表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/337

23日目:夜のティーパーティー

いつも誤字報告ありがとうございます。助かります。

「ふむ。応用力がある」

 感心したように呟くリゲルさんである。褒められたのは分かるけど、それどころではないのですが!

「やはり発想力はトラベラーの方が凝り固まっていないな。これからの時代には意見役が必要かもしれん」

「リゲルさん、しみじみしてないでなんとかなりませんかこれ!」

「<魔力視>はあと5分続く。視界を暗くする魔法ならナツも使えるんじゃないか」

「視界を暗く……あ、【ブラインド】!」

 それがあったかー! あ、でも自分にかけるとクールタイムがあるからイオくんにかけられない、どうしよう。……と僕が迷っていると、リゲルさんがさっさとイオくんに【ブラインド】をかけてくれた。ありがたい。僕も自分に【ブラインド】をかけて、っと。

「じゃあ、開けます!」

 宣言して、がちゃりとドアを開け放つ。……おお、なんか黒のフィルムを通して世界を見ているような感じ? 全体的に明るい夜みたいな見え方してる……!


 僕の横をすり抜けて、テトがてててーっと花園に駆けていく。僕もその後を追いかけてエクラさんの花園ヘ足を踏み入れた。後ろから花園に入ってきたリゲルさんは、「ドアは閉めておいて大丈夫だ、帰りはノブを回すだけで帰れる」と教えてくれる。

「わー、蜜花ってこんなに魔力を含んでるんですね」

 すごいなー、と思わず見惚れてしまう花園では、蜜花がその花の中央にホタルでも飼ってるのかな? ってくらい光っている。これが全部魔力だとすると、テトが「まりょくいっぱーい」と言うのもよく分かるな。ぼけーっとその綺麗な風景に見とれていると、花畑の奥の方からエクラさんがふわふわと現れた。

 うむ、夜見ると一層神秘的!

「エクラさん、こんばんはー!」

 こんばんはー! きらきらー!

「お邪魔している」

 僕達が順番に挨拶をすると、エクラさんはニコニコと順番に僕達を見つめてから、「はい、こんばんは」と応えてくれた。あいかわらず美しい声である。

「花を取りに来たのかしら? 随分はやいのね」

「ああ、いえ。今日はリゲルさんのところに遊びに来てました! どうせならエクラさんにもご挨拶しようと思って!」

「まあ、嬉しいわ」

 エクラさん、声のトーンが一段あがったので、多分本当に喜んでくれてる感じだな。テトがさっそくじゃれつきつつ、「おいしいのもってきたよー!」とちょっと得意げな顔をしている。


「ここでもらった蜜花で作ったリンゴのコンポートがある。よければ食べないか」

 料理人のイオくんが代表でエクラさんに声をかけてくれたので、僕はその間にインベントリからテーブルセットを取り出すことにした。このテーブルセットはかなり軽量なので、僕でもなんとか持てます。ふらつくけど。き、筋力などいらぬ……!

「貸せ、危なっかしい」

「リゲルさん……! なんて優しい……!」

「いくらエルフといえども流石に力がなさすぎるのではないか? それで生きていけるのかお前は」

 鋭い一言だけど、自覚はある……だがそれでも!

「イオくんがいるので大丈夫です! 筋力はいらない子!」 

「……お前たちの関係性がよくわからん……」

 とってもわかりやすい親友ですが何か?


 エクラさんははちみつを使った料理に興味を惹かれたようで、すんなりとお呼ばれしてくれた。イオくんが取り出したコンポートのお皿に、目をきらっきらさせて怒涛のごとく迫り寄ったのはもちろんテトである。

 すーてきーな♪ はちーみーつ♪

 新作の歌まで歌っている。よっぽどはちみつでキラキラコーティングされたコンポートが素敵に見えるらしいよ。そのままイオくんを見上げて、「ねこのおさらー!」とおねだり。

「どうせこれだろ」

 イオくんはすっと猫のお皿をインベントリから取り出した。……ねえ本当にテトの言ってること聞こえてないのイオくん。分かってるようにしか思えないんだけど。わーいって大喜びのテトに真っ先にコンポートを差し出してから、イオくんは残りを全員に均等に取り分けてくれた。

 エクラさんは神輝蝶という大きな蝶なんだけど、デザインはデフォルメされていて、手足もなんかぬいぐるみっぽくてかわいい感じ。添えられたスプーンを器用に掴んでいるのがなんとも微笑ましい。

 僕リアルの蝶ってそこまで好きじゃないんだけど……やっぱり虫感あるし……エクラさんのデザインは可愛くて好きだよ。

「ナツ、紅茶買ってなかったか?」

「あ、そう言えば焼き菓子のお店に売ってたやつあった! ティーポット買ったよね?」

「ある。ナツ全然使わないから存在を忘れてるのかと思ってた」

「忘れてました!」

「だと思った」

 むしろなぜイオくんが覚えているんだ。記憶力いいなあ!


 この前リゲルさんの家でごちそうになった紅茶がとんでもなく美味しかったので、あれほどのお味ではないけれど……! イチヤの焼き菓子を売っているお店で、「焼き菓子に合う紅茶」として売ってたオリジナルブレンドの紅茶を取り出す。

 お湯は<原初の魔法>でいいかな、と思っていたところ、横からリゲルさんに奪い取られた。あ、はい。一家言もっていらっしゃると。お任せいたします。

 ナツー、たべていいー?

「イオくん、テトが食べていいかって」

「紅茶飲まないテトは食べていいぞ。エクラも良ければどうぞ」

 やったー!

「あら、ありがとう。とっても綺麗な食べ物ね」

 大喜びするテトさん、うにゃうにゃ鳴きながらコンポートにかじりつく。口を動かすごとに表情がとろけていく……よっぽど美味しいのだろう。僕も食べたい……けど、紅茶も待ちたい気持ちもある……!

「ナツ、我慢しないで食べてていいんだぞ?」

「くっ、紅茶を待ちます! 待ちますとも!」

 イオくんが慈愛の眼差しで促してくるけど、僕は屈しないぞ……! 甘いコンポートの余韻を紅茶で飲み込むのもまた良しというものなのだ……!


 とはいえちょっと手持ち無沙汰になったので、そっとエクラさんを<鑑定>してみる。最初に来たとき見せてもらってるんだけど、<総合鑑定>がレベル10以上になったことで魔物の進化度が見られるようになったからね。神獣さんにも進化度ってあるのかなーという軽い興味で見せてもらったんだけど……なんと脅威の★5。

 5進化か……! 流石に神獣さんともなればそのくらい必要なんだなあ。エクラさんってやっぱりすごいんだね、すごく穏やかで優しい空気だけど、戦ったらすごく強いんだろう。僕も、一見親しみやすいけど戦ったら強い! みたいなの目指したいなー。

 しみじみしていると、いつの間にか僕の前に紅茶が置かれていた。

 よし、では僕もコンポートを……!

「いただきます!」

 うわあ、すごい、すっきりとした甘さ……! リンゴも、もともとバランス最高の美味しいリンゴだったけど、はちみつと絡んだらもはや最強……! 口の中に余韻がいつまでも残る……これは至福と言って過言ではないのでは! 

 おいしいのー! はちみつのおあじとりんごのほのかなさんみ、しゃきしゃきしたしょっかんがのこっていてさいきょうなのー!

「テトさん語彙力めっちゃ上がってるね!? イオくんめちゃくちゃ美味しい!」

「おう」

「本当に美味しいわ。私の蜜花がこんなふうにお料理になるなんて、なんだか新鮮な気持ちね」

「……ふん、なかなかだ」

 みんな思い思いの感想を述べているけれども、全体的に好評です。当然ですね、ふふん。


 紅茶を飲みながら、まったりと雑談に入る僕達。

 テトが一生懸命リゲルさんとエクラさんに、お仕事頑張った話をしてるので、僕が通訳してあげることにした。サンガから荷物を運んだ話とか、アサギくんとか雷鳴さんの話とか、炎鳥さんの卵を運んだんだよって話とか。特に炎鳥さんの話にはエクラさんが興味津々だったので、明日卵が孵るんですよーって話をした。

「……それで、村長さんの家の庭は今夜から人で賑わう予定なんです」

「まあ、素敵ね」

 すてきなのー。ほのおがゆらゆらきれいなのー。

 テトもうっとりしているけれども、あの赤と青の炎が燃えながら混ざり合っている光景は本当に綺麗だからねえ。そして生まれてくる予定のひよこさんたち……絶対に可愛いはずだ。僕も楽しみなんだよね。

「……その里というのは、どのあたりにある?」

 問いかけるリゲルさんには、イオくんが答える。

「サンガを出て南東方向の、火山の麓にある鬼人の里だ。どちらかと言うとサンガに近い」

「ふむ。この地図でいうとどのあたりだ?」

「これだと……ああ、このあたりだな」


 リゲルさんが、多分魔法で空中に大まかな地図を表示したので、イオくんが指さして場所を伝えている。それを見て、エクラさんが「あら」と声を上げた。

「そのあたりなのね。私、お祝いに行こうかしら」

「え」

「え」

「頼むからやめてやれ」

 えっと……エクラさんは神獣さんなので……湯の里に出現したら里の人達がパニックになりそうな気がするぞ。炎鳥さんが生まれるってだけでも里全体が浮足立っているっていうのに。

「新しい炎鳥が生まれるのでしょう? 祝福をしたいわ」

 エクラさんは純粋な善意で言ってるんだろうけど、そもそもこの花園から離れていいのかな? そのへんどうなんですかリゲルさん。と視線をむけてみる。

「正直私も見に行けるものなら見に行きたい。めったに見られるものでもないし」

「お、来ますか?」

「仕事があるから無理だが」

「世知辛い理由だ!」

 リゲルさんは勤め人でしたか……! いやまあ首都にいる貴族さんって、お城勤めだよねきっと。労働ご苦労さまです!


「エクラは自分の影響力の強さをもっと自覚したほうが良い。神獣が人里に降りるだなんて聞いたことがない、100年語り継がれるぞ」

「あらまあ」

「エクラはただ炎鳥を祝福しただけでもな、その後に起こった良いことがすべてエクラの存在に結びつけられ、知らぬ間に尾ひれがついてとんでもない伝説になる。断言しても良い」

「それはちょっと、嫌ねえ」

 実力以上の存在に見られるのは居心地が悪いわ、とエクラさん。なんていうか、リゲルさんとエクラさんって長い付き合いって言ってたけど、仲良しだなあ。こういうやり取りにも遠慮のなさというか、気安い感じが出ているね。

「諦めろ。お前は歩く伝説になりたいか」

「そうね、流石にちょっとやめておくわ」

 エクラさんは残念そうにそう言った。リゲルさんがいなかったら、本当に軽い気持ちで村長さんの家の庭に神獣さんが出現していたかもしれない。村長さんがキャパオーバーで倒れちゃいそう。


 そんな感じに雑談を続けていたんだけど、流石に2時間くらいで切り上げて戻らなきゃって話になった。リゲルさんからは「<魔力視>は取得しておけ」と助言をもらったので、多分取得可能スキルの一覧に出ているはず。

 チェックしてみると……あー、SP10 の高い方の固定スキルです……! SPちょっと回復したと思ったらまたすぐに減っていくなあ。

「リゲルに使わせてもらったからか、俺も取得できるな<魔力視>」

「イオくんもとろう! 僕とテトと同じ視界を見ようよ!」

「いい感じの言葉で誤魔化そうとしやがる。まあ取るけど」

 やったねイオくんも巻き込んでやったぞ! というか、僕だけ<魔力視>取っても色々見落としそうだからイオくんが取ってくれる方が助かります。

 そんな感じで和気あいあいと、エクラさんとリゲルさんにお別れの挨拶をしてドアノブを回す僕。の、背中からエクラさんが涼し気な声を投げかけた。


「そうだわ、コンポートのお礼をしておいたから、後で確認してちょうだいね」


 え、と振り返る頃にはもう、僕達は見慣れた村長の家の一室にいたのであった。

「……最後! 最後に爆弾投げるのはよろしく無いです!!」

「ナツ諦めろ、そして今から確認すると絶対長くなって連続ログイン時間が引っかかる」

「あー! 中途半端に見ちゃうと気になって夜眠れないやつー!」

「明日ログインしたら真っ先にチェックな」

「朝まで封印……!」

 なんて気になるところで終わるんだ……でも残念ながら本日のログインはここまで!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
がぶり寄る、がぶる、がぶり寄り。初見語彙でした。 方言か相撲の技術か。 ナツとイオの出身地の設定とかってあったっけ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ