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24日目:遭遇率が高ければもうそれはレアではない(かもしれない)

いつも誤字報告ありがとうございます。助かります。

 家具配置案の提出については、イオくんがささっと終わらせてくれた。

 というか、まだ考えるほど家具の種類がないんだよね。今レッカさんたちが色々作ってくれてるらしいんだけどさ。受付のスペースをこの辺にして、こっちに休憩所を置いて……みたいなのをイオくんがさらさらっと書き出してくれたんだけど、イチヤのギルドの配置とほぼ同じ感じでまとめていた。

「見取り図みても、これが無難だろ?」

「そうだねえ。入ってすぐに受付があるのは当然だし、受付の奥が職員さんたちの仕事部屋なのも当たり前だし、そうすると1階の開いたスペースは、大きさから見てもフリースペースになるよねえ……」

「2階は丁度左右で分けられるから、片方が作業部屋で片方が宿泊用スペース。逆にこれ以外にどういう部屋割りをするんだ」

「強いて言うなら作業部屋とフリースペースを交換するくらい……?」

「だよな」

 家具の配置的には、受付にカウンター、その前にベンチ、受付横の小部屋には転移装置が入るだろう。花瓶とかあるならカウンターに飾っても良いと思う。フリースペースにはテーブルセット……でも里が和風だから、ここは和風に畳を使った座椅子とかあったらいいかも? そのくらいかな。

 僕達がこれでいいよね、って結論づける頃には、テトはきれいになった窓際で光を浴びながら「ダーンジョーン♪ ダンジョーン♪」となんか歌ってた。ワクワクしている感じである。


「テトー、エクラさーん、アサギくんの方手伝いに行くよー」

 はーい!

『はい、行きましょう。すごいわよ、トラベラーさんたちあっという間に広間を作ってしまったわ』

 テトだけでなく、エクラさんも目をきらきらさせて振り返る。さっきまで一緒に窓の外を観察してると思ったら、外の広間作りを見学していたらしい。今2階にいるから、下はよく見えるんだね。どれどれ? と僕もちょっと覗いてみたけど、円形の広間にしっかり石が詰め込まれていて、もうすでに完成間近っぽい。早いなあと見ていると、アサギくんがふと上を見上げて目が合った。

「なっちゃーん! ちょい【ドライ】使ってもらいたいんだがー!」

「いいよー!」

 見た感じ、魔法専門職は僕くらいしかいないみたいだ。如月くんは<風魔法>育ててたはずだから【ドライ】使えると思うけど、家のイオくんはまだそこまでスキルレベルを上げてない。

 でも【ドライ】で何を乾かすのかな? と不思議に思いながらみんなで建物の外に出ると、レッカさんが何か透明なジェル状のものをこねていた。


「これは……スライム?」

 ぷにぷにー。

 確か、漆喰の壁にウミスライムの素材を使うんだったかな。これもそういうものだろうかとレッカさんに問いかけると、レッカさんは「そうだな」と肯定した。

「こっちはリバースライムの素材を加工したやつだ。壁に使うのはウミスライムの方で、素材を強くする性質があるんだが、リバースライムは粘着質で、乾かすと石のように固くなる」

「へえ。透明なまま固まるんですか?」

「ああ。細工師に人気の素材だな」

 なるほど、アクリル板みたいな感じだよね多分。でもこれ、こんな大量にどこに使うんだろう……と思っていると、レッカさんはアサギくんに声をかけた。

「アサギ、このくらいでいいか?」

「OKOK。今から石を保護する素材を撒くから、みんなこっち側に移動してくれー。なっちゃんはこの粘液みたいなのをばーっと広めるから、【ドライ】頼むな!」

「あ、なるほど。速攻で固めるって感じだね。了解!」


 結構粘つくように見えるスライム素材だけど、レッカさんがスコップですくって広間に撒くと、思ってたよりすすーっと広がっていく。あ、テトがウズウズしてる……! イオくん、その子おさえてて! もふもふの毛並みがスライム素材で固まったら大変なので!

「なっちゃんこっちから頼むー!」

「はーい、【ドライ】!」

 イオくんがテトをひょいっと抱えるのを確認してから、アサギくんの指示に従って【ドライ】をかける。固まったスライム素材は適度にザラザラしていて、見た目はアクリル板とかちょっと曇ったガラスっぽいんだけど、触った感じは石っぽい。アサギくんが乾いた素材の上を歩いたり、ジャンプしたりして強度を確認している。

「歩いた感じは思ってたより石っぽい。見た目結構綺麗じゃね?」

「いい感じ!」

 ぱっと見、色とりどりの石が厚いガラスに閉じ込められてる感じで、ちょっとお洒落なんだよね。和風にも合うし、メインの広場として申し分無い。

 レッカさんがスライム素材をざーっとまいて、大工仲間の鬼人さんが表面を平らに均して、そこに僕が【ドライ】を唱える、を何度か繰り返す。そこまで広くないから、そんなに時間もかからなかった。サンガのギルドには小さな中庭があったんだけど、丁度そのくらいの広さかな。


「アサギくん、ここって屋台置くの?」

「いやー、最初は屋台とか出せるほどの素材が無いと思う。トラベラーが屋台やる分にはいいと思うけど、里にはゴールド……通貨もないだろ。まずそこからだよなー」

 ギルドができれば徐々にそのへんは広まって行くと思うんだけど、すぐには確かに無理かも。僕が即席のお札屋さんやったときも、基本物々交換だったもんね。……あのとき交換してもらった物資、まだチェックしてない。あとでイオくんに解説をお願いしなければ。

「よし、みんなおつかれー! ギルド前広場はこれで完成!」

 アサギくんが宣言すると、レッカさんたち大工軍団とトラベラーさんたちがわーっと歓声を上げて拍手をした。もちろん僕も! そしたらテトさんもイオくんの腕の中からにゅるんと抜け出して、その場で一生懸命ばたばたしたよ。テト式拍手、なんかじたばたしてておもしろいな。

「時間もいい感じだから、早いけど昼休みなー。もし午後も手伝ってくれるって人がいるなら、午後3時ごろから一旦、作業する人たち用の簡易的な足湯を作ろうと思うんだけど……」

「よし手伝おう!」

「かつて無いイオくんのやる気」

 というかイオくん足湯作るクエストを持ってたっけ。それは手伝わないと。


「はい質問! なんで午後3時からなんだ? 時間ならあるし、俺は足湯めっちゃ入りたいからいつでも手伝えるけどー?」

 とお手伝いしてくれている知らないトラベラーさんが手を上げて質問する。アサギくんは「お、サンキュ!」とお礼を言ってから、理由を説明した。

「午後1時くらいに、里の人達にとってでかいイベントがあるんだ。実は炎鳥の卵が孵化するって話で……あ、みんな炎鳥って知ってる?」

 僕達と如月くんはもちろん知ってるけど、他3人のトラベラーさんたちは知らないようだ。アサギくんが説明するというので、僕たちと如月くんは先に離脱させてもらうことにする。

 ……ダンジョンが待ってるからね!


 きっさらぎー♪

 と如月くんの歌を歌いながら、テトが僕と如月くんに交互にまとわりついてご機嫌さん。そんなテトの頭の上で羽をゆらゆらさせているエクラさんは、まだ一応姿を消してもらっている。一旦先にダンジョンの場所に如月くんを案内しようという話になったので、ささっと移動中だ。

「炎鳥が孵るって、もしかしてナツさんたち何かやりました?」

「僕達と言うかテトがねー」

 テトたまごのはこびやさーん!

「テトの仕事なんだよ」

「仕事……」

 サンガで青炎鳥さんに卵を運んでほしいと頼まれたことを説明すると、「うわあ」と如月くんは感嘆した。それからテトに視線をむけて、わしわしと撫でる。

「テト偉いなー」

 でしょー! もっとほめてもいいよー!

 ごろごろと喉を鳴らしてテトさんはご機嫌の尻尾ぴーん状態である。褒められるの好きだからねー、テトさんは。ほのぼのとその光景を眺めていると、如月くんはさらに口を開く。

「さすがナツさんとイオさん、常になんかすごいことしてますね」

「いやいやいやいや」

「普通炎鳥になんてめったに会えないものだと思いますよ、ほんとに」

 え、そうかな……。いや、そうだな。そして如月くんには申し訳ないんだけど、その炎鳥さんと同じくらいレアな神獣さんという存在が、実はすぐ側にいるんだ。具体的には如月くんがテトを撫でているその手のすぐ側に、エクラさんがヒラヒラ浮遊している。早く紹介したい……!


 ぐぐっと色々我慢して、ダンジョンの前へたどり着く頃には時計は午前11時ちょっと前くらいになっていた。朝早起きしてお手伝いを始めたお陰で、まだまだ時間はたっぷりある。

 一応、このダンジョンはまだ秘密ということなので、誰にも見られないよう注意しながら蔵の中へ入った。木製の外側の扉は、鍵とかかけずに開くようになっているんだよね。僕の筋力では開かないけど。重いからね。仕方ないね。

「おおー、これがダンジョン……!」

 如月くんは、ダンジョンを見るのは初めてらしく、興味津々という感じだ。僕もここ、最初に見たときはテンション上がったものだよ。なんかきれいな光が渦巻く謎ワープ時空、ロマンだよね。


「ロクトやハチヤにあるとは聞いてましたけど、ここはどんなダンジョンなんですか?」

「説明ボードにある通り、宝箱が出ます!」

「王道!」

 如月くんがしっかり説明ボードを読んで、「なるほど」と一つ頷く。

「レベル制限無いのはいいんですけど、制限人数とか書いてないんすね」

「ああ。だから連結でも行けるんじゃないかと思ってな」


 大人数でも少人数でも、別に攻略できればそれでいいんだけどね。そう言えば雷鳴さん今どこだろう? とフレンド一覧を見て確認してみると、今まさにダンジョンの中にいるみたいだ。

「今、雷鳴さんが潜ってるっぽいんだけど、中に誰かいる状態で僕達も入れるのかな?」

「システムメッセージは出たから、入れるんじゃないか? その状態で中に入って合流するのは流石に無理だと思うが」

「ダンジョン内は別サーバに分けられる感じかなあ」

 他のゲームだと、ダンジョンの中でも共有エリアがあったり、何日も泊りがけで下の階層を目指したりしたっけ。アナトラのダンジョンは長く潜り続ける感じのやつじゃなくて、小さいマップを攻略していくタイプのものが多いらしい。だから階層があるイメージじゃなくて、1つのマップをクリアしたら次のマップへワープ、って感じ。

 一応、ハチヤにコンティニューを選び続けて連続でマップをクリアすると豪華な装備品がもらえる、高難易度ダンジョンがあるらしいよ。

 と、僕がそんなことを考えている間に、イオくんが如月くんを呼んで、テトの頭の上を指さした。あ、エクラさんが姿を現してる。


「ところで如月、こちらは神獣のエクラだ、今回ダンジョン見学をしたいらしい」

 エクラはねー、すてきなはちみつをつくる、はたらきものなのー。

『ふふふ、はじめまして。私はエクラ、普段はこことは別の場所にいるのだけれど、今日はお忍びで里に遊びに来ているのよ』

「エクラ、こちら友人の如月。魔法双剣士だ」

『はい、如月ね。よろしくお願いするわ』

「あ、ハイ。よろしくお願いしま……す……?」

 如月くん、エクラさんを見事な二度見。

 そして僕を振り返って何か言いたげに口を開いて、閉じて、大きく息を吐き出す。なんかまた僕のせいにされてないこれ? 違います! 相乗効果です! イオくんも一緒に見つけたんだよ、ホントだってば!

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― 新着の感想 ―
テトはとても素敵な炎鳥さんの卵の運び屋! 世界中に幸せも運んでる事間違いなし!
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