21日目:温泉への道、一歩目!
いつも誤字報告ありがとうございます、助かります。
「おはようナツ。足湯作るぞ」
「どんだけわくわくしてるのイオくん。おはよう」
おはよー! あさごはーん!
「テトもおはよう。朝ご飯食べようね」
さて、昨夜はテトさんの爆弾発言がありましたが、実際見に行かないとわからんなということで深追いを諦め、生産に励んだ僕たちである。この里ではお守り役に立ちそうだなーと思ったので、色々と作りましたとも。<上級彫刻>のレベルも上がったし、<金属加工>も試せた。
<鑑定>して金属を含んだ石、って出た石に<金属加工>すると、こう、するっと金属が分離するのがめっちゃくちゃ面白かった。おもちゃでスライムってあったじゃん、あのベタつくゼリーみたいなの。石からそのスライムっぽいのが分離した! と思ったら、それが金属の塊だったんだよね。で、そうやって取り出した金属は、<金属加工>のアーツ【プレス】で板にできる。
今のところ、板にしかできないけど。このスキル鍛えたら多分他の形も作れるようになるよね、そうなってからが楽しそうだ。
イオくんは「きゅうり食いたい」とか言って、卓上できゅうり切ってた。【クリーン】をかけたビニール袋っぽいのにざさっと入れて塩を振って揉み込むだけのお手軽料理。僕知ってる、そういうのって塩加減めっちゃシビア。僕が作るとしょっぱくて食べられたもんじゃなくなるんだ……! ちゃんとした物を作ろうとすると調味料が色々必要らしいんだけど、塩だけでも普通に漬物っぽく食える、とはイオくん談。
もうプロじゃん、プロのまかないじゃんそんなの。
リアルで昼休憩取ったから向こうでお昼ご飯食べたんだけど、アナトラでイオくんの作った美味しい料理を日常的に食べてると、向こうで自分が作る料理ってなんか違う感がすごいんだよね。
あ、ナスは無事にバター醤油焼きになったので腐る前に消費できました。美味しかったけど、ちょっと足りない感というか、僕って料理の経験値が圧倒的に少ないからその差なのかな? 世の中の料理する人たち、みんなえらいと思う。
そしてそんな微妙な昼食を食べている僕に、彩り鮮やかな夏野菜パスタの画像を送りつけてくるイオくん、極悪非道である。それ食べたい! ってなるじゃん! 悔しい! でも美味しそうなものを作っててさすがだと思います! えらい!
テトには焼き菓子を出し、僕とイオくんは純和食っぽい白米とお味噌汁、焼き魚にほうれん草のおひたしという朝食を終えて、さっそく部屋を出た。村長さんはと探すと、庭で元気に竹刀を振っている。鍛冶師さんなだけでなく、自分でも刀を使う人なのかな。
「村長さん! おはようございます!」
「おはよう」
おはよー!
「おお、ナツにイオ、テトじゃな。おはよう」
汗を拭いつつ村長さんが素振りの手を止めて近くにやってくる。結構なお年だと思うんだけど、動きにキレがある……というか僕の3倍は素早く動けている村長さんすごい。
「アサギ坊はまだ寝ておるぞ。お主らは早いのう」
あ、アサギくんたちも一緒に昼休憩とるって言ってたっけ。今日起きてきたら、雪乃さんと雷鳴さんはサンガに出発で、アサギくんはとりあえずギルドの場所を考えるって言ってたかな?
アサギくんたちはこの里を、街と同じようにトラベラーたちが立ち寄るスポットにしたいと考えているから、トラベラーズギルドは必須になる。ギルドがあれば安価な宿泊施設とか転移装置ができるから、トラベラーがより気楽に「行ってみよう!」って思えるよね。
僕たちはアサギくんを手伝いに行ってもいいんだけど、その前にイオくんのクエストに手を付けたい。朝一番で口にするほど楽しみにしているみたいだし。
「昨日、湯が湧くという河原を見に行ったんだが、あそこに足湯を作りたいんだ。許可が必要か?」
「おお、足湯か。いいのう、この年になるとそういうものが恋しくてかなわんわい。そうじゃの、今まではいつまで孤立して存続できるかと皆気を張っておったが、そろそろそういう娯楽に目を向けても良いかもしれん」
イオくんが珍しくやる気に満ちて切り出した言葉に、村長は表情を明るくした。
確かに、今まではこの孤立した土地で、枝道ができるなんて思っていなかっただろうし、娯楽どころじゃなかったよね。生活を切り詰めようとなると、真っ先に切り捨てられるのが娯楽。里には200人も人がいるんだから、温泉とか足湯よりも食品や生活必需品をどうにかするのが先決だっただろう。
でも、これからこの里にはトラベラーが来る見込みがある。外からの様々な素材が持ち込まれるだろうし、お金も流通するだろう。そうなると、必要なのは外から人を呼び込めるような観光資源だ。
「湯の里は温泉をメイン産業にするべき」
きっぱり言い切ったイオくんに、村長もうんうんと頷いた。
「そうじゃのう、アサギ坊がせっかく名付けてくれた「湯の里」じゃし、そろそろ復活させるべきかもしれん。湯屋を作りたいというのなら許可はいらん、じゃが、湯元は管理している家があるのでなあ」
「管理している家?」
「左様」
村長さん曰く、元々この里には共同浴場があったのだそうだ。
里の人間なら誰でも使えるような大きな湯屋で、来客からは小額の入湯料を取り、休憩所を兼ねて飲食のできる設備なども併設していたとのこと。保養所と呼んで、湯治で長期利用する客もいたとか。
そこで使うお湯は、掘り当てた家の者が地下で整備して管理していたらしい。源泉のままでは熱いので、地下水とうまく混ぜてちょうどいい温度に下げて組み上げていたようだ。
「その管理をしていた家が、丘の下の赤松の家じゃ。今は……当主はユズキじゃったかのう」
「赤松?」
「そうじゃ、庭に見事な赤松が植えてあるのですぐわかる。今あの家には姉と弟しかおらんが、彼らの両親が戦前は湯を管理していたはずじゃ。姉弟もなにか聞いていると思うが」
イオくんはそれを聞いてふむ、と頷いた。足湯を作るにも、ちゃんと適温のお湯を組み上げられるならそちらのほうが川水と合わせるより楽だろう。河原に足湯を作っても、大雨が降って川の水が増水したら飲み込まれるかもしれないし。
「なるほど。俺達はそこに行って話を聞いてみよう。うまくいけば湯の里の目玉になるぞ」
「頼もしいのう。そうじゃ、これからはそうやって、外から来る客のことも考えていかねばならん。幸せなことじゃのう」
しみじみと言う村長さんは、本当に嬉しそうだった。これまで外と接する機会は、年に一度契約獣が持ってくる便りだけだったのだから、人の往来がはじまるというのはすごく大きなことだ。
僕たちも、ぜひ湯屋を復活させて応援したい。
というわけで、さっそく村長さんの家を出て高台の下方面へ。
赤松……って僕ぱっとイメージできないんだけど、いわゆる松だよね? 庭がある家ということだから、長屋の方ではなそう。きょろきょろしながら歩いていると、共同炊事場のあたりで「あ! にいちゃんたち、おはよー!」と元気な声が聞こえてきた。
「ハクトくん! おはよう!」
ハクトー! おはよー!
「よう」
僕たちが順番に挨拶すると、駆け寄ってきたハクトくんはもう一度「おはよう!」と元気に挨拶してから、テトをがしがしと撫でた。「テトもおはよう!」と個別に挨拶してくれるので、テトのご機嫌も急上昇だ。
にゃーん、と甘えるような声で鳴いて曰く、「ハクトなでるのじょうずー」だそうで。
「ハクトくん撫でるの上手だってテトが言ってるよ」
「まじか! おれ、どうぶつすきなんだ」
えへへっと得意そうに笑うハクトくん、まだ6歳だったっけ? 良い子だねえ。
「キキョウちゃんは一緒じゃないの? 炊事場?」
「キキョウまだねてるー。オレ、そうじてつだうんだ。あさのそうじてつだうと、おだんごもらえるんだぜ」
「えらいじゃん!」
得意げに説明してくれるハクトくんの後ろで、おっとりした感じの女性が小さく頭を下げてくれた。こちらはハクトくんのお母さんかな、優しげな目元が似てるね。
「手伝ってくか?」
とイオくんが言ってくれたので、そうしようと同意して、意気揚々と共同炊事場へ。昨日はちらっとしか見られなかったんだけど、炊事場は東屋のような作りになっている。屋根はあるけど壁はない感じで、石を敷いた床の上にかまどや調理台などが設置されていた。どれもかなり使い込まれて、古いものを大事に使ってきたことがわかるね。
「おはようございます!」
と僕が挨拶をすると、その場にいた5人くらいの女性陣が口々に挨拶を返してくれる。婦人会の清掃当番の皆様だそう。
「昨日、ハクトがトラベラーさんたちと会ったってはしゃいでいたけれど、おふたりのことかしら?」
とおっとり問いかけたのは、長い黒髪をお団子で一つにまとめた女性。推定ハクトくんのお母さんだ。
「はい、昨日河原で会って。家の猫を撫でてくれました」
「あらまあ、大きな猫ちゃんねえ」
なでるー?
「撫でられるの好きなんです。苦手じゃなかったら撫でてやってください」
「あらあら」
にこやかに撫でてくれた女性にさらっと名乗ってイオくんとテトも紹介すると、彼女はおっとりと「モモカです、ハクトとキキョウの母ですよ」と名前を教えてくれた。とても2人の子持ちには見えない若さだけど、ヒューマンじゃない種族のみなさんは年齢どのくらいなのか推測するの難しいな。
モモカいいにおいするのー。
とテトが手元をくんくんしている。
「テトが、モモカさんいい匂いするって言ってますよ」
「あらまあ。さっきまでここの作業台で、石鹸を作っていたからかしら」
ころころと笑うモモカさん。ここは共同炊事場ではあるけれど、大きな作業台があることから、料理だけでなく色々なものを作るために利用されるのだそうだ。そんなことを説明しながらもテキパキと掃除を続ける主婦の皆様、すごく手際が良い。ハクトくんはその隙間を縫うようにちょこまかと走り回ってゴミを集めている。
「僕、よかったら魔法でお手伝いします」
と言ってみると、主婦の皆様は「ぜひ!」と歓迎してくれた。イオくんも【クリーン】なら使えるから、手分けしてかまどに【クリーン】をかける。
イオくんは、魔法の媒体……杖を使ってないから、攻撃魔法とかは明確に威力が落ちるんだけど、【クリーン】は威力とか関係ない。剣を媒体にすることも一応できるらしいけど、特定の金属を使うか強化効果をつけないとマイナス補正が付くし、剣の耐久度にも悪影響があるらしいんだよね。
ちなみに、雷鳴さんの槍は穂先で攻撃、持ち手側で魔法の杖代わりができるという作りの槍だった。武器にも色々工夫があるんだなあと思う今日このごろ。
「【クリーン】、と。これで最後ですか?」
いくつかあるかまどを全部【クリーン】で綺麗にし終わると、新品のように……とまではいかなくとも、かなり古びた印象が抜ける。主婦の皆様はそんな様子にわっと拍手までしてくれたので、すごくいいことをしたような気持ちになるね!
「ありがとう、助かったわ!」
「すごい、便利な魔法があるのね!」
「助かるわあ、魔法士の方、是非里に移住してもらいたいわねえ」
口々にそんなことを言う主婦の皆様である。超わかる、魔法便利だからね。僕も最初に【クリーン】使ったときは便利さに感動したもんだよ。
「すげー! ナツとイオ、まほうつかえるんだな!」
ゴミをまとめ終わったハクトくんも褒めてくれたので、僕はちょっとドヤ顔である。
そんな僕たちに、主婦のみなさまは「お駄賃」と称して10円玉くらいの大きさのお団子を一つずつ渡してくれた。ハクトくんが目を輝かせて、
「これ、あまいんだ。きちょーなんだぜ!」
と教えてくれた。もらっちゃっていいのかな? と思ったけど、モモカさん無言で微笑まれたので、ありがたく受け取っておくことにしよう。ではいただきます……もちもちだ! 噛めば噛むほど甘みがでるやつだ!
「テト半分あげるね、もちもちだよ。はい」
わーい! しろいのー!
白いお団子、テトさんも食感が気に入ったようで、もっちもーちっ♪ と歌っていた。表現が気に入ったみたい。
僕がテトと戯れてる間に、イオくんはハクトくんに視線を合わせて話しかけた。
「ハクト、俺達は赤松のある家をさがしているんだが、場所を知らないか?」
「あかまつ……ユズキにーちゃんちか? それならオレ、あんないしてやるぞ!」
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