24日目:帰ってきた雷鳴さん!
エクラさんから何もらったか気になる!
という気持ちを抱えつつぐっすりリアルで就寝して翌朝、約束のログイン時間は9時。
ぱちっと目を覚ましたら知らない天井……でもないか、もう何回か見てるからすっかりおなじみになった村長さん宅の客間の天井だね。
「おはよう、ナツ。部屋の外に雷鳴来てるぞ」
「……おはようイオくん。なんでイオくんいつも僕より先に起きてるの……?」
「10分前行動」
「なんてことだ……人を待たせないとはえらすぎでは……」
ちなみに僕は5分前行動できたらいいなと思ってる人です、実際は1分前行動かな?
ナツおはよー! なでてー!
「おはようテト。今日もかわいいね、撫でましょう」
やったー!
寝起きのぼーっとした頭で一心不乱にテトを撫でていると、その間にちゃちゃっと布団を片付けたイオくん(えらい)が僕の肩を叩く。何かなーと思って顔をあげたら、無言でふすまを指さされた。
……うん? あ、そうか。寝起きに言われたっけ。
「雷鳴さんもう帰ってきたんですか?」
「邪険にされると普通に悲しい」
「あ、してないしてない、まさか徹夜? って思っただけです」
「3時間は寝たよ」
それってほぼ徹夜では? と思ったけどまあいいか。ふすまの外にいつまでも居てもらうのもなんだし……ってことで「中へどうぞー」と声をかける。とたん、スパーン! と勢いよく開け放たれるふすま。
「ダンジョンと聞いて!」
「テンション高いな」
「雷鳴さんってそんな大きい声出せたんだ……?」
らいめいだー。ひさしぶりー、なでるー?
「やあ。ちょっと頑張って大声出してみたけど結構のどがしんどい。サンガを楽しんでいる最中にダンジョン発見なんて楽しそうな話題が出たせいでとんぼ返りしてきたよ」
「ダンジョンは雷鳴さんの好きな農業関係じゃないと思ったのに」
「ダンジョン内で農業が可能か否か、もしくはダンジョン産の野菜は実在するのか。その検証は僕がやるしか無いと思うんだ」
「それは本当にそう」
むしろダンジョンに野菜を求める人間が多分雷鳴さんくらいしかいないのではないだろうか。普通人はダンジョンに経験値やお宝を求めると思うよ。
ささっと室内に侵入した雷鳴さんは、後ろ手にふすまを閉めて座卓近くに座る。その視線がイオくんの手元のおにぎりに注がれている……あ、これは朝ご飯まだ食べてない人ですね。
「雷鳴さんもなんか1品出してくださいね」
「なんと、サンガで買った醤油で、きのこのお吸い物を作ってある」
「歓迎!」
雷鳴さんとんぼ返りとか言ってたけどちゃっかりサンガを楽しんできたのかな? あそこで醤油が売っていたとは知らなかった。僕とイオくんはイチヤで手に入れちゃったから探さなかったしなあ。
「難を言うなら麩か豆腐が欲しかった」
言いながら鍋を取り出した雷鳴さんである。ふわっと香る醤油の香り、素晴らしいね。僕、お吸い物と味噌汁の違いって味噌か醤油かの違いだと思ってるんだけどそれで合ってる? とイオくんにきいてみたところ、お吸い物の方は塩味もあるらしいです、料理って奥が深い。
「すまし汁ってのもあるじゃん? あれは?」
「確か、具を楽しむのがお吸い物、汁が主体なのがすまし汁じゃなかったか?」
「よくわかんない違いだった。美味しければなんでもいいよ僕は」
そもそも美味しいもの食べてるときにその料理の名称なんか気にしていられないよねー。としみじみ頷いている僕に、すっと差し出された木製のお椀。きのこたっぷりのお吸い物に、仕上げの三つ葉が浮かぶ。
「確かに豆腐入ってたらもっと美味しそうだった予感がします……!」
「ナツの正直な感想に作成者としても同意しかないんだ」
「豆腐は見てないんだよなあ」
あるなら俺もほしい、とはイオくん談。
とうふなあにー?
と首をかしげるテトさんに、
「白くて柔らかい、豆からできたものだよー」
と返事すると、続けて「あまいー?」と質問される。甘くはないかな、と正直に言ったところ「なんだー」と興味を失うテトさんなのだった。僕は好きだよ豆腐。色々かさ増しに使えるし、麻婆豆腐とか冷奴とか美味しいもんね。
イオくんが出してくれた朝ご飯は、おにぎりが1人2個、目玉焼きと、昨日の残りのミートボール、温野菜中心のサラダにすりおろし野菜ドレッシングをかけたもの。あ、このドレッシングは最近イオくんがリアルでハマってるやつの再現かなー? 酸味が少なくて食べやすいんだよね。
イオくんが頷いたので、これは食べてよしの合図だ。
「朝ご飯いただきます!」
テトもー、いただきまーす。
あ、テトには昨日食べさせ忘れていた、はちみつ塗ったパンを出しております、イオくんが。そのイオくんと雷鳴さんも、それぞれぼそぼそっと「いただきます」を告げて、まずはエネルギーチャージだ!
*
美味しい朝ご飯を終えた僕達は、とりあえず雷鳴さんにダンジョンの情報を共有した。これから挑むらしいから、戻ったら情報提供もお願いしておかなきゃ。
僕達のダンジョンはこんな感じだったよーって話はしたけど、雷鳴さんはソロで挑むから、多分全然違う感じになると思うんだよね。宝箱の中身は特にぜひ知りたいところなので、無事にクリアしてもらいたい。
「なるほど、プレイヤーの思考や行動を反映した展開。大変参考になる、つまり僕がダンジョンで野菜に遭遇する確率はゼロではない」
と力強く頷く雷鳴さん。そうだね、なんか雷鳴さんは野菜を引き当てそうな気がしてきたよ。味が気になるね。
「あの、ダンジョンの話はこの辺にして。雷鳴さんは一人で戻ってきたんですか? 雪乃さんは?」
「彼女はサンガから派遣される団体を率いないといけないから。一応、ギルドで里に行きたいトラベラーを募って護衛も増やすらしいよ。いやあ、すごいね彼女。一人でギルドと教会に話をつけて使節団からの情報をまとめて……サンガからの提案や商談もバッサリと。バリキャリと見た」
「お、ということは、ギルドも教会も来てくれる感じですか?」
「うん。ナツのダンジョン情報がすごく役に立った。あれがあったから教会も二つ返事だったよ」
おおー! 多分来てくれるんじゃないかと思ってたけど、すんなり話がまとまってた! ダンジョン情報は絶対に切り札になると思ったから雪乃さんに気づいてくれーと念じながら送っておいてよかったー。
雷鳴さんはダンジョンと聞いて急いで戻ってきたらしいんだけど、ダンジョンの話は他のトラベラーにはまだ伝えてないそうだ。発表のタイミングとか、ダンジョンの解禁とか、そのへんはこの里の発展クエストやってるアサギくんに委ねよう。
戻ってきた雷鳴さんは、村長さんの庭が赤と青の炎が広がる幻想空間になっていて驚いたそうな。そして村長さんに炎鳥さんの話を聞いて更に重ねて驚いたそうな。
「伝説上の生き物が生まれる瞬間なんて面白そうだから見たいよね」
「ですよねー」
「ちなみにさっき庭の卵を<鑑定>したら、孵化まであと5時間だそうだよ」
「お、そんなの分かるんですね。僕も後で見ておこう」
5時間というと、13時頃かな? 丁度昼間の良いときに生まれてくるんだなあ。
「じゃあ、僕はさくっとダンジョンに行ってくる。朗報を待て」
「いってらっしゃい、気を付けて!」
がんばれー!
「朗報頼む」
意気揚々と部屋を出ていく雷鳴さんを見送った……のはいいけど、雷鳴さんだいぶテンション高いなあ。ダンジョンでなにかやらかさないといいんだけど、と思う僕なのだった。
さて、そして僕達が今日やることの1つ目は、当然、昨日エクラさんからもらった物の確認、である。
正直恐る恐るインベントリを確認したんだけど、共有インベントリのほうに新規のものが4つ確認できた。1つずつ見ていこう。
まず1つ目は、銀翼の腕輪。これは契約獣用のアクセサリなので、当然テト用だ。
きらきらー!
と嬉しそうに飛び跳ねるテトさんの様子からも分かる通り、キラキラ輝く銀色の腕輪で、羽の形の装飾がついたアクセサリ。テトがていっと前足を輪っかに入れると、自動でサイズが調整される。その鑑定結果はこちら。
「銀翼の腕輪。装備すると空中での移動が上手くなる。品質★6」
「テト、もっと上手に飛べるようになるんだってー。すごいねー」
いっぱいとぶのー! ナツいつでものっていいよー!
「ありがとう、テトは良い子だねー!」
今日は炎鳥さんが生まれる予定だからフィールドへは行かないけどね。でも近いうちに火山へは行く予定だから、そのときにでもぜひお願いしよう。
次にイオくんが共有インベントリから取り出したのは、漆黒の革製っぽい……手袋? グローブ? 指にフィットするタイトなデザインの、シンプルなやつ。
「これはどう見ても俺用」
とイオくんも言う通り、色からして完全にイオくん用。横から<鑑定>する。
「ブラックワイバーンの革手袋。剣士専用。すべての剣術スキルの効果を上昇させる、騎士の為の防具の一つ。品質★7」
「強化できる」
「めっちゃいいじゃん」
強化できる防具というと、かなりお高いやつかな。剣士専用ってあるけど、装備に条件あるやつ? と聞いてみたところ、どうやらこの手袋は「強化できる剣」を装備し、筋力40以上で剣士系の職業についていることが装備条件らしい。筋力40以上と職業は達成しやすい項目だけど、強化できる剣は持っている人がまだ少ないから、結構厳し目の条件だね。
「って、イオくんの筋力40以上か」
「46。ドアならいくらでも開けてやるよ」
「それは本当にお願い」
僕だと開かないドアが世の中多すぎるんだ。それにイオくんの筋力46は素のステータスだから、装備品のステータス補強が入るともっと上がるし。
「で、これか」
「もらうけどさあ、コンポートを作ったのはイオくんなので、イオくんの分だけで良かったと思う正直。僕、お茶してた記憶しか無いけど、もらっていいんだろうか」
「それをいうならテトなんかナツよりもっと何もしてねえぞ」
「あ、なるほど」
説得力あるやつだ。テトがもらったんなら僕ももらっていいか。すごい、一気に気が楽になったぞ。
そんな気楽な状態で手にしたのは、こちらも手袋である。ただし、イオくんのが漆黒の革製だとしたら、僕のほうは純白のツルツルした布……絹っぽいやつにレースやら刺繍やらを散りばめたお上品な手袋。
「ナツの深刻な白化」
とイオくんに言われるのも仕方がないくらいのまばゆい純白。正直手袋とか汚れてなんぼのものなので、こんなに繊細そうなものは装備したくないれども。
「ホーリーシープの手袋、魔法職専用。すべての魔法スキルの効果を上昇させる、魔法を使うすべての者に有用な防具。品質★6」
「何気にイオくんのだけ品質が高いの、料理人への配慮が見えてとても良いと思います」
「装備条件が、強化可能な杖の所持と魔力40以上、魔法職であること、幸運が30以上あること。俺のより条件が一つ多いあたりが品質の差か?」
「効果量が具体的に書いてないからわかんないけど、多分性能にも多少差が出るんじゃないかな」
リアルだと、こんなのどっかに引っ掛けて破きそうで怖いから絶対に身に着けないけど、まあここはVRゲームだから、そう簡単に破れたりしないでしょう。汚れも【クリーン】さえあれば怖くない!
というわけで試しに装備してみると、テトさんがとっても嬉しそうな顔で僕の周りをくるくると回った。
まっしろー! すてきー!
「ありがとう。テトは本当に白が好きだねえ」
ナツとテトおそろいだもーん。
にゃあん、と甘えた声ですり寄る家の契約獣、やはり世界一かわいいのではないか。どう思いますイオくん!! と呼びかけた先で、イオくんは最後の1つをインベントリから取り出す。
「で、これだ」
「テトの可愛さについてもう少し議論していたかった」
「現実逃避やめろ」
だってさー、それ、どっからどうみてもさー。
「エクラさんのちっさいフィギュアじゃん……!」
どっか遠くからエクラさんの魂が乗り移ったりしそう、すごくしそう。




