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19日目:ご招待を受けましょう

 何者だ、と問われたからには、するべきだろう自己紹介を!


「トラベラーのナツです! こっちのクールビューティーガイは友達のイオくんです! この白くて賢い猫は僕の契約獣のテトです!」

 腹の底から声を出して言ってやったぞ! 何しろ男性の問いかけはやたら冷たくて、視線も威圧的だったからね! こちらに敵意はありませんというアピールと、お望み通りの自己紹介を喰らえ! という気持ち。

 案の定、明るく元気に笑顔で挨拶をした僕に対し、男性は毒気を抜かれたような顔をした。ふ、勝ったな! と僕がやりきった気持ちになったところで、横にいたテトがてててーっと男性のところに近づいて、

 テトだよー! なでるー?

 と期待に満ちた眼差し。だって水色の人、エルフだもん。妖精類は全員自分を撫でてくれると思ってるテトは物怖じしないのだ。僕としてもテトを紹介すれば、相手妖精類だしワンチャン警戒薄れるかなって期待もしてた。

 テトのきらっきらの眼差しをしばらく見つめていた水色の人は、やがて小さくため息をついてから、テトの頭をわしわしと力強く撫でた。

 わーい!

 にゃーん、と嬉しそうに歓声を上げるテトさんである。


「あらあら。リゲル、その子達をいじめては駄目よ。ちゃんと資格を持ってここに来たのだから」

 テトがごきげんに喉を鳴らしていると、花畑の奥の方からようやくエクラさんが戻ってきた。小さなカゴを下げている姿がなんか童話の世界の挿絵のようですごくメルヘンだ。

「資格だと……?」

 訝しげな声を上げた男性ーーリゲルさんというらしいーーは、テトを撫でる手を止めないままで僕とイオくんをじろっと見たけど、まあテトをそこまで撫でてくれるんだから良い人だろう。

「そうよ、この子たちは炎鳥から頼まれ事をされるくらい頼られているの。十分にここに来る資格があるわ」

「炎鳥か……今はだいぶ数を減らしていたが」

「サンガの妖精郷で会ったのですって」

「なるほど」

 男性はそれでようやく威圧っぽいものを消した。なんかずっとぴりぴりしてた空気が消えてほっとする。それから、ようやく僕たちに向けて口を開いてくれた。


「……失礼。私はリゲル。そこのエクラの友人だ」

「こうみえて70歳は越えているのよ、人類から見るとおじいちゃんね」

「そうだな、貴様らから見ればじじいだろう、敬え」

 なんかめっちゃ偉そうにそんなことを言われましてもね。まあでもちょっと素直じゃ無さそうな雰囲気、僕は嫌いじゃないかなー。一応、ちゃんと謝罪らしき言葉はあったし。

「エクラさんがさっき言ってたご友人ですか?」

「そうよ。この子ったら、口は悪いけど優しいのよ。良い子なの」

 相変わらずのんびりとそんなことをいうエクラさんに、リゲルさんは眉間のシワを深くして、

「良い子はやめろ。70過ぎのじじいだと言ってるだろうが」

 と抗議の声。

「あらあら、私なんてあなたの5倍は生きているのよ。いくつになっても良い子だわ」

 優しく笑うエクラさんに、むうっと口を閉ざしたリゲルさん。付き合いの長さを感じるやり取りだね。

 そしてそんなやり取りを微笑ましく見ていると、僕のところにテトがトコトコ戻ってきて、なでられた! と報告をしているので……リゲルさんは格上、と。まあわかってたけど。だいぶレベル上そうだし……空間を切り離すなんて魔法を使える人が、弱いわけ無いもんね。

「いっぱい撫でてもらってよかったねー!」

 リゲルはおみみがナツとおんなじなのー。

「エルフさんだからねー」

 テトさん満足げだねえ。撫で方がお気に召したのかな? ちょっと気になったので、一番撫で方好きなの誰ー? って聞いてみた所、テトは「ナツー!」って言ってくれました。気を使われているかもしれない……! でも単純な僕は嬉しいので撫でます。


 僕とテトがほのぼのしている間に、イオくんがいつもの謎話術でリゲルさんとテキパキ会話していっている。

「リゲルがこの空間を切り離したという魔法士なんだな。さっき俺達を誰何したということは、ここに入れる奴は限られているのか?」

「……少なくとも簡単には増えない。<妖精の眼>を持っていて、何らかの神獣や聖獣と交流があることが最低限の基準だな」

「なるほど。……ナツ、お前が遊びに来いって言われた聖獣の名前なんだった?」

「ラメラさん? ゴーラに住んでるって言ってたよ」

 なんか急に話振られたな? と思って普通に答えると、リゲルさんはその返事にちょっと驚いた顔をした。

「ゴーラの海竜殿か。もしやお前は顔が広いのか?」

「え、どうなんでしょう……? サンガの近くの森で会ったんですけど」

「最近、ゴーラに戻られたと聞いたが」

「そのお手伝いはしましたね」

「そうか」

 リゲルさん、なんか納得したような顔をして頷いた。そこで、エクラさんがすいっと僕の隣にやってきた。

「ナツはラメラとお友達なの?」

「あ、はい。多分」

 お友達かどうかは疑問が残るけど、多分。だって遊びに来なさいって言われたもんね! 僕は遠慮せず行く予定だし、お土産として竜の好物だっていう果物も入手済みだし。


「エクラさんもラメラさんのこと知ってるんですか?」

「ええ、ずっと前からお友達よ。最近姿を見なかったから心配していたのだけれど」

「ああ、なんかちょっと事情があって、サンガの森の魔力水の泉みたいなところにいたみたいですね」

「ゴーラに戻れたのなら良かったわ。それで、ナツにお願いがあるのだけれど」

 あ、クエストだなこれ。

 お届け物かな? と思いつつ「なんですか?」と聞いてみると、エクラさんは僕に持っていた籠を手渡した。受け取ってみると、中身はぎっしりと蜜花が詰まっている。

「それをラメラに届けて頂戴。ナツたちは旅をしているのだから、すぐでなくてもいいわ。そうねえ、半年以内くらいで届けてくれるかしら」

「あ、そういうことなら喜んで! 遊びに行く約束をしてましたから」

「助かるわ」

 ラメラって、ああ見えて少し気難しいのよ、とエクラさんは言う。そうなんだ? すごく気さくで優しい竜さんだと思ったけどなあ。

「ラメラは、気に入った人しか島に入れてくれないの。私はここから離れられないから、自分で届けに行けないし。リゲルはあんまり気に入られてないのよね」

「……気が合わないだけで、私は別に嫌われてはいない」

「あなたすぐ口が悪くなるから。ラメラは素直な子が好きなのよ」

「なるほど、素直さならナツとテトの右に出るやつはいないな……」

 イオくんまでしみじみと頷いている。げ、解せぬ。うーん、でもこの場合素直って褒め言葉……なんだよね? 

 ま、まあ数少ない美点だから誇っておこう……。 


 僕が複雑な気持ちでいると、リゲルさんはイオくんではなく僕の方に視線を向けて、口を開く。

「……貴様らはどこの入口からここへ来た?」

「えっと、サンガからゴーラへ向かう途中の森で、花畑を見つけて……」

「ふむ……。時間があるなら少し付き合え。ここへの出入り口は管理を強化せねばならん。私の屋敷へ招待しよう」

「リゲルさんのお家ですか?」

「紅茶とスコーンをつける」

 おっと魅力的な提案が……! 時間的には10時のおやつにぴったりだな。アナトラ世界ではまだスコーンって見たこと無いし、僕はスコーン大好きなので期待が高まりますね。イオくんどうする? と視線を向けると、イオくんは僕の顔を見て苦笑した。

「そんな期待に満ちた顔されるとなあ……」

「え、だってスコーンだよ!」

 すこーんってなにー?

「甘いのだよテト。さくさくでおいしいよ!」

 あまいのー! イオ、あまいのたべたいー!

 にゃにゃっ! とおねだりモードに入ったテトさんもイオくんの顔をじっと見つめた。2対の視線を受け止めたイオくんは、ちょっと耐えていたけど、すぐにぶはっと吹き出してケラケラ笑いだす。


「わかった、わかったからやめろそっくりな顔で見るな、なんでそんな無駄にきらきらした表情ができるんだ……!」

「スコーンへの愛……」

 おいしいのたべたーい。

「食いしん坊め」

 だってスコーンって、その辺の店とかですぐ買えないじゃん。コンビニで売ってるのは分厚いクッキーって感じでなんか違うし。専門店で買おうと思ったら遠いんだよね。ちょっと高級なスーパーで売ってるらしいんだけど僕の生活圏内にないし。実家にいた頃はたまーにお母さんが焼いてくれてたけど、一人暮らしだと焼きたてスコーンにはありつけないからさー。

「その猫も食べるのか?」

 不思議そうに尋ねるリゲルさん。契約獣は契約主の魔力で生きていけるから、食べ物は与えなくても大丈夫な生き物だもんね。

「テトは、一緒に美味しいもの食べてくれる子ーって募集して、それに応募してきた子なので」

「募集……」

「なんでも食べますけど、特に甘いのと白いのが好きみたいですねー」

「なんだそれは」

 あ、リゲルさんも笑った。「変わっているな」とか言われたけど、笑顔で言うってことは悪い意味ではないでしょう!


「よし、わかった。特製のクロテッドクリームをつけよう」

「行きます! クロテッドクリーム好き!」

 ナツがすきなの、たべたーい! 

 わあっと盛り上がった僕とテト、そして仕方ないなあって顔をするイオくん。でもイオくんだってさっきわかったって言ってくれたから、リゲルさんのところに行くことは許されているはず。

「エクラ、少しこいつらを連れて行くぞ。またここに戻す」

「ええ。いってらっしゃい」

 相変わらずのんびりした様子のエクラさんに一言告げて、リゲルさんは入ってきた扉を開ける。その奥にはどこかの部屋が見えた。僕たちが通ったような通路はなくて、お部屋直通だ。

「入るがいい。そこは私の私室だ」

「お邪魔します」

 おじゃましますー?

 僕とテトが何の警戒心もなく飛び込んだので、後ろで確実にイオくんが呆れた顔をしていると思うんだけど、これは仕方がないんです。スコーンが待っているので!


「……私が言うのもなんだが、もう少し警戒心を持つべきではないか?」

「俺が何度言い聞かせてもあれだからな……」

「食べ物につられて誘拐されそうで心配になる」

「言ってやってくれ」

 後ろでなんか意気投合しているらしいリゲルさんとイオくんの会話を聞きつつ、飛び込んだお部屋はなんかこう、高級な……上品な感じっていうのかな? 落ち着いた色合いの壁紙に、大きな窓には重厚なカーテン。壁際にはいくつもの本棚が並び、飾り棚にも色々なものが飾ってある。

 正面に飾ってある大きな絵は……家族の肖像画かな? 今よりちょっと若い印象のリゲルさんと、青い髪のきれいな女性と、リゲルさんより一回り体格の良い男性と、そのご両親らしき人たち……全員エルフさんだ。

 ナツー、きらきらー。

「うん? ああ、宝石だね。えーと<鑑定>……エメラルドだって、ここまでの大きさのものはめったにないらしいよ」

 こっちはー?

「……イエローダイヤモンド。カットが美しい一品、普通のダイヤモンドの倍の価値があるんだって」

 テトが飾り棚に飾られている宝石類に目を輝かせているので、どんな宝石なのか教えていると、背後から咳払いが聞こえた。人様のお部屋で自由に動きすぎ、というイオくんの言葉が聞こえるようだ。


「あ、ごめん、つい」

「お前たちはもう少し落ち着けよ」

 おっしゃるとおりです、はい。

 そんな僕たちの様子を見ていたリゲルさんは、中央のテーブルセットに座るように言ってから紅茶を用意しに部屋を出た。一瞬、僕たちを放置しちゃっていいんですか? って思ったけど、まあリゲルさんならその気になれば僕たちなんて瞬殺だろうしなあ。警戒するまでもないって感じか。

 それなら大人しく待ってよう、と椅子に座ることにする。

「スコーン楽しみだねー」

「リゲル呆れてたぞ」

 だって楽しみなものは楽しみだし!

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