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24日目:宝箱はキラキラ

 イオくんと熊の対決はほとんど互角の殴り合いから、徐々にイオくん有利に傾いていった。

 いやほんとにイオくんは行動パターン読むのが上手なんだよね。データが蓄積されて先を読めるようになってくると、もうイオくんの勝利パターンへ一直線。特にゲームの敵はリアルの人間と違って、やっぱりどうしてもある程度のパターンがベースにあるからなあ。

「え、マジで勝ちそうです……ね?」

「勝つよ。イオくんだし」

「なるほどイオさんだから……」

「もうあれはパターン掴んでるからね。あ、ほら」

 見事な肘鉄がサヴェージベアの頬に叩き込まれる。ぐらついた巨体が一拍遅れてドオッと倒れ込んだけど、そのまま受け身を取ってすぐに起き上がるあたりは流石だ。でも敵のHPはもう少ない。

 その隙を逃さず、離れた距離を一瞬で詰めたイオくんが、「オラア!」と気合を入れて放つ回し蹴り。

 ……相手に隙がないときは絶対やらないんだけどね、あれ。でも今回は敵がまだぐらついているので、いけると踏んだのだろう。素早く振り抜かれたイオくんの踵が、思いっきり敵の首あたりにぶち込まれて……。


 視界に「YOU WIN!」の文字が表示され、イオくんがガッツポーズをする。


「っしゃオラァ!」

 めちゃめちゃ柄悪いイケメンだな。うーん、さすが突撃番長、身のこなしに無駄がなかった。

「さすが! 2レベル差などものともしない、格上狩りの名は伊達じゃないね! 見事な蹴り!」

「おうそれ懐かしいあだ名だな、それより今の回し蹴り見たか? 超気持ちよく決まった!」

「最高! ロマン感じた!」

「だろ!」

 イエーイ! とハイタッチした僕とテンション高いイオくんに、如月くんは若干あっけにとられている。内輪ノリで申し訳ないが、あの見事な回し蹴りについては言及しとかねばなるまいて。そんな僕達を交互に見た如月くんは、それからはーっと息を吐き出して、「なんか」と。

「イオさんとナツさんが仲いい理由、すごくわかりました」

「ノリが合う」

「テンション上がるポイントがほぼ同じ!」

「納得です」

 しみじみ頷く如月くんである。


 ともあれ、最後の敵にも勝利したということは、宝箱もきっとグレードアップしているに違いない。意気揚々と見上げた先では、天井からするすると降りてくる円形バリアと金色キラキラの宝箱……の、上に鎮座する我らがテトさんである。

 目をきらっきらさせているテトさんは、宝箱が地面に降りきる前にぴょいーっと飛び上がり、ご自慢の羽を使って僕達の下へ飛んでくると、大興奮の様子で駆け回る。

 イオー! つよーい! すごーい!!

 とイオくんの周りをぐるぐる回ってどしんと体当りし、そのまま如月くんのところにも走っていって、

 きさらぎー! いろいろできてえらーい!

 と褒め称え、最後にそのままの勢いで僕のところにやってきて……ハッと気づいたように減速し、そのまま体当たりの衝撃を和らげつつすりすりと体を擦り寄せる。

 ナツー! まほうきらきらいっぱーい! すてきー!

「くっ、気を使ってくれてありがとうテト! ご満足いただけたようでなにより!」

 でも僕、テトが体当りしたって潰れないので、ウェルカムだよ! と言ってみたけど、テトは「ナツたおれちゃうのー」とNOを突きつけるのであった。たしかに尻もちは付くと思うけれども。


『お疲れ様。とっても見応えがあったわ、特に最後の1対1は手に汗握る展開だったわね』

 ひらひらと優雅に後から舞い降りてきたエクラさんもご満悦の表情だ。興奮してまたイオくんのところに猫アタックをしに行ったテトに変わって、僕の肩を椅子にすることにしたらしい。ヒューマンはサヴェージベアより体の作りが小さいから、小さい存在が巨大な敵を倒した! って感じにテトには見えたらしく、「すごいのー!」とべた褒めである。

「まさかダンジョンでこんな展開になるとは思いませんでした」

『ベア系の魔物が全部こうではないのよ。一部、強者との戦いを求めるものがいるらしいの、きっと個体差なのね』

「そうなんですか! あ、でもそうか。群れで遭遇したとき全員こういう感じだと、順番待ちになっちゃいますもんね」

 僕は一瞬行儀よく並んで待つサヴェージベアの待機列を想像して、ちょっとシュールすぎるな、と頭の中でバツ印を描いておいた。

「ナツー、宝箱頼む」

「はーい!」

 どうやらテトをなだめることに成功したらしいイオくんに声をかけられて、宝箱の前まで進む。円形のバリアはすでに消えていて、あとは代表者が触れば開けられる状態になっている。


「1個しか箱無いけど、連結でも中身1個しか入ってないのかな。それだと配分で揉めそう」

「開けたらパーティーの数だけ入ってるかもしれんし。とりあえず開けてみてくれ」

「ああ、そのパターンもあるか」

 過去にやってたゲームだと、宝箱の中身はその場にいる人数分入ってたり、開けた瞬間に各パーティーのインベントリに自動配布されたり、色んなパターンがあったっけ。

「僕が開けていいの?」

「ナツ今幸運の数値は」

「素ステで46!」

「俺の幸運の4倍以上あるんだよなあ」

「ある程度数値振ってるはずの俺の器用ステータスの丁度倍ですねえ……」

 イオくんの筋力の数字と大体同じくらいじゃなかったっけ、と言ったら、「まず筋力と幸運を比較できる時点でおかしい」と言われた僕である。むむむ、そう言われてみるとイオくんの筋力と比較するなら、僕だと魔力の数値かあ。まあ僕の場合イオくんとテトがいるお陰で俊敏と筋力を完全に捨てる事ができるから、その分を全部幸運に回せるんだけれども。


 どうぞどうぞと如月くんにも促されたので、宝箱に手を触れる。

 おなじみの、「宝箱を開けてダンジョンを出ますか?」というシステムメッセージに、「はい」と答えると、ぱかっと宝箱が開く演出が入った。えーと、中身は……。

「よくわかんないのが入ってる。えーと、聖域の欠片……?」

 取り出したのは、小さい地球儀みたいなやつ。本来地球があるはずのところに、ガラスのような球体が入っていて、中身は……スノーボールみたいに浮遊するキラキラした光の粒。平らなところにおけるようになってるし、緩やかに回転している感じで、インテリアとしてすごく良いけど……。

「<鑑定>。……家に置くと神獣や聖獣にとって良い環境になるらしい」

「え」

 思わずエクラさんを見ると、うふふ、と微笑まれた。

『スペルシアちゃんが気を利かせてくれたのねえ』

「あ、そういうこともありますか……! エクラさんはスペルシアさんと仲良しなんですか?」

『そうねえ、神獣や聖獣というのはみんな長いこと生きている存在だもの。気が合う合わないはあるでしょうけれど、だいたいみんな知り合いなのよ』

 ダンジョンに来たときから、親しげにスペルシアちゃんって言ってたもんなあ。エクラさんのこの分身像は僕達がもらったわけだから、拠点ができたらそこに置くことになる……つまりそこにこれを並べて置けということだ。


「拠点ができたら、エクラさんと並べて置きますね!」

『まあ、ありがとう』

 と僕とエクラさんがほのぼのしている間に、隣でイオくんと如月くんはしっかり宝箱の検証を行っている。

「ナツが開けても宝箱が消えないということは、如月も開けられるんじゃないか?」

「やってみます。……あ、システムメッセージが出ました!」

「やっぱ宝箱はパーティー毎だな。如月が開けたら外に出られるはずだ」

「じゃあ、開けますね」

 あ、良かった。如月くん大活躍だったから、如月くんに報酬が無いのはいやだなーと思ってたんだよね。僕がもらったやつって明らかに僕達用のアイテムだったから、流石に分けてあげられないし。ホッとしている僕にてててっと駆け寄ってきたテトがいつものように右側にちょこんとお座りをする。

 ナツそれなあにー? きらきらー!

 と、僕の手元を覗き込んで嬉しそうな顔をした。

「これ、僕達のお家ができたら飾るんだって。エクラさんの居心地が良くなるらしいよ」

 まりょくきらきらー! テトもそれすきー!

「テトはキラキラしたもの好きだもんねー」

 そう言えば僕、ダンジョン攻略中にテトが好きそうななんかキラキラしたものが宝箱から出てこい! と願ったような気がする。……もしかして意見汲んでもらったのかな? ありがとうございますスペルシアさん!



 ダンジョン攻略を終えて待合室に戻ると、時刻は丁度13時ごろだった。

 もう炎鳥さんたちは卵から孵ってるかな? 見に行きたい気持ちはあるけど、僕達は一度赤炎鳥さんが卵から孵るところをサンガで見てるし、それより何よりお腹が空いている。

「如月くん、炎鳥さん見に行く?」

「いやー、場所わかんないですし。あとでちょっと元気な姿が見れたらそれでいいですよ」

 と、如月くんもそこまで見たいという感じじゃなかったので、そのまま蔵の外の空き地でお昼ごはんにすることにした。

「僕もうお腹ペコペコ!」

「あれだけ敵いたのに、よく2時間で終わりましたよね」

「手強いのはそんなにいなかったぞ」

 なんて話をしながらテーブルをセットして、インベントリからイオくんが取り出したのは、鍋だ。正しくは、サンガで作ったトマトリゾットを、フライパンを開けるために鍋に移し替えたもの。ふんわり漂うトマトの良い香り、思わずお腹の虫が鳴いてしまう。


「あ、俺も出します。サンガの屋台で買ったやつですけど」

 と如月くんが出してくれたのは、丸いパンみたいなやつ。えーとこれは包み焼きピザ……横文字でなんていうんだっけ、前に食べたことあるんだけど、えーっと、なんかカツオみたいな響きの……!

「カルツォーネだ」

「ナイスイオくん! 相変わらずサラッと心読んでくる!」

「ナツは横文字苦手だからなー」

 おっしゃるとおりでございますぅ!

 なんか長い横文字が苦手なんだよね、だから海外ミステリーとか読めないんだ。登場人物の名前がごちゃごちゃしちゃって誰が誰だかわからなくなるというか。地名とかもナンチャラバレーとかナントカベリーとかあるとややこしいよ。


「トマトリゾットがあるから、こっちのホワイトソース系がおすすめですね。ベーコンとほうれん草たっぷりで美味いですよ」

「ベーコン! めっちゃ美味しそう!」

「ピザの具が入ってるわけじゃないのか」

「包み焼きパンって名称で売ってたんで、中身も色々ありましたよ。ケバブっぽいのとかビーフシチュー入ってるのとか」

「うまそうだな」

 お、イオくんが興味を示した。これはリクエストしたら作ってくれそうなやつだね、後でお願いしておこう。

「テト、ちょっとずつ食べてみる?」

 たべるー。てきおんってしてー。

「さすがテトさん、見ただけで熱いと判断できるとは天才猫かな?」

 にゃふふー。

 テトはちょっと得意げな顔である。如月くんはもう一個出しましょうか? って聞いてくれたけど、嗜好品だからそんなに量はいらないんだよって返事しておいた。テトとしては僕達と同じものを食べるってところがポイントだからね。


「あ、エクラさんも食べますか?」

『ごめんなさいね、私はお肉は食べないの』

「トマトリゾットなら野菜のみだぞ。丁度それ作ったときウインナー切らしてたからな」

『まあ!』

 なんてやり取りもあり、エクラさんも一緒にみんなでお昼ごはんを食べることとなった。テトが「ねこのおさらかしてあげるねー」とか世話を焼いてるのが微笑ましい。

 エクラさんは長年信仰を集めたりする存在だから、みんなで楽しく食事、みたいな状況は今までなかったんだって。食事は捧げられるもの、って感じで。だからこういうのが楽しいって言ってくれたので、今後も積極的に誘って行こうと思ったよ。

「では、いただきます!」

 あっつあつの包み焼きパンにかぶりつく。

 運動の後は、やっぱり食事がないと!

徐々に仕事が繁忙期に入るので、更新不定期になるかもしれません。

なるべく続き早く上げられるように頑張りますー。

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