20日目:喧嘩仲裁猫テトさん
「<金属加工>取得できたー!」
「おう、おめでとう」
バンザイする僕に、イオくんは軽くお祝いを告げた。そういえばイオくんもなんかスキルと向き合ってたんだっけ? 何か良いスキルあった? と聞いてみると、<筋力強化>と<俊敏強化>を取得したとのこと。
「剣士ならSP2で取れるから、いつか取るつもりだったけどすっかりタイミング逃してた」
「あー、如月くんも取ってたスキルだね」
「火力の底上げは大事だろ」
確かに。いざってときの爆発力は必要だと思う。
作業が終わったのでとりあえずテーブルセットを撤収していると、アサギくんと雪乃さんが村長さんと一緒に戻ってきた。賑やかだなーと思っていると、どうやらどっちが使節団を率いてサンガへ向かうかで揉めている様子だ。
「俺が行くって! ここからだと片道2日はかかるだろ、野宿とかあるしさー」
「いーやここは私だね! アサギは飛び道具じゃん、私なら遠距離も近距離もいけるもん!」
と、どっちも自分が行くと主張し合っている。こういうのって譲り合いになるかと思ったら、そうでもないんだなあ、と感心してしまう。
「使節団の鬼人さんたちだって戦えるだろ!」
「でも住人さんにはなるべく戦ってほしくないじゃんー!」
「だーかーら! 俺が遠距離でなるべく脅威を減らして……!」
「でもでも、距離詰められたらやっぱ私のほうが……!」
「ほーれ、一旦おちつくのじゃ」
本格的ににらみ合いになりそうだったところを、村長がすぱっと割って入って、アサギくんと雪乃さんは一旦口を閉ざした。それでもむむむっと睨み合っている2人の間に、テトが「けんかだめなのー!」と割って入る。そのまま8の字を描くように2人の周りをぐるぐるするので、一触即発の空気はたちまち離散してしまった。
「なになに? テトちゃんもしかして撫でて欲しいのかなー?」
雪乃さんはちゃんとテトの視線に合わせてお話してくれるので、構ってほしいテトは嬉しそうだ。
「くっ、猫にモテたくて猫獣人になった甲斐があったな……!」
とアサギくんはなんか感動している。っていうかアサギくん猫好きなのかな、テトで良ければいくらでももふっていただきたい。
けんかだめー。なかよくテトをなでるといいのー。
にゃーにゃーとテトが言う。家の猫本当に賢いなと思う僕である。
「テトが、喧嘩するくらいなら撫でろーって言ってる」
「撫でる撫でる」
「俺も俺も」
左右から撫でられるテト、ちょっと得意げにゴロゴロ喉を鳴らしている。気分はハーレムなのかもしれないけど、テトハーレムなら入りたい人がたくさんいそうだね。そんなことより僕もお仕事を終えなくては。
「アサギくん、これ依頼のお守り」
「お、サンキュー! これ報酬のハニーラビットの肉!」
さっそく頼まれていたものを渡すと、アサギくんも素早く肉をトレードしてくれたので、僕は受け取った肉をそのままイオくんに横流しする。それを見て、
「ん? まさか料理はイオくんさんの担当なのか??」
と首をかしげるアサギくんである。そう言えばこの人達の前でイオくんが料理を披露したことはないか。っていうかアサギくんもその呼び方するんだ? イオくんも「それはやめろ」って微妙な顔してる。
「家のイオくんは天才料理人なので!」
ドヤア! と自慢する僕に、
「いやお前がドヤ顔すんな」
と欲しいツッコミをくれるイオくん、さすがである。
「イオくんは僕の親友なので僕もドヤ顔を許されるはず」
「許され……るか? テトなら許す」
よんだー?
ごろにゃんと甘えるようにイオくんにすり寄ったテトは、僕の正面におすわりして得意げに告げた。
ゆるされた!
「……テトが許されるなら僕も許されると思います!」
「じゃあ許すか」
「僕も許された!」
わーい、おんなじー!
テトはなんかよくわかんないけど僕と同じならうれしー! って感じなのがとてもかわいい。ぴょいんと軽く飛びかかってきたテトをぎゅーっと抱きしめて撫でるけど、これめちゃくちゃ優しくタッチされてるんだろうなあ。気遣いのできる猫、素晴らしいと思います。
僕とテトがじゃれ合っている間に、イオくんが村長さんに話し合いはどうなったのか聞き込みをしている。
「うむ。使節団は決まったんじゃが、アサギと雪乃がどちらがサンガまで連れて行くかで揉めてのう……」
「2人でいけばいいんじゃないのか?」
「いや、1人は残って里の受け入れ準備をしてもらう予定なんじゃ。トラベラー同士なら離れていても会話ができるんじゃろ? 何が必要だとか、向こうから誰が里にくるかとか、そういった連絡も取り合ってもらいたいしのう」
「あー、なるほど」
うーん、確かにこっちで仕切る人も必要だよね。このクエストを受注してるのはアサギくんと雪乃さんだから、この2人がバラけるのは必須。でも僕とイオくんは出てきたばっかりのサンガに戻るつもりはないし……となると。
「雷鳴さんに声かけてみたらどうかな?」
そういえばと思いついて言ってみると、「えっ?」と雪乃さんが振り返った。
「ライさん一緒に行ってくれそう?」
「ライさん……それいきなり雷鳴さんには言わないほうがいいよ、戸惑うから。僕たち、雷鳴さんとは森で出会ったんだけど、あの人イチヤからサンガ飛ばしてここまで来てるから、転移装置登録のためなら行ってくれるんじゃないかな? 特にどこに行きたいとか目的がある感じじゃなかったよ」
「ほんとー? 一緒に行ってくれるなら超ありがたい!」
「あの、ちゃんと本人を誘ってOKもらってね?」
「わかってるよー、無理やり引っ張ってったりしないって!」
雪乃さんはぱあっと表情を明るくした。雷鳴さんの居場所を聞かれたので、炊事場に行ったよと教えると、ちょっと話しつけてくる! とすぐに駆け出す。行動力の塊かな? 元気でとても良いと思います。
「……もし雷鳴さんが一緒に行ってくれるんなら、雪乃に任せたほうがいいかあ。俺はちょっと体力に自信ないし」
駆けてゆく後ろ姿を見送りつつ、アサギくんはため息を付いた。確かに、アサギくんは種族的にも職業的にも、HPを伸ばすには自分でPP振るしかない組み合わせだからなあ。
「ちなみにアサギくんHPどのくらい?」
「俺、素ステで200ぴったり」
「僕より50も多い」
「いやマジ!? 逆になっちゃんHP150でどうやって生きてきたのここまで!? 俺200でもしんどい時あったけど!?」
「持つべきものは前衛盾持ちのイオくん!」
「察した!」
前衛できっちり守ってくれる相方がいれば、HP150でも怖くな……いや怖いか。そろそろ200くらいまでは振っとくべきかなPPを。敵が強くなると全体攻撃とかしてくることあるから、そういうの耐えられる程度のHPは欲しい。僕が死んだらイオくんの特殊な強化切れちゃうし。
捨てると決めた筋力と俊敏は、それが死に直結することはほとんどないけど、HPはなあ……。一応アクセサリで補強はできるし、お守りで必殺技から身を守ったりはできるけど、流石に心もとないよね。
「なっちゃん普通に物理防御にステータス振るほうがいいぞ? 特殊技にクリティカル入ったら一撃死あるからな、そのHP」
「200までなら……!」
「なんでそんな悔しそうなんだよー」
俺だってPPあったら物理防御に突っ込みたいぞ! と言うアサギくん、さてはPP使い切ってるな? まあ、余ってたら全部使いたいよね、わかる。
僕とアサギくんがそんな会話をしている間に、イオくんはつつがなく村長さんに武器の補修ができる人が居ないか聞き込み調査を終えたらしい。色々話し込んでるみたいだったけど、結局、村長さんがイオくんの武器を補修してくれることになったっぽい。
「これなんだが」
とイオくんが差し出した氷雪の剣を見て、村長さんは「おお」と目を輝かせた。
「良い剣じゃのう、これを選ぶとはお目が高い。強化次第じゃが、この先これ以外の武器はいらんかもしれんぞ」
「長く使えるならありがたいな」
「うむ、うむ。名のある鍛冶職人の手じゃろうな」
村長さんがしげしげと剣を掲げて見ていると、アサギくんも興味を持ったらしい。一緒に剣を見て、「おおー」とか言っている。
「きっれーな剣だなー。強化できる武器ってあんまりないんじゃなかったっけ。サンガで1つ見たけど、あれすげえ高かったんだよな。これイオく……じゃねえや。イオさんの?」
「ああ。イチヤでちょっと無理して買ったんだ。はじまりの街で手に入れた剣だから、そんなに長くつかえるものだとは思わなかったが」
不服! これは不服! なぜイオくんさんをやめてイオさんになるのだ!
イオくんがイオさんなら僕だってナツさんでは!?
「全部声に出てるけどー! なっちゃんは、なんか、雰囲気なっちゃんって感じだろ?」
「解せぬ」
なっちゃんって呼ばれたら市販のジュースしか浮かんでこないじゃん。小学生の頃とか、友達の家に遊びに行くとかならずあのジュースを出されたものである。いや別に嫌いじゃないけどさー。なんかこう、ダジャレですか? ってなるじゃん!
思わずアサギくんをじとーっと不服の眼差しで見ていた所、いつの間にか隣にいたテトが「けんか?」と首をかしげた。さっきまで喧嘩仲裁してたテトなので、もしかして仲裁に来たのかな、と思ったら。
テトはナツのみかたするのー。
と言って僕にすり寄ってくれました。くっ、うちの猫は天使だったのかな!?
「ありがとう、テト優しい! 優しい上に賢くて可愛いなんて偉すぎる! 僕テトの契約主でよかったなー! 良い子だねー!」
もう呼び名の不条理なんかどうでもいい! 僕は猫を撫でます!!
僕がヤケクソになってテトを撫でていると、村長さんはあっという間にイオくんの剣の補修を終えていた。スキルを使うだけだからすぐ終わるんだって。再度村長さんが掲げた剣は、さっきまでより輝きが増しているように見えた。
「おお、耐久値の増えた数字が0まで戻るのか、ありがたい」
イオくんが驚いたように言う。え、300越えてたあの数値が0になるのか。僕のユーグくんは壊れないから関係ないけど、イオくんが前に武器の補修について調べたときは、補修したとしても割合で減る感じって言ってなかったっけ?
同じことを考えたらしいイオくんが、村長さんに問いかける。
「補修にここまでの効果があるものなのか?」
「うむうむ。儂ほどの腕なら0まで戻せるが、誰もができることではないので気をつけるのじゃぞ。鍛冶師も腕前に差がつくものなのでなあ」
「腕の良い鍛冶師なら、0にできるのか」
「元々の武器が良いからのう。そうじゃ、トラベラーさんは<鑑定>が使えるんじゃったか。補修作業はそこまで難しくないから、鍛冶師や上級鍛冶師が請け負うことが多い。それより上の鍛冶師に頼むのが良いぞ」
「上級鍛冶師の上の職業……」
なるほど、武器の補修ってある程度耐久値が減ればいいから、鍛冶工房でも下っ端の人の仕事ってことか。もっと上の職業の人に頼むって、普通に窓口とかで希望を言えばいいのかな? それか、一人でやっているような小さな工房を探すのもありかも。
いずれにせよ、イオくんの武器は今後も補修していかなきゃいけないから、ゴーラ行ったら探してみないと。
「なるほど、わかった。助言に感謝する」
「よいよい。儂も良い武器を見せてもらえたのでのう」
村長さんが笑顔でイオくんに剣を返す。それを丁寧に受け取って、イオくんはもう一度剣を見た。<鑑定>したのかな? 何か変わってたんだろうか。
「イオくん、なにかあった?」
「いや、なんか輝いてたから変化があるのかと思ってな。<鑑定>したら、補修ボーナスってのがついてて、耐久値が30になるまでの間攻撃力がさらに+2されるらしい」
「おお、性能上がってる!」
「腕のいい鍛冶師に頼んだおかげだな」
村長さん、すごい人だったんだな……!




