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22日目:きらきらの魔法石

 塩加減、塩加減だよ大事なのは。

「美味しい! なんて見事な塩加減、絶妙なバランスが何もかもちょうどいい……シャケ美味しい……!」

 いやー、もうわけがわからない旨味……! 炊き込みご飯とお味噌汁の組み合わせは最高なんだ……! 他には何もいらないとすら思える、噛み締めてしまう……!

 夢中になって貪っていたところ、イオくんに無言で水を差し出されました。ありがとう、味噌汁熱いから水ありがたい。そう、やっぱ塩加減なんだよ。僕の料理が微妙に美味しくないのって、塩加減が下手だからだと思うんだ。なんか毎回入れすぎてしょっぱくなってる気がする!


「美味しかったー! ごちそうさまでした!」

「おう、お粗末様」

 さて、お昼を食べ終えてお腹も満足したところで、午後はアサギくんから呼び出しがあるまでは自由時間だ。イオくんが食後の珈琲を入れるためにミルと豆を取り出した。お、豆から挽いちゃうやつですか! 美味しいやつだ。

 それなあにー?

 テトは見慣れないミルの姿に不思議そうな顔でイオくんに近づいていく。豆を計量してミルにセットしながら、イオくんは「豆を挽くんだよ」と教えている。……ねえやっぱ会話できてるよね? と毎回思うよ僕は。

 テトは珈琲豆の存在を覚えていたみたいで、「にがいのだー」とちょっと興味を失ったような顔をした。君が見つけた珈琲店の豆なんだけどねー。

「いつもイオくんが飲んでる茶色いのだよ」

 あれかー。

 心当たりがあったらしいテトさん、またイオくんの手元に視線を戻した。ハンドルタプのミルで豆をガリガリ挽いていくイオくんの手元をじーっと見つめる。テトは本当に誰かの作業を見てるのが好きだねえ。まあ気持ちは分かるけれども。職人の手元なんて何時間でも見ていられるものでしょうよ、芸術だもんね。

 多分僕にもカフェオレ作ってくれると思うから、クッキーでも出そうかな? サンガで色々買い込んでた焼き菓子、まだ結構余ってるし。えーと、ナッツのクッキーがラスト1個だから、これにしよう。


「そう言えば、ハニーラビット出なかったな。もっと北なのか?」

「うーん、あとちょっと北に行くと川沿いに出るけど、その辺ちょっと探して見て、いなかったらフォレストスネークの方に行こうか。お肉はたくさん欲しいし」

「そうだな」

 イオくんとしても、肉が増えればそれで良いって感じらしい。ハニーラビットもフォレストスネークも、もう手持ちの肉が少ないからね。

 そんな会話をしつつ、イオくんは僕にカフェオレを差し出した。この世界にはペーパーフィルターがないので、ドリッパーは金属製のやつだ。リアルにもあるよね。イオくんも持ってるけど、ペーパーフィルターと金属ドリッパーでは味が結構変わる。……らしい。僕にはあんまり良くわかんないけど!

 僕の舌はそんなに繊細じゃないから良いのだ。イオくんが作る珈琲はもれなく美味しいのであんまり深く考えずにいつも飲んでる。クッキーとよく合うよねー。


 珈琲の匂いに包まれてゆったりとした食後の休憩タイムを過ごしていると、自分の分のナッツクッキーを食べ終わったテトはひょこっと僕の膝に顎を乗せて、じっと上目遣いに僕を見た。

 ナツー、きらきらまだつくらない?

「ん? きらきら?」

 一瞬考えたけど、すぐに思い当たった。あれだ、魔法石だ。そう言えば空の魔石を聖水に浸したやつ、朝時間がなかったから持ってきたっけ。

「もう作れるよー。テトは【ピュリファイ】でいいよね?」

 しろいのがいいのー。

「OK、作ってみようか」

 テトに期待の眼差しで見られたら、やらないわけにはいかないでしょう! ということで、テーブルの上に空の魔法石を3つ取り出してみる。1つの直径は1.5センチから2センチといったところで、魔石としては小さい。イオくんが今魔導コンロに使っている魔石も、このくらいの大きさのはず。

 とりあえず一番小さい魔法石に向けて、聖水を作るときのように、えいやっと【ピュリファイ】を……右ストレートでぶち込む! この作業はスピードイメージが大事なので! おりゃっと勢いでやるべし!

 液体に魔法を込めるのはやったことあるけど、石に込めるのは初めてなのでちょっと緊張したけど、いかにもガラスって感じだった魔法石は、【ピュリファイ】を込めるときらきらとほのかに金色に輝いた。おお、なかなか綺麗だね。


 きらきらー!

 石に負けないくらい目を輝かせたテト、じーっと魔法石を見つめて「うむむ?」とちょっと首をかしげた。どうしたのー? と聞いてみると、なんかちがうのー、とのこと。

 ……プラチナっぽい輝きじゃないからかな? 白っていうより金っぽいんだよね、これ。

「うーん、そうすると真っ白の輝きはできないかも……?」

 光魔法以外で白い輝きの魔法って無いもんなあ。<氷魔法>だとちょっと青みがかっちゃうだろうし……。僕もテトと一緒に考え込む。どうにか白い輝きを出せないか……と唸っていると、横からイオくんが口を挟んだ。

「ナツ、<闇魔法>込めて見てくれ」

「<闇魔法>? えーっと、攻撃魔法以外……【シャドウ】!」

 イオくんが言うならなんかあるんだろう、という気持ちで、えいっと魔法を込める。すると、魔法石は黒というよりはほんのり輝く紫色の石になった。おお、これならアメジストっぽい。

 きれーい!

 テトはぱあっと表情を輝かせて、てしっと紫の魔法石を前足でつついた。動かすと光に当たって結構きらきらするね。でもこれだと白じゃないけど……。

 これちょうだーい!

「いいけど紫色だよ? 白じゃなくていいの?」

 むらさきだとナツのいろだから、すてきー。

「くっ、なんていい子なんだテトさん……! 撫でましょう!」

 わーい!


 なるほどなー、イオくんも紫狙いの助言だったのかな。テトをわしわし撫でながら、今出来上がった魔法石を<鑑定>してみると、「少し存在感が薄くなる」という微妙な効果がついていた。アクセサリにつければ効果が出るんだろうけど、テトにはアクセサリ枠が首輪しかないから、完全に観賞用だ。

 これに効果がついてるってことは、さっき【ピュリファイ】を込めた方は……「周囲を浄化する(範囲小)」。有用っぽい……けど、トラベラーにはあんまり使えないかも。誰かにあげちゃおうか、それとも僕がはやいとこ<細工>スキルを出してアクセサリを作れるようになったときに練習用に使うか。とりあえず一旦インベントリにしまっておく。

「最後の1個、何がいいかな?」

「効果が予測できるのはあるけどな。【アイス】とか」

「冷えそう」

 イオくんも<鑑定>してたみたいで、少し考えてから【スパーク】を提案してくれた。ふむふむ、その心は?

「あれ確か色が選べるって言ってただろ、白選べないのか?」

「なるほど発想力が素晴らしい、天才か!」

 確かに、色が選べるって説明文に書いてあったのって【スパーク】だけかも? テトの求めるプラチナ系の輝き……なんとか生み出して見せましょう! 


「行くよ、【スパーク】!」

 色はイメージで変えるので……白銀の光をこの魔法石に! と魔法を込める。ぱあっと魔法を吸収した魔法石は、期待通りに白銀の輝きを宿した。よし!

「テト、できたよ!」

 きらきらー!

 わーい、と大喜びのテトさんは尻尾をぱたぱたと激しく左右に振った。大興奮だね。一応<鑑定>もしておくと「暗闇で光る」。……うん、テトさんそれ、宝箱にしまっておいたほうがいいかも。夜になると光り輝いてしまう。

 もらっていいの? って顔をするテトに、あげるよー、と魔法石を手渡す。テトは大喜びでそれを受けとって日当たりの良いテーブルの端っこの方に置いた。そして角度を変えて眺めている。

 きらきらー♪

 めっちゃ嬉しそうだねテトさん。また空の魔石が手に入ったら作ろう。どこかで買い取りとかできないかな、今後アクセサリ作る用にも欲しいし。

「【ヘイスト】を込めたら微妙に俊敏が上がるアクセサリとか作れそうだよね、これ」

「魔石の大きさによって効果変わったりしないか?」

「えー。そうだとしてもあんまり大きな魔石はアクセサリにし辛いかも」

 ベルトとかならワンチャンあるかな? でっかい魔法石のついたベルトって、需要あるか不明だけど。



 休憩を終えた僕たちは、それからハニーラビットを求めて北へ。テトは魔法石を大事に宝箱に入れて大満足の顔をして、そのまま僕たちについて来ようとしたけど、流石に戦闘があるのでハウスに戻ってもらう。ものすごーくごねられたけれども。

 やだー! ナツといっしょー!

 と地面をごろんごろんして抗議するテトに、僕は落ちついて! としか言えなかったよ。契約獣に甘い契約主ですまぬ……! 結局イオくんが「テトのお気に入りのホワイトシチューの材料を取りに行くんだぞ」と諌めて、それなら仕方ない、って感じでようやく納得してくれました。

 食べ物で説得するしかないんだから、ほんと僕に似ちゃったなあ。

 

 そんなわけで、川沿いの道に出たところ、ようやく遭遇できました、ハニーラビット!

「川べりに巣穴作る習性があるのかなー! 覚えておこう」

「水属性だな。よし、ナツ。目標は肉30以上、狩るぞ」

「ラジャー!」

 水属性には、<土魔法>、それか<雷魔法>もいいかも。あ、<樹魔法>の先の魔法も見たいから、こっちも使っていきたいところ。さて、うさぎと言えばイチヤ周辺にバイトラビットがいたけど、あのうさぎは直線攻撃しかしてこない単純な敵だったよね。ハニーラビットの外見は、バイトラビットよりも丸っこくて可愛い感じがする。

 体当たりとかしてくるような相手に見えないんだけどなー、どんな攻撃してくるんだろう。

「ノンアクティブ、レベル16。1レベル上だけど釣るか」

 イオくんがそう言って、足元からひょいと石を拾い上げた。それを振りかぶって、投げる! すこーんと見事にうさぎに当たるからすごいよねー、イオくん<投擲>スキル持ってないはずなのに。

 そしてこっちをターゲットにしたハニーラビット、1匹だけ近づいてきて……。


「【ウォーターアロー】だこれ!」

「魔法使ってくるタイプの敵か!」


 なるほど、ハニーラビットは物理じゃなくて魔法系か。とりあえず【サンドウォール】!

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