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21日目:温泉への道、三歩目!

「トウヒ兄ちゃんって、俺達の上の兄ちゃんだったんですけど、俺が3歳くらいの時死んじゃったんですよ」

 アヤメさんが鍵を用意してくれるというので席を立ってすぐ、ユズキくんはそう教えてくれた。

「俺が生まれて少ししてから両親が、それから1年くらいでトウヒ兄ちゃんが立て続けに死んで。だから、姉ちゃんと俺は戦争が終わるまで、2年くらい叔母さんの家で世話になってたんです。3歳のガキと8歳の子どもを引き取って育ててくれた叔母さんには、ほんと、頭上がんないですよ。姉ちゃんはそこで、手に職つけるって言って料理覚えたり裁縫覚えたり……俺からすると姉ちゃんっていうより、本当は母ちゃんみたいな存在なんですよね」

 さらっと言ってるけど、かなりヘビーな話じゃないかなそれ。「そうなんだ」と相槌を打ちつつ、掘り下げてよい話題なのかわからないな。迷っていると、

「俺は姉ちゃん以外の家族については、全然覚えてないんです。だから家業って言われてもなかなか実感がわかないですし、こだわりもないんですよ」

 とユズキくんは軽く笑った。

「トウヒ兄ちゃんは、俺は殆ど覚えてないけど、姉ちゃんより更に9歳年上だったらしくて。死んじゃった時、17歳で、結婚を考えていた相手もいたらしいんですけど……その人と一緒に昔やってた保養所を再開したいって何度も言ってたらしいです。姉ちゃんもだけど、近所の人達もそのことは良く覚えてるみたいで。アヤメ姉ちゃんもそうしたい気持ちが強かったみたいなんですけど、姉ちゃんはあの性格ですから。自分からやりたいって言えないんですよね」

「なるほど」

「だから、湯屋のことは俺じゃなくて、できれば姉ちゃんに聞いてあげてください。俺は姉ちゃんが頑張りたいなら助けたいけど、自分からやりたいわけじゃないんで」


 なるほど、それが言いたかったのか。

 ふむふむと相槌を打ちながら、僕は納得した。要するにこの話はアヤメさんを中心に進めてほしいということだな。

 ユズキくんの話から逆算すると、アヤメさんは20歳くらいで、終戦の時この兄弟は10歳と5歳くらい。今現在はユズキくんは15歳くらいということになる。それにしては結構落ち着いているなあと思うけど。僕が15歳の頃なんて、毎日イオくんとVRゲームやって遊んでたなあ……。

「くっ、15歳にして家族を思いやれる心意気、素晴らしいと思います……!」

「えっ? あの、どうも……?」

 困惑するユズキくん。そしてその背後から、鍵を手にしたアヤメさんが戻ってきた。一緒にくっついていったハクトくんは、「やねうらべやすげー!」と興奮気味で戻ってきた。

 わかる、屋根裏部屋ってなんかいいよね、ロマンが詰まっている感じがする。

「あ、あのこれ。鍵ですぅ」

 そしてアヤメさん、それを差し出されても僕たち、管理室がどこにあるのかわかんないです……。

「えっと、もしお時間あるなら、管理室の場所案内してもらってもいいですか?」

「場所……、あ、そうですよね、ご存じないですよねっ……!」

「姉ちゃん俺も、どこにあるのか知りたい」

 流石にアヤメさん一人で案内するのは荷が重いと思ったのか、ユズキくんもそう言ってくれたので、2人に案内を頼む。ハクトくんはそろそろキキョウちゃんが起きるからと言ってここで解散だ。


「ハクトくんまたねー!」

「おう! こんどひみつきちつれてってやるからなー!」

 と大きく手を振って走っていくハクトくんを見送り、ユズキくんに促されてアヤメさんが歩き出す。

「えっと、細い方の川を、渡りますぅ」

「あ、植林場のある方ですか?」

「はいぃ、その、川の近くでは、あるんですけど……」

 しどろもどろになりつつアヤメさんが説明してくれたのは、あの辺の河原で熱いお湯が湧くのは、これからいく管理室がお湯を汲み上げ続けていて、それが溢れたせいなのではないか、とのことだった。

 位置的にどうも、あの辺がちょうど汲み上げたお湯を一時的にためておく場所に当たるらしい。

「10年間魔道具が動き続けているのか?」

 イオくんが質問を挟む。アヤメさんは温泉プレゼンを聞いてイオくんに慣れたのか、スムーズに答えた。

「か、可能性は、ありますぅ。トウヒ兄さんのお嫁さんになるはずだった人が、すごく大きな魔石を、持ってましてぇ……」

「それを使ったと?」

「多分、ですけど。そうでないと、説明がつかない、ですぅ」

「ふむ」

 つまり大きな魔石を使えばかなりの長時間、魔道具を動かし続けることが可能ということだろうか。大きさだけが関係するとは思えないけど……でもイオくんの持っている魔導コンロなんか、小さい魔石で動くけど、1個で半年くらい持つらしいし。それを考えると特大の魔石なら、10年くらい意外と持っちゃうような気もするなあ。どうなんだろう。


 あ、でも、そういえば。

「アヤメさんは、それ思いついたなら、様子を見に来なかったの?」

「あぅ」

「あ、責めてるわけではなくてね!?」

 ちょっと疑問に思ったので質問してみると、アヤメさんは明らかに挙動不審になってしまった。慌ててフォローを入れようとする僕だけど、どう言葉にすればいいのやら……!

「疑問に思わなかったのかなって。戦時中はお湯を汲み上げる魔道具も止めてたんだよね? どうして動かしたのかと」

「あ、あの、そのぉ……」

 あ、今反応からすると、何かしらの仮説がアヤメさんにありそうな気配……! すごく言いづらそうにしている! こういうときは……そう、こういうときはモフモフの力を借りよう。さあテト、アヤメさんに撫でてもらっておいで……!

 こそこそと指示を出したところ、テトは意気揚々とアヤメさんに突撃した。最初は固まられたけど、今度はちゃんと「ど、どどどどうしましたぁ!?」と声をかけてくれている。慣れてきたってことでいいんだよねこれは。

 なでるー?

 にゃあん、と甘えた声でアピールするテトさんに、何か察するものがあったのか、アヤメさんは恐る恐る手を伸ばして撫でた。そしてしばらく無心で撫でたあと、ほぅっと息を吐く。アニマルセラピーは素晴らしいものなのだ。

「その……トウヒ兄さんが、動かしたんだろうなって思ったんですぅ……」

「トウヒさんが?」

 亡くなったって聞いてるけど、何かしらキーパーソンなんだろうなあ。話を促してみると、アヤメさんはぽつぽつと思っていたことを話してくれた。

「兄さんは、湯屋を復活させるのが、夢だったのでぇ。死に場所を、そこに選んだのかなぁ、って……、鍵も一つ、なくなってたので」

「死に場所……!?」


 急に物騒な単語が出てきてびっくりした。僕が驚きの声を上げると同時に、ユズキくんも目を丸くしてアヤメさんを見る。スーパークールなイオくんでさえ、若干の驚きを表情に乗せているぞ。

「え、管理室の扉あけたら死体あるってこと!?」

 声を上げたのはユズキくんだ。ストレートにそう言われて、アヤメさんも慌てて手と首をぶんぶんと横に振る。

「さ、さすがに、それは。でも、その……。死ぬ前に見たかった光景が、あるんじゃないかってぇ……」

「ああ、魔道具が動いてるところを見たかったんじゃないかってこと?」

「そう、そうなの」

 こくこくと頷くアヤメさん。そして、僕たちは浅い川の飛び石を使って向こう岸に渡……あ、テト乗せてくれるの? ありがとう、助かるー。気が利くなあ家の猫。

 ぴょーいと川をひとっ飛びしたテトさんに、ユズキくんは「おおー」と拍手をくれた。

「凄いですね、飛べるんだ」

 とストレートに褒められて、テトさんは渾身のドヤ顔である。褒めてくれてもいいよ! と頭を差し出したけれども、ユズキくんは流石にそこまで読み取れなかったようなので、代わりにイオくんがわしわしと撫でてくれる。

 わーい!

 うん、テトさんは誰に撫でられても嬉しいからね、ユズキくんでもイオくんでも良いのだ。


「このあたりに、えっと、あ、これですぅ」

 アヤメさんが指さしたのは、河原から少し離れたところにあるマンホールの蓋みたいなもの。家紋が描かれた円形の蓋を、ユズキくんがえいやっと開けると、直下に伸びる穴と壁に沿って設置された階段が出てくる。

「入るのはちょっと待て。……ナツ、換気」

「了解、【換気】」

 地下は危ないってよく言うからね! 熱気もこもってたらなんか良くないかもだし。というわけでユーグくんもすっかり使い慣れたであろう【換気】で中の空気をささーっと入れ換える。

 ふわーっと上がってきた空気がやたら熱い感じなので、多分正解だねこれ。有毒ガスとかは流石にないと思うけど、念の為もう一回【換気】してからイオくんが率先して中に入った。その次にユズキくん、アヤメさん、最後に僕……とテト。「平和、降りてきて大丈夫」というイオくんの言葉を待ってから中に入ったけど、中真っ暗じゃないですか。慌てて【ライト】をいくつか呼び出して浮かべる。

 階段を降りた先にあったのは、狭い待合室のような場所だった。奥に管理室らしき扉があって、中から何か機械が動くような音が聞こえている。

「魔道具、動いてるみたいだね」

 つぶやいた僕に、アヤメさんは小さく頷き、鍵を握りしめて扉の前に立った。

「ここが、魔道具のある部屋、ですぅ」

「お湯はこの部屋じゃないんだよな?」

 ユズキくんが確認すると、アヤメさんは「うん」と肯定する。

「えっと、この部屋には、魔道具だけ。それで、その奥に、もう一つ部屋があってぇ……」

「そっちにお湯?」

「本来は、地下水と混ぜるために、一時的にためておく貯水槽なんだけどぉ……。今は、お湯を送る先が、ないから……」


 言いながらアヤメさんは管理室の鍵を開けた。ちょっと錆びついているのか、回しづらそう。でも鬼人さんたちの筋力なら、苦戦したとしても鍵が回らないことはないでしょう。

 ガチャン、と音がして扉が開く。そのまま中に入ろうとするアヤメさんを止めて、ユズキくんが先に管理室へ入った。

「……魔道具動いてますけど、ここは大丈夫そうです」

「よし、ナツ、ライト頼む」

「はーい」

 ユーグくんのスキルのお陰で、【ライト】出すMPも減ってるし、いくらでも出せるのである。ぽいぽいと【ライト】を管理室に投げ込むと、中の様子はシンプルな感じだった。学校の教室くらいありそうな、結構広めの部屋の中央にどどーんと大きな魔道具が置いてあり、上下運動している。多分ポンプかな? 制御盤っぽいものには、真っ黒の魔石がはめ込まれていた。

 確かにこれは大きいな、と見ている僕のとなりで、名探偵テトがにゃっ、と指摘して曰く、

 まりょく、もうあんまりないのー。

 だ、そう。流石に10年動き続けていたら、これだけ大きな魔石の魔力も枯渇するよねえ。床とか部屋全体の雰囲気を見るに、戦後ここが締め切られていたのは確定っぽいし。

「アヤメさん、この魔石もうあんまり魔力残ってないって」

「あぅ、そうなんですねぇ……。今までよく、動いててくれました、よね」


 いたわるようなアヤメさんの口調に、そうだねえ、と僕もしんみりした、その時。

「……ナツ、奥の部屋にライト投げ込めないか?」

 イオくんが動いた。

 アヤメさんたち姉弟が自主的に動くのを見守っていた感じだったのに、ここに来て急に提案してきたね、どうしたんだろう。イオくんに近づくと、管理室には小窓がついていて、隣の貯水槽があるという部屋が見える作りになっているようだ。

「向こうを明るくすればいいの?」

「ああ。……あのあたりに、墓のようなものが見えた」

「えっ」

 唐突なイオくんの爆弾発言に、ユズキくんとアヤメさんが弾かれたように顔を上げる。無言のまま窓の直ぐ側まで駆け寄ってきた2人の表情は、緊張感を孕んでいた。

「ナツ」

「わかった。【ライト】」

 まさかと思いつつ。それでももしそれが本当に、そこにあるのだとしたら。


「【強化】、【拡大】」

 さあ【ライト】くん、部屋全体を照らし出そう!


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