24日目:タイマン勝負になるらしい
いつも誤字報告ありがとうございます、助かります。
モンスターハウス真ん中ゾーンは、ミニウルフの群れとかワイルドウルフの群れとか、連携して襲ってくる感じの魔物が多め。とはいえこちらもウォール系魔法をはじめ、イオくんには<風鎧>もあるし、防衛手段は比較的充実している。
このゾーンでは【トラップ】が成功しまくったので、お陰で<樹魔法>のレベルが上がった。レベル5で覚える魔法は、通常ウォール系魔法なんだけど、<樹魔法>は最初のアロー系魔法もなかったので、こっちも別の魔法が設定されていた。覚えたからには使ってみよう! ということで。
「行け! 【ウッドケージ】!」
ケージというからには、檻みたいなやつでしょう! と、ある程度推測はしてたけど、イメージそのまんまの魔法が出てきたよ。鞭のようにしなる木の枝……根かもしれないけど……が地面からばーっと上空にむけて伸びて、直径2メートルくらいの範囲にいる敵を檻に閉じ込める、というもの。
これは檻に耐久値が設定されていて、一定のダメージを受けたら壊れるけど、それまでは消えずに敵を閉じ込め続けてくれる。ウォール系魔法は避ける敵がいたり、そのまま突っ込んで突っ切る敵がいたりして、動きを止めるという点ではそこまで有用じゃなかったから、正直【ウッドケージ】のほうが使い勝手が良いと思う。
……ただし火属性の敵は一瞬でぶち破ってくるけどね!
「うわ、なんですかその魔法! 便利!」
「<樹魔法>レベル5で覚える【ウッドケージ】! 如月くんSP貯めるの頑張って!」
「遠い!」
なんてぎゃーぎゃ言いながら、なかなかいい感じに敵を切り崩していく。もっと苦戦するかと思ったけど、こっちも3人いるお陰か、良い感じに戦えた。僕達も日々強くなってるってことだね!
敵が連携して一気に襲いかかってくる分、討伐に時間がかからないの、地味にありがたかった。
「【ダブルポイント】!」
「【強撃】!」
「【ライトランス】!」
「ナツ、回復くれ!」
「おっけー!」
とにかくテンポよく攻撃! 攻撃! 【アクアヒール】のクールタイムまだ上がってないから、ポーションをイオくんに投げ……だめだ僕コントロール良くない。
「HPポーション使用、対象イオ!」
音声で使用できるの便利だなー。ありがたいよ。
「っし、これでラスト!」
右側の敵よりも一気に襲いかかって来る感じだったし、数も向こうよりは少ないし、左側の強敵軍団が乱入することがないとわかっている。逃げる敵がいなかったのも大きいね、こっちが追いかけなくても次々襲いかかって来てくれるお陰で、かなりテンポよく殲滅完了した。
「つっかれたー!」
「絶え間なく来られるとしんどいですねー」
「思ったより楽だったな」
「イオくん今しんどいって話をしてたよ!?」
僕の叫びに「ん?」って不思議そうな顔をしているイオくんである。いやこの人一番動いてたんだから一番疲れてるはずなんだけどな……。一旦剣を鞘にしまって、ぐーっと伸びをするイオくんをジト目で見つつ、まあイオくん体力あるからな……と納得する僕である。
「イオさんHPめっちゃありますかもしかして」
「380しかないぞ?」
「380もあるかあ……」
なんか遠い目をする如月くんだけど、君は魔法剣士なので仕方ないと思うよ……。というか如月くんのステータス、PPどんな感じに振ってるのかな、あとでちょっと知りたい。
それにしても疲れたなあ。あ、宝箱はグレードアップしたかな? と思ってころーんとその場に寝転がって見上げて見たところ。
「……イオくん」
「おう?」
「テトが宝箱の上で踊ってる……」
「は!?」
「え!?」
僕の声に反応したイオくんと如月くんも宝箱を見上げる。前に見たときと同じように、天井から吊り下がった円形バリアの中に宝箱が入っていて、色は銅から銀へと変わっていた。
でも大事なのはそこではない。その円形バリアの上にテトがちょこーんと座って、なんかこう、前足をひょいひょいして踊っているのだ。ぺかーっと輝くような笑顔をしている気がする……! 今声聞こえないけど、多分なんか、「すごーい」的なこと言って興奮している気が、とても、する!
僕達が見上げていることに気付いたテトは、円形バリアの上でぴょいぴょい飛び上がった。なんか喜んでるな……。頭上にいるらしいエクラさんに色々話しかけてる感じもある。
「家の猫かわいいな……」
「ナツ疲れてるな? ほらあと10匹だぞ」
「うぐぐ、がんばるー!」
気合を入れて立ち上がる。あの、テトの下にある箱が、金色きらきらになったらテトも喜ぶと思うので! がんばりたい!
「あの宝箱から高級猫缶とか出てこないかなー!」
「テトは甘いもののほうが喜ぶだろ」
「……そうだった!」
うちのテトは白いのと甘いのが好きなんだった。リアルの猫とは違うんだ、じゃあ猫缶より、ホールケーキとかのほうが……いやいや、宝箱から出てくるケーキちょっと怖い。
「如月、どこから行く?」
「アントからですかねえ、戦い方わかりますし」
なんて会話するイオくんと如月くんの言葉を受けて、僕も残った敵を観察する。残り10匹だけど、一番奥にいるでっかいのがサヴェージベアというクマの魔物。でかいし見るからに強そう。明らかにボスだ。その左右に半円を描くように敵が配置されている。
如月くんが言うアントは、ナイトアント、レベル16。……見たことないから1進化している★1の魔物なのかなと思ったら、別にそうでもないらしい。道で遭遇したソルジャーアントと違って、しっかり鎧を着込んでいるので、さらに物理に強いやつかもしれないな。ソルジャー(兵士)とナイト(騎士)だから、階級差みたいなもんかもしれないけど。
このモンスターハウスには進化した魔物はいないみたいで、そこは助かるね。
「行くぞナツ、テトに負ける姿は見せられん」
「がんばります!」
「アントから仕掛けるんで、強い魔法どかんとお願いします」
「了解!」
奥にいるサヴェージベア以外は、今まで戦ったことがあるような魔物の派生形っぽい。なんとなく対処法はわかりそうなので、もうひと頑張りしないと。
「僕、金色の宝箱からなんかキラキラしたもの出すんだ……! テトが喜ぶから!」
「ナツが言うと予言になりかねんのだが」
「本当に出そうですね……」
幸運が左右するのなら、出してもらいましょうキラキラを。さあ、レッツゴー!
*
戦闘は熾烈を極めた……とか言ったらかっこいいけど、わりと僕は楽だった。
わらわら無制限に来るわけじゃないし、残ってた魔物は1匹1匹が強めだからか、近くに行かなければ襲ってこない。同時に相手にするとしても2匹か3匹くらいまでしか参加してこないから、位置取りさえ気をつけていれば危なげなく戦えたのだ。
如月くんも一緒で、3人だったことが大きいかも。僕とイオくんだけだったら結構きつかったと思うんだよな。
ハイソルジャーアントは予想通りに魔法に弱かったから、僕と如月くんで危なげなく倒せたし。その後に戦った魔物は逆に物理に弱かったから、イオくんと如月くんが瞬殺してた。つくづく万能型の勝利に思えるなあ。
レベルが高い魔物ばっかりだったから、苦戦するところは苦戦したんだけど、誰も戦闘不能になること無く9匹を倒して、残りサヴェージベア1匹になったところで、ダンジョンギミックが発動する。
「ガアアアア!」
と獣の咆哮を上げたサヴェージベアが、なんと、イオくんをスッと指さしたのだ。
「ん?」
「え?」
と戸惑う僕と如月くんを横目に、指名されたイオくんはHPポーションを一気飲みしてニヤリと笑う。
「面白い、サシでやろうってのか」
……え、今のそういう意味?
思わず如月くんと視線を合わせた僕に、如月くんは「いやいやいや」と首と手をブンブン振った。だ、だよね。普通よくわかんないよね。でもイオくんとサヴェージベアはなんか通じあったようで、バチバチと何度か視線で火花を散らした後、お互いに向き合って構える。
え、マジで。
「イオくん!?」
「ナツ、如月、タイマンだからな、手出しすんなよ」
「スマートヤンキー降臨してる……! いやそういう問題ではなく!」
「タイマンモードでルール決めした。お前たちは大人しく安全圏で見てろ」
「なにそれ知らない!?」
如月くん知ってた? と再び視線を合わせてみるけど、如月くんはさっきと全く同じ顔で「いやいやいやいやいや!」と更に顔と手を横に激しく振った。だよね! 知らないよね! イオくんには一体何が起こっているのか……!
いつの間にか地面に円が描かれていて、その線が黒くもわっとしたエフェクトを漂わせている。僕と如月くんはその中には入れないようで、円の中にいるのはイオくんとサヴェージベアのみである。
「あった、タイマンモード」
「え!?」
隣で掲示板を検索していたらしい如月くんは、いつの間にか情報を探し出していた。何と言う頼れる男だ。
「なんか、熊型の魔物のみやってくるそうです。己の認めた強者と1対1で戦うモードで、熊と挑まれた相手が交互にルールを決めていき、定められたタイマンフィールド内で己のすべてを賭けて戦う……らしく」
「イオくんが嬉々として承諾しそうなルールだ……!」
「タイマンなので外からの支援や回復はできず、どちらかが倒れるまで戦うと」
「イオくんが喜んで暴れそうなルールだ……!」
「ちなみに決める項目はタイマンフィールドの広さ、魔法の可否、ランダムイベントの可否、タイムアップを設定するか、勝利条件、だそうです」
「ガチすぎるな……!」
僕がそんな説明を聞いている間に、円の中でタイマンの火蓋は勢いよく切られた。
「うらァ!」
イオくんのあの顔のどこからこの声出るの? ってくらいの重低音でイオくんが吠える。剣も盾も持ってるのに完全に蹴り飛ばしに行ってるあたり、めちゃくちゃイオくんだな。なんかもう、身のこなしが完全に剣士より拳士。
しかし、対する熊も負けていない。繰り出されたイオくんの蹴りをしっかりガード、からの爪攻撃。巨大な体躯の割に俊敏な動きである。なんというか……。
「実力伯仲……!」
「すげえいい勝負ですね……」
完全に決まったイオくんの【ジャストガード】に、さすがの熊も飛び退いて距離をとる。睨み合う両者。まるで因縁の相手のよう。
「イオさんのこの喧嘩慣れってどこから来てるんですか……?」
「VRゲームだと思うよ。リアルで喧嘩してるところ見たこと無いし」
拳で何でも粉砕する熊獣人だった初対面のときから、イオくんはゲームの中では喧嘩っ早かった。格上に挑み続けるので、負けてボロボロにされたこともあれば、下剋上を決めて「っしゃあああ!」と吠えていたこともある。PVPもお手の物だったし、武道大会みたいなのがあったら必ず拳で参加してて、結構いい順位とってたもんだよ。
「まあ、もろにプレイヤースキルが出るから、もともと運動神経がいいんだろうけど」
「それはわかりますねえ」
それにしても僕と如月くんは暇である。イオくんが熊を盾でぶん殴ってるのを見ながら、なんかボケーっとしてしまう。如月くんはソワソワしてるけど、結果なんてわかりきってるんだよなあ。
「レベル差2しかないならイオくんが勝つよ、心配しなくても」
「信頼関係ができてるんですね……!」
「いやいや。だってあの人、別ゲームで常にレベル差10以上ある敵とだけ渡り合ってきたような猛者だよ?」
「はあっ!?」
いやね、イオくんがトップランカーとかにスカウトされまくるのにはそれだけの理由があるってことなんだよな。アナトラは本当に平和でありがたいけど、そもそものイオくんがジャイアントキリング好きなバトルジャンキーだからさ。目立つ方法があるゲームで目立たず地味にしてることなんてできっこないわけで。
まあ、イオくんとしては目立とうとして目立ってるわけではないんだけどねー。
「あ、ほらついに剣でも殴るようになった」
「うお、イオさんなんで剣士やってるんですか、あの戦い方って拳士でしょ」
「間違いなく拳士適正が一番高いと思うよ! なんか騎士RPやりたいんだって」
「え、その場合ナツさんの護衛騎士とかですか?」
「…………いや、姫ポジションは天使のような無垢な存在と決まってるので、テトかな?」
「白猫の騎士……!」
白猫の騎士、良い二つ名だな。料理人騎士より断然良い感じじゃん、次からそれにしよ。




