23日目:宝箱を開けよう!
餌付けを終えたイオくんと一緒に広場に戻ると、銀色だった宝箱は金色に変わっていた。
「宝箱がランクアップ!」
「だな」
イオくんに聞いたんだけど、宝箱は金色の上にクリスタルのやつがあって、それが一番レア度が高いらしいよ。一番下が木箱で、そこから鉄、銅、銀、金、クリスタルの順番にレア度が高くなる。で、クリスタルは当然、出現率激レア。今までに2回だけしか目撃報告もない。
「犬と猫だけじゃなくて、ギミックを全部こなしたら、もしかしたらクリスタル来たかもな」
「え、なんか逃してた? 他は普通に襲ってきたような……」
「多分だけど、あの見つけるのに苦労した鳥。あれ<鑑定>してたらなにか出てたかもしれん」
「あー、言われてみれば」
確かにあの子なかなか見つからなかったし、見つけたときにすぐさま攻撃しないで<鑑定>できればよかったかも。でももう一度隠れられたら困るから、攻撃せざるを得なかったんだよなあ。それに、戦闘開始のときレベルとか見るために一回<鑑定>するから、二回目をやろうとは普通思わない。ましてや鑑定結果が変わるなんて予想もしてなかったよ。
「次回挑戦しよう!」
「どうだろうな、多分ここ毎回変わるダンジョンだぞ」
「あっ、そういうのかあ、運が試されるやつ」
幸運なら自信あるし、同じダンジョンをもう一回引けたらいいな。何はともあれ、宝箱は金色。かなりいいものが入っててほしい色だよこれは。わくわくしながらイオくんを見ると、イオくんはうむ、と頷いた。
「開けてこい幸運の申し子!」
「やったー! 開けゴマ!」
宝箱開けるところに幸運がなにか作用するかどうかは、実はまだよく分かってないんだけどね! 多分効果あるんじゃないかとは言われてるけど、そこまでの検証は難しいらしく。だよねー、このゲーム検証項目多すぎるからなー!
でも少しでも可能性が高いなら、イオくんより幸運値の高い僕が開けましょう、この宝箱を! しゅっと出現したウィンドウの「宝箱を開けてダンジョンを出ますか?」の問いに、今回は「はい」を選ぶ!
ばーっと宝箱の蓋が開き、あふれる光が一瞬視界を奪った。七色の光の演出派手だなー! と感心している間に光が収まって、中にはいっていたアイテムが現れる。えーと、これは……。
「ルクススパイダーの布地?」
出てきたのは、真っ白の布地だった。ちょっと厚みのある生地で、なんかこう、きらきらと淡く輝く綺麗な布地。それが幾重にも折りたたまれて、反物になっている。小さい頃、お母さんにつれてってもらった手芸屋さんで、「2メートル切って頂戴」なんてやってたやつだ。テトが好きそうな生地だなーと思ってみていると、イオくんが「お」と目を輝かせた。
「魔法士のローブやケープ、コート等に最適な高級素材」
「えっ!? こんなきれいな布を装備に!?」
それはちょっとどうなのかなー? リアルだったらこんなきれいな布使った服、着ようとすら思わないけど……だって汚したら申し訳無さすぎるじゃん。これ戦闘職の人が着ていいものじゃなくない?
「あ、思い出した。ほら、サンガでお届け物あずかったじゃん、グロリアさんから。あれが、確かルクススパイダーの糸で作られてたような」
「ああ。教会に届けるやつか」
「そうそう、レース預かったでしょ。あれだよあれ」
サンガを出る前に、あいさつ回りしていたら預かったグロリアさんのレース編み。高価なものだって聞いたから箱を開けて中を見たりはしていない。スペルシア教会に届けてって頼まれたわけだから、きっと結婚式に使われるものだよね。3ヶ月以内に届けるという期限付きクエストだ。
あのときグロリアさんが、特別な糸で作った、って言ってたような覚えがある。ルクススパイダーの糸というものが、なにか特別な物なんだと思うんだけど……。僕も<鑑定>っと。
「ルクススパイダーの布地。品質★8、ルクススパイダーと呼ばれる希少な魔物から取れる糸を丁寧に紡いで作られた一級品。魔法師のローブやケープ、コート等に最適な高級素材。腕の良い職人にしか加工できない」
「ナツ用。腕の良い職人を探さないとな」
「待って? 品質★8はやばいのでは」
「ナツ用」
「繰り返さなくてもいいから!」
えー、これ僕が着るの? いくらエルフとはいえこんなキラキラした布地でローブを……? 暗闇で超絶目立ちそうだからご遠慮願いたい。つや消しできるかなこれ。
「一旦ナツが持っとけ。ダンジョン出るぞ」
「はーい」
というわけで、僕達の最初のダンジョンアタックは終了した。所要時間は2時間くらい。でも、今はイオくんのステータスが全部+5されている状態だから……普通に潜った人たちより楽に攻略できたのかもしれない。そう考えると、2時間~3時間くらいを目安時間にしといたほうがいいかな。
ダンジョンの待合室に戻ってくると、村長さんがまだそこで待っていてくれた。
「おお、無事に抜けてきたか」
と喜んでくれた。
「戻りました! ちゃんと宝箱も出ました!」
「それはよかったのぅ。ダンジョンで出たものは、スペルシア様からトラベラーさんへの贈り物じゃ。遠慮なく持って行くのが良いぞ」
あ、なるほど。住人さんにはそういう認識ってことか。ってことは、ダンジョンに住人さんが入ってくることはない……のかな? ちょっと後でそのへん確認したいね。
ダンジョンの詳しい話を村長さんが聞きたがったので、蔵の外に出てからいつものテーブルセットを取り出す。母屋が取り壊されているということで、場所は十分にあるから、ちょうどいいし今日はここでお昼ごはんを食べながら話をするってことになった。ということは……。
「テトー、ごはんだよー」
ごはんー!
呼んだらすぐにぴょいーんと出てきたテトさん、僕の周りをグルグル回ってすりすりと体をこすりつけてくる甘えの姿勢。くーり、くーり、マロングラーッセー♪ とご機嫌な歌が聞こえてくる。はいはい、忘れてないよ、ちゃんとマロングラッセ出すから落ち着いてねー。
村長さんにもおにぎりを出して、僕達も一緒にお昼を食べながらダンジョンの話をした。イオくんがぱぱぱっとまとめてくれたから、僕が付け足すようなことはなんにもなかったけども。イオくんが掲示板でダンジョンの情報を集めた結果、おそらくこのダンジョンは入るたびに違うことが起こるダンジョンだろう、ということだった。
「明日も入ってみてからじゃないと明確には言えないが、おそらく明日は全く別のダンジョンに行けると思う。宝箱については、その時入ったダンジョンの難易度やギミック次第で変わりそうだ」
「なるほどのぅ……。そういうものは、トラベラーさんたちの間で情報共有できるんじゃな?」
「ああ。アサギがログインしたらあいつにまとめてもらおう。情報源は一つ明確なものを作っておいたほうがいい」
村長さんとイオくんがそんな感じに真面目な話をしている横で、僕は幸せそうにマロングラッセの美味しさについて語るテトの話を聞いている。サボっているわけじゃないんだけど、テトがものすごーく幸せそうだから放置できなくてね……。
あまいのー。くりはてんごくのたべものかもしれないの、えらいひとたちもきっとみんなすきなのー。しあわせなのー。
「よかったねー」
リゲルもたべたかなー? ねーナツー、リゲルもマロングラッセすきー?
「多分好きだと思うよ」
リゲルさんはエルフさんだからね、テトからもらった甘いものを好きじゃないわけがないよ、きっと。甘いものが苦手だった場合は例外になるけど……エクラさんのはちみつを貰いに来てる時点で、甘いものは好きだろうしね。
そう言えば、ダンジョンでもらった布地、テトにも見せてあげよう。白くてキラキラしてるから、テトきっと好きだと思うんだよね。加工できる人を見つけられたら、テトにもなにか作ってあげられないかなあ。
「テト見てー。これダンジョンでもらった布だよ。きれいでしょー?」
きれーい!
インベントリから布を取り出して見せてみると、テトはようやくマロングラッセから意識を引き剥がした。僕が持っている布地の匂いをすんすんと嗅いで、うにゃーんと喜びの声をあげる。
すてきー! しろくてきらきらなのー。これナツのおようふくになるのー?
「うーん、職人さんを見つけて作ってもらわないといけないんだけど、一応その予定だねえ」
つよいのができるのー。ぜったいにナツのおようふくにするべきなのー。
「そっかー、強いのができたらいいねえ」
でもすごくキラキラしてるのでローブやケープじゃなくてシャツにしてもらえないだろうか。それなら内側に隠しておけるし。
「加工できる人に会えたら、テトのリボンも作ろうねー」
おそろいー! イオのもー!
「イオくんにも?」
イオくんに白というイメージはなかったんだけど、加工して強い装備が作れるっていうのであればなにか考えるべきかな。でもイオくんの布装備かー。それこそ色が染められるならいいんだけど……。
ナツとー、テトとー、イオでおそろいにするのー。
にゃにゃっと嬉しそうに鳴くテトさんの希望を、叶えねばならぬという気持ちになる。うーん、白、イオくんに白……。
「あ、ネクタイとかできるかな?黒シャツに白ネクタイはありでは?」
ねくたー?
「ネクタイだよー。えーと、なんだっけあれ、リボンをこう、前でクロスさせてとめるだけの……」
「クロスタイ?」
「それだ!」
そしてナチュラルに会話に入ってきたイオくん、やはりこっちの話にも耳を傾けていたらしい。村長さんがそんな僕達に笑顔を向けて、「儂は一度屋敷に戻るでの」とのこと。
「明日は炎鳥様が生まれる予定の日じゃろ。里の者たちに対して参拝規則を作っておかねばなるまいよ」
「参拝……」
「ある程度規制しておかんと、四六時中押しかけられても困るしのぅ」
あ、確かに。何時から何時までって時間で区切ったほうがいいかもだね。そもそも明日の何時頃生まれるのかもわからないし。
帰っていく村長を見送ってから、イオくんが「で?」と僕とテトを見る。
「ネクタイがどうした?」
「この布地の使い道。テトが、3人でおそろいがいいっていうから、イオくんにもなにか作れないかなって考えてたんだよ」
「ああ、なるほど」
イオくんはちょっと嬉しそうにテトをガシガシと撫でた。ゴロゴロと喉を鳴らしたテトさん、ほめられた! とまたしても報告。よかったね。
「クロスタイか。まあ、あれなら邪魔にはならないだろうが……白か?」
「色変えられるかわかんないし。黒シャツに白いネクタイってなんかよく見る気がする……」
「結婚式用の礼装によくあるパターン」
「あー、一気に微妙な気持ちになった」
「青いシャツに変えるか。黒に白はちょっとモノトーンすぎる」
「さすがお洒落さん!」
青いシャツに白いタイなら爽やかな感じの組み合わせに見えて良いと思う。よし、ステータス画面のパーティ用掲示板にメモしておこう。
【おまけ】テトさんの尻尾と耳の感情
・耳
ちいさくぴこぴこうごかす→てれてれ
へにょっとする→しょんぼり
ぴんとたってる→ごきげん
ぱたぱたおおきくうごかす→ごきげん!
・尻尾
ぴーん→ごきげん!
じめんにばしばし・はげしくぶんぶん→おーぼー!こうぎ!
ゆっくりゆらゆら→そわそわ
えんをえがくようにくるっと→わくわく
そうけだつ→びっくり
となりのひとにまきつく→だいすきー!
となりのひとにばしばし→こうふん!
・前足
てしてし→ねーねー
ばしばし→ふきげん!
にくきゅうおしつけ→だめだし。こらー。