20日目:鬼人さんの里へ行こう
いつも誤字報告ありがとうございます、助かります。
一瞬で終わる夜を超え、テントの中で快適に目覚めると、イオくんがすでに起き上がって片付けを開始している。イオくんが買ったテントはワンタッチで広がるタイプの性能の良いやつなので、中も結構広々なのだ。
昨日はカレーを堪能したあと、生産系スキルを一切取ってないという雷鳴さんに助言を求められたので、スキル整理などしつつ相談に乗ってから就寝。雷鳴さんも休憩まで時間に余裕があるそうなので、今日鬼人さんの集落にたどり着くまでは一緒に行動することとなった。
昨日見せてもらった雷鳴さんのステータス、筋力と魔力を伸ばして他は幸運以外均等にPPを振ってる感じで、すごく平均的だった。当然のように10でストップしている幸運さんがちょっと可愛そうだと思いませんか!
まあそれはよいとして。
そのステータスだと前衛としても後衛としても色々中途半端で、ソロが辛くなってきている、という話だったんだよね。<調薬>を取ってポーションを自作しつつ、掲示板とかで仲間を募れるから、移動するときはパーティーを組んだほうがいいよって感じに話がまとまったのだ。
僕たちのパーティーに入れてあげられたら、近距離・中距離・長距離攻撃でそろって結構バランスいいと思うんだけど、ログイン時間がそんなに合わないみたいだし、何よりイオくんの特殊スキル、パーティーメンバーが変わったらその時点で効果が切れて最初から条件達成しないといけなくなるからなあ。
雷鳴さんとしても、気が合ってログイン時間帯が合う人がいたら吝かではない、って感じらしい。
時間帯は本当に大事で、特にアナトラみたいに時間短縮で2時間で1日とか経っちゃうようなゲームだと、些細なログイン時間の差がレベル差にダイレクトにつながっちゃうからさ。このゲームがソロや少人数プレイヤー向けになっているのも、その辺が関係しているんだと思う。確か、VRのRPG系ゲームをソロ専門で配信している有名な配信者さんとかも先行体験会に参加してて、アナトラを「ソロしやすい!」って褒めてたらしいし。
ナツー、おはよー!
ちょっと寝起きでぼーっとしていると、隣からにゅっと顔を向けたテトがごろごろ喉を鳴らしつつ僕にすり寄る。朝から家の猫かわいいなーと癒やされつつ、「おはよう」と挨拶を返して撫で回しておいた。
昨日寝る時、当然の顔して一緒にテント入ってきて、「テトまんなかー!」と僕とイオくんの間にででーんと横になったテトさんである。テトはギルドの2階で寝る時も絶対僕とイオくんに挟まれようとするので、多分狭いところが好きなのかもしれない。
「ナツ、今日午前中で鬼人の集落に着くから、早く起きろ。テントたためない」
「……ありがとうイオくん、二度寝するところだった……!」
起きます、起きますとも! テトがあまりにも手触りが良いので、寝ころんだまま撫で回してそのまま二度寝したい気持ちだったけど、流石にそれは許されない。ということで気合を入れて起き上がり、ごそごそとテントの外にでる。当然の顔で僕についてきたテトは、「ナツきょうもいっぱいのるー?」とお目々きらきらの期待に満ちた表情だ。
「今日もいっぱい乗るよー。いつもありがとうねー」
お礼を言いつつ撫でると、わーい! と素直に喜んでくれるので僕も嬉しい。僕、テトの契約主で良かったなー! 今になって思うとこの子より合う契約獣さんは、なかなかいなかったと思うしねー。
外に出ると、昨日から外に出している魔導コンロで、雷鳴さんが鍋をかき混ぜている。ほんのりやさしいスープの香り……ふらふらと近づくと、どうやらきのこと野菜のスープっぽいね。
「おはよう、ナツ。さっそくそのへんから<収穫>してきたよ」
「雷鳴さんおはようございます! もしかして<調理>取りました?」
「うん。話を聞いたら便利そうだったから、きのこ集めて<収穫>のレベルを上げて、なんとかSPを作ったよ。<料理>なら普段からやってるから楽かなと思ったし、<収穫>するなら<料理>しないと勿体ないし」
「あれ、<調薬>は?」
「この<料理>で貯めたSPで取るよ。<調薬>なら畑で薬草を育てるという目標もたてられるし」
「ぶれないなあ!」
まあ農業やりたいんなら、畑で育てた野菜を使って料理っていうのは自然な流れだもんね。その前に農業スキルはまだ未実装だ(と思う)けど。掲示板見ても農業系のスキルについては何の情報もなかったし。
イオくんは僕が調理器具触るのは微妙な顔するけど、雷鳴さんは手つきが慣れてる感じだから許可したっぽい。魔導コンロは魔石を自前のものを使うという約束だとか。
雷鳴さんの作ったスープは、イオくんのスープとちょっと違う感じで面白かった。なんかちょっとピリッと辛いスパイスが入ってる! と思ったら、これはこの付近に自生しているレッドなんちゃらっていう唐辛子っぽい木の実らしい。フォレストスネークの大好物、なんだって。だからフォレストスネークの肉はピリ辛なんだろうか。
「唐辛子ほど辛くはないし、微妙に風味が違うんだな」
「唐辛子そのものも市場で見かけたから、キビ糖と砂糖みたいな感じ?」
「多分。イオ欲しいならあげるよ、僕これ300個くらい<収穫>したから」
「もらおう」
サンガで買いだめしていたサンドイッチをお供に、スープを美味しく頂いた。僕はカツサンドで、イオくんは照り焼きサンド、雷鳴さんはハムチーズサンド。そしてその隣で甘いパンを猫皿に乗せてもらって上機嫌なテト。クリームパンは大変お気に召したようで、「しろいのあまーい♪」と満足そうだ。
きょうははちみつたべないー? と何度か聞かれたので、今日はないかなー? とごまかしておく。なんかとんでもないアイテムだとわかったからには無駄遣いしないように大事に使おう。魔法威力30%UPに慣れてはいけない……あれはなんかいざというときに使うアイテム……! 純粋に美味しいからお菓子とかで食べたい気持ちはあるけど、戦闘には安易に使わない方が良いね。
リゲルさんからもらった鍵、特に使用制限ついてなかったけど、あんまり気軽に行くのもどうかと思うし。次にあそこに行くときは、ちゃんと手土産を持っていかなきゃ。
お腹が満たされたら、あとはひたすら移動の時間。
いや、たまに戦うけどね。フォレストスネークも出てきたし、戦ったらちゃんと肉をドロップしたよ。イオくんに満面の笑みで預けたけど、複雑な顔をして受け取った割に「唐揚げだな」とつぶやいていたので、食べることへの抵抗はもう消えた様子。一回食べちゃえば精神的なハードルは消えるらしい。
ちなみに、雷鳴さんにこの肉ピリ辛で美味いですよって伝えたら、嬉々として集めていた。よっぽど空腹で彷徨った経験がトラウマになってるらしいね。
フォレストスネークは毒と麻痺の2つの状態異常を付与してくる敵なんだけど、基本は単独行動だから3人いれば警戒しなくても問題ない。ただ、フォールバードと一緒でこいつも奇襲系の敵だから、常時感知系スキルを駆使しておかないと危なかった。
空からいきなりくるんじゃなくて、気づくと背後に忍び寄られてて、足に噛みつかれる感じ。まだ初撃の威力はフォールバードよりは軽いから、安定して倒せる。そしてドロップが肉! その他に「フォレストスネークの毒液」が落ちたけど、これは錬金素材らしい。ゴーラについたらギルドで売らなきゃ。
あとはサンガ周辺で遭遇したソードリモにも何度か遭遇して、経験値は順調に溜まっていった。
……僕はずっとテトの上にいましたけれども! お陰で<迷彩>はレベル10でMAXになったので、上位スキル<潜伏>と<認識阻害>が出たよ。これは僕、ちゃんと掲示板で確認しておいたやつ。両方取ると<隠伏>に統合されます!
<潜伏>が、じっとしていると完全にステルスできるスキル。ただし動くと効果が切れる。
<認識障害>が、<迷彩>と同じで認識されづらくなるスキルなんだけど、発動するのに宣言が必要になる代わりに住人や普通の動物、他のトラベラーにも同じ効果が及ぶやつ。
で、この2つを合わせた<隠伏>は、宣言しなくてもパッシブスキルで<迷彩>と同じ効果がある(魔物にしか効かない)けど、宣言するとレベル×10秒間、パーティーメンバー以外から完全ステルスできるというスキルになる。なんと、動いても見つからない。
どっちも個別だとちょっと使いづらいところがあるやつだから、どう考えても統合しといたほうが使いやすい。
忍者とか目指してる人は、秒数制限がない<潜伏>を単独状態でキープしたいから統合しない! って人も居るらしいけど。僕はそういうの目指してないし、普通に<隠伏>がいい……んだけど。
「SPが確実に足りなくなる……!」
だって1つにつきSP5だからね! 両方取るとSP10を失うのだ!
「ナツ今SPいくつ?」
「32! 10使ったら取りたい発展スキルが取れなくなりそう。まだ<氷魔法>も<樹魔法>も我慢してるのに!」
「鬼人の里に行くまではそのままにしとけ」
「そうする……!」
ぶっちゃけ<隠伏>取るならその前に魔法の方を取りたいんだよねー。上級魔法士としては絶対外せないやつだし。今のところまんべんなく鍛えてオールラウンダーになる予定だから、どれか特化とかはしないけど……聖水のために<光魔法>は優先であげたいかも知れない。
僕が悩んでいると、雷鳴さんがのんびりと
「SPを余すことで悩めるなんて贅沢だね」
とか言ってくるんですが、ちなみに雷鳴さんSPは今……? って聞いたら清々しい「0だけど?」という返答がありました。ですよねー、<料理>取ってレベル上げたSPで<調薬>取りたいとか言ってたもんね……!
「大丈夫、案外なんとかなるよ、SP0でも」
と無表情でサムズアップされた。
「いやもう用途が決まってるやつなので……実質0なんですよ僕のは……!」
「仲間」
「くっ、不本意ながら仲間です……!」
そんな会話をしつつ、時々テトが「テトにもかまって!!」とばかりに色々話しかけてくれるのに付き合いつつ、歩き続けること数時間。アナトラ時刻で正午を少し回ったというころに、ようやく、遠くに村の影が見えてきたのであった。
「お、あれだな。ちゃんと塀で囲ってある」
「石かな? 僕たちの腰くらいまでしか高さはないけど、あれで魔物の侵入防げる?」
「いやあ、なんかバリアみたいなの張ってあるよ、上の方。対策はしてるんじゃないかな」
雷鳴さんに言われてよーく目を凝らしてみると、たしかに石の塀で囲んである集落にはバリアっぽいものが塀に沿って張られているように見えた。
スペルシア神は、隙間なく囲ってあって、住人のいる空間を「集落」「里」「町」などと定義している。呼び名は住人が勝手に決めるんだったっけ。西の砦でハイデンさんたちが無事だったのも、砦がこの定義に当てはまったからだ。だから、あの砦は「囲ってある」という定義から外れないよう、必死に壁を修復していた。
この里はかなり広範囲で囲ってあるらしく、近づいていくにつれて塀の中で動く人影を見つけることができたので、ちょっと安心した。ちゃんと人が住んでいるっていうことは知ってたけど、それでも実際確認するまでは不安もあったんだよね。良かったーと胸をなでおろしていると、集落の方から誰かが近づいてくるのに気づいた。
<識別感知>によると、どうやらトラベラーだ。僕たちより先にたどり着いていた人がいたらしい。
「イオくん、雷鳴さん、今集落からトラベラーさんがこっちに向かってきてるよ」
と一応伝えておいたけど、それから間もなく、僕たちの前には小柄な男性と背の高い女性の2人が勢いよく走って来た。なんでそんなに急いでいるんだ? と思った僕たちに向かって、男性のほうが大声で叫んだのだった。
「そこのトラベラーたち! 鬼人の里に寄ってけーーー!!!!!!!!」
「ちょっと、アサギ、それ脅し! もっとフレンドリーに!」
「寄ってってくださいお願いしやあああああっす!!!!」
……うん?




