20日目:子どもたちとの遭遇
いつも誤字報告ありがとうございます。表記方法に関しては訂正しないものもあります。
雪乃さんが雷鳴さんを引っ張って戻ってきたのは、それから1時間ほど経ってからだった。
ぺっかぺかの笑顔の雪乃さんに、どうやら話はまとまったらしいなあと僕が思っていると、雷鳴さんは僕に視線を向けてむうっと頬を膨らませた。
「ナツが僕を売った」
「そんな人聞きの悪い」
確かに雷鳴さんの話題を出したのは僕なので、多少の恨み言は覚悟するけどね。でもこの様子だと別に怒ってはなさそう。敢えてすねたような顔をしてるけど、ちょっと親しくなったからこれが冗談だというのは理解できるぞ。
「だって雷鳴さん、サンガ飛ばしてきたって言ってたから。すごくいいところだったので是非見て欲しいのもありまして」
「うん。正直心惹かれる話ではあった」
「ですよね」
好きで飛ばしてきたわけじゃ無さそうだったし、街への転移は絶対にできたほうがいい。農業第一の雷鳴さんだけど、だとしたら農作物の成果である料理だって好きなはずだし、自分でも料理するなら朝市は楽しいはず。
「サンガはいつか行くつもりだったし、ちょうどいいかと思ったので了承したよ」
と言う雷鳴さんは別に嫌そうでもない。紹介した僕としてもちょっと安心だ。
さっそく使節団の引率は雷鳴さんと雪乃さんが行くことで決まって、残りのメンバーとの顔合わせや打ち合わせが夕食後にある、みたいな話をしている。アサギくんも雷鳴さんが了承してくれたことにホッとしている様子だ。
こうなると僕たちはお邪魔かなあ、と思ってイオくんに移動を提案してみる。
「イオくん、里の探索行かない?」
「ああ。湯も気になるしな」
「テトー、一緒に探検に行こ!」
わーい!
呼べばすぐに駆け寄ってくるテトさん、さっきまで村長さん宅の池を泳ぐ魚にじゃれついていた。傷つけちゃ駄目だってことはわかっているみたいで、爪は出さずにちょいちょいしていただけだけど、テトは満足そうだ。
「楽しかった?」
おさかなー、きらきらだったのー! たのしかったー!
きらきら……って鱗が光に反射してたのかな? 何にせよテトが楽しかったなら良かったよ。
さて、湯の里の敷地は、ほぼ四角形に石壁で囲われている。
村長さんの話だと、戦時中からこの場所は防衛のために石壁を作っていたから、戦後に呪いがかけられてもある程度無事だったそう。戦後に取り残されてからは、石壁の内側から少しずつ外側に石壁を広げていったらしい。
かなり工夫が必要だったみたいだけど、壁の内側から、外側に一回り大きな壁を作って、内側の壁を取り壊して……というような作業だったらしいよ。根気のいる作業だね。
とにかく畑が必要だし、囲いから出られないなら肉も不足が予想される。必要なものを里の中で揃えるとなると、土地は広ければ広い方が良いわけだ。
幸い、里には川が流れていたから、水が不足するような事にならなかったし、魚にも困らなかった。そうでなければ、里の存続は厳しかっただろう、と村長さんは言ってたっけ。
地図で言うと、村長さんの家があるちょっとした高台の部分は、この四角の里の北西方向にあたる。門は西側、川は北方向から南東方向へ緩やかにカーブを描きながら抜ける感じで、途中から南方向へ枝分かれしている。
といっても、この枝分かれしている方の川は、橋がなくても飛び石を置けば渡るのが簡単なくらい細くて浅い。水深は一番深いところでも30センチくらいだろうか。
なんとなく川沿いを歩いてきた僕たちは、その小さな川のほとりで子どもたちが遊んでいる姿を見つけて、平和な光景にほっこりした。
「川沿いには、高台の方に橋が1つ、共同炊事場のあたりにもう1つ、って感じだね。川の西側に居住地は固まってる?」
「北東方向は全面畑だし、この南東方面は植林場か何かじゃないか? この里で生きるなら木材も貴重だろうな」
と話をしつつ、まずは川の西側を石壁に到達するまで歩く……予定だったんだけども。
見られてる、超見られてます、子どもたちに。
鬼人さんの子どもたち、実年齢より大きく見えるから、もしかしてあの子達は5、6歳かなあ。こしょこしょと話をしているけど、「外から来た人たち」「使節団」「サンガが」あたりの単語が聞き取れた。道ができたことはもうみんな知ってるのかもしれないな。
どうしよう、こっちから声かけたほうがいいかな? とイオくんに意見を求めてみると、イオくんはお前がいけよというような目をしている。なんか僕、子ども担当だと思われてない?
流れでテトを見てみると、テトはとっても不思議そうに首をかしげた。
ナツー。なんできじんさんたち、テトのことなでてくれないのー?
この子は全人類自分のことを撫でるべきだと思っているので、撫でてくれないどころか近づいてきてもくれない鬼人さんたちの様子が解せぬらしい。ちょっと耳がしょんぼりしている。
「えーと、この里はずっと閉じていたから、契約獣さんのこと見たことないんじゃないかなあ……」
と答えつつ、やることは決まった。
子どもたちにテトを紹介して、撫でてもらってこよう!
「ふわふわ!」
「かわいいー!」
「おなまえなんていうの?」
「テトだよー。優しく撫でてあげてね!」
さて、河原で遊んでいた子どもたちに突っ込んでいった僕とテト。5、6人居たはずなんだけど、半分くらいはささーっと逃げていって、残ったのは3人だけだった。
テトのふわふわっぷりに感動しているのが男の子、ハクトくん。
かわいいかわいいと一番撫でているのが女の子、キキョウちゃん。
ちょっとだけ気後れして、テトの名前を聞いてくれた引っ込み思案な子が女の子で、ツバキちゃんだ。
鬼人さんの里に、今5、6歳の子どもたちは7人いるらしい。逃げていってしまった子どもたちは、ハクトくん曰く「あいつらひとみしりだからなー」だそうで。イオくんと同じだねえ。
「けいやくじゅうさん、ちょっとだけしってるよ。サンガからとりさんがくるんだよ」
「いちねんにいっかいくるの!」
と女の子たちがはしゃいだように言う。ドロガさんが連絡をとりあっているっていってたから、そのことだね。そろそろと丁寧に撫でてくれている女の子たちとは反対に、力強くがしがしと撫で回すハクトくん。テトは力いっぱい撫でられる方が好きだから、ハクトくんにすりすりしている。
「テト、たくさん撫でてもらってよかったね」
まんぞくー。
ご機嫌なテトさんは子どもたちに1回ずつすりっとしてから僕の隣に戻ってきた。ぴとーっと僕の右側に寄り添うテトさん、定位置だね。
「いいなあ、オレもけいやくじゅうほしい」
なんて言うのはハクトくん。この子はどうやらこの辺のガキ大将っぽい。女の子たちがテトに触るときも、「たたいたらだめだぞ」とか注意してたので、みんなのお兄ちゃんって感じなのかも。
「そのうち、里でも契約獣と契約できるようになるかもしれないよ。枝道がつながったからね」
「みち!」
「となりのおにいちゃんがサンガいくって!」
「それほんとなのか? サンガはおおきいまちだってきいたけどさ、とおいんだろ?」
お、枝道のことはすでにこの子達も知ってるようだ。アサギくんたちが結構精力的に動いてるみたいだけど、それでも情報伝達が速いように思えるね。
僕ができるだけ噛み砕いて使節団のことを知らせたところ、3人ともすごーいと目を輝かせている。「オレたちもいけるかな?」「ちょっとみてみたいね」なんて言い出したので、慌てて釘を刺した。
「まだ道が狭いから、探検とか行っちゃだめだよ。道を踏み外してしまったら大変だからね。もっと道が大きくなったら、多分、サンガまでの馬車とかも出るようになるよ」
子どもたちが冒険心を刺激されて、探検に出ちゃったら困る。うっかり道を踏み外したら迷子一直線だから、そこはしっかり止めておかないと。
「そっかあ、じゃあ、みちがおおきくなるのまってる」
とよいこのお返事をしてくれたのはキキョウちゃん。
「ちびたちにいっておくかあ」
とため息をついたのはハクトくん。この子すごく面倒見がいいなあ……と思っていると、遠くからハクトくんとキキョウちゃんを呼ぶ声が聞こえた。
「やべ、かーちゃんだ。……ツバキまたな!」
「ツバキちゃんまたね!」
とたんに慌てたように走り出すハクトくんとキキョウちゃん。お母さんに呼ばれたのか……ということは、あの2人は兄妹かな? 残されたツバキちゃんが小さく手を振っているのに視線を移すと、おかっぱ頭のツバキちゃんはおずおずと僕を見上げた。
「あのね、ハクトおにいちゃんとキキョウちゃんはきょうだいだよ」
「ああ、やっぱりそうなんだね」
そしてツバキちゃんはとっても賢い。僕が聞く前に答えてくれた。
「ツバキちゃんは近所に住んでるの?」
「ううん。わたしはあっちのほう」
ツバキちゃんが指さしたのは、村長さんの家がある高台の方。ということはこの子の親は里の重役の人かな? 同年代の子に比べて落ち着いている感じなのも、教育がしっかりしてるからなのかも。
何にせよ、3人から1人に人数が減って、しかも残ったのがおとなしい子だとわかったからか、イオくんがようやく会話に入った。この友人、本当に我関せずって態度とってるの上手いんだよなー。相手子供なんだから強がらずに会話入ってくればいいのにさー。
「すまんが、このあたりにお湯の湧いている場所があるか知ってるか?」
そして第一声がそれである。イオくんどんだけ温泉入りたいの?
「おゆ? えっと、あったかいおみずならあっちだよ」
ツバキちゃんはイオくんを見上げて、言われたことを確認して、小さく頷いてから対岸を指差す。丸太が無造作に転がっているところがあって、そこのあたりにお湯が湧くらしい。
「あついからかわのおみずとまぜるんだって。こどもたちは、やけどするからちかよっちゃだめっていわれてるよ」
「そうなんだ、ツバキちゃんは物知りだね。教えてくれてありがとう」
「えへへ」
はにかんで笑う幼女。かわいい。僕はロリコンではないのでこれは純粋に小さい生き物に対する慈愛の心です。僕の従兄弟の7歳児は、なんか僕のこと子分だと思ってる男の子なので新鮮な気持ちだよ。
去年、イオくんがたまたま遊びに来た日に従兄弟家族が顔を出した時があって、僕が当時6歳の従兄弟にイオくんを「友達だよ」って紹介したら、「夏樹! ともだちいたんだな! おれのおかしやるからなかよくしろよ!」って麦チョコもらったことがある。イオくんはその光景をみて死ぬほど笑って、なかなか笑いが収まらなかった思い出……。今も麦チョコを見るたび思い出すね。
僕がそんな苦い思い出を思い出していると、視界の隅にクエストを受注したマークが現れた。あれ、自動発生するクエストなんてあるんだ? と思いながらステータス画面を確認すると、そこには「足湯を作ろう!」という文字が……。
「すまんナツ、足湯が絶対必要だと考えてたらなんかクエスト出たから受注した」
「なるほどシステムさんの依頼……!」
へー面白い。強く願ったらクエストになることなんてあるんだ?
一応確認しておくかと思ってクエスト画面を開いてみると……あ、あれ? 僕こんなにたくさんクエスト受けてたっけ? なんか色々あるけど……時間制限があるのはサームくんとヴェダルさんのクエストだけだから良いとして。
「イオくん、なんか知らない間にめちゃくちゃクエストクリアしてる……!」
「ナツ全然チェックしてねえからな。達成報酬で結構金も貯まってるぞ?」
「えっ、ホントだ……!」
ちょっと待って、共有インベントリに見知らぬ素材とかも増えてるんだけど、これも報酬?
って、これ……金属を含んだ石って……。僕の<金属加工>用じゃん、どう考えても! まさか僕が<細工>スキル取るのってクエストになってる!? ただのアドバイスだと思ってた!
ちょっと一旦クエスト画面確認してもよろしいか!




