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19日目:ここをキャンプ地とする!

「結論、はちみつのせい」

「魔法の威力30%UPを30分は強い……強いよエクラさん!」

「そんな貴重なものを貪り食ってしまったとは」


 無駄に魔法の威力が上がってることに気づいた僕は、ステータス表示から自分たち全員がバフを受けた状態であると確認した。魔法威力UP30%なんてバフ、今までみたこと無いしめちゃくちゃ有用なやつ……!

 テトは僕が敵にターゲットされない限りはホームに隠れないので、今回の戦闘は僕を乗せたままイオくんの後ろにいたわけだけど、そんなテトにもちゃっかりついてたよ、魔法威力UP30%。

 この全員にバフがあるってことは、直前の食事が何か重要だったかな? と考えたイオくんが、テト用に作っていたはちみつの残りを<鑑定>した所、このとんでもない効果が発覚したというわけ。蜜花は<鑑定>したけど、それを溶かしたはちみつは別に<鑑定>してなかったんだよねー。

「流石に1日1回限定らしい。バランス崩壊にもほどがあるぞ」

「こんな序盤で手に入れていいアイテムじゃなかった模様」

「入手手段があったってことは、想定外でもチートじゃないからセーフ」

 はちみつどうしたのー? まりょくたっぷりであまくてすてきなはちみつー。

「テトがそのはちみつには魔力たっぷりって言ってる!」

「なるほどな……」

 イオくんは無言ですすっとはちみつをインベントリに戻した。どえらいものを手に入れてしまったのでなんかイオくんが僕を見て複雑な顔をしている。僕のせいじゃないです、<グッドラック>さんのせいです。


「まあ実は僕もやたら魔法の威力高いなって感じてはいたよ」

 とは雷鳴さん。言ってよ! 気づいたときに言って!

「僕は、雷鳴さん僕の魔法の7割くらい威力出てるから、魔力も育ててるんだなーえらいなーって思ってました」

「3割増であれだから察して」

「最後のナツの【ライトランス】なんか酷かったもんな。【スパーク】で盲目状態の敵まで一緒に貫いて、盲目の敵には不意打ち判定入ったとは言え一緒に消し炭にしたわけで」

 だんだん僕が残虐なことしてるような気がしてきた。風評被害……っ! ミニウルフはかわいいけど敵なので倒したことは罪ではない……っ!

 とは言え、最後の【ライトランス】が威力マシマシだったことで周辺のミニウルフが軒並み逃亡するという珍事件は起きた。<識別感知>の範囲内からざざざーっと敵のアイコンが退避していくスピードは圧巻だったよ、なんかごめんなさいという気持ちにもなる。

 そのおかげで敵にも会わずにサクサク歩いて移動できているわけですが。


「ナツ、ウォーク頼む」

「はーい。【サンドウォーク】」

「かなりスムーズに進めてるけど、その鬼人の集落まであとどのくらい?」

「今日中に到達は無理だな。明日午前中着って感じか」

「へー、割と近いね」

 なんて雑談をしながら森を進んでいると、流れで雷鳴さんがテトに視線を向けて、「そういえば」と。

「魔力ってどうすれば見られる?」

 なんだか唐突な問いかけに、でもテトは自分に聞かれたんだとわかったらしく、ちょっとドヤ顔を作った。にゃふっと得意げに答えて曰く、

 きらきらしてるのー!

 だ、そうで。……妖精類の祝福とか、エクラさんの鱗粉みたいな感じかな? あれはわかりやすくキラキラしてるけど、なにかしら魔力を含んだものも別種類の光を蓄えているんだろうか。

「なんかテトが言うには、キラキラしてるんだそうです」

「へえ。どうやたら見分けられるんだろう。なにかコツとかある?」

 がんばってみるー。

「頑張って見れば見えるって」

「いやあ、流石に無理だなあ。どんなふうに見られるのか気になるんだけど」


 そういえば、アナトラ始めた初日に、フェアリーとエルフがめっちゃきらきらするから、魔力が多いと光るのかもしれない、なんて話をしたような記憶がある。案外、あれが当たってたのかなって気がするね。

「この中で魔力多いのナツだろ、ナツ何か見えないのか?」

「イオくん、無茶をおっしゃる……!」

「魔法系のスキル色々取ってるだろ? 魔法制御系のスキルとかで見えるようになったりしないのかと思ったんだが」

 ああ、なるほど? うーん、確かに魔法系統のスキル色々取ったけど、魔力を見るなんてスキルは覚えがないなあ……。<魔操>がレベルMAXになったときに何か新しいアーツとか増えるかもって思ったんだけど、結局増えなかったし。あ、でも<魔操Ⅱ>を取ったらすごく良いアーツが出たんだよ、【クールタイム減少Ⅰ】ってやつ! パッシブスキルだから自動発動で、アーツのクールタイムを短縮してくれるやつ。まだ実感できるほどの減少率ではないけど、育てていかねばならない気がする。

 まあそれはいいとして。

「近いものがあるとしたら<妖精眼>なんだけどね。前にテアルさんが魔力に色付けてた事あったけど、あれって外に出る魔力を表示してるだけだし。テトが見てる魔力って人とか物が内包している魔力のことだろうから、そうなるとお手上げ!」

「なるほど。<妖精眼>で魔力が見えるなら俺も見えるはずだし、そもそもあれ固定スキルだからな」

「アナトラでそういうスキルあるなら、<鑑定>の亜種じゃないかなあ」

「あり得る」

 結構種類多いらしいんだよね<鑑定>の亜種。どの<鑑定>を持っているかによって<総合鑑定>で見える結果にかなり違いが出るって聞いたから、ナントカ鑑定っていうスキルは見つけたら片っ端から取得したいし、習得する機会があるなら飛びつきたいところだ。


 さて、さくさくと歩き続けて、たまに戦闘しつつ移動を続けると、サウザン川の支流なのか小川のほとりに出た。そこまで来ると森をようやく抜けて、視界がひらける。

「うわあ、山でっかいなあ……」

「その感想はどうなんだ」

 イオくんに突っ込まれたけど、語彙が貧弱な僕にはそんな気の利いた表現なんてできないよ。森の中ではちらっとしか見えていなかった火山らしき山は、思っていた以上に遠くて、思っていた以上にでかい。東京生まれ東京育ちで高尾山しか登ったことない僕にとっては、山って写真集で見るものってイメージが強いし。

「富士山ってこんな感じ?」

「こっちの山のほうが急斜面じゃないか? シュッとしてる」

「山ってシュッとするんだ……?」

 と、気の抜けた会話をしていた僕とイオくんの横で、雷鳴さんがじっと山を見つめてうむ、と頷く。

「リアルの火山と違って火山灰や溶岩または軽石などの成分に栄養素がふんだんに含まれている可能性が僕の中で浮上」

 ノンブレスで言い切った雷鳴さん。頭良さそうではあるんだけど、なんかこう、そこはかとなく残念な印象なのってなんでだろうか。

「なんでまたそんな話に……?」

「いやあ、富士の樹海ってあるでしょ、あれって針葉樹が多いんだよね。溶岩地帯には水分や養分が少ないから、栄養が少なくても育ちやすい木々が育つわけで。たしかそんな感じのことを本で読んだ記憶があるんだけど、あの山の麓は広葉樹が多いから」

「……つまり、栄養がある……?」

「農業に適している可能性」

 な、なるほど。ぶれないなこの人……!


 それから少し小川沿いに歩を進めたけど、だんだん暗くなってきたところでちょうどセーフエリアを発見したこともあり、その日はそこでキャンプを張ることになった。

 雷鳴さんはテントある? って確認した所、Ⅰ人用の小さいのをちゃんとイチヤで買ったとのこと。

「ログアウトや死に戻りのポイントにもなるし、買わないほうがもったいない」

「あれ、死に戻りポイントにもなるんですか?」

「え、知らないの? セーフエリアでテント泊すれば、その後フィールドで死んだときに街に戻るか最後にテント張ったセーフエリアに戻るか選べるよ」

「知らなかった……!」

 のは僕だけで、イオくんは当然知ってたらしい。「説明した気がするんだが?」と言われましても、身に覚えがございません。すっかり忘れているかもしれない……そっと目をそらした僕に、イオくんは苦笑している。

「まあナツは死に戻りしてないからな。それより今日の晩飯どれにする?」

「キャンプの夕飯と言ったらやっぱりあれ一択だと思う」

 そう、定番のあれ。その匂いを嗅ぐだけで強烈にお腹がすくという欠点を抜きにしても、野菜も肉も入ってるし腹持ちも良いし美味しい。雷鳴さんはサンガ寄ってないから、きっと日本人としてこれが恋しいはずだ……そう、カレーが!


 イオくんがテーブルセットを取り出してから、おもむろにインベントリから取り出した鍋。

 ふわりと漂うその独特の匂いに、雷鳴さんが思わずといったふうに鍋を凝視している。イオくんが鍋の蓋に手を掛けると、ごくりと喉を鳴らす雷鳴さん。

 もったいぶりつつイオくんが鍋の蓋を開ける。

「おお……!」

 と歓声を上げる雷鳴さん。

「カレーだ!」

「カレーです!」

「カレーだな」

 無表情がデフォって感じの雷鳴さんの表情がちょっとだけ明るくなったし、声もなんか弾んでいる。分かりづらい人だけど分かんない人ではないよね、雷鳴さんって。ちょっと冗談なのか本気なのか判断に困るところはあるけど、僕としては結構慣れてきたぞ。


「キャンプの定番、食欲促進要素の塊、どんなものでもカレーの色に染め上げて美味いと思わせる事のできる魔性の食べ物……!」

 とカレーの良いところを列挙した雷鳴さんに、僕はしみじみと大きく頷いて同意した。

「つまりカレーは正義」

「わかるよ」

 僕と同じように大きく頷いた雷鳴さんは、自分のインベントリからスプーンを取り出した。ぐっとそれを右手に握りしめて、そそくさとテーブルセットの椅子に座る。瞳が期待に満ちているなあ。

「ナツ、テトに適当になんか出してやって」

「はーい。テト今日は頑張ってくれたから、スイートポテトあげよう」

 わーい!

 僕がインベントリからテト専用の猫皿を取り出すと、テトは僕の後ろで小躍りした。ぴょいんぴょいんしながらも、テーブルにぶつかったりしないように気を使って位置取りしているので賢いと思います。イオくんの作ったスイートポテト、テト気に入ってたもんねー。


 イオくんはそんな僕たちを横目で見ながら、テキパキとカレーをお皿に盛った。いつの間にか卵スープまで追加されている。雷鳴さんは待ちきれないように目を輝かせて、両手を握りしめていた。その右手にはスプーン、左手には……別のスプーンが。

「だ、ダブルスプーンだと……!?」

「スープ用とカレー用に……」

「いや落ち着いて!? 僕もサンガでカレー見つけたときはテンション上がったけれども!」

 スプーンは2つ持てても口は一つしかないんだよ……! と雷鳴さんをなだめつつ、僕も席に座る。

 さて、それじゃあ、いただきます!

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