ガイさんはちょっと残念そうだった。<大工>スキルがあるってことは、その木枠の作成もやりたかったんじゃないかな。


「力仕事か。ナツは役に立たないな」

「はっきり言われた!」

「アサギ、何かナツにもできそうな仕事はあるか?」

 くっ、悔しいけどイオくんの言う通り、穴掘りとか木枠を担ぐとか、そういうの僕無理……! むしろ手伝ったところで足手まとい間違いなしだから下手に手を出せない。ぐぬぐぬしていると、アサギくんは慈しみの表情で僕を見た。僕にカフェオレ渡すときのイオくんと同じ顔するじゃん……!?

「あー、なっちゃんは……アヤメさんと一緒にベンチに置く座布団を選ぶとか……?」

「アヤメさん向こうにいるんだ?」

「いるはずだぞ、待ち合わせしてるし」

「承りましょう!」

 何もしないよりはマシだし、アヤメさんのお仕事を手伝おう。だからその哀れみの表情やめてくれないかな!?

 ナツー、テトもテトもー。

「テトも一緒に座布団選ぼうねー」

 しろいのあるー?

「どうかなあ、アヤメさんに聞いてみようねー」

 わかったのー!


 そんなこんなで足湯作成予定地へ向かった僕達なんだけれども、イオくんたちが結構な重労働をしている間、僕とアヤメさんとテトでのほほーんとお茶してたとかちょっと申し訳なかったなと思います。

 座布団は集会所に用意してあるって言うから、運び屋さんとしてテトを連れて向かったところまでよしとして。集会所で丁度、婦人会の集まりがあったとかで、おせんべい食べながらお茶してたんだよね……美味しかったです。野草茶というの、思ってたよりずっと飲みやすかった……。

 お礼に紅茶差し入れして、そのまませんべいの作り方とか、座布団の柄に意味があるとか、色々教わってたら日が暮れてたんだよね。

 慌てて現場に戻ったら、作業を終えた皆さんは僕達待ちだったという……。いやほんとごめんってば、せんべいみんなの分あるから! 許して!!

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