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24日目:エクラさんご案内

 高さ10センチの、デフォルメされた蝶のフィギュア。

 羽の素材がステンドグラスみたいで綺麗なので、正直ホームをゲットしたら飾っておきたい気持ちがある。というか、飾るならむしろもうちょい大きいほうが見栄えが良さそう。イオくんがそのフィギュアを座卓の上に置くと、テトがぴょいっと駆け寄って「すてきー!」と目を輝かせた。


 エクラだー! ちいさいのなんでー?

「フィギュアだからねえ。本物のエクラさんじゃなくて、飾っておく為のものだから、小さいんだよー」

 ……? エクラのまりょくだよー?

「あ、やっぱりエクラさんも魔力……。じゃあ僕も昨日手に入れたばかりの<魔力視>を……ON!」


 ちなみに<魔力視>は、スキルさえ取ってしまえば開始を宣言すれば有効、停止を宣言すれば無効になる。固定スキルだから常時発動とかじゃなくてよかった。

「金色の淡い光。綺麗な色だね、はちみつっぽい」

 そういえば昨日の夜は、エクラさんの魔力の色見ている余裕がなかったなあ。【ブラインド】かけてる間は視界が全体的に白黒っぽくなってたし、リゲルさんのお札の効果が切れたあとは普通の視界だったから。

 でもあの花園で<魔力視>使ったら、またあのあふれる光の世界になるんだよね? エクラさんだけ見れるようにならないんだろうか。 


「<魔力視>OFF。あ、そういえば<魔力視>のこと雷鳴さんに教えるの忘れてた」

「そういや、魔力見たいとか言ってたなあいつ」

「前に話したときは<鑑定>の一種じゃないかって話してたよね。固定スキルでしたってことだけでも後で伝えておきたい」

「そうだな、特別レアなスキルというわけでもないし」


 この場合イオくんの言う「レアなスキル」というのは、特殊スキルとか伝承スキルのことを言う。<魔力視>も、リゲルさんに聞くまで存在すら知らなかったスキルなので、そういう意味では十分に希少性は高そうだけどな。多分、もっと後になってから遭遇する予定のスキルだったんじゃないかと思うんだけどねー。

 そんなことを考えていると。

「……ナツ、これ触ってみろ?」

「うん?」

 すっとエクラさんのフィギュアを差し出されたので、言われたとおりに触ってみる。お、手触りはガラスよりもっとサラッとした感じかな? と思った瞬間、すっと魔力を吸われた感じがする。

 そしてフィギュアエクラさんの目がぱちっと開いた。ですよね。


「エクラさんおはようございます」

『はい、おはよう。今はおしゃべりできないから、イオとナツとテトには念話を使うわね』

 この展開は予想はしていたから、冷静にお迎えすることができた。小さいエクラさんは羽をぱたぱたさせて僕の周辺をくるくると回る。かわいい。

「おはよう。念話というのもスキルなのか?」

 おはよー! ちいさいエクラー!

 テトとイオくんもちゃんとご挨拶をしたのでえらい。


 エクラさんはテトとイオくんの周辺もくるくる回ってから、最終的にテトの頭の上にちょん、と着地した。角度によってはエクラさんの羽がリボンっぽく見えてやたらファンシーだね。

『あんまり驚かせられなかったわね、残念だわ』

 とのほほんと言ってから、エクラさんはイオくんの質問に答えた。

『念話というのは神獣と聖獣に与えられるスキルよ。同じスキルを持つ者同士ならMP消費なしで、スキルを持たない相手には、MP消費で声を伝えることができるわ。残念ながら、スキルを持っていない相手とは思うだけでの会話はできないの』

「なるほど。僕達が<念話>というスキルを持っていないから、僕達の言いたいことは声にしないといけないんですね」

『そうなるわね。たしか、トラベラーさんもいずれは聖獣や神獣と念話できるようなスキルが取得できるはずよ。もっとこの世界全体の、トラベラーさんたちと聖獣や神獣との親和性が上がったら、いずれはね』

「そうなんですか!」


 むむ、これはナルバン王国全体の聖獣さんや神獣さんたちと、トラベラーさんたちがどのくらい良い関係が築けるかってことだよね。それで、一定のラインまで仲良くなれたら取得可能になる……これは<念話>以外にも同じような取得条件のスキルがありそうだなあ。

「離れててもエクラさんとお話できるっていうのは楽しそう。それで、えーと、エクラさんのフィギュアは……」

『この像すてきでしょう? リゲルが作ってくれたの』

 ぱたぱたと羽を動かしつつエクラさんが軽く説明してくれたところによると。最初は信者の人がエクラさんの像を作ってプレゼントしてくれたんだって。自分そっくりの像が気に入ったエクラさんは、リゲルさんの魔法を像に組み込んで動かせるようにして遊んでいた。

 最初はただ飛ばして遊ぶだけだったんだけど、戦争が始まってからは意識の一部を像に宿してリゲルさんと一緒に飛び回ったりもしたんだそう。それで、1つしかないと壊れたら困るからと、リゲルさんが職人に注文していくつか予備を作ってくれたのだ。


「これがそのうちの1つなんですね」

『そうよ。楽しそうだから、ナツにあげようと思ったの。あなたは他の神獣や聖獣にも知り合いがいるもの、ついでにラメラのところに連れて行ってもらっちゃおうかしらと思って』

「なるほど、お任せください!」

 エクラさんはラメラさんと友達だって言ってたもんね! この像を持ってラメラさんのところに遊びに行って、そこで魔力を通して上げれば良いってことだ、そのくらいのお仕事ならお安い御用だよ。

 むー。テトもおしごとしたいのー。

 と、テトさんは少し羨ましそう。君は本当にお仕事が好きだね、勤勉でえらいと思います。テトは炎鳥さんの担当だからね、専門職ってやつだよ。

 せんもん……なんかすてきかもしれないのー。

 すぐに気分が上向くテトさんである。


「今このタイミングで来たということは、炎鳥に祝福をしたいと言っていた要件か?」

 イオくんがエクラさんに問うと、「それもあるわねえ」とエクラさんは頷く。

『この里を見たいと思ってきたのよ。 リゲルも興味を持っていたもの、正道から外れた里なのでしょう? どんな生活をしているか気になっていたの』

「そうか。この里はまだ大きな集落だし、自給自足ができる環境だからな、切羽詰まった感じではないぞ」

『時間があるときにでも、ご案内いただけるかしら』

 テトできるよー。ごあんないするー!

『あら、ありがとう。良い子ね』

 はいはいっと挙手……前足を上げたテトさんに、エクラさんは優しく羽をふぁさふぁさした。撫でてもらっていると判断したテトは満足げにドヤ顔を披露する。「テトよいこ! ナツいつもほめてくれるもん!」とか言ってるけど、基準そこなんだ? これからも遠慮なく褒めていこうと思います。


「午前中はアサギくん……えっと、ここの復興を仕切っているトラベラーさんがいるので、その人の手伝いをする予定だったんです。申し訳ないけど断って……」

『あら、それはだめよ。先約が優先だわ』

「え、でも」

『そうね、それじゃあテトと一緒についていくわ。途中に見たいものがあったらテトに案内してもらうから、ナツとイオはそのままお仕事を優先してもらって大丈夫よ』

「いいんですか? 助かりますけど」

『ええ。それから、私は3人からしか見えないようにしておくから、外では無理にお話しなくてもいいわ。リゲルが言うように伝説になってしまったら困るもの』

 ああ、そう言えば昨夜そんなことを言ってたねリゲルさん。エクラさんは神獣さんだから、その場に現れるだけでその後に起こった良いことが全部エクラさんに結びつけられて生きる伝説となる……だっけ。

『昔、祀られていたときもそんな感じだったのよねえ。信者さんたちがたくさん会いに来てくれて嬉しかったけれど、やっぱり、やってもいないことに感謝されるのって座り心地が悪い感じなのよ』

 実体験がありましたか。でもその気持は分かるかも、僕も身に覚えのないことにお礼言われても微妙な気持ちになると思うからね。


 丁度そのくらいで、ふすまの外から「なっちゃーん、イオさーん」とアサギくんの声が聞こえてきたので、じゃあお言葉に甘えてそうしますね、と話をまとめた。

「テトはエクラさんご案内係だよ」

 おしごとがんばるー!

 にゃふっとやる気満々のテトさんを撫でてから、イオくんと一緒に部屋を出る。ふすまの外では、小柄なアサギくんが何故かハッピを羽織った姿で待っていた。

「おはよ! 今日手伝ってもらえるんだよな?」

「おはようアサギくん。どうしたのそのハッピ」

「レッカがくれたんだ、どーよ!」

 アサギくんは身軽にその場でくるっとターンして裏側まで見せてくれる。臙脂色と黒の渋い色会いに、背後に大きく「月影建設」の達筆な文字……世界観は剣と魔法のファンタジーにそぐわないけど、ありかなしかと言われたら、そりゃ当然……。

「あり!」

「だろ!」

 お祭りっぽくて大変よろしい。僕はお祭り大好きだから!


「昨日俺が落ちてからも、雪乃がサンガで交渉を頑張ってたらしくてさ。ギルド予定の建物も大方組み上がったんだよ」

「僕達が寝る前は骨組みができてる感じだったよ。雪乃さんまさか徹夜した……?」

「5時間は寝たって」

「雷鳴さんよりは健全だった」

 むしろ雷鳴さんはもうちょっと寝たほうがよいよね。ダンジョンチャレンジ終わったら仮眠取ったほうがいいよって勧めておこう。

「アサギ、それで今日の仕事は?」

 横からイオくんが言う。アサギくんは「そうだった」と話を戻した。

「なっちゃんたちは一旦ギルド予定の建物の【クリーン】と、見取り図見てもらってどこに何置くか意見出してほしいかな。新しいトラベラーさんたちが何人か来てくれてて、ついさっき枝道がちょっとだけ幅広くなったんだ。それで、そいつら体力に自信ありってことだったんで、俺達はギルド前広間作り」

 お、雷鳴さんだけでなく、サンガからたどり着いたトラベラーさんたちがいるんだね。それは良かった! アサギくんがメモしてくれた建物の見取り図を受け取って、一旦全員で予定地へ向かう。村長さんの家の庭は、やっぱりとても混雑しているようだった。


「そういや、炎鳥だっけ? 今日生まれる予定って聞いたけど、なっちゃんたちは見なくていいのか?」

「雷鳴さんが<鑑定>したら、予定時刻は13時頃っぽいから。午前中はいいかなって」

「あー、なるほど。村長も午後が忙しいとか言ってたけど、その予定時刻のせいか」

 村長さんも孵化の時刻を把握してるんだね。じゃあ、今ここにいる人達は純粋に待ち切れないで集まっちゃった人たちってことでいいのかな。

『みんな待ちわびているのねえ』

 きれいだからテトもみてるのすきだよー。

『ええ、そうね。炎鳥の炎はとっても綺麗だわ』

 すぐと隣でテトとエクラさんがのほほんと会話をしている。なんか和みつつ、人混みの横を通り抜けて外へ。


 周囲に人が居なくなってから、アサギくんが話題に出したのはダンジョンのことだ。

「なっちゃんがフレンドメッセージ入れてくれてたダンジョンのことだけど、かなり条件いい感じだし、人気出ると思うんだよな。ただ、急にトラベラーが増えても今の里では受け入れられないから、最低限ギルドができてから公表する予定」

「無難だな。宿泊場所が無いのは困る」

 イオくんの言う通り、ギルドができないと安価で泊まれる宿泊施設が無い。外のセーフエリアでキャンプもできるけど、外までわざわざ出ていくのも面倒だ。それに、食事事情も結構シビアだから、トラベラーのために食堂か何か必要じゃないかなあ。

「それで、できればなっちゃんとイオさんには、今日もダンジョン行ってきてほしいんだ。パターンが本当に変わるのかとか、毎回宝箱が出るのかとか、検証したいことが多くてさ」

「あ、それはもちろん! 僕達も気になるから今日も行きたいと思ってたところだよ」

「助かるー!」


『ダンジョンってスペルシアちゃんの作った遊び場よね? 私も見たいわ』

 むー。テト、ダンジョンはいれないのー。

『あらあら。あなたは契約獣だから難しいのね。大丈夫よ、見るだけなら私が連れて行ってあげるわ』

 ほんとー? ナツといっしょにいくのー!

 ちょ、ちょっと、待って。テトさんダンジョン行くの? 行けるの? その話は後で詳しく聞かせていただきます……!

 なんて話をしながらギルド予定地にたどり着いた僕達。広間にする予定の場所に待っていた男性が4人、全員トラベラーさんだなと思って見ていると……。


 突然ダッシュで走り出すテトさん。そしてその向かう先には、最後に見たときとはまた違う装備を身に着けた見覚えのある青年が一人。

 きさらぎー! テトなでにきたのー? なでていいよー!

 どーんと体当りしに行ったテトさんの尻尾はぴーんと上機嫌にまっすぐだ。突然背後から体当たりを受けたトラベラーさんが振り向いて、テトを見てぱっと笑顔になった。

「テト、久しぶり。あ、ナツさーん、イオさーん!」

 わしわしとテトを撫でながらこっちにも笑顔をむけてくれた如月くんに、僕とイオくんも顔を見合わせてから駆け寄ることにした。

「いらっしゃい如月くん! 相方さんは?」

「置いてきました!」

「よう如月。置いてきて大丈夫なのか?」

「なんとかさせますんで大丈夫です!」


 相変わらずの力関係……まあいっか! ウェルカム如月くん!

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