21日目:温泉への道、四歩目!
アヤメさんが落ち着くのを待って、湯屋再開への話し合いは「進めましょう」ということになった。
ただ、奥の部屋においてあったはずの地下水を汲み上げていた魔道具が、どうやら行方不明になってるみたいで、お湯を冷ます方法は別途考える必要があるとのことだ。あの部屋は戦闘の舞台になっているわけだから、巻き添えで壊されちゃったんじゃないかなあとは思うんだけど。
同じ魔道具を探すにしろ、別の方法を考えるにしろ、一旦は村長さんとアサギくんに報告しておくべきだという話になったのだ。湯屋の場所をどこにするかとか、どういう営業形態にするかとかは、多くの人の意見を聞きたいところだよ。
「あの、私、また保養所をやるなら、がんばりますぅ……っ」
とアヤメさんもやる気を見せてくれたし、アヤメさんが頑張るならユズキくんも頑張るだろうから、そこは頼りにしてます。
魔道具にセットできる魔石については、以前から里のみんなで倒した魔物の魔石とかの保管があるらしいので、里の活性化のために使うのならそれが回してもらえるだろうという話だった。その辺も一応村長に確認しておきたいので、アヤメさんとユズキくんとは一度解散して、僕たちは村長のところへ向かうことにする。
ちょうどお昼時だしね!
雷鳴さんと雪乃さんは、もうとっくに出発しちゃってるだろうな。サンガへの道、平和でありますように。
なんて話をイオくんとしながら川沿いの道を歩いて村長の家へ向かっていると、テトが「ナツー」と割り込んできた。ぼすっと僕とイオくんの間に挟まりに来るので、反射でわしゃわしゃ撫でると、満足そうなゴロゴロ音が聞こえてくるよ。
いつもなら気の済むまで撫でられるがままのテトだけど、しかし今回は適度なところで「ちがうのー!」と撫でストップを要求してきた。撫でられ好きなテトさんにしては珍しい反応である。
「どうしたの、テト?」
あのねー、はこほしいのー。
「箱?」
ちょっとおおきいのがいいのー。
「大きい箱? 何に使うの?」
なんで急にそんなことを言い出したのかと思ったら、テトさんは目をきらきら輝かせながら僕をじっと見上げた。
たからものいれにするのー!
……あ、リィサさんの箱か。
あれを見て宝箱だと思って、真似っ子したくなったんだな。中に入っていたのは呪いのアイテムで、全然宝物ではなかったんだけど、箱の中からきらきらした金色のアクセサリーが転がり落ちたのがテトのツボにはまったらしい。ああいう感じに、きらきらしたものを集めたいんだろう。
「テト、何だって?」
「イオくん、テトはちょっと大きめの箱が欲しいらしいよ。宝物入れにするんだって」
「へえ」
なんでそんなものを? って感じの顔をするイオくん。うーん、イオくんは多分ちょっと高級なお菓子の箱にお菓子のおまけのキラシールとか集めたりは……しなそう。僕はめっちゃ集めた。小学校で交換会もやったっけ。
「テト、きらきらしたもの好きでしょ? なんか箱に詰めて取っておきたいらしい」
「コレクションアイテムか」
「あー、うん、そんな感じ」
多分イオくんが言ってるのってちょっと高級な路線のイメージだよねえ。まあ、イオくんだしな。テトの箱については、なにかいい感じの大きさのやつがあったらってことで一旦置いておこう。
村長さんの家に戻ると、アサギくんと村長さんは不在だった。トラベラーズギルドをどこにするか決めに行ったらしい。
村長さんの家のお手伝いさんたちが、「お部屋は自由に使ってくださいね」と言ってくれたので、一旦昨日泊まった部屋に戻ってお昼ご飯を食べることにする。何がいいかなあ、朝は和食って感じだったから、洋食がいいかも。
「てりやきチキン丼とチキンドリアならすぐ出るぞ」
「ドリアって作れるの!? イオくん天才では!?」
「ホワイトソースって家庭科で作ったことないか? 割と簡単な部類だぞ」
そんな馬鹿な、ホワイトソースってあれでしょ、焦がして結局ブラウンソースになるやつでしょ、僕には無理です。そもそも家でそんな物作ろうとしたことがないよ僕は。
イオくんは……市販のルーを使わずにシチューくらい簡単に作りそうだから、そりゃホワイトソースも作っちゃうかあ。やはり僕の相方天才料理人なのでは??
「テトー、イオくんの作ったドリアちょっと食べるー?」
しろいのー? てきおんってしてー。
「いいよ!【適温】!」
テトは白い食べ物と甘い食べ物が好きなので、ドリアも少しだけおすそ分け。猫のお皿にスプーンで2つ分くらい分けてあげると喜んで食べる。NG食材とかは特にないらしいから、リアルだと絶対だめな玉ねぎとかもどんとこい。テトがうにゃうにゃ言いながら食べている横で、僕もいただきます。
「んー、黒こしょうが効いてる! ケチャップライスもいいね、チーズとホワイトソースによく合う! 絶妙な味のバランス、イオくんさすがの腕前……!」
「熱いまま保存できるのインベントリの良いところだよな。これが時間経過とかついてたら死ねる」
「あーそんなゲームもあったよね……」
何とは言わないけど、VRファンタジー世界でお店を経営する3人までプレイできるゲームがあってね。素材を探しに行って店に持ち帰って店で加工して売り物にするんだけど、そのゲームのインベントリは時間が普通に経過するやつで、カバンの奥底からぐっちゃぐちゃに腐った魚が出てきた時はガチの悲鳴を上げたよ……。
色んな意味ですごいゲームだった。色々シビアだったけど、目標クリアしたときの達成感は他にないものがあって、結局お気に入りのゲームです。
さて、昼食を食べ終わった頃、ちょうど村長さんとアサギくんも戻ってきたらしく、玄関の方から声が聞こえてくる。僕たちも部屋を出てそちらに向かうと、居間の座卓の前で向き合って、2人は真剣な様子で話し合いの真っ最中だった。
「ここと、ここと、ここ……全部で12人かー! 村長、どっかおすすめの空き家ある?」
「うーむ、立ち退きをお願いする立場じゃからのう……。今住んでいる長屋よりも少し良いところを用意せんと、あやつらも納得すまいよ」
「うーん、でも絶対あそこがいいと思う! トラベラーズギルドは到着してすぐ見つけられる場所にないとなー。……あ、なっちゃん、イオさん、お疲れー。お湯の方どうだった?」
真顔から一転、僕たちを見つけるところっと人懐っこい笑みを浮かべるアサギくん。うーん、爽やか! こういうの美少年顔っていうんでしょ、クラスに1人くらいいてモテるやつだよ。
「おつかれー。湯屋の方は建物をどうにかしてくれるなら協力してくれるって。アサギくんの方は?」
「雪乃と雷さん見送ってから、とりあえず里の中で行けるところ行ってマッピングして、今トラベラーズギルドの位置決めてるとこ。なー、どう思う? 俺絶対ここがいいと思うんだけどさー!」
アサギくんが手書きの地図を広げて丸をつけたのは、僕たちが乗り越えて入った門のすぐ近く。あの辺って、長屋がたくさん並んでたところだと思うんだけど、それで最初の会話に繋がるのか。
「長屋に住んでる人たちに立ち退いてもらうんだ?」
「そう、ここにある3棟な。空き家が3部屋あるから、全部で12人。ここ広げれば、すぐ前広場だし、炊事場に向けて道を整備して……ここをメインストリートにする感じ!」
そう言えばイチヤでもサンガでも、ギルドのある通りはギルド前通りだったっけ。もし道を敷くんなら、そこもギルド前通りって名前にしちゃいたいね。
「良さそう」
と僕が言うと、イオくんも隣で頷く。
「場所はそこがいいんじゃないか。わかりやすいし。あとは高台と川沿いで道を伸ばして行けば格好は付くな」
「だよな! 正直里はきっちりナントカ通りって作っていくより、今の自由な感じのほうが里っぽくていいと思うんだよなー。川の向こうはほぼ畑だから、ここは立入禁止エリアにして……あ、湯屋どの辺がいいって?」
アサギくんへの説明はイオくんがしっかりとしてくれる。魔道具のあった場所が植林場のほうだから、そこから近い場所に作るのが良さそうってことと、地下水を組み上げる魔道具がないってこともちゃんと言っておいて、魔道具はまだ動きそうだけど魔石は必要ってあたりも重要情報。
僕だったら説明に時間かかりそうなそれらのことを、イオくんはテキパキと無駄なく説明しきった。さすがイオくん、説明が上手い。
「……以上のことから、湯屋はこの、小川の東側が良いと思う。小さい川だが、風情のある橋でもかけて、このあたりに建物を作って、庭先に足湯を設置するのが良いんじゃないか?」
「おおー、すげえプランできてるじゃんイオさん。この辺植林場の一部だけど、村長的にはどうよ?」
「ふむ、今木材は不足しておらんので、多少伐採して土地を広げるのは構わんぞ。このあたりまで木を切って、裏手に竹を植えるのはありじゃのう、風情が出るわい」
「竹、いいじゃん! 観光地っぽい!」
それから、竹は竹細工に使えるから、湯屋を観光資源にするなら竹細工を売って土産物として使えないかって目論見もあるらしい。村長さんの方で職人さんの心当たりがあるとか。
「とすると、土産物屋のスペースも必要だよな。結構広めに場所取らないとだめかも?」
むむむっと考え込むアサギくんに、村長さんはにこにこである。真面目に自分たちの里を良くしようと考えてくれるアサギくんの姿勢が嬉しいんだろう。
「でも建物を建てるなら、木材切っちゃって平気なの? いっぱい使うんじゃない?」
と僕が疑問を口にすると、アサギくんは「それは大丈夫」とのこと。
「トラベラーズギルドは、ここの5件右隣にある家が空き家だから、あれをそのまま下に持っていく予定なんだ」
「家を……持って行く……?」
「あー、えっと日本家屋って、割とそういう、リサイクルが可能な作りになってるらしくてさ。里にいる大工が教えてくれたんだけど、壁とかは流石に崩すけど、基礎とか柱とかはそのまま使えるとか……」
アサギくんが説明しようとしてくれているけれども、多分自分でも理解してないのか、話している途中で首をかしげだす。そこに助け舟を出したのは、当然のようにイオくんである。
「移築だな。ナツも古民家カフェとか行ったことあるだろ、ああいうのは他の場所から家を移動させて持ってきてるんだ」
「イオくんマジで何でも知ってるな!? これが天才か……」
「個人的に興味あったから。木組み、って言ってもわかんねえか。釘とか使わないで、木を噛み合わせて組み立てる方式の家なら、一回バラして別の場所で組み立てができるんだ。この家とかもそうだな、ほら、あそこ、縦と横の木材が交差してるだろ? 片方に溝を付けてはめ込むんだよ」
なんでそんなことに興味あるんだろうか、疑問に思ったら負けかな……? というかイオくんちょっと興味あったから、で覚えてる雑学多すぎなんだよなあ。好奇心旺盛でとても良いと思います、勤勉!
「おお……。じゃあ問題なく実行可能なのか、安心した」
僕と同じ顔してイオくんの説明聞いてたアサギくんも、一安心の表情である。
「ま、まあとにかく、ギルドをその移築? ってやつにするから。湯屋の方に木材は回せるんだよ。里のこの辺が倉庫街になってて、公共事業に使える資材を備蓄してる。木材も在庫十分だぜ! ちなみにその在庫管理もゲーム画面でできたりするんだなこれが」
「別ゲー! 別ゲーだよそれアサギくん!」
「俺も思った! これシミュレーションゲームだよな!?」
まちづくりゲームマジじゃん! ってことは人の引越しとかもゲーム的にやれるのか……! ちなみにアサギくんその手のゲーム得意?
「普段やるゲームジャンルでは無いけど、経験がないわけではない……って感じ! 今できるベストを尽くせばなんとかなるだろ、多分! やるからには発展させてみせるぜ……!」
「めっちゃ頼もしいじゃん!」
わーっと僕が拍手をすると、テトも「がんばれー」と応援のすりすりを……あ、アサギくん「テトさんッ!」って叫んで崩れ落ちた。審議、審議入ります!
なんでイオくんとテトはさん付けで僕だけなっちゃんなのさ! 再審議!!




