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19日目:お仕事も請け負いましょう

 アイテムを渡した人の専用アイテムになるらしいよ。

 ……イオくんが使えないと意味がないのですが!


「リゲルさん、これ、イオくんも使えるようにできませんか……!」

「ならん。諦めろ」

「うぐぐぐ、イオくんしか<収穫>持ってないのに……!」

「……? 何が不都合なんだ、それなら蜜花の収穫はイオがやれば良い」

「え、でも鍵が僕専用って……」

 リゲルさんが首をかしげたので、僕がなにか認識が間違ってるのかな? とつられて首をかしげる。イオくんはそんな僕たちを見て、「おそらく」と口を挟んでくれた。

「鍵を持っている人しかここに来れないと思っているんじゃないか、ナツ」

「え、違うの?」

「ああ、そういうことか」

 相変わらずイオくんは僕のことある程度わかってるなあ。僕がどこでつまずきやすいかとかどこを勘違いしやすいとか、めちゃくちゃ把握されている気がする。


「そういうことなら問題ない。あくまで起動がナツにしかできないだけだ。使ったときにナツに接触していれば、まとめてこの部屋に飛ぶことはできる」

「あ、そうなんですか、よかったぁ」

「ただし、一度この部屋に入ったことのある者しか通さない。私の知らない第三者を連れ込むことはできないぞ」

「理解しました!」

 ここってリゲルさんの私室らしいし、そりゃ知らない人を入れるのは嫌だよね。とはいえ、ほぼ初対面の僕たちを入れるのもいいのかなって気がするけど。

「リゲルさんが不在のときでも入っていいんですか?」

「かまわん。貴様らに盗めるようなものは置いてない」

 この言い方、おそらく何らかの防犯対策がなされていると見た。それなら安心……僕たちは別に盗みとかしないけど、うっかりなんか引っかかって持ち出しちゃうこととかあったら大変だしね。

「よかったー、これで遠慮なくはちみつが使えます」

「使うのは俺だけどな……?」

「遠慮なくイオくんに使ってもらえます!」

 とりあえずはちみつ入りのカップケーキと、ホットケーキから! と宣言した僕に、リゲルさんは小さく笑った。



 美味しいスコーンを堪能してから、僕たちはまとめてエクラさんの花畑に戻った。リゲルさんの部屋の魔法陣に魔力を流すやつ、やらせてもらったんだけど、住人さんの家を訪ねた時に魔力流してチャイム鳴らす魔道具があったじゃん? あれと同じような感覚だった。

 魔法陣に触れると勝手に魔力を持っていってくれる感じで、すごく簡単。魔力が流れて魔法陣に行き渡るとそれが回転して扉を作る感じ。

「ナツの魔力は登録しておいた。次回からは私がいなくても開く」

「ありがとうございます! ちなみに登録しないとどうなるんですか?」 

「魔法陣に触れた時点で弾かれるな」

「わあ」

 痛そう……。なんかリゲルさんそういうの容赦無さそう。

 登録してもらえてよかったー、と思いながら戻った花畑では、エクラさんが相変わらずふわふわと花の手入れをしていた。萎れた花をすぐに摘むのが、長持ちさせるコツなんだって。リゲルさんも紅茶のお供によく蜜花を貰いに来るらしいから、もしかしてここで遭遇率高いかもだね。


 僕たちは花はたくさん摘ませてもらったから、元の場所に戻ることにした。戻りますねーとエクラさんに挨拶したところ、リゲルさんから呼び止められる。

「だから、あの出入り口は使うなと言っただろうが。今回は起動したからいいが、次は無事に開く保証もないぞ」

 とのこと。さっきイオくんがそんなこと言われてたね、たしかに。

 でも他に出る方法ないし、リゲルさんはナナミ在住だって聞いてるし、あそこに戻らないと旅の予定が狂うからなあ。どうするイオくん? と視線を送ると、イオくんは一つ頷いてリゲルさんに向き直った。

「今開いているのを向こうで閉めないと、ここに他のトラベラーも入ってくると思うが、それはいいのか?」

「それは良くないが」

「それなら、今回はここから戻って向こうの出入り口を閉めるところまでは俺達がやるしかないだろう。リゲルは正道を外れられないだろうから、連れて行くわけにも行かないし」

「む。そう言われると……仕方がないか。いや、しかし、その出入り口はもう役目を終わらせてやろう。旧式だし、起動が大げさ過ぎる」

 あー、たしかにすごくごごごごごって地鳴りしてたもんね。古くて手入れされていない石造りの地下空間で、あんなに動くとなると結構負担がかかっていそうなのはわかる。僕たちも、鍵をもらったからあそこを使うことは二度と無いと思うけど……他のトラベラーたちは見つけたら使うかもしれないし。封印するならそのほうがいいのかな。

 他のトラベラーたちにも、多分この花園にたどり着く道は複数用意されているんだろうし、1つくらい潰れても問題は無いと思う。このゲーム本気で分岐が多すぎるから、ここに来るルートなんて何百とありそうだしね。


「この札を使え」

 リゲルさんがそう言ってイオくんに差し出したのは、一枚のお札。あ、これ<魔法付与>の札だ! <彫刻>スキルを取ったときに選べるスキルの一つで、僕が<魔術式>とどっちを選ぼうかちょっと迷ったやつ。確か、使える魔法をそのまま札に込めることができるスキルだったはず。

「リゲルさんも<彫刻>やるんですか?」

「<彫刻>? ああ、そっちでも<魔法付与>はできるな。私のこれは<魔法筆記>というスキルで作っている」

「<魔法筆記>……そのスキルは初めて知りました」

「ナルバン王国でも使える者は2・3人しかいないだろうな。珍しいスキルではある」

 リゲルさんが説明してくれたのをまとめると、<魔法筆記>というスキルは魔法書を作るときに必要なスキルなんだそうだ。既存の魔法を使うのではなくて、自分で魔法の構成を考えて組み立てて新しい魔法をつくる人が、その魔法を紙に書き留めておくために使われる。

 魔法は魔力を特定の法則にしたがって発動するものだから、本来目に見える形で残るものではないんだけど、<魔法筆記>で書き記した魔法は見ただけでどういうルールにしたがって発動するのか理解できるようになっている。……ただし、その魔法が使えるレベルに達していない場合は、見てもちんぷんかんぷんなのだそう。

「へえ、そんなスキルがあるんですね」

「魔法を保存することに関して全般的に網羅しているスキルだから、<魔法付与>も覚えておくと、こんなふうに紙に書くだけで魔法を発動させる札になる。<彫刻>だと板やガラスを使うだろう、あっちは繰り返し使えるものもあるが、使い切りなら紙のほうが便利だからな」

「なるほど、さすがリゲルさん魔法のスペシャリストであることがよく分かる……!」

「敬え」

 リゲルさんが胸を張ってそう言うので、すごい! 効率的! と褒めました。


 スキルの関係性については結構理解できた。<刺繍>でも<編み物>でも<魔法図案>が覚えられるのと一緒だね。多分<魔法図案>ならスケッチとかイラスト系のスキルでもいけるんじゃないだろうか。そういう意味では、木に彫るよりも紙に書くほうが断然お手軽だから、<魔法付与>は本来こっちが正当な使い方なのかもしれない。

「これは……魔法消去の札か」

「一般的な属性魔法で、魔法陣を消去するような呪文は基本的に無い。それは私のオリジナル魔法となるが、案外便利でな、罠解除にも使える」

「なるほど」

 イオくんは受け取った札をじっくりと眺めて、ふむ、と一つ頷く。戻ったら、元々ここにつながる道が隠されていたところにこの札を使って、魔法陣を消去すればいいらしい。

「そもそも魔法陣って何なんですかね」

「魔法陣は……ナツは<彫刻>を使えるならそのうち覚えると思うが。魔力を込めて描いたり彫ったりすることで場所に魔法を埋め込む術式のことだな。ただ、<彫刻>で覚えるのはおすすめしない」

「石に彫るとか無理そうです」

「<魔法筆記>ができれば重宝するかもしれんが……まあ諦めろ」

 レアスキルだもんねー、流石に教えてはくれないか。っていうか教えられても困るな、僕そういう、魔法を自由に組み立てるとか、発想力が求められるやつあんまり得意じゃないし。<原初の呪文>で手一杯だよ。


 魔法陣の消去を請け負って、花畑でエクラさんを追いかけて遊んでいるテトを呼び寄せる。エクラさん、羽を動かすときらきらの粉がふわーっと広がるんだよね。テトはそれを追いかけるのが楽しいらしくて、エクラさんの移動している後をちょこちょこ追いかけては、光に向かってジャンプ! とかを繰り返しているのだ。

「テトー、戻るよー!」

 わかったー!

 呼べば素直に戻ってくるんだけど、戻るということはエクラさんとリゲルさんとはお別れってこともわかったらしく、最後に2人にすりーっと体を擦り寄せて、

 またねー。

 とご挨拶してから僕の隣でさっと伏せる。……あ、はい。乗ります、乗らせていただきます。なんかみんなに生暖かい視線をもらいつつ、もたもたとテトに乗る僕である。

「テト、追いかけっこ楽しかった?」

 きらきらなのー。でもつかまえられなかったー。

 ちょっと残念そうに言うテトさん。まあ、あの粉を捕まえるって細かすぎて無理かな。もう少し大きいものならテトも余裕で捕獲できただろうけど。


 エクラさんたちに手を振って来た道を引き返すと、地下空間にたくさん浮かべていた【ライト】はほとんど消えかかっていた。かろうじてほんのり明るいのは1つ2つ残っていたので、慌てて【ライト】を追加、追加、追加!

 あ。そうだ、これを……。

「【ライト】、【縮小】」

 <光魔法>で出した光源を<原初の呪文>で小さくすると、ピンポン玉位の大きさまで小さくできた。僕はそれをテトの前にぽいっと放ってみる。とたん、テトはにゃっ! とその光に飛びついて前足でびたんと押さえた。

 つかまえた!

 なんだかとっても輝かしい表情で振り返るテトさん、自慢げに報告してくれる。食いつくかなーと思ったけど、凄い反応速度でしたね……。

 僕とテトが【ライト】で遊んでいる間に、イオくんは通ってきた通路にリゲルさんから預かった札をかざして、無事に魔法陣を消去できたようだ。札がほんのり光って砂になってさらーっと散っていくのが、いかにも役目を終えました感があって良い演出だなーと思う。

「よし、ナツ、上に戻るぞー。浮かせてくれ」

「はーい、イオくんここに立って! 出入り口の真下に!」

「おう」


 イオくんに【フロート】をかけて2人で地上に戻ると、出入り口の付近にはたくさんのフラワーワームがわさっと集まっていたので、あまりの気持ち悪さに「ヒィ!」ってなった僕である。ノンアクティブだから害はないはずなんだけど、じっと見上げてくる眼差しが「地面に穴開けないでくださいよ」と責めているような気配……!

 普通に怖い。テト飛んで!!

「ナツ、向こうのセーフエリア行っててくれ。俺はここ閉めたら行く」

「了解!」

 あまりにわさわさ集っているフラワーワームに、さすがのイオくんも若干気持ち悪そう。でもこの穴を放置しちゃうと、トラベラーがここを訪れたときに気づかないで落ちそうだし、さすがイオくん責任感がある。えらい。僕とテトは素直に退避しよう。

 あ、<上級風魔法>のレベル上がってる。職業レベルの方もあと少しで上がりそうかな?

 先行体験会中も細々としたバランス調整が公式サイトに報告されてるけど、<風魔法>のレベル10で覚える予定だった【ヘイスト】が、<上級風魔法>のレベル4で取得に変更されてたんだよね。運営さんも休みなく働いてるんだなあと思うと、頭が下がる思いだよ。

 本サービス開始になったら課金してお布施しなきゃ。有料アイテムのラインナップはまだわかんないけど、これだけ楽しませてもらっているんなら多少売上に貢献したいよね。ガチャがあったら回したいし。

 そんなことを考えつつ、セーフエリアに到達した僕はテトの背中から降りた。

 ……契約獣に貢げるアイテムとか欲しいな。公式サイトからご意見入れておこう……!

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