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21日目:彼女が残したもの

 ナツー、ぴかってするのー!


 さあ、いざ<罠感知>で隠されているものを確認しよう、と思ったところで、僕の前にひょいと顔を出したテトが鳴いた。

「ぴかって……【ピュリファイ】? ここって穢れてるの?」

 そういえば昨日寝る前にそんなこと言ってたねテト。黒いところがあった、とかなんとか……。もしかしてここのことなのかな。一応、「ここ?」と<罠感知>が反応しているところを指差してみると、「そこー!」というようにテトは「にゃ!」と鳴く。

「イオくん、そこ穢れてるっぽい」

「テトよく分かったな」

 くろいのー。もやもやー。

「テトって、魔力も見えるしなんか色々見えてるよね。そこに黒いもやもやが見えるらしいよ」

「なるほど」

 そういえば、穢れと呪いの違いってなんなのかな? 穢れは【ピュリファイ】で浄化できるけど、呪いは【ピュリファイ】じゃ消せなくて、マギプランツを溶かした品質の高い水に【ピュリファイ】を凝縮すると呪いも解けるようになるわけで。濃縮するってことは、呪いのほうが強いものなんだろうけど……。

 というような疑問を口にすると、イオくんはそんな僕の疑問にあっさりと答えた。


「生物の体内を蝕むのが呪い、土地や泉、物質を蝕むのが穢れだそうだ」

「何その知識量、イオくんどこからそういうの仕入れてくるのマジで」

「住人から聞いた重要そうな情報をまとめるスレッドから」

 有益スレッド……! 大事なことを聞き出してるトラベラーさんたちもえらい! そしてありがとうありがとう、恩恵に預かれています。

「地面とか、無機物のほうが隙間が多くて穢れが抜けやすいんだそうだ。生き物は、穢れに入りこまれると生命エネルギー的なものが覆ってしまって抜けにくくなるとかなんとか」

「その辺はファンタジーな設定なのかな。細胞とかの話じゃないよね」

「アナトラではそういう設定だと思って流したほうがいい。魔法のあるゲームでリアリティとか考えるだけ無駄だしな」

 確かに。

 僕たちがそんな話をしている間に、テトは何か隠されている地面の上の空気を、にゃにゃにゃにゃっ! と乱れひっかきしている。ものすごく真剣な表情だけど、どう考えてもそれ意味がないのでは……。一生懸命なのはえらいと思います。

「とりあえず浄化してみるね。いくよー、【ピュリファイ】」

 くらえー、ナツのぴかぴかー!

 僕の呪文に合わせてテトさんがちょっと勝ち誇った顔している……! 僕の手柄はテトの手柄なので許しましょう!

 呪文を唱えるとすぐ、空中に魔法陣が現れてそれが光の雨のようにぱあっと地面に向けて降り注ぐ。これ、よく見るとリゲルさんの使ってた魔法陣魔法にちょっと似てるね。こっちは明らかに絵が浮かぶけど、魔法陣は文字っぽいのがびっしり浮かぶ感じ? 魔法陣のほうが難しそうに見える。


 テトが言っていた通り、【ピュリファイ】の光が地面に降り注ぐと、そこからぶわっと黒いモヤが立ち上った。しばらくの間それが続いて、1分もしないうちに収まる。これで安全……かな?

「テト、黒いのもう見えない?」

 やっつけたのー。

 なんで君がめちゃくちゃ得意そうな顔をしているんですかねテトさん、かわいいね。

「OKだって、掘り返してみる」

「慎重にな」

 イオくんに頷いて、ユーグくんを構える。こういう時はマロネくんのときも使った魔法……【掘削】で大丈夫かな? こう、ショベルカーで地面を抉るイメージで……。

「【掘削】」

 ごそっと地面を掘り起こし、穴の横に積む。今回はさほど深く埋まっていなかったようで、すぐにこげ茶色の箱が土の中から転げ落ちた。厳重に蓋されているわけではなかったようで、転げ落ちた拍子に中身もぶちまけられてしまっている。あ、これって……。

「指輪、ペンダント、ブローチ……」

「これとかオーレンが持ってたのと同じデザインだな」

「やっぱり。これ、全部身につけると呪われるアイテムかあ」


 金色のシンプルなアクセサリーに見えるけど、身につけると様々な呪いを与える呪われたアイテム。今ここにあるものは全部金色なので、誰かが使ってしまう前の状態だろう。リィサさんが命じられて、任務としてばらまく予定だったもの、ってことだろうか。

「これ、やっぱり身につけると呪われるかな?」

 ワンチャン、さっきの【ピュリファイ】で呪われる効果消えたりしないかな、と思ったけど、確認する方法がない。いや、聖水があるから自分で装備して呪われてみるっていうのもありだけど、そこまでする必要あるのかって気もするし。

 イオくんもその辺は同意のようで、呪いのアイテムたちをスライム袋に全部まとめて突っ込んで、ぼいっとインベントリへしまい込んだ。確認してみると、ちゃんと「大事な物」タブに収容されているのでホッと一安心。

「クルムの大聖堂に届けるんだったか。それまでにいくつ集まるかわからんな」

 確かに、この分だと結構集まりそうな予感がするなあ。呪いって分かりづらいけど、呪われている人がいるのなら助けてあげたいのが人情と言うものだし。

「この里でばらまかれる予定だったものは回収したんだし、里には呪われてる人はいないかな?」

「多分。一応テトに探してもらうか?」

「そうだね、テトー、さっきみたいな黒いもやもや見つけたら僕に教えてね」

 いいよー! テトねー、ナツのぴかぴかすきなのー。

「ほんと? 嬉しいな」

 とってもきれーい。すてきなのー。

 にゃふふーっと笑うテトさんである。そういえば君、きらきらぴかぴかしたもの大好きだよね、いつもそういうの追いかけてる気がするよ。


 <罠感知>にはもう何も引っかからないけど、一応、他になにかないか確認してまわる。イオくんが室内に片っ端から<鑑定>をかけたところ、地面に落ちていた灰の一部に「魔族だったもの。今はもう生命体ではない」みたいな説明が出てきたらしい。リィサさんはお墓に弔われているから、この灰は対戦相手のものだろう。

「相打ちか……」

 と感心したようにつぶやくイオくん。この人クロスカウンターとかにロマンを感じる人だからなあ……。

「わざわざここで対戦したってことは、見つからないようにってのもあっただろうけど、ここで死ねばトウヒが見つけてくれると思ったからかもな」

「あぁ、なるほど。健気な人だったんだね」

「魔族がヒューマンと恋愛か……。マロネとサフルの前例を知ってるからな、あったんだろうなと思うが」

「基本は類が同じ人同士が恋愛対象なんだったっけ。魔族さんって、やっぱり人類じゃないよね」

「流石に魔族の話題は掲示板でもほとんどないな」

 さっきアヤメさんが説明してくれた魔族の誕生方法から見ても、人類ではなさそう。強いて言うなら魔類とか? 魔王が生み出しているわけだから、魔物のカテゴリだよねきっと。

 家族になりたい、って言ってた言葉は嘘じゃなかったと思うけど、僕はリィサさんはここに死ぬために来たんじゃないかって思うよ。多分、勝てたらラッキーくらいの勝算だったんじゃないかな。彼女にとって大事だったのは、トウヒさんたちに被害がいかないことであって、勝つことではなかったんじゃないかって。

 隣室に溢れていたお湯を見た時、そう思ったんだよね。


 だってあの大きな魔石は、リィサさんの持ち物だったってアヤメさんが言ってた。予測だけど、多分、あの魔石って魔族の動力源に近い物なんじゃないだろうか。それを使ってお湯を溢れさせたのはリィサさんだと思う。あのお湯で満たされていた部屋は、罠として故意に作られたものかもしれない。

 リィサさんはこの部屋にいて、監視役の魔族を待っている。監視役は僕たちが入ってきた入口からここに入って、でもこの施設の用途なんて知らないから、お湯で満たされた部屋の扉をためらいなく開けて中に入る。……でもそれは熱湯だ。監視役は全身に火傷を負ったかもしれない、そんな状態でリィサさんと戦ったとしたら? 勝率の低い相手と少しでも有利な状態で戦うために、リィサさんがそんな状況を作り上げて、そして刺し違えたのだとしたら。

 トウヒさんはここにやってきたとき全てを察したんじゃないかって、そう思うんだよ。だから10年間あの魔道具が動き続けていた理由も、リィサさんの残した魔石を止めたくなかったからじゃないか、って。

 ……まあ、全部、憶測だけどね。


「さて、ここはもう何もなさそうだ。戻っても大丈夫か?」

「あ、ユズキくんたち話し合い終わったかな」

 この部屋の探索には30分くらいかけたけど、話し合いどうなってるんだろう。喋ってるかどうか確認する魔法とかないかな。<原初の呪文>さん、何かあるかな。

「……流石に【盗聴】は使っちゃだめな気がする……!」

「まずいと思う、字面が」

 とうちょうってなにー?

「山に登ることだよテトさん! ちょっとお願いなんだけど、向こうの部屋にいるユズキくんとアヤメさん、話し合い終わってるかどうかこっそり見てきてくれないかな?」

 いいよー!

 おしごとだー! と目を輝かせたテトさんが、張り切って部屋を出ていく。がんばってーと見送った僕に呆れた視線を投げたイオくんは、大きくため息をついた。

「ナツ、テトにこっそりは無理だと思うぞ」

「あっ」


 案の定一瞬でバレたテトさんだった。ユズキくんが「こっち終わってますよー」と声をかけてくれたので助かりました。

 みつかったのなんでー?

 と不思議そうにしてたけど、テトは自分が巨大な猫だってことを忘れてるんじゃないだろうか。そりゃしゃがみも隠れもせずににゃにゃにゃっと鼻歌歌いながら扉の前まで行ったら、速攻で見つかるよ。でもテトのそんな明るいところが大好きだから、変わらないでいて欲しい。

 とりあえず向こうの部屋で見つけた呪いのアイテムの話は、アヤメさんにだけこっそりしておいた。クルムの大聖堂に持っていくよって話もすると、アヤメさんは何度も小さく頷いて、「お願いしますぅ……」と、やっぱり消え入りそうな声で言ったのだった。

「これ、アイテムが入ってた箱。なんか立派そうな箱だし、地面に埋まってたのに損傷がないから、保存のお守りでも使ってたのかなと思って持ってきたんだけど、見覚えある?」

「あ……」

 呪いのアイテムが入っていた箱、宝石箱みたいな作りで、すごく丁寧に作られた工芸品っぽかったんだよね。リィサさんの形見でもあるのでこれだけはアヤメさんに渡そうと思って、拾って【クリーン】かけておいたんだ。

 それを手渡すと、アヤメさんは大事そうに受け取って、目を潤ませる。

「これ……トウヒ兄さんが作った、箱ですぅ……」

「そうなんだ、すごく綺麗な細工が入ってるね」

「リィサちゃんに渡すんだって、頑張ってましたよぅ……。私、アヤメの花を入れてって、おねだりしたから、覚えて……」

 ぽたり、アヤメさんの瞳から涙が零れ落ちた。


 そのまま彼女は何も言わず、箱を抱きしめて、ただ静かに泣いていた。

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[良い点] くらえー、ナツのぴかぴかー! テト、可愛すぎー!
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