22日目:特殊スキルのSPが重すぎる件
「【突撃】! っし、突属性弱点!」
「【サンドウォーク】! 【ミスト】!」
ハニーラビット、攻撃魔法がほぼ通らない!
というわけで補助に全振りしていくしかない魔法士の僕である。アントと真逆な感じだなあ。魔法防御力が高いし、魔法はそこまで痛くないけど、<水魔法>の魔法は全部使ってくるので、自己回復もするし範囲魔法もあるんだよ。
というわけであんまりイオくんに近づいてはならない! 側に寄ったら【アクアレイン】が飛んできます。
「【トラップ】! ……ごめん失敗!」
「ドンマイ!」
そしてさっきからちょくちょくデバフ系が失敗する……! <樹魔法>の【トラップ】は属性が攻撃ではなくてデバフ。体勢を崩す魔法であって、その魔法でダメージを与えるものではないからね。流石に上級魔法は失敗しないけど、基本スキルの方は成功率あんまり高くない……かくなる上は!
「セットしておいて良かった【向上】!」
<原初の魔法>に切り替え、切り替え!
あとイオくんのアーツが2つくらい当たったら倒せそう……ということは僕がするべきことはやっぱり足止め。周囲は<水魔法>でぐっちゃぐちゃだから……。
「行くよユーグくん! 【氷結】!」
凍れ、ハニーラビットの足元!
イオくんには【サンドウォーク】をかけているから、足元凍っても問題ないはず。でもハニーラビットは急に凍った地面に足をすべらせて、すてーんと転がった。やたら可愛いなこのモーション。くっ、敵じゃなかったら仲良くなりたかったよハニーラビット! でも君のお肉は美味しいので……っ!
「最後、【プラスインパクト】!」
イオくんが力押しで沈めて、無事にお肉をゲット。よっしゃ、次行こう次!
「地面凍らすのいいな、<原初の魔法>応用力が高い」
「でしょー! これ教えてもらってほんとに助かってるから、ラリーさんには感謝してる。ゴーラ行ったらちゃんと珍しい本探してお土産にしなきゃ」
「俺もなんか見つけたら知らせる」
「ありがとう!」
とか話しながらイオくんは普通に次のハニーラビットに石を投げてまた釣った。なんで当たるのかわからない。僕、3メートル先のゴミ箱に缶を投げ入れることすらできないんだが??
「お、<投擲>習得できたわ」
「くっ、プレイヤースキルってことか……! そういえばリアルでできることは習得率高いって聞いたこともあるような!」
イオくんなんでそんなコントロールいいの? 野球やってた? って聞いてみたけど、答えは「チーム競技はやらん」でした。知ってた。何なら僕イオくんの中学時代の所属部活まで知ってるじゃん、陸上部で長距離走ってたんだった。ということは、走る系のスキルがあるならそれも習得できるかもだね。
僕は……大食いとかスキルないですか運営さん。早食いでも対応可だと思いますよ!
「おら、ボケっとしてんなよ。肉集めるぞ肉!」
「ラジャー!」
*
そんなこともありつつ集めに集めた肉、38個。
1匹から普通は1つか2つの肉が落ちるけど、たまーにボーナス的に5個とか6個とか落とす敵がいて、それに当たると捗った。これって運なのかなー? そうなら割と僕のおかげ説あると思うので、イオくん美味しい料理お願いします!
「もーちょいでプレイヤーレベルあがるか?」
「だねー。フォレストスネークに切り替える? 同じ敵倒し続けるのちょっと飽きる」
「そうするか。森なら<収穫>できるものもありそうだし。もうちょいで<収穫>もレベル10になるからな」
「発展スキルって何が出るか分かる?」
「確か、<植物鑑定>、<収穫Ⅱ>が出るはずだ」
「新しい鑑定だ!」
イオくんがさらっと説明してくれたところによると、<収穫Ⅱ>は今まで見つけられなかったような食べ物も見つけられるようになり、<植物鑑定>はその植物がどんな植物なのか、食用なのか、毒や薬になるか、等が分かるようになるものだそうで。料理や調薬をする人には便利そうだけど、僕は必要ないかな。今まで通り植物関係はイオくんにお任せしよう。
僕の方は、アント戦で<上級火魔法>のレベルが上がって【マジックパワーレイズ】を覚えていた。文字通り、魔力のステータスを一定期間+5するアーツだけど、イオくんは魔力必要ないからなあ。自分にもかけられるけど、すぐ効果切れちゃうし、使わなさそう。
時間は午後3時ちょっと前って感じだから、そろそろアサギくんから連絡が入る可能性もある。森に入ってフォレストスネークを探しつつ、里の方向に向かって南下していくことにした。時間的に、フォレストスネークの方はそんなに倒せないかも……と思ってたけど、森に入ってすぐに遭遇できたのでラッキー。
「試してみるけど効かないかも。【トラップ】!」
検証のためにやってみた<樹魔法>は、やっぱり無効になった。ログ確認したけどレジストとかじゃなくて無効だから、足がない生物には効かないんだろうな。
「蛇は【トラップ】無効! 【アイスアロー】!」
「【ロックオン】! 正直予測はしてたな」
ハニーラビット相手に魔法全然使えなかったから新しい魔法のレベル上げが捗ってないな! せめてフォレストスネーク相手には使っていかねば。
フォレストスネークは前も戦ったし、奇襲さえ喰らわなければそんなに怖い敵じゃない。危なげなく5匹くらい倒したあたりで、アサギくんからの連絡が入った。
『今漆喰の壁塗ってるから、来れるようなら現場来てくれー! 門から炊事場に向かって歩いて、炊事場近くの右側!』
「アサギくんが戻ってきて欲しいってー」
「おう、こいつ倒したらちょうどプレイヤーレベル上がりそうだし、切り上げるか」
「OK」
というわけで強いアーツを畳み掛けて無事にフォレストスネークを撃破し、プレイヤーレベルが上がった! ようやくレベル16、PPも2増えて、自動振り分けのPPも幸運と魔法防御に入る。
「職業レベルの方も8割って感じだから、すぐ上がりそうだね」
「火山行くとき上がればいいかって感じだな。里に戻るか」
お、イオくん微妙な顔をしている。もしかしてヒューマンのランダムPP振り分けがいらないところに行ったかな。
スキルもそこそこいろいろ上がってるし、後でゆっくり見ておきたいね。そんなことを思っていたら、イオくんが「お」と声を上げた。
「<守護の心得>、レベル10になった」
「お!」
特殊スキルがついにカンストしましたか! わくわくとイオくんのステータス画面を覗き込むと、発展スキルを検索していたイオくんが該当のスキルを探し当てたところだった。発展スキルは、<護衛の心得>、戦闘時全ステータスが+5になる、と。
「これは文句なしに強い!」
「強い。そしてSPやっぱり高え」
「40じゃなかった? ……50使うのか……!」
「多分これSP10につき+1だな」
あー、そう思うと納得できるね。イオくんはずっとSP貯めてたから払えるんだろうけど、これ<護衛の心得>の更に上のスキルってどのくらいになるのか……! 将来的に100とか行く可能性あるのかな? それを思うと気軽にSPを減らせなくなってくるな。
「取るからな、ナツぜっっっったいに死ぬなよ? 戦闘以外でも絶対に、何があっても、死なないように気をつけろよ?」
「僕の命重いな!?」
「俺のSP合計80の価値がある!」
「生きねばならない!」
おかしい、普通VRゲームって死に戻りが気軽にできるはずなのに! ますます死ねなくなってしまったので物理防御にPP振らなければ……!
そこから急ぎ足で里へ戻って、アサギくんのお手伝いに馳せ参じる。
帰りは急ぎだったのでテトを呼んで枝道沿いにささーっと戻ってきたよ。うさぎいっぱい? って期待に満ちた眼差しでテトが聞いてきたので、もちろん! と答えておきましたとも。テトさんは僕を乗っけたままイオくんにありがとうの体当たりをして頭をぐりぐりこすりつけていた。
大喜びのテトさんは軽やかな足取りでダッシュするイオくんの後ろをぴたっとついて走り、そのままアサギくんのいる建設中の共同住宅まで駆け抜けた。
「お疲れ、早かったな!」
とアサギくんが出迎えてくれる。ほんとに炊事場のすぐ近くで、玄関を出たらもう正面に見えるくらいの距離感だ。ここに住むのは便利そうだね。
共同住宅は、すでに1階の壁は塗り終わってる様子だ。職人さんたちは2階で作業中。真っ白じゃなくて淡いクリーム色で、素材は魔物素材だった。漆喰の壁、って鑑定には出るんだけど、これは近い言葉に置き換えているだけってやつだね。
「ホワイトバッファローっていうでかい敵の骨と、ウミスライムの表皮から作った粉を混ぜて水で練るらしいぞ」
「へー、ウミスライムってビニール袋もどきにも使われてたやつだね。この世界のスライム何かと有用って聞くんだけど、まだ1回も出会ったことないなあ」
「俺もないなー」
よくあるRPG系のゲームだと、序盤の簡単に倒せる敵の役割ってだいたいスライムなんだけどね。そんな話をしていると、すぐ近くにいたレッカさんが「おいおい」と呆れたように会話に混ざってきた。
「スライムは便利な魔物だから、たいてい保護されてて野生にはいねえよ」
「えっ」
「そもそもあいつら、戦闘手段が体あたりくらいしかねえし。倒しても経験値入らねえんじゃねえかな」
「なるほど……?」
ノンアクティブな上に激弱とか、そんな感じっぽいな。その上様々な製品に応用可能な便利さがあるなら、保護しようという気持ちも理解できる。
「レッカさんはスライム見たことありますか?」
と聞いてみると、
「戦前にゴーラでウミスライムは見たぞ。でかい水槽にうようよいて、クラゲの集団みてえな感じだったな」
との返答があった。レッカさんって体も大きいし力も強いし、なんとなく身のこなしに無駄がない感じがするんだよね。
「もしかして、レッカさんって冒険者でしたか?」
と聞いてみたところ、レッカさんは少し驚いたように目を丸くした。
「よく分かったな! これでも侍として前衛張ってたんだぜ、ゴーラを拠点にしてヨンド、サンガ、ロクトあたりまでは行ったかな」
「おお、侍!」
それはトラベラーがなりたい職業の上位に入りそう。当然武器は刀剣だろうし、刀鍛冶が鬼人さんの技術だというのも頷ける。
僕がそんなことを考えている間に、アサギくんが有益情報! と目を輝かせて会話に混ざってきた。
「めっちゃかっこいいじゃん! 侍って、どうすればなれんの? 誰かに弟子入りとか?」
「剣術を修める必要があるな。例えばこの里では月影流という流派があるが、他の鬼人の里へ行けば特有の流派があり、それぞれ得意なことが異なる。月影流はどちらかと言うと守りの剣術で、基礎の型や技を覚えれば剣士職からなら転職は可能だ」
「ああ、やっぱ最低限剣士職であることが条件だよなあ」
「あとは、流派の門下生になるには鬼人の里への貢献度や信頼がものを言うんじゃねえかな。やっぱり、知らないよそ者が突然志願しても難しいだろ。里の住人からの推薦とか、何かしらないとな」
「種族とかに条件ってある?」
「種族にはないが、ある程度の筋力、物理防御力、俊敏は必要になってくるな。技を撃つにも前提条件があったりするし」
おー、アサギくんすごい。イオくんのように謎話術でごりごり情報を聞き出してる……! これがコミュ強ということか。
感心してぼけーっと聞いてたところ、建物の方からイオくんが手招きをしたのでそそくさとそっちへ移動。レッカさんのところの大工さんがこの壁ですよ、と示した壁に【ドライ】を使うよう指示される。どうやら1階はもう乾かしていいらしい。2階はもう少し作業があるとか。
「これ乾いたら、もう今日のうちに引っ越しできますか?」
「できますよ。ただこれから暗くなるので、夜の引っ越しはしたくないという人は予定通りですかね」
「なるほど。【ドライ】!」
おお、乾くと壁がクリーム色から薄くて明るい茶色って感じになる。色が変わるならわかりやすいね。ここぞとばかりに普段あんまり使わない【ドライ】を使いまくっていると、イオくんがその大工さんと会話を始めた。レッカさんが侍だってところを皮切りに、鬼人の里特有の職業が他にもありそうとかなんとか。
「ああ、忍びのことですか?」
「それだ。雪乃がくノ一になりたいと言ってたから」
「俊敏がかなり高くないと難しいですよ、あれは」
毎回思うけど、情報聞き出すの上手い人ってすごいな!? 尊敬する!




