表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/339

20日目:僕の杖賢い!

 はーちみーつぱーん!

 テトはとても嬉しそうに目をきらきらさせて、イオくんがバターロールにはちみつを塗るのを覗き込んでいる。

 手元をじーっと期待に満ちた眼差しで見られるので、料理人騎士イオくんとしては若干やりづらそうだ。でもテトが喜んでいるのもわかるので離れていろとも言えず、結果なんかむず痒そうな顔をしながらそのままにしている。

 遅い時間のお昼になったから、僕とイオくんはシンプルにおにぎりとスープのみ。雷鳴さんは炊き出しを手伝う代わりに自分も食べさせてもらうことにしたようで、共同の炊事場へと足を運んでいる。

 僕たちは村長さんの家の庭を提供してもらって、テーブルセットを出しているわけなんだけど、アサギくんと雪乃さんはさっそくサンガへ向かう使節団を募集するらしい。お昼ご飯食べ終わったら道迷いのお守りを5つ作ってほしいという依頼があったので、OKしておいた。

 対価として川沿いに出現したハニーラビットというウサギのドロップ肉を10個くれるというので!

 イチヤで売ってたのをイオくんが少し買ってて、一回焼いて食べたんだけど、ハニーとつくだけあって甘めのお肉だったんだよね。その時はお店に在庫があんまりなかったから、イオくんが残念がってた……けど、もらえるというのなら! イオくんの<料理>の糧になってもらいましょう!

 【コピー】をさっそく使ってみたいし、<上級彫刻>はもう少しでレベル10になるから、そしたら前にアドバイスもらってたようにアクセサリを作るために<細工>を出したい。SPないけど。


「ほら、はちみつとジャム塗ったから、食べろ」

 わーい!

「ナツはおにぎりどれにする?」

「サケ! と、ベーコンチーズおにぎり。これどうしたのイオくん、めっちゃおいしそうじゃん!」

「和風素材あんまりないからな。高菜とか明太子とか昆布とか作れないし、洋風おにぎりって検索したら出てきたから」

「天才料理人か」

「先人の知恵なんだよなあ。あとレシピサイト」

 レシピサイトは偉大です、僕でも知ってるよそれは。


 イオくんはおにぎりの他に、昨晩簡単に作っていたミルクスープを出してくれた。こまめに料理作っていかないと<料理>のスキルレベルが上がらないからなーとか言って、よく寝る前にちゃちゃっと色々作っている。インベントリを圧迫する原因ではあるんだけど、料理は必要なものだから良いと思います。

 いただきます、と一言告げてさっそく洋風おにぎりにかぶりつく。ほんのりバター風味のごはんにしっかり焼いたベーコンとパセリ、そして四角に切ったチーズが混ぜ込まれているやつ。噛みしめると胡椒の風味もピリッと効いててめっちゃ美味しい。これリアルでも食べたいやつだ。

「イオくんはやはり天才料理人であった……」

「料理人じゃねえんだわ。あとこれすげえ簡単だぞ、ナツでも作れるレベル」

「リアルで作ってみようかな。あ、向こうではパセリ抜きで」

「わかる」

 アナトラ世界のパセリは、リアルほど強い風味じゃないから食べやすいんだよね。リアルだとこの量入れたらパセリの味強すぎると思うし、そもそもそこまでパセリ好きじゃないからなあ。


 テトがミルクスープに興味を示したのでちょっと分けてあげつつ昼食を終えたので、口の周りをべとべとにしているテトに【クリーン】をかける。

 これホントに便利魔法だよなあ。と思っていると、システムアナウンスがピロンと表示された。


『魔法杖ユーグが習得するスキルの選択を求めています』


「……えらい! よく聞いてくれました! 一人で決めずに僕に相談、それこそ僕の求めていたもの! やはり僕の杖天才なのでは!」

 思わずガッツポーズをしながら叫んだ僕である。テトが「なあにー?」って感じに首をかしげて、イオくんが「何叫んでんだ」と呆れた顔をしているけれども、これが叫ばずにいられますか!

「素晴らしい僕の杖のユーグくんが、自動習得するスキルの選択肢を表示してくれました」

「お、ついにスキルつくのか。どんなのが出たんだ?」

 杖作ったときに<自動調整成長>という能力を授けられていたユーグくんだけど、これが「使用者の望み、経験、習性などを分析し、成長する」というスキルだった。要するに僕の行動や思考、発言などを総合的に加味して、最適と思われるスキルを自動で習得する、というやつ。

 最初のころ、ユーグくんに話しかけて、迷ったら僕に聞いて! 的なことを言い聞かせておいたんだけど、おそらくあれを覚えていたと思われる。とても賢い。天才。


「えーと、候補になってるのは<補助強化>、攻撃魔法以外を使う時にMPを軽減するスキル。もう一つが<二重詠唱>、同じ魔法を二重で発動するかわりにMP消費が2倍になる。……の2つだね」

「<二重詠唱>いいな。攻撃が捗る」

「待ってイオくん、これは罠だ。バフやデバフは同じ魔法の効果は重ならないので!」

「あー、これ常時か」

 そう、この<二重詠唱>は常時発動のパッシブスキル。効果の重ならない【サンドウォーク】とか【ダークアイ】とかを二重で発動しても何の意味がないし、無駄にMPを2倍消費してしまう。攻撃魔法だけに効果発動するんなら良かったんだけど、流石に常時発動だったら取る意味がない。

「ユーグくん、<補助強化>にしよう」

『<補助強化>を選択しました。魔法杖ユーグのスキルに追加されます』

「よしよし。ユーグくん、<二重詠唱>は惜しかったよ、方向性はあれで良い。もう少し融通が効くスキルだったら嬉しかったな。でも<補助強化>は良い提案です、素晴らしい。さすが僕の杖、最初にお願いしていたことを覚えているとは賢い。この調子で次回も選ばせて欲しい、よろしくね」

 ユーグくんの様子に特に変化はない。けど、次も選択できると思うだけでかなり気楽だし、幸運もしっかり上げてってるし、多分大丈夫でしょう! とりあえず褒め殺しつつ水晶を磨いてあげると、「普通に杖と会話しよる」と呆れたイオくんのつぶやきが耳に入った。

 レスポンスはないけど話しかけるのは自由です。


「まあ、スキル覚えて良かったな。次は武器強化か」

「あー、それもそろそろ? まだ味方にバフをかける回数がクリアできてない」

「俺の剣もゴーラでは強化できそうなんだが……ちょっと耐久が厳しい」

「えっ、頑健のお守り使ってるよね? 今いくつ?」

「325。ゴーラまで持つか?」

「えー、どうだろう」

 イオくんの剣は耐久度が500設定されていて、使用するたびに耐久度の数字が増えていく。それが現在325/500となっているわけで、余裕が175しかない。左の数字が500になると壊れるし、400到達する前に補修して数字を下げないと、400を超えてからの補修は何らかのペナルティが確率でついてしまうらしい。

「危なくない? 里に補修できる人いないか探してみたほうがいいのでは」

 雪乃さんが鍛冶スキル持ってるし、村長さんも鍛冶名人だから、どっちかに頼めるんじゃないだろうか。ここからゴーラまでの道もあるんだから、絶対一回補修して耐久度を戻したほうがいい。

「スキルに<武器補修>ってのがあるから、それを取ろうと思ってたんだが」

「それってどういうスキル?」

「頑健と同じで耐久度を軽減するスキルで、一律10%減なんだ。頑健と合わせればだいぶ軽減できると思うんだが……固定スキルだからSP10使うんだよな」

「高い方の固定スキルかあ……。それ取る前に一旦村長に聞いてみよう」

 そのスキルなら取っておいても無駄にならないと思うけど、SP10も使うのに10%かあ……という思いもある。頑健のお守り★2で13%減になってるはずだから、合わせれば23%か。頑健のお守り、重ね書きできないかなー。今なら道具も良くなったし★4くらいのを作れそうなんだ。



 というわけで、お昼ご飯も食べたし、お守りを作るべし!

 テーブルセットの上に僕が彫刻セットを取り出すと、テトは僕が作業するとわかったようで、体の左側にすりーっと寄り添った。僕とかイオくんが作業するのを見るのが好きらしいんだよね、テト。きらきらの目で手元を見てくるので妙なプレッシャーがかかるけど、楽しそうに見ててくれるのはちょっと嬉しい。

 イオくんは己のスキルと向き合うと言って向かいに座っているので、ちゃっちゃと終わらせちゃいますか。

「じゃあ最初に依頼品を、っと」

 アサギくんたちに渡す道迷いのお守り。【コピー】のアーツを宣言すると、目の前に半透明のウィンドウが現れた。これで選択するのか……音声入力でもOK? ちょっと未だに音声は微妙な羞恥心を感じるのでやめとこう。

 道迷いのお守り、★2、個数は5個で……MP消費が120。普通に手で作ったときはMP20の消費だったはずだから、簡略化してる分多くMPが引かれてるっぽい。決定すると一瞬で木材を5つ消費してお守りが5つ出来上がった。

 依頼品はこれでOKとして、<上級彫刻>はあとほんの少しでレベル10になりそうだから……頑健のお守りを丁寧にできるだけ上手に作るチャレンジをしてみる。最初の頃は結構綺麗になぞれずに線がぶれてたんだけど、道具を変えてからというもの、ほぼお手本通りに仕上がるのだ。

 丁寧に彫ることを心がけつつ作ったお守りは、もともと簡単な方の模様だったこともあり、★5で出来上がった。上出来だね!

「できた。イオくんこれ上書きできない? ちょっと武器に使ってみて」

「おう? ああ、頑健のお守りか。★5だと20%軽減とか半端ねえなあ、SP20分の働き」

「そう言われるとめっちゃ凄い気がしてくる」

「使用できるか……? お、効果は上書きできるっぽい」

「やった」

 イオくんが問題なくお守りを使えたので、僕の方はもう少し作業してスキル経験値を……<高度魔術式>が何か新しいの拾ってる!


 えーと、<魔物よけ>はグレーアウトしてるからまだ作れないやつ。<保冷のお札>、<保温のお札>は家用かな。うわー、どっちも複雑な模様……! 一応作れるレベルではあるみたいだけど難しそう。<保温のお守り>は寒冷地で寒さを確率で軽減するお守りで、<保冷のお守り>は暑いところで暑さを軽減するお守りだ。

 お守りの方ならまだ作れそうかも。難しい模様ではあるけど、面積が小さいし。

 よし、と気合を入れて適度な大きさの木板を取り出して、ヤスリをかけて表面をならして、っと。

 最初の1回は、どうせアシスト付きだと★1になるから、気楽に作ろう。ナルバン王国はヨンドの方は高地で寒いらしいけど、逆にあったかい土地ってあんまりないみたいな話を聞いたことがあるから、保温のお守りの方かな。えーっと、円形多用してるなこの模様……! むっず……! 

 なるべく線に沿って必死で彫ってみたけど、初回のお守りはやっぱりなんかガタガタな仕上がりだ。時間をかけて彫って、なんとか★1のお守りが出来上がると同時に、<上級彫刻>のスキルレベルがようやく10に上がった。

 よしよし、ちゃんとシステムアナウンスが出て、金属への<彫刻>ができるようになった。そしてこんなときのために買っておいた金属板が1枚だけあるので、これに……今在庫が少ない最大HP上昇のお守りを……っと。


『金属に<彫刻>スキルを使ったため、スキル<金属加工>を取得可能になりました』


 よし、SP3を注ぎ込んで、取得!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ