23日目:新しいスキル発見
スイートポテトはねー、おいもなんだよー。それでねー、とってもなめらかであまーくて、やさしいおあじなのー。テトこれだーいすきー!
と、テトが熱弁しているのはリゲルさんに対してである。にゃっにゃっにゃー! と必死で一生懸命説明しているんだけど、多分リゲルさんには全く伝わってないと思う。ただただ微笑ましいものを見る目で見られているよテトさん。翻訳する……? と迷っていたところ、イオくんが横から軽く口を挟んだ。
「テト、はちみつ舐めるか?」
はちみつー!
一瞬で切り替えられるのはテトの良いところだと思います。絡まれまくっているリゲルさんにイオくんが助け舟を出したってところかな。テトがイオくんのところにぴゃっと飛びついたので、解放されたリゲルさんは残念そうにしつつも安堵の息を吐く。
「ナツ、さっきのテトは一体何を訴えていたんだ。よくわからんが一生懸命だったようだ」
「このスイートポテトがいかに美味しいかについて一生懸命語ってました。テトこれ大好きなので……」
「なるほど。微笑ましいが、なぜ私に?」
「テト、リゲルさんのこと好きなんですよ。妖精類なので撫でてくれるって信じてるし」
「ふむ」
そうなのか、とリゲルさん。ちょっと嬉しそう。
デザートのスイートポテトを食べ終わると、テトは「テトもういっこたべられるよー?」とイオくんにおねだりしてたけど、これからエクラさんのところに顔を出してリンゴのコンポートを食べるのだ。「別のものがあるだろ」と却下されたテトさん、炊事場で見たきらきらコンポートを思い出してテンションを更にあげる。
リゲルもー! リゲルもいっしょにいくのー!
とリゲルさんのループタイをかぷっと咥えてぐいぐい引っ張るほどだ。やめなさい首がぐえってなるから。
「リゲルさん、テトが一緒に花畑に行きましょうって」
「構わんが、なにかあるのか」
「エクラさんのはちみつ使ってリンゴのコンポート作ったんですよ、イオくんが。それをみんなで食べたいようです」
リゲルさん、無言でイオくんに視線を向ける。その視線を受けて、イオくんは軽くため息を吐いた。
「言いたいことはわからんでもないが、このきらきらした目で見られて断れるか?」
「……無理か」
「無理だ」
なにやら通じあっている2人は、同時に再びため息を吐いた。幸せが逃げちゃうのでやめたほうが良いと思う。テト、イオくんとリゲルさんの幸せ拾っといてね。
「エクラさんが何食べられるかわからないけど、果物ならいけるかなーって!」
「丁度手元に品質★8のリンゴがあったからな」
「なるほど。カンが鋭いな、エクラは肉と魚は食べない」
「やっぱりそうでしたか!」
だって見た目が蝶だもんなあ。蝶って花の蜜を吸うイメージ強すぎて、肉とか無理そうって思ったよね。
「まあ、今の時間ならいるだろう。ナツ、扉を開けてみろ」
「はい! そうそう、それもやりたかったんです、試しに一回開けてみたい」
今日はリゲルさんがいたけど、次来るときリゲルさんがこの部屋にいるかわかんないもんね。魔法陣に魔力を流すだけなら簡単だから大丈夫だと思うけど、一応有識者の前でやってみたい。なんか間違ってたらすぐ教えてもらえるし。
というわけで、早速リゲルさんの部屋の片隅にある魔法陣付きのドアの前に立った。こうしてみると普通のドアにしか見えないんだけど、これに魔法陣が仕込んであるんだよなあ。リゲルさんこんなことできるなんてすごいね。
「えーと、どうやって魔力を注げばいいんでしょうか」
「ふむ。ナツは<魔力視>というスキルを持っているか」
「え、無いです」
初めて聞くスキルだ。一応、慌てて取得可能なスキル一覧を探してみたけど、検索しても出てこなかった。
「それってどういうスキルなんですか?」
わからないことは、知っている人に素直に聞こう。この一覧にないと詳細を確認することもできないから、どうしようもないのだ。それでも掲示板に情報があれば後で調べられるけど、今は目の前にリゲルさんがいるんだから、聞いちゃったほうが良いでしょう。
「この世界の魔法を使う仕事の人間には馴染深いスキルだが、トラベラーにはあまり知られていないようだな。<魔力視>は魔力の流れを見るスキルだ。どの食べ物にどのくらいの魔力量が含まれているか、魔力の込められた魔道具がどれか、どこからどこに魔力が移動しているか。そういったものを見る事ができる」
「おお……。あ、テトがいつも魔力がたっぷり! とか言うのも、それですか?」
「同じようなものではあるが、もともと契約獣はこの世界にやってくるために統治神スペルシアから様々な加護を得ている。契約獣が魔力についてよく見えるのは、その加護のおかげであってスキルではないな。まあ、できることは同じだ。今回はこれを使う」
リゲルさんは、僕とイオくんに紙のお札を1枚ずつ差し出した。受け取ってみると、なんだか複雑な模様の魔法陣が描かれている。前に、僕達が通った古い魔法の移動装置を封印……消去だっけ? したときに使った、使い切りの魔法のお札かな。
「ここでぱぱっとナントカのお札ですね! とか言えたらかっこいいんだけど、この魔法陣を見ても僕には何がなんだかわからない……っ!」
「当然だ、私の魔法だぞ。この世界に来て数日の駆け出し魔法士に読み取られたらそちらのほうが困る」
リゲルさんはいつもの無表情にちょっとだけ得意げな色を乗せた。ですよねー! としか言えないやつだ。そもそも僕達、アナトラ世界でまだ1ヶ月も過ごしてないから、幼稚園児みたいなもんです。
今回はリゲルさんが前フリしてくれてたから、多分その<魔力視>を一時的に使えるようにするやつなんだろうけど。
「俺ももらっていいのか?」
と声を上げたのはイオくん。そしてそれに対するリゲルさんの返答は、
「ナツにだけ渡して、お前に渡さないのも不公平だろう。一緒に使え」
だった。
「公平だ! 優しい!」
思わず拍手した僕に、リゲルさんは微妙に気恥ずかしそうな顔をする。でもこれ本来、僕だけ見えれば良いものなので、イオくんにも体験させようというのは完全にリゲルさんの優しさ! 素晴らしいことです。
リゲルよいこー!
とテトもにゃーんと鳴いた。うむ、良い人です。
「俺のことは良いので、その札を使え。使うと念じるだけでいい」
「わかりました!」
「了解」
えーと、お札を手にして……あ、ウインドウ開くじゃん、良かった。使います、っと。
札がぱあっと光って、リゲルさんの髪色と同じような水色の光の魔法陣が目の前に出現した。お札に書いてあった奴だね、細かい模様だなあ……と見てたら、それが僕の顔に当たって、なんか細かなキラキラの光になって消えていく。
きらきらー! テトも、テトもー!
とテトさんがぴょいんぴょいんするくらいには綺麗な感じだった。当然きらきらを追いかけてにゃにゃにゃっと空中を引っ掻いたテトの前足は、何も掴めなかったようだけれども。
リゲルー! テトもー!
きらっきらした目をしてリゲルさんに体当たりしにいったテト。急に自分のところに来たテトに驚いたようなリゲルさんは、「何だ?」と優しく聞いてくれたので。
「リゲルさん、さっきの魔法陣きらきらで綺麗だからテトもほしいって言ってるんですけど……」
「……テトには必要無いだろう、すでに魔力が見えているはずだ」
「ですよねえ……テトー、【ライト】出してあげるから我慢してー」
いいよー!
この前好評だった、【ライト】を【縮小】したやつを……ぽーいと投げてあげると、すぐにじゃれつくテトである。相変わらず素直で良い子だと思います。そんなテトが大好きだよ。
イオくんも同じようにして、魔法陣は無事発動した。その状態でエクラさんの花園に続くドアを見ると……あ、魔法陣見える!
扉の表面に、うっすらと淡い光を放つ魔法陣が浮かんでいた。これもリゲルさんの髪色と同じような、空色の光だ。これってリゲルさんの魔力の色ってことなのかな? それとも魔法の種類で色が変わるんだろうか。
試しにテトを見てみると……オーロラ色だ。テトの目の色と同じで、白をベースにいろんな色に見えるゆらぎのある光だね。宝石っぽくてきれい。じゃあイオくんは……と視線を移すと、イオくんは淡い緑色だ。これは<風魔法>の色かな?
「イオくん、僕の魔力何色?」
「なんか虹色に派手な感じ」
「え、ゲーミングエルフじゃん」
「ぶは」
あ、イオくんのツボに入った。げらげら笑っているイオくんを横目に、僕が虹色の考察をしてみると……まあ普通に、出た魔法を全部取得してるからだね。最近取った<樹魔法><氷魔法><雷魔法>以外はだいたいレベルも同じくらいだし。
「イオは何を笑っているんだ?」
「いえ、ちょっとしたエルフジョークです。リゲルさんはやっぱり水色だ、<氷魔法>を極めたとかですか?」
「いや。これは家系の色だな」
リゲルさんが言うには、エルフの古い血筋の家には、その家の色というものがあるらしい。というのも、エンシェントエルフの血を引くエルフだと、特殊な魔法を使える場合が多くてその性質が強く色に出るのだそうで。
「色の数が限られるから、すべての家で色が異なるわけではないが。私の家は水色が家系色だが、同じ色を家系の色として持っている全く別の家系は他に片手では足りないくらいある」
「へえ、髪色に合わせてるのかなって思ったけど違うんですね」
「それは逆だ。魔法の性質が髪や目の色として出るのだ」
「なるほど」
今のリゲルさんの言い方だと、エンシェントエルフの血を引いていないエルフさんには血筋の色は無いってことでいいのかな。オーレンさんとエーミルさんは親子だけど色味が違ったもんね。混血が進んで血が薄くなってる、とかもあるのかも。
僕が一人で納得しているとイオくんの笑いがようやく落ち着いてきたので、リゲルさんに促されてドアの魔法陣に触れてみる。あ、ちなみに笑いすぎてげほげほ言っているイオくんには、優しいテトさんが「だいじょぶー?」と寄り添ってくれました。なんて優しいんだテトさん。
魔法陣に触れると、いつぞやの魔道具のチャイムを押したときのように、指先から勝手に魔力が吸われる感覚がある。指が触っているところから、水色の魔力を上書きするように僕の魔力が線をなぞっていくんだけど……。
「虹色だねイオくん」
「派手だよな、なんか」
「テトの色はおとなしめの綺麗な色なのに……」
「オパールの色合いだよなテト。あれは落ち着いてて品が良い」
うんうん、宝石っぽくて良いよねテトの魔力の色。それに比べて僕のはなんか、原色っぽい光り方しててあまりにもゲーミングエルフである。
ナツのきらきらー。
あ、でもテトさんは満足そうだからいっか! 派手なほうが好きだもんねテトは。
そんなことを考えていると、魔法陣に魔力が行き渡ったようで、ブゥンと浮き上がった魔法陣が回転し始めて、ドアが上からだんだん光り輝いていく。これも目が潰れそうなまばゆい光じゃなくて、控えめな輝きだ。
「その光が下まで行ったらノブを回せ。それでエクラのところに着く」
「わかりました!」
「ドアを開けたら目を瞑っておいたほうがいい。エクラの花園はまばゆいからな」
まばゆい? って、魔力の光?
疑問に思いつもドアノブを回して、ドアを開ける。と、その開けた隙間からも流れ込んでくる魔力の本流……!
「え、これちょっと、目を瞑るくらいじゃ無理では……!?」
「<魔力視>を切れ。……と言いたいところだが」
「どうやって!?」
あっ、無理無理眩しい! 太陽直視するくらい眩しいこれ! ちょ、どうしよう、えーっと……!
「【遮光】!」
困ったときのお役立ち、<原初の魔法>さんお願いします!