20日目:自己申告村長さん
「よく来たのう。儂がイズモじゃ、一応この里の長をしておる」
立派な白ひげを蓄えたお爺さんがそういった時、僕は思った。
絶対この人何らかの達人じゃん……! と。
「ナツ、ボケっとしてんな」
「ハッ!」
「俺はイオ、こっちのぼけっとしたエルフが友人のナツ、その契約獣のテトと、後ろの黒いやつは雷鳴だ」
あっ自己紹介取られた。ちぇっと思いつつ「はじめまして!」と元気にご挨拶しておこう。テトも僕の横で「テトだよー」といつものおすましポーズを決めた。ただ、相手が鬼人さんだからか、積極的に撫でてもらおうとはしてない。鬼人さんは妖精類じゃないし、獣人さんたちほど種族的に親しみがないから、テトとしても撫でてもらえるかどうか手探り状態らしい。
さて、村長……正しくは里長? のイズモさん。
そりゃもう立派なヒゲのお爺さんだ。少年漫画で秘伝の術とか授けてくれる師匠っぽいイメージ。しゃんと背筋を伸ばしているけれど、80歳くらい? もっと上かもしれないという印象を受ける。
「はじめまして、雷鳴です」
と、雷鳴さんもご挨拶をしている。……さっきアサギくんたちから逃れようとテトの後ろに隠れてた人とは思えない堂々としたご挨拶だ。
「おう、おう。よろしくのう。それで、アサギの坊は何の用じゃ。儂はこれから可愛い孫の様子を見に行く予定なんじゃが」
「道だよ、道! つなげようぜ、枝道! 今ならいけるんだよ!」
生き生きとしたアサギくんは、村長の戸惑ったような表情をまるっと無視してインベントリからノートを取り出した。続けて粗く削った鉛筆……鉛筆と言うか、鉛筆の芯を棒状にしたやつに持ちやすいように布を巻いたやつかな? それらをテーブルの上に置いて、さらに長さ1.5Mくらいありそうな不思議な金属製の棒を取り出す。直径も結構あるし、棒というよりは……杭のような。
と思っていたら、アサギくんが続けて口を開いた。
「クエスト……っていってもわかんねえか。えーっと統治神スペルシア様の指示で、トラベラーも色々仕事をこなしてんだけどさ。この集落に一定数のトラベラーが到達したら、スペルシア様から目印になる杭をもらえるんだ。それがこれ」
「おお……!」
アサギくんが見えやすいように竜のマークを正面に持ってきて、村長さんに見せた。セーフエリアとかでよく見る杭の大きなバージョンって感じだ。素材も少し違いそう。
「そんで、これをこの集落の中心あたりに埋めると、スペルシア様がこの里を認識できるんだ。それで、ここから正道に繋がる枝道が伸びる。最初は狭い道になると思うけど、出入りができるようになるんだよ!」
「なんと……! トラベラーというのは、そんなことまでしてくれるのか」
村長さんは感激したようにアサギくんの持つ杭を拝んだ。
「……枝道のクエストって、消える道だけじゃないんだ?」
僕はこっそり、村長さんに聞かれないように小声で雪乃さんに質問。僕たちも一度開放イベントみたいなのやってるけど、サンガの西の砦では枝道は1日しか持たなかったし、こんな杭も打たなかったはずだ。
「そうだよー、集落の開放って大きく分けると2つのパターンがあってね。その場所に定住したい住人がいないなら消える枝道で、その場所に定住の意志がある住人がいる場合は消えない枝道クエストになるんだって」
「そうなんだ。あちこちに集落が点在しててくれたら、僕たちも旅しやすいね」
「だよね! でも消えない枝道を設置するのも、その後のアップデートするのも、トラベラーが一定数その場所にたどり着くことが必要条件になってくるんだよー」
そこがネックなんだよね! と肩をすくめる雪乃さん。
僕たちがそんな話をしている間に、アサギくんがノートに簡単な地図を書いて、サンガがここで、この里がここで、道はこんなふうにつながって……ってイズモさんに説明している。なんか結構大回りして正道に繋がるんだなあ、と思っていると、同じことを思ったらしい雪乃さんが質問してくれた。
「アサギ、それってなんでそんな遠回りなの? もっと直角に短距離で繋げないのー?」
「あー、いやこれはな、この辺にソルジャーアントのでかい巣穴があって、迂回するしかねえんだわ」
「げっ、あの酸吐いてくる奴ら? あんなの住人さんに遭遇したらヤバいじゃん」
ソルジャーアント……聞いたことない敵の名前出てきた。僕たち遭遇してないけど、名前からして蟻だろうなあ。魔物になるには一定数の大きさが必要ということは、でかい蟻だ。しかも、酸を吐いてくる蟻。……遭遇したくないな!
アサギくんの説明を聞いていると、どうやら道の候補は複数提示されるらしい。もちろん、危険を承知でなるべく最短で正道まで行ける道も提案の中にはある。それぞれの道にメリット・デメリットが表示されて、その中からクエストの代表者がどの道を設置するかを選べる、と。
それで、アサギくんはリスクが低くて、遠回りになる道を選びたいみたい。
「トラベラーだけなら最短ルート一択だけどなー。住人たちも使うなら、少しでも危険がない道がいいだろ」
「確かにねー」
「な、そう思うよな、なっちゃん!」
「いつの間にアサギくんまであだ名で呼んでくる!? いやでもそれはそう。住人さんたちには多少疲れるとしても安全な道を通ってもらわないと」
「だよなー!」
うんうんう頷きながらイオくんと雷鳴さんにも視線を向けるアサギくんは、その2人も無言で首を縦に振ったのを見て同意を得られたと判断したらしい。「じゃあこの道で!」と空中を叩くような仕草をしたので、選択を決定した、ってことかな。
「おお……こんな日が来ようとはのう。儂らは皆、この里に骨を埋めるつもりでおったが、もしかして生き別れの身内と会える奇跡もあるかもしれんなあ」
しみじみとそんなことを言うイズモさんである。あ、そう言えば例の荷物! この後、杭を埋めに行くんだとしたら、先に渡して置くべきかも。
「イオくん、あれ出してもらっていい?」
「おう。……イズモ、俺達はサンガから来たんだが、ナガレという御仁からこの里に支援物資を預かっている。渡してもいいか?」
「ナガレ……それはもしかして、こう、目付きの鋭い男か? 右手の甲に刀傷のある……」
え、刀傷までは覚えてないな……! でも目つきは確かに鋭かったっけ。
「目つきの鋭い、イズモさんと同年代くらいのご老人でした。サンガで店を持っていて、ここが故郷だって言ってましたよ」
なるべく思い出せる限りの情報を口にすると、イズモさんは何度か小さく頷いた。10年も会ってない相手を思い出すのって大変だと思うんだけど、イズモさんとしては確信があったのだろう。
「そうか、そうか。あやつも生きておったか。うむ、荷物はここで預かろう、何を預かってきてくれたんじゃ?」
「テト」
おしごとー! あのねー、テトがんばっていっぱいはこんだのー。ほめてー!
テトがドヤ顔で一歩前に出ると、にゃんにゃかと呪文を唱えて自分の影をぽんっと前足で叩く。すると、ナガレさんから預かった大きな木箱がどんどんどん! とその場に積み上がった。あれ? 5箱ある。多くない?
「あの後調味料とか調理具とか日用品も買い足したからな」
「心読まないで欲しい。えー、いつの間に? 僕居たよねその時」
「ナツはテトが満足するまで撫で回してたぞ」
「あ、なるほど……。え、そんな僅かな間にこの買い物を済ませることって可能? 何なのイケメンってここまで段取り良くないとイケメン名乗れないの??」
「わかりやすく」
「さすがイオくん手際が良い! 素晴らしい!」
「うむ」
若干テトのドヤ顔が移ってませんかねイオくん。まあ満足そうなので僕は良いと思いますが。
ナツー! テトもテトもー!
「テトもたくさん運んで偉いね! さすがテトさん仕事ができる! 家の猫天才!」
いっぱいなでてー!
にゃふふーっと満足げなテトさんを撫で回す僕の隣で、イオくんがテキパキとイズモさんにナガレさんからの差し入れの詳細などを説明している。やはり布地は足りてなくて、最近では座布団を解体して布地を服にリサイクルしていたというので、布は大変喜ばれた。
調味料も、アサギくんが「ここ塩しかなかったしありがてえ!」と言っていたので、胡椒や砂糖、ハーブ類などは喜ばれる様子。雷鳴さんがそっとレッドチリチェリーなるものを差し入れ……あ、あのピリ辛の唐辛子っぽいやつ! あれも美味しかったし良いね。
「あとはフォレストスネークの肉を差し入れできるが」
「肉は助かるのう。このあたりは若い衆が襲ってくる魔物を撃退しつくしたせいで、最近は肉がめったに取れんのでな。幸い小川があるから魚には困らんのだが」
「よしきた」
ここまでの道中でドロップしたフォレストスネークの肉は32個。1個が豆腐1丁よりちょっと大きいくらいのサイズ感だから、全部出したらかなりの量になると思う。200人に行き渡るかどうかはわかんないけど、フォレストスネークならまた森に行けばすぐ狩れるから、イオくんは30個ほど寄付することに決めたようだ。このくらい出していいか? と聞かれたのでどうぞどうぞと言っておく。
「僕もそれなら10個くらいだそうか? 自分の分までは出せないけど」
と雷鳴さんもぽんと追加してくれたので、結構な量の差し入れになった。
「フォレストスネーク……って、蛇かあ。リアルだと淡白な味なんだっけ、なっちゃんこれ美味い?」
「肉そのものがピリ辛で美味しい。唐揚げがおすすめ!」
「マジか食いてえ。俺一回も遭遇してないな」
むむむと肉を見つめるアサギくん、<鑑定>を使ったかな? フォレストスネークは名前通りに森に居るから、川沿い歩いてくると遭遇しないかも。
「アサギ、後で狩りに行こうよー!」
「俺も食べたいから行くかー!」
と雪乃さんと意気投合するアサギくんである。僕としてもこのお肉は結構おすすめなので、ぜひぜひと重ねておすすめしておこう。
「そんじゃ、その前に俺達は杭を埋めに行かないとな。大体里の真ん中らへんに埋めないと駄目らしいから……」
「あのへんじゃない? 芋の畑の、ほら小屋があるとこ」
「ふむ。儂も一緒に行こうかの。本当に道が繋がるのなら見たいわい」
差し入れの山は、いつの間にか使用人さんたちがテキパキと別の部屋へ運んで行って、無くなっていた。イズモさんは、すっと背筋を伸ばして杖を手に取る。のんびりした印象の人だけど、やっぱりこの里のお偉いさんなんだなあ、と僕が感心していると、ふとイズモさんと視線が合った。
「そういえば、なっちゃんよ」
「えっイズモさんまで!?」
「儂のことは村長で良いぞ、長年そう呼ばれてきたもんでな、名前で呼ばれると一瞬反応が遅れてしまうんじゃ」
「まさかの自己申告だった!?」
あの、ところでなんでみんなして「なっちゃん」呼びなんですかね?




